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ポンド  作者: 新庄知慧
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25 ウィズ・ザ・こおんな

その日から、彼は小女といっしょに生活した。


時々寮で留守番してもらうこともあったが、ほぼ毎日、いっしょに出勤した。


「しばらく、つきあわせてもらいましょう」


という彼女の科白を受けて、彼は、つきあってあげよう、こちらもつきあって貰いましょう、と決めるともなく決めた。


通勤のときはたいてい彼女をカバンの中に忍ばせていた。


ミッキーマウスやスヌーピーのぬいぐるみと共同生活する女の子が世の中にはいるが、あれはどういう心情でやっているのだろう。何かの契約に基づくものなのだろうか。


彼にはわからないが、彼の心情と似たところもあるのだろうか。しかし外を出歩くときまでいっしょに生活するというのは珍しいんじゃないだろうか。


彼はよく喫茶店へ煙草をふかしに行く。暑い夏には冷房が恋しくてなおさら頻繁に行く。


小女にもつきあってもらって、彼女に小声で語りかけ、返事がないので、その瞳を覗き込んだりした。


映画館に連れて行き、彼女を膝の上に置いて、一日過ごしたこともある。


映画は彗星の大接近と地球の最期に関するもので、その頃世界は核戦争で破局を迎える寸前であった。


主人公はアフリカに難民救済の目的で赴任した青年協力隊の若い女性で、ケニアの大草原で水爆の光と彗星の輝きとを二つながらに観賞するといった、そんな筋書きだった。


二人して神社やお寺に行ったこともある。どこへ行っても小女は無言であった。彼女はやはり、ただの人形にしか見えなかった。


しかし彼は一人ではなくなった気がした。


小女が恋人以上の価値ある存在にも思えた。彼女は彼の付属品のようであり、しかし新鮮な異物だった。


休みには始終二人していた。彼女は一言も口をきかないのに、彼の孤独を取り除き、何か雄弁に伝えてくる感じがした。


しかもかさばらず、金もかからず、文句も言わず、泣いたり怒ったりわがままも言わない。汗もかかないので清潔そのものである。


肉欲の起きようも無いところがプラトニックで、不可思議な愛着を覚えさせた。


彼女と二人でいると、粘液質で湿潤なあらゆる感情からふっきれて、透明で水晶質の生き生きした無機物みたいな心になることができた。


彼女に行き止りの池のことを語り、彼女の瞳の中に答えを求め、いつも返ってくるのは沈黙で、対話は金色に輝いていた。現状況下で、最高の答えは沈黙であったのだろう。


だから小女の答えに接すると、彼は自分の心が硬質プラスチックよりも固い寂しさに充たされて、隙間もないほど緻密になってしまい、かえって透明になって何でも良く通すようになっているのを発見した。


行き止り、池、水面、と来ると死の話が出た。それは陳腐な連想ゲームのようでもあり、つまらない話にも思えた。二人が真に話題としたかったのは何なのか、よく分からない。


街の大きな川のほとりに二人して立っても、彼女は口をきこうとはせず、目を細めて、流れる水の煌きを見つめていた。


どこか哲学的な横顔を、這いつくばって盗み見した。彼女は何せ身長30センチで、彼女に接近して横顔を見るには、這いつくばらねばならなかった。


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