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オレの交友関係を把握しているとしても、目立つのはクラスでつるむ、3人の友達。

テニス部ではミナトとも仲がいいが、学校生活だけを見れば分かりにくいと思う。

クラスが違う。

帰宅するルートも違う。

遊ぶときはその他大勢の男子硬式テニス部のメンバー数名も一緒。

ももしお×ねぎま、ミナト、オレの4人で集まるのは週に3回くらい。学校の外が多い。

4人でいるときにカフェで会ったが、ミナトとの接触を見られたのはそれっきりだと思う。


オレは、とりあえず、ミナトにヤツのことを相談したい。

ってことで、待ち合わせ場所はミナトの家が所有する空マンション。

ミナトが恐らく女の子と利用したりしている場所。家具付き。オレもときどき遊びに行く。

そのマンションで落ち合うことにした。


一応、ヤツが仕事中であることをチェックしてから下校した。

これで後をつけられることもない。


オレはアホだ。

このとき、オレの後をつけるだろう人間が他にもいたことを失念していた。



みなとみらいにある高層マンション。

その27階でミナトは待っていた。


柔らかい革のソファの上で体育座りをして、オレはミナトにあの夜のことを詳しく話した。


22時、誰もいないカジノリゾート区域で、工事中の建造物の穴にヤツが下りて行ったことを。

その3日後、朝練に行く途中にオレを捕まえて脅したことも。


一通り話を聞いたミナトは、口を一文字にしてしばらく考えている風だった。

それからペットボトルの炭酸水で口を湿らせてから、一言。


「テロ?」


オレと同じ意見。


「普通じゃねーよな」


うんうん、理解者がいてよかった。こんな話、教師や親に話しても信じてもらえねーし。


「カジノリゾートってさ、いろんなビルできるじゃん。どれか分かる? 宗哲」


オレはあの日から毎夜パソコンに向かってカジノリゾートのことを調べまくった。どんな商業施設が入るのかという地図つきの資料はすぐに出てきた。その地図と記憶を頼りに、ヤツが下りて行った建造物を特定。


「調べた。香港系のカジノホテルが入るビル」


「ウロウロしてた? それとも、そこが目的っぽかった?」


ミナトの質問にオレは自信を持って答えた。


「狙ってた。真っ直ぐその建設中んとこ目指してた。ヤツが速すぎて、オレ、見失いそーんなったし」


「何があるんだろうな。そんなとこに」

「謎」


「テロっつーと爆弾だけどさ、なんか持ってた?」

「なんも。懐中電灯、口に咥えてた。リュックとかもなし」


「宗哲、警察届ける?」

「まさか」

「だよな。ねぎまちゃんが危ないよな。仲間がいたら、センセが捕まっても危険だよな」


「ほっとく。ヤツが転任するのを待つ。オレら卒業の方が先だったりして」

「正直、関わりたくないよな」


ミナトはこーゆータイプ。そこんとこはオレと一緒。

ま、昨今の若者でトラブルに自ら身を投じたいなんて人間はいないって。平和主義。

昨今だけじゃないかも。日光東照宮にも「見ざる言わざる聞かざる」の3匹のお猿さんがいるじゃん。生きる上での大切なことなんだって。


「ごめんな、ミナト。こんな話聞かせて。たださ、ねぎまのこと、気にかけてやって。オレ1人じゃ見張りきれねーじゃん」

「ん」


だらーんとミナトはソファに寝そべった。

オレは箸でポテチを食べながら、変わっていく横浜に思いを馳せる。


「カジノできたらさ、このマンションの値段上がるかもな。借り手もいっぱいいるかも。そしたらミナト、もう使えなくなるじゃん」


女の子と。

今はたまたま空室で、気まぐれに泊まってるけどさ、所有者である親が人に貸してしまったら、もうミナトは我が物顔で使えなくなる。


「別に。高校生だからこのマンションが重宝してるしてるだけ。大学生になったら、カノジョの部屋あるかもだしさ、ホテルだって泊まる金あるって。バイトすっから」


この男、ホテル代のためにバイトするのか。


「ふーん」


いきなりミナトががばっと起き上った。


「それより宗哲、誘えよ。クルージング」

「あ、悪かった。でもさ、2人でいたらヤツに気づかずに見つかってたかも」

「結局バレたじゃん」

「ん」


なんの反論もできん。


「また行こうぜ。カジノができる前の横浜、オレも見たい。な、宗哲」


ミナト、アホか。


「もう行けないっつーの。危ねーじゃん」

「夜だろ? 朝行けばいーじゃん」

「朝?」

「朝の方が自然じゃん。釣りっぽい」

「確かに」

「釣りすっか」


ミナトは提案したが、バイオリンを嗜むその指で生餌とか掴めるのか? ミナト。


「オレは大丈夫だけどさ、ミナト、釣りできんの? 生魚掴める? 海で釣れるのって、かなりの確率でコンビニのビニール袋だぞ。藻でぬるぬるの」

「あ"-ムリっぽい」


やっぱり。


「アウトドア全般、苦手だろ」

「そうだった」


ミナトはキャンプすら肌に合わないと言っていた。虫が苦手。トイレが苦手。洗い場が苦手。焚火だけ参加できればいいらしい。ちなみに塩やら味付き粉末が飛び散るスナック菓子はほぼ食べない。手につく油と塩を気にしてスナック菓子を箸で食べるオレの更に上を行く綺麗好き。


「朝だったら、ヤツはいねーよな」

「工事も始まってないだろ。朝日が昇るころなら」


ってことで、週末早朝、日の出クルージングをすることにした。

ミナトは今夜は自宅に帰るらしい。だよな。オレとマンションに泊まっても意味ねーもんな。


タワーマンションを出て2人で最寄り駅に向かった。


地下鉄の駅への入り口が見えたときに、後ろからバタバタと足音が近づいて来た。

足音の1つはミナトとオレを追い越して、足音の主は、ぴょんとミナトとオレの前に仁王立ち。

もう1つの足音はオレの背中のところで止まり、その主はオレの腕を掴んだ。


「「やっぱり来た」」


2人は息ぴったり。ももしお×ねぎまだった。


「あれ?」


と驚くミナト。


「どーした?」


オレは焦った。ねぎまには知られたくない話をしたばかりだから。


「張り込みしてたの。うふっ」


オレの後ろから顔を覗かせてねぎまがにっこり微笑んだ。


「ここで張ってれば、宗哲君が通るってマイマイが言ったの。さっすがマイマイ」


とももしおが仁王立ちで不敵な顔。

なんで? 実はオレ、こっそりスマホにGPSアプリ入れられてるとか。んー、そこまで執着するように愛されてるとは想像できねーし。


「2人とも不思議? だってね、部活のない水曜日に宗哲クン、私と約束しなかったでしょ? なのに、男テニの子達はばらばらに帰ってた。男テニの集まりがないってこと。だから、ミナト君のマンションかなって。うふっ」


ねぎま、お見事。参りました。

水曜日、我が校では勉学のために部活禁止。勉学のためって大義名分で早々下校できて大ハッピー。横浜駅周辺では我が校の多くの生徒が遊んでいるのを見かける。


「なにも張り込みまでしなくても」


ミナトは苦笑い。


「そんなに長い時間じゃなかったよ。ね、マイマイ」

「ね、シオリン」


ももしお×ねぎまは顔を見合わせて、首をこてっと傾ける。


「ねーねーねーねー、うちらを誘わないで、2人で何話してたの?」


ももしおが顎に人差指を当て、目をまん丸にしてミナトとオレを交互に見る。


ねぎまが攻撃したのは、ミナトの方だった。


「ね、ミナト君。私、ミナト君のマンションに行きたいなー」


やめろ。その発言。なんかジェラシー。


「いや、その、今、帰ろうと思ってたとこだけど」


ミナトはたじたじ。


「ダメぇ? だったら私、これから単独行動しちゃおっかなー。おとり捜査的に。うふっ」


今度は、ねぎまの視線がオレに向かって来た。くそっ。


仕方なくマンションに引き返すことになった。

歩きながら、どう話せばねぎまが引き下がるのかを考える。1番言いたくないのは、ヤツがカジノリゾート区域にいたこと。話さなければ納得されないだろうことは、ねぎまが学校内の誰かに狙われる危険があるってこと。どーする。


第1の案、ウソをつく。

誰だか分からないが、ねぎまをインスタにアップした。『やりたい』と書いてあったとでも言う。


第2の案、半分ゲロ。

誰かがねぎまのことを泣かせたいとオレを脅したと伝える。


第3の案、七割ゲロ。

ねぎまのことを泣かせたいのはヤツだと伝える。が、ヤツに憧れているももしおの前では言いにくい。


逡巡。第3案を採用しよう。

ウソは苦手。インスタなんて出したら、どんな画像かとか何時だったのかとか、どこかで辻褄が合わなくなる。

でもって、第2の、誰かを言わない案だったら、体育館の外階段で話したことと変わらない。ねぎまは挑発的な単独行動をするだろう。学校の人気のないところを選んでおとり捜査をしそう。させるか。


よっし。さあ来い。


意気込んでいたのにさ。


マンションのリビングでテーブルを囲んだときのねぎまの第一声は、


「センセ、宗哲クンのこと、異様に気に入ってるみたい。うふっ」


と直球ど真ん中だった。

ミナトとオレはフリーズ。


今度はももしおが喋りだす。


「あのねー、センセがね、宗哲君のこと何気に聞いて来たの。マイマイが元気なかった日の前くらい。さりげなーく。『この間カフェで会ったよね、どっちがどっちのカノジョ?』って。だからね、私は誤解をとかなきゃいけなかったの。だって、私が好きなのはセンセなんだもん。マイマイは宗哲君のカノジョだけど私はフリーですって」


おまえかーっ。個人情報漏洩したの。

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