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ポンド  作者: 新庄知慧
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17 優柔不断道路の通行人

昨日夢に現れた池の眺めを話した。


不意に口をついて出た行き止まりという言葉についてしゃべった。きっと何か終末の象徴ではないかと考えていると話した。


理由のない涙に襲われることがしばしばだと語った。


話すうちに自分が忘れようとして心の深い所に葬り去ろうとしていたものが甦って来るので、昂ぶってどうしようもない気持ちになって来た。



・・・・こんなはずではなかった。


自分の人生は、こんなはずではなかったのだと胸が焼かれただれて焦げつきそうになるんですよ。


今の自分の生活は、安定して食うことが可能だというだけで、食うために身柄の拘束を一定量許容して、あとはただ、食って寝るだけのものなんです。


大学の時、自分は生物学の研究に打ち込んでました。


打ち込んでいたというより、生物学に打ち込むという生活の仕方は、自分の生まれ育ったサラリーマン家庭とはかけ離れた、自分にとっての非日常的な生活だったので、それに心酔していたというべきなんですよ。


でも、大学院まですすんで、その先、自分のやっていたような研究は企業利益に何の役に立つものでもなかったし、


そのままいったら、将来なきオーバードクター、うまくいって大学かどこかの研究所の万年助手、


自分はそんな展望のない道のりを歩くには、あまりにあれこれ悩みすぎる性格だったんです。


―いや、本当は、自分は生物学なんてやりたいもんでもなかった


ー大体、大学で専攻を決めるときもいい加減なもので、誰も的確にアドバイスしてくれる人がなくて・・・・


―いや、勿論人のせいにしてはいけない。欲しいものを見つけて、それをやりことのできなかった自分のせいですよね。


でも、自分は人生の岐路では、いつも考えすぎるくらい考えて、道を選んだんです。



そうした結果が、今の「ただの事務員」におさまりました。でも、いつも選択は間違ってばかりで、その都度、人生のお茶をにごしてきたのです。



―でも、今の私は生活のお茶をかき混ぜて、にごす体力さえなくなっているんですよ。


―ああ、それと、僕は、やっぱり、女性にも、いやっていう程いやな目にあったと思う。


こういう自分だから仕方ないのだと言われるのは分かってるが、いやな目は本当にいやなもんだよ。


これも、つまりは好きになる人を間違えた結果なんだろう、とどのつまりは。


どこかで不気味に冷めてしまう僕のことを感じて、僕が好きになった女性は去っていった。それほど冷めてたわけでもないのに。


そうですよ。僕はそれほど冷たい人じゃない。


僕は、それどころか、男にもふられた。滑稽ですが、僕は真剣そのものだった。


―でも、どこか自分が利己的過ぎたんだろうな


ーうまくいきそうなことが、うまくいきそうになると、僕はたちまち有頂天になって、そばにいる人の心を傷つけてしまって、それでいつも一人ぼっちになってしまうんです。


一人でいたい時に、誰かが寄ってくると、無性に腹がたってしまうんです。大学の研究室でも、論文を読むのに没頭している時に部屋に入って来た奴に、僕は殺意さえ抱きました。


でも、恒常的に淋しいのですよとても。


―ああ、自分でもイヤな性格だと思うのです。


しかし、これらは全部僕の内面の葛藤なんで、外見上は、人に好かれるように演じきってしまうことにかけては抜群の才能があるのです。


会社でも本当に、まわりの人のうけがいいんです。


自分でそう思ってるだけか。いや、そんなことはない。今日も、カラオケスナックで大活躍だったのです。


・・・しかし!


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