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ポンド  作者: 新庄知慧
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24 枯れ尾花のオフィスで

脳髄が圧縮されて破裂しそうになっていると、目の前に横から何か物体が出てきた。


茶が運ばれてきたのだ。


事務所には、枯尾花が化粧したような、「オバン」の女性が何人かいて、彼と同じ年頃の女性は一人もおらず、その「オバン」たちが毎日交代で茶を持ってくる。


どうもすみません、と、いつも通りの条件反射的謝辞を述べて、手は忙しく起案などして働いていた。しかし仕事の内容などは、もとより全くどうでもよい事だった。


彼は昨晩のことを何度か頭に浮かべていた。


愚痴的思いに脳細胞を掻き毟られずにいるときは、頭の中が茫漠とした伽藍になっているのが常態の彼だったが、今日はその空漠に昨日の記憶が甦っては消えるのを繰り返していた。


「阿村さん?」


「は?」


自分の名を呼ばれたので我に帰り、声のしてきた方へにこやかに微笑んで返事した。


化粧した枯尾花の一人が声をかけたのだ。


―この枯尾花は特別ぶ厚い化粧のそれだった。夜道で出くわしたら、こちらの精神の平安が保証されるはずもない、恐るべき厚化粧の人だった。


四十はとうに過ぎた、しかし美魔女ではない、お年増オバンである。


しかし彼はだからといって化粧した枯尾花を嫌悪する手合いではなかった。


なぜかと考えるなら、彼は同類の者が同衾関係にあるときに感じるような気安さをオバン達に感じていたのだ。


美意識に嘔吐感をもたらすものではあっても、その嘔吐があまりに強烈で、美意識自体の存在や理由を破滅させてしまうほどであるとき、むしろそれから逃れるのは困難であり、そのおぞましさは、現在の自分にそっくりではないか。


そう感じて同類の気安さを感じていたのだ。もっともそう感じるのは、彼が基本的にだらしない優しさを抱えていたせいかもしれない。


目の前のぶ厚い化粧のおばさんは、口をへの字に歪めて、何か変なんじゃない?具合でも悪いのかと言いたげだった。


全然大丈夫です、と言う代わりに、彼は笑い顔を急遽満開にして、ひと呼吸おいてから真面目な顔で机の上の書類に目をやり、忙しそうにワープロをたたいたりしてオバンをやり過ごした。


どう?調子は?二日酔いじゃないの?大丈夫?忙しそうだね?上司が寄ってきて声をかけた。


はあ、無能なもので、要領が悪くて、なかなかはかどらなくて、…受け答えする。


新しい仕事をいいつけられる。頭がスカスカになる。空っぽの頭で、また仕事にとりくむ。


砂時計のくびれた胴の砂の流れる穴に、石ころがつまったように、時が思うように流れてくれずに苛立った。


 ようやく終業時間。


 小女とともに帰宅だ。


 事務所を出るまでは、息苦しいだろうとは思ったが、カバンの中にひそんでいてもらい、社の連中に目撃されないように、いつもとは違う経路の電車で帰るべく暫く歩いてから、彼女を外の空気に触れさせてやった。


 しかし今日も暑い。


 外気もまた相変わらず暑苦しい空気。熱く湿気の高い分だけ酸素が欠乏して、歩いていると喘ぐような息づかいになる。


 大丈夫かい、小女くん。話しかけてみたが、何も言わない。昨晩のような体温もない。小女はただの日本人形でしかなかった。


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