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爆弾&隠し部屋&炉端焼き

「シオリン少佐」「爆弾の下見?」「プライベートマリーナ」を「シオリン少佐」「爆弾&隠し部屋&炉端焼き」に変更しました。内容は変わっていません。

「宗哲、どーする?」

「スマホの持ち主なんて、バレないだろ? 諦めさせて」

「オレも、その方がいいと思う。言ってくる」


ミナトは船の舵を取るオレの代わりに、2人を諭してくれた。


「せっかく撮ったのにー」


とももしおの半泣きの声が聞こえてくる。


「シオリン、元気出して、ほら、こんなに撮れてるよ。真上からの映像がなくても大丈夫」


ねぎまがももしおを慰めている。


「そうだって。ももしおちゃん。どーせ、カメラ機能だけのだろ?」


ミナトも一生懸命。


「ううん。あれ、ネット契約してるの。だって、FaceBookの動画配信使ってるもん」


は? FaceBook?


「そうなの? シオリン」


あらら、ねぎまが驚いてるし。


「そうじゃなかったら、iPhoneで撮った映像、こっちでライブで観れないじゃん。困るじゃん。LINEのビデオ通話にしようかとも思ったんだけど、録画のアプリ、iPhone4Sじゃ使えなくって。それに、LINEだとしても通信環境いるじゃん?」


へー。 じゃ、VRの映像はどうやって観てるんだろ。


「シオリン、そうだったんだ。あのね、VRの映像はWiFiを使って飛ばしてるの。使ってるのはシオリンのiPhone8のテザリング。だから、iPhone4Sは通信契約しなくてもでWiFiも使えたんだよ」


ねぎまの声が操舵席まで聞こえてくる。


「えー」


ももしおは、自分のiPhone8の設定までねぎま任せだったんだろーな。


「パソコン部から説明されてるとき、シオリン、ずーっとドローンで遊んでたもんね」


新しいおもちゃに、がきんちょのように喜んで遊びまくるももしおの姿が目に浮かぶ。


「遊んでないで聞いとけばよかった」


デッキを見れば、がっくりと膝をつくももしお。


「WiFiで電波法に引っかかるから、くれぐれも外で使っちゃダメだってパソコン部から言われたじゃん」


するっとねぎまが「違法」発言。


「そーだったんだ」


ミナトの呆れる声。


「元気出せ、ももしお。いっそのこと千葉の方まで行くか?」


オレはデッキに向かって大きな声を出した。

あれ? 

誰もなんも言ってくれねー。せっかく元気づけようとしてやってんのに。

てか、静かすぎないっけ?

不審に思ってデッキの方を振り返れば、3人は固まってサーフェイスを観ている。

混ざりたいのに混ざれない。運転手の辛いとこ。


半ばぶーたれながらベイブリッジの下を通り過ぎると、3人の方からオレの傍に来てくれた。


「宗哲、エンジン止めて。これ、聞いて」


ミナトがサーフェイスをオレの顔の前に突き出す。画面に映るのは青空。

ん?


聞こえてきたのは英語。

男の声。1人はヤツ。授業で慣れ親しんだクイーンズイングリッシュ。

もう1人いる。男。声が中年だと思う。


『最後の夜に見たんです。この建物の設計図と工事計画書を。だから日本に来ました』


ヤツはもう一人の男に丁寧に話す。サーを遣っているところからも、恐らく相手は軍で上官だったのだろう。


『任務だよ。賢い君なら分かるだろ』


上官らしき男は穏やかな口調。


『爆弾ですか? 建物ができてしまってからでは、監視カメラが作動する。それ以前に、周りの建物も完成し始め、カジノやレジャー施設、多くの企業関係者、その他もろもろの人が出入りする。人目につかない、そして異物を発見されないように仕掛けるのなら、建設段階がいいんですね。爆発させる、あるいは爆弾の脅迫をするのはカジノホテルが完成してから。でも、少し早いんじゃないですか? 下見ですか?』


爆弾? ヤツ、爆弾っつった。


『相変わらず優秀だね。下見だよ。日本人は几帳面で予定通り仕事が進んでる。これなら、こちら側も計画通り進められるよ』


相手の男はヤツの言葉を否定しない。つーことは爆弾仕掛けるつもりってことじゃん。


『どうして日本なんですか?』


『日本での被害ならば、アイキスタンは表向き直接の摩擦を避けられる』


で、日本って? 勘弁してよ。どことの摩擦なんだろ。


『国際問題に発展したらどうするんですか。日本にはアイキスタンからの出稼ぎ労働者がたくさんいます』


ヤツの声がやや熱を帯びた。


『だから私の単独任務なんだよ。万が一犯人が分かったとしても、日本でクレージーなアイキスタン人が捕まるだけのこと』


ヤツに反して、元上官らしき男の声は穏やかなまま。


『でも、どうして地下3階なんですか? 脅すために見た目の派手さを狙うなら、地上の方が効果的です。それに、地下はコンクリートの障害で通信による遠隔操作がしづらい。地下の隠し部屋に何が入る予定なんです?』


『この建物が完成したら分かるよ。企業が看板を出すだろうから』


『いったい何が目的なんですか』


『我が国の未来』


『やめてください。何かあったとき一人で責任を取るつもりですか? 軍は守ってくれない』


ヤツがヒステリックに言葉を発した。


『失敗はしない』


『もう一度言います。やめてください。僕のせいですか? 僕が……』


『うぬぼれてもらっちゃ困る。たかが部下1人をカバーできなかったのは私の力量のなさだよ』


やっぱヤツと相手の男は軍での上官と部下だったのか。

でもって、ヤツはなんかやらかしたらしい。上官の立場が危うくなるほどのことを。


『No……』


『もう出た方がいい。8時ごらから人が来る。日本人は土曜日も仕事をするからね。下見は済んだ』


『……』


足音が遠ざかり、元上官の少し小さな声が入った。離れた場所からの声。


『今度、炉端焼きの店でも行こう』


その後、ヤツは独り言を呟いた。


『だったら連絡先教えろよ』


相手の男が去ったのか、静かになった。

ヤツが小さく『シット』と呟いて壁を蹴る音が聞こえた。


やがてヤツもいなくなったのか、何も聞こえなくなった。


「「「「……」」」」


英語を理解できる3人は顔を見合わせた。ねぎまは帰国子女。オレもボストンにいたことがある。ミナトは英会話を習っているし、ちょいちょい海外旅行に行く家庭。


「ねーねーねー、なんて話してたの?」


オレ達が和訳するだろうから、リスニングをしようともしなかったももしお。


「シオリン、えーっとね」


ねぎまは要点をまとめた。


「たぶん声の1人はセンセ。で、もう1人は軍にいたときのボス。ボスはアイキスタン国のために、あのビルに爆弾をしかけようとしてる。その下見に来たみたい。センセはそれを止めてた。なんかね、ボスがその任務をすることとセンセが何か失敗したことが関係あるみたいなこと言ってた」


「ね、ね、『炉端焼き』って言ってなかった?」


そこだけ聞き取ったのかよ、ももしお。日本語だったもんな。


「社交辞令みたいだよ。ももしおちゃん」


とミナト。


がばっ


いきなり、ねぎまがももしおに抱きついた。


「シオリン少佐、ミラクル! シオリンが通信契約してくれたから分かったんだよ。だって、WiFiだったら今の会話聞けなかったんだもん」


確かに。ベイブリッジからかなり進んだ東京湾。WiFiだったら電波は届かなかった。


「てへっ」


ももしおが照れる。


「地下3階に隠し部屋ができるって話してたね」


ねぎまはオレがスルーしてほしいところをしっかりと指摘した。


「なになに? 隠し部屋? なんか背徳の臭いがしちゃう。様々な性の快楽を求めるセレブがイケナイパーリーをするためのお部屋だったりして」


やめろ、ももしお。パリピに毒されるな。


「ももしおちゃん、『企業』って言ってたし、アイキスタンの国の問題みたいだから、違うと思うよ」


ミナトが呆れながら補足した。


「ふーん。爆弾仕掛けるのを止めたんなら、センセは正義の味方じゃん。ステキ♡」


ももしおは両手を前で組んで乙女ポーズ。


「それは分かんないよ。爆発させることが正義かもしれない」


ねぎまはふっと笑いながら、そんなことを口にした。

すっかり上った太陽は朝日をねぎまに照射する。


朝日の後光に目を細めながら、オレはねぎまに言った。


「ここまで。地下3階に隠し部屋ができる。4か所目のエレベータはたぶん、そこへ行くため。これだけ分かったら、もういいじゃん。気が済んだだろ?」


ミナトも援護射撃してくれた。


「そうだって、ねぎまちゃん。後は、カジノホテルができたら、あの辺には近寄らないようにするだけ」


「……」


ミナトとオレの言葉に、ねぎまはもの言いたげな瞳のまま押し黙った。




気づけば、FaceBookの動画は終わっていた。

時間制限ありそうだよな。インスタグラムより長いとは思うけど。


「もう、アカウント消しちゃお」

「え、消しちゃっていいの? シオリン」


サーフェイスに向かうももしおにねぎまが確認する。


「大丈夫。個人のアカウントじゃなくて、お店とか企業のページとして作ったから」


「オレ、さっきのドローン方の動画ちょ」


貰ったし。いーじゃん。


「あ!」


動画を貰って喜んでいると、突然ももしおが大きな声を出した。

またかよ。今度は何やらかしたんだよ。


「どーしたの? ももしおちゃん」


優しいミナトがちゃんと反応してやってる。


「さっきのLIVE配信の動画、録画する前にアカウント消しちゃった」

「いいんじゃない?」


気にするなってミナトは言っているのに、ももしおはアホなこと極まりない。


「センセの『サー』って声、目覚まし音にしようと思ったのに」


どーでもいいけど、そのチョイスどーなの。



すっかり日が昇った空の下、ねぎまは沖をじーっと睨んでいた。

さっきの、ヤツと上官との会話や隠し部屋について考えているんだと思う。


ヤツは元上官が爆弾を仕掛けるのを止めようとしていた。

元上官はアイキスタン国のために日本で爆弾テロを起こすって?

警察に匿名で通報する? でもな。まだ下見っつってたもんな。そんなんで通報っていたずら電話だよな。


ねぎまに「ここまで」っつったのに、オレが考えてどうする。


「な、ちょっと貸して。遊びたい」


考えを振り払うべく、オレはVRのゴーグルに手を伸ばした。

スイッチオン。

VRってことだから左を向いてみた。ん? 今度は右。あれ? 上。下。

あらら。これ、ゴーグルはVRっぽい形になってるけど、ぜんぜんVRじゃねーじゃん。画面変わんねーじゃん。


オレはゴーグルを取ってパソコン部が制作したドローンを見た。

カメラはついていても固定。少し斜め下を向いているだけ。

ももしおが上にドローンをぶつけった訳だ。




「この後どーする? ガソリンはあるけど」


せっかく4人で来たんだから遠出しようか。とオレは思っていたのに。


「部活があるの」


ねぎまのその一言で、船は港に戻ることになった。


そういえば、ももしお×ねぎまは制服。

ラグビー部を作るとか冗談言ってても、意外に真面目じゃん。バドミントン部の部長と副部長だもんな。


帰港。



「部活に間に合わないから、先に行くね」


ねぎまはラケットバッグを背負って早足で桟橋を急ぐ。


「飯は?」


船を係留しながら、オレは後ろ姿に声をかけた。


「途中のコンビニで買ってく」

「え、じゃ、オレらも」


と一緒に行こうとすると、ねぎまはレンタサイクルに素早く跨った。


「今日、ちょっと急いでるの」


言い終わらないうちに、ねぎまは颯爽と自転車で走り出す。


「ええ! マイマイ、待ってー」


慌ててももしおが後を追いかけていった。



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