表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンド  作者: 新庄知慧
19/88

19 ひとまわりして戻ってきて 

暗闇の中だからこそ、こんな風に喋くることが出来たのだ。口に出してみると、別に悲しいわけでもなく、条件反射で、また涙が流れてきた。


「ああつまらない。どうしてこんな話になっちゃったのか」


彼は心底いやだった。暫く口を閉ざして、川の流れる音を聞いた。


「一体どうやったら、生きているように生きられるのか」


そんなことを考えないことが、生きるための最善の手だ。結論はそういうことだった。


いつの間にか身につけた処世の方策。


彼は思考の運動場を空しく駆け足して一回りし、また元に戻って来た。そうすると、心が再び落着いてしまい、身動きをしなくなった。


女の方に目をやった。自分の話に熱中し過ぎてしまい、女の存在を忘れかけていた。


「すみません。この世の終わりの話でしたよね」


女は顔をふせたまま何か言った。


「もう、理屈では、この世をつかむことは出来ませんわ」


こちらの話を何も聞いてなかったのだ。


そうだろう。僕はこういう扱われ方をするのがいつもなのだ。


本当に真剣なことは聞いてもらえないか、聞き流されるか、聞いても冗談だとしか思ってもらえない。


聞かれなくてよかったとも思う。


馬鹿な話だもの。こんな話は無かったことにしてくれた方がいい。


しかし、女の声は、愛液がしたたり落ちてきそうな、暖かい色気に満ちていた。


今までの彼女の声とは違う。何を言いはじめたいのか分からなかったが、彼にとって耳障りな声ではなかった。


「愛が一番一大事なのよ。世界は、ほんまは、別嬪さんや」


声がまた変な音に変わった。


「そうなんですか」


相づちを打ったわけでも、疑問を差し挟んでやろうとしたわけでもない。言葉のやりとりは、目の前を流れる川の黒い水のごとく、闇の中へ消え入ってしまった。




女は言う。




小理屈で言葉を紡ごうとすると、息切れがしちゃうわよね。


考えも思いも、希望も落胆も、胸に起る気持ちの襞が全部ない混ぜになって、渦の中に見えなくなっていきそうよね。


暗い所に居ると優しい気持ちになれますわ。


落着く。


ゆったり横たわって空気があって、その中に自分の体が溶け出していってくれますよ。エエ、行ってくれますよ。




女のもの言いを聞きながら、彼は女の差し出した不思議な物体、小女を握りしめてみた。



「……!!」


小さな悲鳴を耳にした。


可哀そうなことをしたと思って力を緩めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ