表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/30

別れよ

変だと思ったところで、考えても分からないことは分からない。

分かっても関係ない。

爆弾テロは怖くても、いつなのかも全く不明。どーしよーもない。


とりあえずオレにできることは、


「マイ、今日から毎日家まで送るから」


ねぎまを見張ること。


「えーっ。マイマイともう遊べないの?」


ももしおは、オレが邪魔者と言うべく下唇を突き出してこっちを睨む。


「オレも一緒に遊ぶ」


ねぎまと二人きりでらぶらぶしたいが、ここは譲歩。


「えーっ。シオリーン」


ひしっ


ももしお×ねぎまは抱き合って、オレを毛虫かムカデを見るような目で見る。ねぎままで。どーゆーことだよ。オレとずっと一緒にいられるから喜んでもいーじゃん。


「ま、しばらくはそうした方が安全かもな。宗哲がいれば深夜にロック座辺りをウロウロしないだろうし。ドリアンなんとか作戦みたいな遊びはできないからね」


ミナトは賛成してくれた。


が、ねぎまは寂しそうな顔でオレをみつめた。


「宗哲クン、別れよ」


は?


「えっ」


「私、心配してくれるのはありがたいけど」


さっき、なんて言われたんだ? え、別れるって?


「……」


突然の衝撃発言に頭がついて行かない。


「ウザいよ」


ばしっとねぎまが言い切った。


「え、え、なんで。家まで送るって言ってるだけじゃん」


「それがウザいの。私は所有物でもないし、宗哲クンに家まで送られるほど情けない人間じゃないもん。ちゃんと人がいるところを選んだし、駅まで親に迎えに来てもらったから。自分の危機管理くら

い自分でできるから」


いやいやいやいや。制服で終電に間に合うかどうかって時間までほっつき歩いてた、どの口が言う?


「何かあってからじゃ遅いって言ってんだよ。オレは」


ついエキサイトしてしまう。


「そうだよ。何かあってからじゃ遅い。爆弾が仕掛けられたらもう遅いの。被害者が出る」


ねぎまが言うことは言い訳くさい。単に好奇心だろ?


「マイが被害者になったらどーするんだよ。ももしおも」


ねぎまが被害者になったら、オレは生きていけねーじゃん。


「加害者を出さないようにしたいの」


何がしたいわけ?


「加害者を?」


「目的はセンセと同じ。爆弾が仕掛けられなければいいって思ってる。加害者がいなければ、被害者もいないじゃん?」


「……」


それはそうだけど。アイキスタン国の軍人がどうしてそんなことをしたいのかも分かってないのに、更にはいつどれくらいの規模のものを仕掛けるかも分かってないのに。


「ねぇ、宗哲クン。今から、Just Friends」


ねぎまはオレに最後通牒を言い渡した。海外生活の方が長かったねぎまは、考えずに話すと英語が出る。本音だってこと。

Just Friends、ただの友達。恋人同士ではなくただの友達。


「え」

「**********」


ねぎまは早口の英語を遣った。「だからもう、宗哲クンには私を家まで送る権利はなし。私が友達と遊ぶのにとやかく言うのもなし」って。


「そんなんでいいのかよ」


オレは良くない。ねぎまのオレを好きって気持ちはそんな簡単なものってこと?


「シオリン、帰ろ」


日本語。

ねぎまはラケットバッグを持って立ち上がった。


「え、マイマイ、いーの?」


目を瞬かせながら、ももしおは、ねぎまとオレを交互に見る。そんなももしおを待ちもせず、ねぎまはずんずんとリビングのドアの方へ歩いて行く。


「宗哲」


ミナトが手をしゃっしゃっと振って、オレに「行け」と合図する。


いーし。そんな軽い気持ちだったなら。

オレなんてさー。すっっっげー好きだったんだからな。今だってすっっっげー好きなんだからな。


口パクで「行け」と言いながら棒立ちのミナト。


バタン


玄関ドアが閉まる音。


オレの方は不貞腐れたようにソファに深く体を埋めた。


「くそっ」


簡単に別れるとか言いやがって。


「宗哲、大丈夫? ねぎまちゃん、本気じゃないとは思うけど、こーゆーのって、早く修復しないとこじれるって」


ミナトが心配してくれる。


「しゃーねーじゃん」


どーしよーもねーし。


「あの、オシャレなねぎまちゃんが、ジャージのまま帰るなんて。今ごろ自分が言ったことを後悔してるって」


夏に出会って秋に別れるって、どんだけ単発なんだよ。

こんなことになるなら、早くあの胸を触っとけばよかった。こんな風に思うなんて、オレってクズ。




がっくりと肩を落として帰路につく。

はー。やっぱ、追いかければよかった。

その前に「別れよ」って言われたときに「別れたくない」って言えばよかった。ももしおとミナトがいても、ねぎまのことを抱きしめてキスでもなんでもすればよかった。

はー。学校のアイドル的存在の女の子を。

逃がした魚はでかい。でかすぎ。オレの身に余る。手に余る。きっと胸は。違った。手に負えない。

はー。


はー。


オレ、溜息で酸欠になるかも。


今夜から深夜の電話もメッセージのやりとりもなしか。


それってキツイ。


生きる喜び、なくしたし。




ねぎまとオレが別れたなんて知れ渡ったら、ねぎまはももしおみたいに男に耐えず言い寄られるんだろーな。


あかん。涙出てきた。




次の日のオレは屍だった。

友達に話しかけられても満足に受け答えできないレベル。

それでも時は刻まれ、容赦なく日々は過ぎていく。

オレは数日で3キロ痩せた。


ねぎまがフリーになったことは秒で拡散された。


誰かがねぎまに告ったと風の噂で聞いた。あかん。また涙出てきた。


「なーなーなー。宗哲、そんな泣くくらいだったら、なんでフッたわけ?」


クラスでいつもつるんでる友達が絡んでくる。


「泣いてねーし」

「その目で泣いてないっつっても、説得力ねーって」


どうやらオレは酷い顔をしているらしい。


「つーか、フラれたのオレの方だし」


「オレらもさー、宗哲見て、そう思ったんだけど。なあ」

「なあ」

「なあ」


いつも一緒にいる3人はお互いに顔を見合わせる。


「ねぎま、告られてっじゃん? でもさ『まだ引きずってるから』って断ってるらしー」


え?


「マジで?」


ねぎまがオレを引きずってるって? あんなバッサリ簡単に切ったのに。


「オレ、聞いた」

「オレも聞いた」

「オレも宗哲に確認するように言われた」


本人の知らないとこで、そんなことになってんの?


「あ、じゃーさー、ねぎまって優しーから、宗哲のプライドのために、自分がフラれたことにしてるのかも」


友達の1人が配慮して言ってくれた。


「あり得る。宗哲のプライドなんて気にすることねーのに」


もう1人が無責任発言。


「なー、ただ断るのメンドクサくて、宗哲のこと引きずってるとか言ってるだけじゃね?」


更に1人が無神経にオレの心を粉砕した。


「だなー。次から次、男来るもんなー」

「だなー」

「だなー」


くっそー。ねぎまに言い寄ってるの、どこのどいつだよ。

友達の1人が両手を前に出して腰を引き不自然な恰好で停止した。


ん?


学食。観葉植物の影になったオレ達に気づいていない不用心な誰かさん達の雑談が耳に入ってきた。


「そりゃそーだろ。宗哲がつき合えたんだったら、自分だってイケるって思うじゃん」

「言えてる」

「誰だって告る勇気湧くよなー」


くー。言いたい放題だな。

でも、なんも反論できねー。




もうこれ以上傷つきたくない。

オレは昼休み、一人で体育館の外階段の踊り場へとぼとぼと上った。


ほんの少し前、階段を駆け上がってきたねぎまが抱きついてきた場所。


ももしお×ねぎま、ミナト、オレの4人でときどき集まった場所。


はー。

また溜息。


夜、眠れねーし。今までのこと思い出して。

オレは壁にもたれてうずくまった。空は悲しいほどの秋晴れ。今日は暖かい。


あふぅ


あくび出てきた。




カタカタカタ カタカタカタ カチッ カチッ


ん?


微かな音にうっすらと目を開ける。


と、少し離れた場所に体育座りをしてサーフェイスのキーボードを叩くももしおがいた。


はらり


オレはどうやら眠ってしまったらしい。体を起こすとベージュ色のカーディガンがコンクリートに落ちた。自分のカーディガンは着ている。ももしおは紺色のカーディガンを着ている。ってことは。


「あ、宗哲君。起きたの?」


とももしお。


「これって」


オレは落ちたカーディガンを拾い上げた。


「マイマイの。宗哲君が風邪ひくといけないからって」


その優しさにじわっと涙が滲み出る。


「来たの?」


「うん。授業行っちゃったけど」

「え、ひょっとしてもう授業中?」

「うん」

「やばっ」


オレは焦って立ち上がった。こっそり涙を拭いながら。


「授業行く。悪い、これ、返しといて」


オレはベージュ色のカーディガンをももしおの頭の上に置く。


「いってらー」


ももしおはねぎまのカーディガンを頭に載せたままオレを見ようともしない。

スマホに時刻を表示させれば、すでに5時間目は15分くらい過ぎている。今から走ってもかなりの遅刻。目立つ。


「やっぱ、サボろ」


オレは力が抜けたようにその場に腰を下ろした。


カーディガンをサーフェイスの下に丸めたももしおが話しかけてくる。


「ねーねーねーねー宗哲君。ツイッターで気になるフォロワーを見つけたんだー」


言いながら、ももしおは画面をクリックしている。


「ツイッター? ももしお、見るだけじゃなかったっけ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ