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第五話 兄様と亡霊の夜

境川、刈谷領側。

奎堂たちは尾張側の宿で日が沈みかけるのを待って刈谷領内に入った。

というのも、確かに暗闇に紛れて行動することが好ましかったし、何より奎堂の兄・藤蔵とうぞうが指定した時刻が黄昏刻だったのだ。



「まったく兄上の奴、こんなところにこんな時に呼び出して一体何の用なんだ・・・」

「大した用でないことを祈るだけだな。お前についての悪い噂はご家族にも何らかの影響があってもおかしくないからな」



奎堂と雁音はそれなりに手紙を深刻に捉え、少し警戒感を持っていた。

しかし、それ以上に警戒し、更に震えまで来てしまっているのが三弥だった。

その姿を見ていられず、奎堂は声をかけた。



「三弥、顔色悪いぞ、大丈夫か?」

「奎堂さん・・・ここは敵地ですよ。奎堂さんが死ぬなら僕も死にますから」

「おいだから勝手に殺すなって、ただ兄上に会いに来ただけだ」



やはり病んだ答えを返してきた三弥。

それを遠巻きに見ていた万吉は苦笑し、村雨がそれに同調する。



「三弥さん今日も病んどるなぁ~」

「ああ、今日は特に暑かったからか、ちょっと病状が悪化している気がするな・・・」

「あ、ほでも、兄貴の兄上っていったいどんな人かやぁ?おれ楽しみだ」

「私も会った事はないな。それなりの名家である松本家の跡取りだから、さぞ聡明な兄上様なのであろうな」



万吉と村雨の会話に雁音も加わった。

同じ刈谷に住んでいても、雁音も奎堂の家族には会った事がなく、少しそこは楽しみにしている部分もあった。

楽し気な従者たちに奎堂はため息を吐く。



「楽しみも何も・・・兄上は釣りが趣味な普通の男だ」

「ほぉ、よっぽどお前よりは堅実で安定的だ」

「どういう意味だよ」


謙三郎けんざぶろう~!」



薄暗い中、田んぼのあぜ道を通って人影が一つ小走りにやって来る。

号ではなく、通称で呼ばれた奎堂はその声に反応した。



「この声は・・・兄」

「謙三郎~!!!・・・洞隣寺どうりんじ行こまいっ!!!」

「・・・・・・はぁ?!」



奎堂の前まで走ってきたのは正しく兄・松本藤蔵であったが、挨拶もそこそこに奎堂に誘いの言葉をぶつけてきた。

黄昏の闇の中では、一瞬どっちが奎堂だかわからない程、二人は似ていた。背丈も同じで髪のまとめ方も一緒。

違うのは、奎堂とは違った明るい声で話し、よく笑うところだ。



「何で・・・洞隣寺・・・」

「へぇ、面白い事いいますねぇ」



奎堂と三弥はその寺の名前を聞いた途端、顔を引き攣らせた。



「村雨、洞隣寺ってどこの寺やぁ?」

「洞隣寺は東海道沿いにある曹洞宗の寺のはずだが・・・?」

「あ、待ってくれ、この本に確か・・・」



万吉と村雨が首を傾げると、雁音は奎堂からもらった本を取り出した。



「あった、この話だ・・・」



――その昔、洞隣寺には容貌は悪いが気立てが良い、よく働く娘がいた。

あるとき、高津波村の医王寺の住職に一目惚れをしてしまうが、住職は修行の身であるから娘には見向きもせず、寄せ付けなかった。

娘は片思いのため食も進まず、ついに憤死してしまったという。

その娘の亡きがらは働いていた洞隣寺に葬られたが、そこから夜な夜な青白い火の玉が浮かび燃える音がしたり、医王寺の方角に飛んで行ったり、「めったいくやしい」という恨めしい声が聞こえたりするようになったという・・・。



「きゃああああああああ!!!!」



雁音がその話を語り終わった刹那、暗闇に耳を劈く悲鳴が響き渡った。



「怖いですぅ奎堂どのぉ!!!!!」

「お、岡?!」



その悲鳴を発したのは、名古屋の塾の留守を預かっているはずの岡鹿門だった。

ひっしりと奎堂の腰に縋り付き、恐怖に震え上がっている。



「何でお前ここにいるんだ?塾は」

「あっ、今日は半日で終えて、明日はお休みにしましたぁ」

「おい、勝手に俺の塾閉めてくるんじゃねぇよ」

「まぁまぁ、つい最近まで休業状態でしたからそんなに変わりませんって。あっ!奎堂どのの兄上どの~!」

「あれ?君は、仙台藩の謙三郎の旧友の・・・岡鹿門くんだね!」

「はわっ、そうですそうです!兄上どの久方ぶりにございます~!」



奎堂から離れると、岡は藤蔵にすり寄る。



「え、なんであいつ俺の兄上と顔見知りなんだ?」

「そういえば奎堂殿と会う前に刈谷に立ち寄ったと言ってましたねぇ・・・」



岡が兄と顔見知りと知り、奎堂は青ざめる。いつの間に家族まで手を回されていたのか。

そんな奎堂に三弥が岡から聞いた情報を提供した。

奎堂は深くため息を一つつき、岡を兄から剥がしにかかった。



「とにかく岡、てめぇは兄上から離れろ・・・!」

「え~ちょっとだけ」

「ちょっとだけ何だ気色悪い!離れろ~!」


「うわっ」



無理矢理剥がされた岡が、雁音に激突する。

雁音の細身は弾かれ、思わず土に手をついてしまう。



「痛っ・・・」

「大事ないかい?」

「え?・・・・あのっ・・あのっ・・はいっ!」

「そう、良かった。可愛い剣士さん」

「か、可愛い・・・?」



そんな雁音に手を差し伸べたのは、奎堂の兄・藤蔵だった。

手を引いて立たせ、丁寧に雁音の袴の土を払った。

雁音は奎堂と瓜二つの藤蔵に大切に扱われ、妙な気分になった。



「兄上!!!!!」



奎堂は一喝し、兄にずんずんと近づく。

明らかに怒っている奎堂に藤蔵はにこりと微笑んだ。



「え、洞隣寺行く?」

「違う!俺の前で女愛でるのやめてくれって昔から言ってんだろ!」

「ええ?どうして?」

「どうしてもだっ!!!俺が愛でてるように思えるんだよっ!!!」

「いいじゃん。女の子は愛でるべき存在だから」

「清々しい顔でやめてくれ!本当に!!!」



感情をぶつける弟だが、藤蔵はそれを受け止めるどころかさらりと受け流す。

奎堂は膝から崩れ落ちた。



「奎堂さんが振り回されているのを見るのは初めてですね」

「兄貴も太刀打ちできない人っているんだなぁ・・・」



少し微笑まし気に三弥と万吉はその様子を見ていた。

やはり秀才松本奎堂の兄である。一筋縄ではいかない。



「ねぇねぇ、それでどうする?洞隣寺への肝試し」

「肝試しの為に俺を呼び出したのか?!」

「ん?何何?怖いの、謙三郎?」

「はぁ?!亡霊なんか・・・こ、怖くねえよ!!!!」



明らかに顔が引き攣り、強がっている奎堂を見て、雁音はふんと鼻で笑った。



「ほぉ、お前にも怖いものがあるのだな!」

「いこーよ兄貴!」

「俺は別に問題ない。俺自身も妖のようなものだ」

「てめぇら!何気なく兄上に買収されてんじゃねえよ!」



雁音、万吉、村雨、ことごとく従者たちの手にはいつの間にか美味しそうなまんじゅうが握られていた。

まだまんじゅうがたくさん詰まった袋を藤蔵は持って微笑んでいる。



「私たちは怖くないぞ?なっ万吉」

「おっ・・・おおう!村雨も行くよな?」

「ああもちろん」

「まぁお前は腰抜け学者だからな、ここで待っていると良い!」

「はぁ?!お前らが怖がるだろーから付いて行ってやらぁ!」

「はぁ?!ついてくんな腰抜け学者ー!」



やんや言いながら寺を目指してしまう雁音と奎堂。



「あっ、待ってってさ!雁音ー!」

「あれ、岡さんどこ行きましたっけ?」

「さぁさぁ、君も!」

「あ、はい・・・」



岡の姿が見えなくなった三弥は疑問を漏らしたが、藤蔵に背中を押され、一路曰くつきの寺を目指した。

その道中、藤蔵が改めて自己紹介をする。



「そういえば、ちゃんとした自己紹介がまだだったね。僕は松本藤蔵、謙三郎の兄だよ。」

「ええ・・・そっくりですから、わかります・・・」

「ふふっ、君の名前は?」

「雁音といいます」

「雁音・・・へぇ、刈谷にも同じ地名があるんだよ、素敵な名前だね」

「えっ」

「謙三郎はいいなぁ、こんな可愛い子に守ってもらえるなんて」

「可愛い・・・?!」



雁音はその頬を暗闇でもわかるほど染めた。

褒められ慣れていないのか、言葉が返せずうつむいてしまう。



「おれは万吉!」

「私は伊藤三弥です。幼い時に何度かお会いして・・・」

「あー!伊藤さんのところの?!大きくなったんだねぇ~」

「もう三十路近いので、大きく成ったどころじゃないんですがね・・・」


「兄上・・・」



いちいち突っ込むのが面倒になってきた奎堂。

呼び出された理由が最大の突っ込みどころだったが、完全に彼の調子に支配されている為ついに諦めの感情が湧いてきた。

素直に肝試しに従うしかない。


すると、渋々と寺を目指す事になった一行を見ている影が三つ。

お梅、耳切、尾切。仲良し狐の三匹だ。



「ん?ありゃあ・・・」

「どうしたのお梅?」

「ありゃ松本たちじゃないかい」

「本当だ、こんな夜遅くに何やってんだあいつら?」



お梅がにたりと口が裂けんばかりに微笑む。



「丁度良いね、この闇に乗じて葬ってやる!昨日のお返しだよ」



奎堂たちは洞隣寺の門前にさしかかっていた。

東海道沿いにあるとはいえ、こんな夜に当然人影はない。

頬に当たる夜風が、いやに冷たく感じる。



「暗がりの洞隣寺はなかなか迫力がありますね」

「三弥、大丈夫か?いつも以上に目死んでるぞ」

「これが夜な夜な、恋に破れた娘が火の玉になって現れる寺・・・」

「うぅ・・・こええ・・・」

「万吉、動きにくいのだが」



三弥の目は完全に死に、万吉は恐怖に震えて村雨にくっついた。

伝承を知り、興味が恐怖より勝っている雁音が、そっと門から様子をうかがう。

すっかり辺りはうす暗くなり、境内の不気味さが増していた。


ふと、遠くからガサガサという音がする。



「?!」

「ひっ・・・」



奎堂と雁音が同時に身体を強張らせる。

奎堂は思わず小さく悲鳴を上げると、近場にいた藤蔵の背中に縋った。



「ふふっ、小さい頃から変わらないなぁ、謙三郎」

「うっ、うるせ!思わずぶつかっただけだわ!」

「はいはいっ。さて、何かいるみたいだね?肝試しと行こうか」



藤蔵は境内に足を踏み入れ、ずんずんと進んでいってしまう。



「あ、兄上!ったく!」

「あっ、待て!奎堂っ!」



奎堂と雁音がその後を追う、三弥と万吉と村雨もその後を追う。



「・・・ああいう先走る方は真っ先にお化けの餌食になるのが怪談では定番ですよねぇ」

「あああ・・・そんな怖いこと言わないでくれよ三弥さん~」

「とにかく追うぞ」



一行が音のする方にどんどん突き進むと、開けた場所があり、3つの墓石が並ぶ不気味な場所にたどり着いた。

墓石の一つは苔むし、隣の二つは何故かそれぞれ反発するように反対側へ傾いている。

荒れ果てた、手入れの入っていない古い墓地だ。

その墓石の向こう側にゆらゆらと人の形のような影が二つ沸き立つ。



「影が・・・お化けかな?謙三郎?」

「馬鹿言えよ、お、お化けとか・・・」

「でもよぉ兄貴、おれたち狐に化かされたんだ。お化けもきっといるような気がしてきた・・・」

「お前もうるせぇ!お化けなんかいるかってんだ!!」



「?!」



二つの影の視線が、こちらに向いたような気がした。

すると影が一つ、すすーっとまっすぐ松本兄弟へと向かってきた。

あとからきた雁音が抜刀しながら走り込んでくる。



「奎堂!兄上様伏せろっ!はぁっ!!!」



思いっきり胴を斬り抜くと、影は真っ二つに裂け、煙のようにかき消えた。



「よし!・・・あれ?」



墓の後ろにもうあと一つあったはずの影が、いつのまにか五つに増えている。

それどころか、後ろの暗闇からどんどん湧いてくるように増えていく。



「そんな!増えてる・・・!」

「雁音、あぶねぇ!」



また襲い掛かってきた影を、今度は万吉がドスで払う。

その横で村雨が三つの影を同時に切り伏せた。

雁音、万吉、村雨の総力戦で次々に影を斬る捨てるが、一向に減らない。



「なぁ雁音・・・こいつら・・・」



万吉が何やらふんふんと暗闇に鼻を向ける。



「なんか獣のにおいがする」

「まさか、懲りずにまた狐どもが・・・?」

「ならば妖術か?いくら斬ってもきりがないぞ」

「くっ!」



雁音たちが対処方法を思案するに困ったその時、藤蔵が雁音たちの前に立った。



「危ないから下がってて?」

「へ?」

「ほら謙三郎、お前も戦うんだよ」

「え?だって用心棒はそいつら」

「ここは、かっこいいとこ見せないと!」

「はぁ??」



藤蔵はすらりと腰の刀を抜く。

雁音に微笑むと、左足を引き、美しい姿勢で刀を構えた。



「・・・くそ、兄上は言い出したら聞かねぇからな・・・」



奎堂も渋々雁音の前に立って、抜刀し藤蔵と同じ構えをとる。

しっかりと腰を落としたその姿は、藤蔵と同じ程美しく、雁音は思わず見入った。

いつもとは逆の立ち位置に少し戸惑うが、その光景から目が離せずにいた。



「兄貴たち、なんかかっけぇ!」

「あいつ、手入れする以外刀を抜く事など滅多にないのに・・・綺麗な構えだ」

「松本家は代々松本流剣術の師範であり、甲州軍学を生業としてきた華麗なる血筋ですからね」



草影に隠れていたとみられる三弥が出てきた。

雁音はその三弥の言葉に食いつく。



「意外だ、奎堂は学業ばかりに秀でているのかと・・・」

「まさか。貴方達に守られていますし、余計な体力を普段から使いたくないだけで・・・本当は刈谷でも抜きん出た武芸者ですからね」



奎堂と藤蔵は次々に力強い一閃を放つ。



「文武両道の独眼竜・・・それが松本奎堂なんですよ。・・・・さてと」


「すごい・・・」

「兄貴ぃ!かっけええ!!!」


雁音と万吉はすっかり奎堂たちに魅入って声援を送っていた。

それを背にして、三弥はまた草叢の中へ足を踏み入れた。



「くっそぉ・・・相変わらずしぶとい奴らだっ」

「ちょっと耳切れ、あんた妖力が甘いんじゃないのかい?」

「いや姐さん一生懸命やってるよぉ!」

「ごちゃごちゃ言ってないで早く始末すんのよ!こんな寂しい寺なら、あいつらを葬っても利善様のお耳に入ることもないわ・・・・・・ん?」



三匹は後ろに立つ殺気に気づいた。

見ると、昨夜風呂場で見事に言葉で言いくるめられた天敵・伊藤三弥が立っていた。



「やはりあなた達でしたか。人気のないところで奎堂さんたちを葬るおつもりでしたか」

「お前は!三弥!」

「はぁ・・・だから私は止めたんですよ?敵地たる刈谷へ戻るのは。でもどうしても行くって奎堂さんが言うから・・・私も一緒に死ぬ覚悟で来たんです・・・」



いつも以上に病む三弥の殺気が鋭い。

聞いてもいないのに死の覚悟を口にした。



「お梅・・・この人昨夜はこんなに病んではいなかったよね?」

「え・・・えぇ」



狐たちは一歩後ずさりした。



「だから・・・私はここであなた達と違えて果てても、いいんですよ?」

「ひっ!」

「逃げろ!!!」

「お、覚えてなさい!絶対にお前たちの首は取るんだからね!」



もうすっかり定番となってしまった文句を吐き捨て、凄まじい勢いで逃げる三匹。

同時に奎堂たちを襲っていた陰は跡形もなく消えたのだった。



「あれ?」

「消えた・・・?」



草叢から三弥が出てくる。



「どうやらまた狐に化かされたようですよ」

「はぁ・・・やっぱり狐たちのやろーか。懲りねえなまったく」

「何だかわからないけれど、幽霊ではなかったのかな?」



やれやれと納刀する奎堂の隣で兄の藤蔵は首を傾げている。



「幽霊とは違いますかね、狐に化かされるのは」

「そっか、残念。幽霊には会えなかったかぁ」

「いや逆に良かったよぉ、おれは本気で幽霊かと・・・」

「ははっ、怖がりすぎだ万吉、幽霊などいなかったではないか」



雁音に励まされる万吉。

村雨も安堵の表情を浮かべて刀を美しい所作で納刀した。



「まぁとにかく良かった。皆助かったみたいだね」



その場を締めよう藤蔵がそう言うと、寺中にふぬけた声が聞こえる。



「ひどいじゃないですかぁ~!!!!!」



ガサガサと木の間から岡が飛び出てきた。

そのまま奎堂の足にすがりつく。



「おわっ!!・・・岡!?」

「そういえば、お前姿が見えなかったがどこにいたんだ?」

「酷い!川に落ちた僕をみんなで置いていきましたよねぇ?!」



奎堂が兄の藤蔵から岡を引きはがした際、勢い余って近くの溝に転落していたらしい。

とにかく兄の行動に振り回されたまま寺に向かったので、すっかり岡を置いてけぼりにしてしまったようだ。

苦笑しながら雁音は岡がここまで来れたことに感心した。



「しかし岡、よくこの場所がわかったな」

「ああ・・・親切な娘さんが、奎堂どの達がお寺の中にいると案内してくださったのですよ」

「娘?」

「ええ、この寺の前でお会いして、ここで下働きをされているとか。お礼を言わないと」



その瞬間、場の空気が一層冷えあがったようだった。

藤蔵はにんまりとしながらその場の皆に向けて大きな独り言を言う。



「おかしいなぁ、この寺はもう無人のお寺のはずなんだけれど・・・。あ、もしかして・・・ふふっ、件の娘さんかな?」



思わず漏れてしまう笑いを手で押さえながら、外に向かって歩き出す藤蔵。

その後ろ姿に万吉が涙目で訴える。


「えっ・・・嘘だら?兄貴のお兄さん冗談なんだら?って、あ!三弥さんが気絶しとる!」

「おい岡ぁ・・・てめぇ、あることないこと言ってんじゃねぇだろぉなぁ・・・」

「あっ、あっ・・・奎堂どの・・・くるしい」

「気持ち悪いなぁ!首絞められて喜ぶなぁ!」



ふと、青白い光が奎堂たちの前を横切った。



「いやぁ、弟との肝試し、楽しかったなぁ。やっぱり夏はこれだよねぇ」



奎堂一行の大きな悲鳴が境内中に響き渡った。

出てきた山門を振り返った藤蔵は、奎堂と同じ顔で爽やかに笑うのであった。



【ちょっぴりあとがき歴史紀行 その5】


奎堂のお兄さん登場~・。*

奎堂とお兄さんの父・松本印南いなみさんは、刈谷藩の家老のすぐ下の位を持つ上級武士さんです。

つまり奎堂はよいとこのお坊ちゃまだったわけです。道をはずれず勉学に励んで就職していれば、エリートコースまっしぐらだったのです。

奎堂が名古屋で塾を開いている頃は、刈谷の松本家とは、文のやり取りをしたり、両親が訪ねてきたりもしていたという話が伝わっています。

刈谷に伝わるお話しとしては、お父さんの印南さんとお兄さんは温厚。奎堂はきっぱりはっきりしたお母さん・きかさんに性格が似ていたと言われています。

松本一家に関する資料は少ないので、もっとどこかに眠ってないか探してみたいです♪

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