27 なあ、あんた淋しいんとちゃう?
まずいと思った。
子女は、もう彼とは一心同体の域に達していたので、彼女を抱えていることをすっかり忘れていた。質問されて答えに窮した。
「いえ、別に、たいしたもんじゃなくて」
枯れ尾花は、急に耳障りな声で笑い出した。彼の慌てる様が可笑しかったらしい。
「まあ、趣味の一種で…。いえ、そうじゃなくてですね…」
笑われて彼は慌てた。一体、どう思われたのだろう。
親戚の女の子にあげるために購入した日本人形だ、とかなんとか、必死で言い繕ったが、暑くて頭が回転せず、上手い説明とは言えなかった。
どうしてその人形を、プレゼントボックスから出して、ここに連れているのか分からないではないか。
枯尾花は再び、ひひひ、と笑い、笑い終ると、不可解と不気味さと好奇心の混和された表情をして彼を見た。突発的に笑い、顔面が地殻変動したせいで、白粉の壁がついに崩れ落ちた。
「よく来るんですか、こちらへは?」
彼は話題を変えようとしてこう言った。
「まあなあ。ときどき、・・やなあ」
そして枯尾花は不気味な沈黙に入った。
これ以上、話題は進展しそうにないし、させてはならない。これ以上ここにいると、いっしょに腰掛けないかなどと言われかねない。
「では」と言って彼は去ろうとした。
白粉女の目がキラリと光った。彼女のその目と目が合ってしまい、言い知れぬ感情の悪寒に襲われた。
彼は知っていたのだ。うすうすとではあるが、この女は年甲斐もなく彼に気がある。
多分、彼の思い過ごしではあるのだが、しかし、このような年齢域にある、こうした性癖の女というのは、彼のようなだらしない優しさを持った男と合わないはずがない。可能性としては十二分だ。彼はそう思っていた。
「淋しいんとちゃう?」
白粉女が言った。
え!何のことですか!?
彼は形容しようのない身のくねらせ方をして、スマイルを枯尾花に投げつけ、さようならを表現した。
その女に背中を向けて歩き、5メートルも行ったところで振り向くと、彼女はきわめて不愉快そうに眉を吊り上げてこちらを見ていた。
目が合うと彼女はすぐにそっぽを向いた。
金縛りにあったように恐くなった。
彼は彼女に背中を向けないようにしつつ、体を斜めにして、彼女の挙動が視界の脇からはみ出ないようにして、芝生の広場を脱出した。
明日の月曜日、彼が子女を抱いて公園にいたこと、この、人形を通じたロリータ趣味のような不気味な振る舞いが、彼女の口から職場中に知れわたってしまうだろうか。
どうしよう。
広場の外の木陰で、子女と顔を合わせた。もはや彼と子女とは共犯者か。




