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ポンド  作者: 新庄知慧
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26 そら何や?

燃えるような、太陽のプロメテウスのように赤くただれてしまった夕焼けを見上げ、雑踏の中を歩いた。


寮の部屋で、ぷーっと煙草の紫の煙を吐きながら、彼女と永く見つめ合っていた。


部屋の中は蒸し暑くて息もできなかった。彼はこのごろ整頓整理ということを全く忘れていて、部屋の中は乱雑なゴミ捨て場となり、部屋自体が巨大なクズカゴと化していた。


ある日子女と二人して、植物園のベンチに腰掛け、アイスクリームを食べていた。


広い芝生が目の前にある。少し離れた隣のベンチには、若い女の子二人と、サーファー・ヘアの男の子が腰掛けて、夏休みには北海道へ行きたいと話していた。


芝生の真ん中では、子供たちがフリスビーで遊んでいる。遠かったので、子供たちというより、人形たちが遊んでいるように見える。のどかな午後。


植物園の中ほどには、小さな、極楽を思わせる静かな池があった。


さっきそれを見てきた。


五月頃には池には蓮の花が咲き乱れるという。蓮の葉が池の水面を覆っていた。


その池を見た刹那、彼の思考はしばし停止した。


静謐な水たまり。


池に懸かる小さな石の橋の上から見下ろすと、灰色の鯉がゆっくりと泳いでおり、亀が底のほうに、うろうろと現れては消えた。


東洋的神秘が池の水に溶かされている。そんな感じだった。



蝉たちが壮絶な合唱をする、濃緑色の森が芝生の向こうにあった。


広い芝生を囲んでベンチがぽつぽつと配置されており、一つおきくらいに人が座っていた。アベックが多かったが、斜め向こうのベンチには女が一人で座っていた。


どこかで見かけたような女…。


遠い距離で知り合いをみとめたときのやり方で、会釈ともいえぬ軽い会釈をした。


初め、あの金色銀色目の女ではないかと思った。こちらから歩いていき、すぐ期待を裏切られた。それは事務所の化粧枯尾花の一人だった。


「おお」


こちらから歩いていった手前、無言でおしまいにするわけにもいかず、とりあえず変な声を発した。


「これは珍しいところで、お会いしましたね」


彼がそう言うと、眩しそうに目を細くしながら彼を見上げた。


この人は事務所の枯尾花の中でも、ひときわ化粧の濃い人だ。


相変わらずの厚塗りで、顔面の白粉が汗に溶けて崩れて流れ去る寸前かと思われた。瞼の上にアイジャドーが塗られていたが、そこの皮膚が裏返って、紫色の静脈が現れてしまったのだというような、生臭いディープパープルであった。


「しや!」


彼女は素っ頓狂な声を上げた。すかさず続けて、


「何やの、それ?」


と子女の方を見て言った。


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