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ポンド  作者: 新庄知慧
27/88

27 なあ、あんた淋しいんとちゃう?

まずいと思った。


子女は、もう彼とは一心同体の域に達していたので、彼女を抱えていることをすっかり忘れていた。質問されて答えに窮した。


「いえ、別に、たいしたもんじゃなくて」


枯れ尾花は、急に耳障りな声で笑い出した。彼の慌てる様が可笑しかったらしい。


「まあ、趣味の一種で…。いえ、そうじゃなくてですね…」


笑われて彼は慌てた。一体、どう思われたのだろう。


親戚の女の子にあげるために購入した日本人形だ、とかなんとか、必死で言い繕ったが、暑くて頭が回転せず、上手い説明とは言えなかった。


どうしてその人形を、プレゼントボックスから出して、ここに連れているのか分からないではないか。


枯尾花は再び、ひひひ、と笑い、笑い終ると、不可解と不気味さと好奇心の混和された表情をして彼を見た。突発的に笑い、顔面が地殻変動したせいで、白粉の壁がついに崩れ落ちた。


「よく来るんですか、こちらへは?」


彼は話題を変えようとしてこう言った。


「まあなあ。ときどき、・・やなあ」


そして枯尾花は不気味な沈黙に入った。


これ以上、話題は進展しそうにないし、させてはならない。これ以上ここにいると、いっしょに腰掛けないかなどと言われかねない。


「では」と言って彼は去ろうとした。


白粉女の目がキラリと光った。彼女のその目と目が合ってしまい、言い知れぬ感情の悪寒に襲われた。


彼は知っていたのだ。うすうすとではあるが、この女は年甲斐もなく彼に気がある。


多分、彼の思い過ごしではあるのだが、しかし、このような年齢域にある、こうした性癖の女というのは、彼のようなだらしない優しさを持った男と合わないはずがない。可能性としては十二分だ。彼はそう思っていた。


「淋しいんとちゃう?」


白粉女が言った。


え!何のことですか!?


彼は形容しようのない身のくねらせ方をして、スマイルを枯尾花に投げつけ、さようならを表現した。


その女に背中を向けて歩き、5メートルも行ったところで振り向くと、彼女はきわめて不愉快そうに眉を吊り上げてこちらを見ていた。


目が合うと彼女はすぐにそっぽを向いた。


金縛りにあったように恐くなった。


彼は彼女に背中を向けないようにしつつ、体を斜めにして、彼女の挙動が視界の脇からはみ出ないようにして、芝生の広場を脱出した。


明日の月曜日、彼が子女を抱いて公園にいたこと、この、人形を通じたロリータ趣味のような不気味な振る舞いが、彼女の口から職場中に知れわたってしまうだろうか。


どうしよう。


広場の外の木陰で、子女と顔を合わせた。もはや彼と子女とは共犯者か。

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