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憶測

「ふーん」


やっとやっと、ねぎまが「信」って会社について聞いたのに、ももしおのこの薄い反応。


「ええーっ。シオリーン、それだけ?」


「仮想通貨は分野外だもん。もう儲かったからいいし。通信関連の日中合弁会社は噴いた後の終わった株だもん。今はね、また探してるの。会社四季報とスクリーニングで」


ねぎま残念、空振り。


「信って会社が、あのカジノホテルの隠し部屋と関係あるんじゃないかなーって思ってたのになー」


肉を皿に取りながらのねぎま。諦めて食べることに専念するのかも。


「マイマイは信のことが知りたいの?」


ももしおがねぎまを見た。


「ってゆーか、隠し部屋のことが気になって」

「だったら」

「え?」


ねぎまが箸を置いた。目がきらきらっと輝く。


「『陽炎元』って呟いた人、信についていろいろ呟いてたよ。日本語よりも中国語遣うことの方が多くて読まなかったけど。信って漢字がいっぱいあった」


「シオリン! 大好き」


がばっ


ねぎまはももしおに抱きついた。羨まし。


そこからは、ねぎまは一人、スマホ片手に自分の世界に入った。左手でスマホを操作しつつ、右手でしっかりと肉を食う。中国語でも翻訳アプリを使えば問題ない。音声認識よりも確実。


それでもももしおはねぎまに話しかける。


「マイマイー。最近、センセって疲れてない?」


「ごめんねシオリン」


あっちの世界に行ってしまったねぎまは見向きもしない。


「ももしおちゃん、聞くだけならできるよ」


優しいミナトは神対応。

オレはパス。肉を食……すっげー減ってる。喋ってる間も、ももしお×ねぎまって食べてたもんな。ミナトが二人の皿に絶えず肉を配ってたし。


「なんかね、センセ、パソコンルームに籠ってることが多いの。私ね、よく授業中パソコンルームにいたんだけど。センセが来てからはぁ、乙女心ってゆーかぁ、あんまりぐいぐい行くのもぉ、はしたないかなーって、パソコンルームには行かなくって」


「そーなんだ」


優しいミナトが会話の合いの手。オレ、どーでもいー。


「でね、窓の外のぉ草葉の陰から見守ってるの」


おいおい。まだ死んでねーじゃん、ももしお。


「そっか」


心の中で突っ込むオレに反して、ミナトは頷く。指摘しろよ。


「顔を両手で覆って考え込んだり、いきなり超高速でキーボードを叩き出したり、イスにもたれて溜息をついたり」


どんだけ見てるんだよ。ストーカー犯罪並み。


「そーなんだ」


いちいち頷くミナト。


「何か困ってるのかなー、センセ。私にできることなら力になるのに。お金に困ってるんだったら助けてあげるのに。見返りなんて、センセのカラダ一つでいいのに」


いい加減、ミナト、突っ込め。女子高生のくせに男を金でモノにしようとしてるぞ。


「ももしおちゃん、はい、お肉」

「ありがと。まいうー」


さすがミナト。校内の抱かれたい男ランキング第7位。素晴らしい忍耐力。これがモテる秘訣なのか。

ちなみに抱かれたい男ランキング第1位はサッカー部。2位はバスケ部。上位はほぼそこら辺。ランクインしているのは男子硬式テニス部ではミナトだけ。


気の利くミナトはももしおとねぎまの皿に、焼肉のタレを追加した。

ミナトもオレも、ももしお×ねぎまほど肉を食べていないからか、タレはまだ残っている。


「そういえば、授業のときに目の下に隈あったっけ」


オレは先日のヤツの顔を思い浮かべた。疲れた顔で爽やかさが半減していた。いい気味って思ったらから覚えている。オレの心は小さい。つーか、ゴミ。


「でしょでしょでしょ。どうしたんだろ、センセ。あくびもしてた。きっと寝てないんだよ。女豹さんに夜通し快楽を与え続けるために精力を使い果たしてるのかもしんない。あの鋼のカラダにご奉仕させるなんて。センセー! ダメ。私ってものがありながら。そんな」


よよよっとももしおはイスに突っ伏す。

オレの心もゴミだが、ももしおの妄想もクソだな。


呆れたミナトはやっと肉に手を伸ばす。ミナトが持ってきてくれたのに1番食べてねーじゃん。食えよ。ももしおなんてほっといて。


「お、玉ねぎ旨そ」


オレは輪切りにした玉ねぎを皿に取った。焼肉では肉の次に好き。


そんな風に焼肉を続けていると、ねぎまがスマホから顔を上げた。こっちの世界にご帰還。

2キロの牛肉はすっかりなくなって、ミナトが鉄板にこびりついた野菜をへらで剥がしている。


「あのね、デザートがあるの」


ねぎまはテーブルの上に箱を出した。

オレが野菜を買わされている間に、ももしお×ねぎまはデザートを買いに行っていた。オレってパシらされ体質かも。


「トップスのチョコレートケーキなんだよねー」


ももしおがヨダレを垂らす。ミナトとオレが鉄板を洗ってガスコンロを片付けている間に、ももしお×ねぎまがケーキを切り分けた。


包丁についたチョコホイップクリームを指でつーっと取って舐めようとするももしお。


「お行儀悪いよ。ももしおちゃん」


ミナトに注意されてるし。


ぺろっ


ももしおの指についたチョコホイップクリームを舐めたのはねぎま。びっくり。


「あーっ。ズルイ、マイマイ」

「うふっ」


4人でケーキを食べる間、ねぎまは悪びれもせずに語った。


「あのカジノホテルの地下に隠しカメラ仕掛けたいくらい。だってね、爆発して犠牲者が出たらどうするの?」


犠牲者は言い訳で、知りたいって好奇心だけだろう。

即刻オレはダメ出しした。


「ムリじゃん。工事中のどこに仕掛けるんだよ。何日間もバッテリーもたねーし。データの回収ができねーじゃん」


「コンセントがあればいいんだけどなー」


ねぎまは引き下がらない。


「コンセントがあって電源を確保できたって、見つからないとこにカメラ仕掛けるなんてムリムリ」


ダメ出しを頑張るオレ。

ミナトは考え込んだ。


「仮にさ、仮にだよ。信って会社がそのねぎまちゃんの言う隠し部屋に絡んでるとして、どうして隠し部屋がいるわけ? 表看板だけでよくね? だって中国政府肝入りなんだろ?」


「普通に考えて、マネーロンダリングじゃん」


ちょっと言ってみた。ももしおが言ってた「イケナイパーリー」よりはマシな考えだと思う。


「「「……」」」


オレ以外が黙った。あれ? そんな変なこと言ったっけ。


「宗哲君、それだよ。きっと」


ももしおは人差指をピンと立てた。

ちょっと待て。簡単に賛同し過ぎ。オレは適当に言った自分の考えを取り下げるべく論破した。


「あのさ、ドローンを飛ばした日、ヤツが喋ってた相手は元上官だろ。『サー』っつってたから。つまりはアイキスタン国の軍に絡む人間。中国とは関係ない。例えば中国の信とかって仮想通貨の会社の隠し部屋がそこにできたとして、アイキスタンがそこを狙う意味なんてねーじゃん」


自分の考えを自分で否定するって、なんか変。


そのときオレは、ヤツと元上官との会話を思い出した。


『日本での被害ならば、アイキスタンは表向き直接の摩擦を避けられる』


中国だ。中国との摩擦だ。

アイキスタンは中国から経済支援を受けて借金漬け。金にものを言わせて、中国がアイキスタン国の一等地に軍事基地を作っている。更に中国は今後それを拡張しようとしている。それをアイキスタン国が快く思っているはずがない。オレが知らないことだって問題はあるだろう。


口に出すのは止めた。憶測に過ぎないから。


隠し部屋はイケナイパーリーのためのものかもしれない。


ただ言えるのは、香港系のカジノホテルの隠し部屋なのだから、中国が隠したいものが入るってこと。つまりアイキスタン国が直接の摩擦を避けたい国は中国。これは確実。


ヤツの上官は『企業が看板を出す』とも言っていた。

つまり、表に看板を出せるような堂々とした企業。そして裏がある。


アイキスタン国の目的は中国の裏をつくこと。


隠し部屋の企業が何であれ、そこらへんは十中八九間違いない。……と思う。


ぱくっ


チョコレートケーキを口に運ぶ。ああ、糖分。オレ、普段は使わない脳細胞働かせたし。糖分、効く。


ぱくっ


ますますガチのテロだって線が濃厚。

小さい爆弾で脅すとかじゃねーかも。

とんでもない被害になるかもじゃん。


「宗哲クン、どーしたの? 考えながら食べると消化に悪いよ?」



ねぎまがオレの目の前に顔を出した。距離20センチ。


「ぼーっとしただけ」


「宗哲、聞いてた? 今の話」


とミナト。


「あ、ごめっ。何?」


「匿名で通報するにも、何か証拠みたいなもんないとなって。FaceBookの動画、録画しとけばよかったって」


考えごとをしていたオレのために、ミナトが教えてくれた。


「毎日工事の進捗状況を確認なんてしてないって思うの。あれは奇跡の偶然だったよね」


ねぎまが残念そう。


「どんなカッコイイおじ様なんだろーね。アイキスタンの人」


ももしおはちょっとうっとり。どうせアホな妄想をしてるんだろう。


「ムキムキだよ、きっと」


ぼそっとねぎま。か弱いカレシのいる前で。やめて。


「腕毛もあるかもよ。マイマイ」

「シオリン、渋いおじ様好きじゃん?」

「いーよねー。アイキスタン人だったら、きっとセンセみたいな彫り深い系♡」


あ~あ。始まった。中身のない女子トーク。


「センセに教えてたくらいだもん、強いよ」

「頭も動きもキレッキレ」

「右手に拳銃、左手に爆弾」

「「きゃ――――♡ イケおじ~」」


ももしお×ねぎまは手を取って喜び合う。


その横で、ミナトとオレは黙々と焼肉とケーキの後片付けをしたのだった。


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