表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/30

盗撮うさぎ

「私じゃなくて『陽炎元ヤン・ヤン・ユエン』って呟いた人のフォロワー。『メイメイ』。『信のコインが欲しい日本生まれの日中ハーフ』」


「それが?」


「『信の支社がカジノリゾートに来て外貨を稼ぐって本当ですか?』『陽炎元ヤン・ヤン・ユエンでは中国の人達の生活が苦しくなります』『どこのカジノホテルなのでしょう』『仮想通貨の企業はパソコンだけあればスペースはいらないのではありませんか?』『元の下落率2か月前に比較して12.1%』『元の下落率13%』『元の下落ストップ?』」


ももしおはつらつらと読み上げた。


「へー」

「日中ハーフって割に、頑固に日本語遣ってて。これの返事は『信は外貨を稼ぎまくるでしょう』『多くの人が仮想通貨の割合を増やしています』『信が店舗を出すのは***ホテル』『仮想通貨会社は膨大なデータを格納する電子金庫が必要です。セキュリティーのためにネットを切断するのです』『元の下落はどこまでも』」


***ホテルは、ヤツが地下の穴の中に下りて行ったホテルの名前。


「信が入るのは、あのホテルって?」


「そーみたい。信のことに詳しそうな中国人が呟いてるんだから、きっとそう。メイメイって、マイマイのアカじゃないかなーって。聞いても教えてくれなかったんだけど」


ももしおの言葉に耳を疑った。ねぎまは日中ハーフじゃない。父親は新潟出身、母親の実家は横浜。


「え?」


「こんなリツイートも『陽炎元ヤン・ヤン・ユエンに変わってGOD COINSが台頭?』。リリツイート『実績がまだなのにGOD COINSと呼べるかどうか(w)』って」


「GOD COINS」


ねぎまだ。 


「最初のツイートが焼肉の日の夜。何にも言わないけど、マイマイは何かをしようとしてる。1番最近のはね、『金庫には容積分のお宝、電子金庫には無限のお宝』。メイメイのリツイートが『ネットを切断しているときに電子金庫が壊れたら困りますね』でリリツイートが『バックアップは当然あるでしょう』だって。マイマイが知りたいのは、アイキスタン軍が爆発したいものは何かってこと?」


「頼む。やめさせて。頼むから。オレの言うことなんて聞かないんだって」


なりふり構わず、両手を合わせてももしおに頭を下げた。


「当たり前じゃん。どーしてマイマイが宗哲君ごときの言うことなんて」


「どーせ”ごとき”だよ」


「でもね。内緒にしてるって時点で、マイマイは私の言うことを聞くつもりもないってことじゃん。寂しいけど」


ももしおはしゅんと首を垂れた。幻のうさぎの耳がだらりんとヘタレているのが見える。


「それ読んだら、電子金庫を爆発するって思うよな? 金庫なんて大事なもの、いくらセキュリティが高くたって見えない場所に置く。地下3階に置くのは電子金庫だろうって」


アイキスタン軍が中国の裏を衝こうとしてるってのなら、狙いは表じゃない。だったら、アイキスタン軍が狙っているのはマネーロンダリングに関するデータの電子金庫じゃないのか? 仮想通貨の企業があのホテルに入ることが分かった。バックアップがあったとしても、そこが爆破されたことが明るみになれば顧客は逃げる。それは中国にとって金の入り口を1つ潰されることになる。


逡巡。


ももしおが言う通り、メイメイはねぎまだ。GOD COINS。日中ハーフは相手に心のガードを緩めさせるウソだろう。


ただ、もしそうだとしても打つ手はない。

元部下のヤツが「やめてください」って言ったところで元上官は聞く耳を持たなかった。

見知らぬ女子高生が頼んだって「は?」って感じだろう。


だからといって、始終爆弾が仕掛けられないのか見張ることは不可能。


「マイマイがねー、元気なくって。だからー。私ぃ、マイマイが元気になることしようと思ってー。できるかどうか分かんなかったけどー。できちゃった。宗哲君、観る?」


にーっと口角を上げてももしおがサーフェイスの画面をオレの方に向けた。

ねぎまが元気になることって?


「何?」

「ほーら」


サーフェイスの画面に目をやると、全体的にグレー。で、さっきももしおがさせていたような、カタカタしたキーボードを叩く音が微かにする。超高速。


「何これ」


全く分からん。これでどーしてねぎまが元気になるわけ?


「パソコンルームの台の下にiPhone4Sを仕掛けたの。いつもセンセが座る席に。へへ。LINEのビデオ通話。録画できないけど。これねー、センセのお腹。きゃっ♡ 服を着てるのが残念」


ももしおは両手で頬を押さえて目をぎゅっと瞑った。

それって、ねぎまが元気になることじゃなくて、ももしおがしたいことだろ。


「そのうち、捕まるぞ」


オレは忠告した。


「ホントはね、パソコン画面をリモートでマルチモニターしたいんだけどー、パスワードが分かんなくて設定できなくって。さっすがセンセ。セキュリティばっちり。カジノホテルは電源がなくってカメラを仕掛けられなかったけど、パソコンルームだったらカメラくらい仕掛け放題。センセのアパートんとこも探したんだー、コンセント。ちょっと厳しくって。イケおじのとこもムリ」


「また二人でそんなことしてたのかよ」


呆れた。オレが3キロ痩せてる間に。


「ううん。私だけ。だって、マイマイが内緒にしてるんだもん。だから私もサプライズにすることにしたの」


なんか違う。ももしおの考え方ってズレてる。サプライズってそーゆーもんじゃねーじゃん?


「やめとけって言ってんのに」


オレの忠告なんてどこ吹く風。

ももしおは、ヤツが「シット」と小声で呟いたり、「ふぅ」と溜息を吐く様を至福の顔で見守る。


そんなことよりも気になることがある。


「あのさ、マイ、元気ねーの?」


勇気を出して聞いてみた。


「誰かさんのせいで」


ももしおがオレを睨む。


「フラれたのはオレじゃん。見てただろ?」


「宗哲君がマイマイのしたいこと邪魔しようとしたからじゃん。言っとくけどね、マイマイみたいにいい子、他にいないんだから。マイマイ泣かしたら許さないからね。二度と学校に来られなくしてやる」


ももしおが呪詛を吐く。


「マジ勘弁」


泣かされたのはオレの方。めっちゃ枕濡らした。痩せたし。


と、突然、ももしおが幻のうさぎの耳をピンと立てた。


「センセが電話してる。今、スマホ持ってる手が映った」


「あっそ」


「誰にかけたのかは分かんなかった。ガッコにいる先生の誰かかな?」


ももしおが画面にかぶりつく。


『This is……』


ヤツが英語で話すのが聞こえた。相手は誰? 英語で話すってことはこの学校の人間じゃない。

オレには一人しか思い浮かばなかった。元上官。でも、船で聞いたときは『連絡先教えろよ』ってぶーたれてた。ただ、あれから何日も経っている。連絡先をつきとめたとしても不思議じゃない。


『Stop!』


ヤツは強い口調で話す。所々で「サー」と入るから、相手はやはり元上官だと思う。


まず、ヤツは名乗った。それから軍のコンピューターに知り合いのアカウントでログインしたと言った。それが相手に答えたような口ぶりだったから、連絡先の入手方法を告げたのだと思う。

聞きたくても、さすがに相手が話していることまでは聞こえてこない。


オレの横では、ももしおがiPhone8を握りしめていた。


『あなたがそんなことをする必要はないんです。手段は違っても結果は同じです。今は隠蔽されていますが、限界が来ます』


なんかすっげー大事なこと話してるっぽい。だよな。軍にいた規律守りそうなタイプが、勤務中に電話するほどのこと。


『今は下降中。Crash soon』


ヤツは「Crash」を遣った。何が壊れるんだ?


『履歴が残るからその電話にかけたんです。盗聴されているなら尚更都合がいい。でもそこまではされていないことも分かっています』


へー。つまりヤツがかけた元上官の電話は軍から支給されたものってことか。


『炉端焼き。いいですね。景色もいい。僕も持って行きます。では、*日、12時、ジョイナスで。海老はなしですよ』


*日は秋に何度もある祝日の月曜日。


なんか、終わったっぽい。

オレの隣には和訳を待つももしおが、わくわくした目でじーっとこっちを見ている。


「何かを止めてた。ストップって。手段は違っても結果は同じとか。今は隠蔽されてるって言ってた。下降中だけどもうすぐクラッシュするって」


オレは大雑把に内容を告げる。

サーフェイスから、ヤツが「はぁぁぁ」と盛大に溜息を吐くのが聞こえた。


「ほぉぉぉ♡」


オレの隣でも喜びの溜息を吐く一匹。

まぁ、ねぎまが元気になりそうな情報ではある。


「ねーねーねーねー、『炉端焼き』って言ってなかった?」


またそこだけ聞き取ったのかよ。


「世間話」


オレはウソをついた。しっかりと場所と日時まで約束していたってのに。

それを言ったら、ももしお×ねぎまはまたヤツと元上官を尾行して探偵ゴッコをするだろう。させるか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ