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序幕
安政五年、秋――。
それは、茜色の記憶。
秋色に染められた木々の葉が、二人の青年と一人の子どもに降り注ぐ。
「お前は弱いからな、連れて行けん」
一人の青年はそう言うと、子どもの前にずいぶんと使い込んだ懐刀を差し出した。
大人にとっては小さな懐刀でも、子どもが手にとるとそれはとても大きなもの。
ずっしりと重いそれを子どもは落さないようにしっかりと握り、まじまじと見つめる。
「それをやるからまぁ精進するこった。強くなったら一緒に連れて行ってやる」
子どもはその言葉にハッと顔を上げる。理解したのか、大きな目を輝かせた。
二人の青年は子どもに背を向け、紅葉を踏みしめながら歩き出す。
「奎堂さん、妙な子どもに気に入られてしまいましたね」
「まぁなかなか有望な奴だったからな、いつか俺の同志に加えてやってもいい」
「そうですね。・・・さぁ帰りましょう、京で頼先生たちがお待ちのはずです」
「ほだな」
これは、少女のちいさな夢からはじまる、幕末動乱期の少し前に起きた、埋もれ消え行くはじまりの物語。