16 こおんなが現れた
そのまま小一時間も過ぎた。彼は眠くなった。
「ねえ、誰も受け持ちの人、見つからないんでしょ。私、眠くなってきたから帰ってもいいかしら」
返事がないので、立ち上がり橋桁の下の彼女のもとへ歩み寄った。
ねえ、と声をかけると、あいすみません、今宵あなたを誘って、どうにかこうにかしようと思ったのですけれど(どうにかこうにかというところが聞き取れなかったのでくやしい思いをした)店の者は皆出払っておりまして、お相手といってはこの者しかおりません。
これは女でもなければ、男でもない。
小女に過ぎないのです、と言って、30センチほどの長さの物体を、女はうつむいたまま、彼の方に差し出した。
暗いのでよくわからなかったが、人形のようだった。
そして、もうおしまいが近づいているから、この世は店じまいです、と、わけのわからないことを言って、「ああ疲れた」と女は吐き捨てるように言った。
彼は事の運びに何がしかの興味を覚え、またこの女が暗闇の中にしゃがんでいると、またぐっとセクシーにも感じられたので、そこに並んで腰を降ろし、少し話をしようかと尋ねた。
答えがなかったので、彼はかまわずしゃべり始めた。
「この世の店じまい」というあたりから言葉が紡ぎだされてきてしまったのだ。
「この世の店じまいってね、そのその言葉が気になってしまったのです」
女は小女の体を手に持って差し出し、下を向いたまま動こうともしない。
「僕は昨日の晩、その言葉に通ずるような体験をしたんですよ」
昨日の晩?一体何があったというのだ。
しゃべり始めてつまづいた。御大層な体験など何一つないサラリーマンのくせに。
そう思って口を止め、脇を見ると小女は左右に揺れて踊っていた。
何かを促して女がその人形を動かしていたのだ。相変わらず下を向いたまま。受け取れと言っているようだ。
彼は小女に両手を伸ばし受け取った。
「ありがとうございます」
と彼は礼を言った。小女を手にすると、生暖かく、まるで体温のある生き物のようだったので彼はどきりとした。
何だろう、これは。
彼はその物体の正体を確かめようとも思ったが、それより、しゃべり始めた話の続きをするほうが先決になってしまった。
「昨日の晩だったんです。それはね、つまり…」




