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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『統べるもの』
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4章 15 ファストの進化

玉座を模した椅子に座り、目の前で跪く五体の魔族を見下ろしていた


《今回の件で私も色々と学ばせてもらった。なかなか思い通りにいかぬものだな。デサシス》


《はっ!今回の目的である『魔素濃度の確保』及び『マルネス様確保』は達成しております。大陸西に位置する国には魔素を浄化する場所がある為、第1世代のゴブリンを多数放っておりますので、魔素の薄れはそれで対応出来ると思われます。こちらの被害はなく、結果としては成功と言えますが・・・》


名を呼ばれたデサシスが跪いたまま現状を伝えるとファストは目を細め1番端で跪くレッタロッタを見た


《うむ・・・結果としては確かに上々だ。が、改めて各々から詳細を申せ。レッタロッタ》


《は、はっ!大陸西にあるディートグリスなる国にてゴブリン及びスポイトマンティスを放ちました所、天人と思われる者が1名、その従者が2名、そして、魔族と思われる者が1名ゴブリンの討伐に現れ・・・ほとんど・・・いえ、全てその魔族により討ち取られました。なおも隙間を破壊せんと行動を起こした為にその魔族を始末しようとしましたが、シャンド・ラスポースの妨害に合い敢え無く隙間は破壊されてしまい・・・ただその隙間を破壊した魔族の始末は致しました》


レッタロッタの額から冷や汗が零れ落ちる。頬杖をつきしばらくレッタロッタを見つめた後に隣にいるテギニスに視線を移す


《・・・次、テギニス》


《あ、えーと・・・人が4人でゴブリン共を倒して・・・その中でピリピリする魔技を使う奴がいたから気になって・・・出て行ったら攻撃されたんで・・・なかなか面白い能力だったんでコイツらの驚く顔が見たくて・・・大量に出て来た人を潰したら案外人って美味くて・・・そしたら知らない魔族が現れて拳に風を纏って攻撃して来て・・・やり返そうと思ったら撤退の合図が・・・です》


《風を纏う・・・か。デサシス》


《数を増やしますか?もしかしたら既に・・・》


《隙間に飛び込んだ可能性もあるか。放っておけ、どうせ何も出来まい。今追ってる者は?》


《ギャザッツという者です》


《使えんな・・・まあいい》


ファストとデサシス以外の者達は会話についていけず首を傾げる。それを意に介さずファストは残り3人から報告を聞いた


ほとんどがデサシスの用意した隙間からの情報で知ってはいたが、中には気付かなかった部分もあった。全てを聞き終えファストはゆっくりと全員を見渡すとため息をつく


《人相手でよくもここまで・・・ジンド、ヘラカトは予定通り、デサシスは良くやった・・・》


そこで一旦言葉を止めるとテギニスとレッタロッタを見下ろす


《・・・テギニス、私はなんと言った?》


《・・・ゴブリンを人に始末させろ・・・人の手に余るようなら自らが始末せよ・・・です》


《そうだな。で、なぜ君が人を殺す?その段階ではまだないと言わなかったか?》


《ウグッ・・・言われてました・・・》


《今回はあくまでも土台作り。本格的な侵攻は準備が整った後と・・・これから君達には六長老の内私を抜いた五体の長老と戦ってもらうことになる。奴らは眷属を従えて抵抗してくるだろう・・・そうした時に勝手な動きをされては迷惑なのだよ・・・テギニス》


《以後・・・気をつけます・・・》


《・・・まあいい。問題は・・・レッタロッタ、君だ》


ファストの視線がテギニスからレッタロッタに。その冷たく低い声にレッタロッタは身体を震わせた


《ファスト様!私は・・・》


《隙間を壊されたまではよしとしよう、また創ればよいだけの事・・・しかし、せっかく現れたシャンド・ラフポース・・・奴を逃がした件については話にならない。アレの能力は有用だ。見つけ次第必ず確保せよと言ったはずだが?》


《も、申し訳ございません!》


《それに君が始末した魔族・・・彼はクゼン・クローム、マルネスの元弟子だ》


《え!?・・・マルネス様の・・・》


《君はシャンド・ラフポースを逃がし、マルネスの元弟子を始末した・・・これがどういう事か理解できるか?》


ファストの冷たい視線にレッタロッタは目を泳がせ更に身体を震わせる


デサシス以外で魔の世と人の世を行き来できるカーラ・キューブリック、そして、遠い所でも瞬時に移動できるシャンド・ラフポース、この二体の魔族をファストは危険視していた


その事は事前に五魔将全員に伝えてある。それなのに折角の好機を逃したレッタロッタに対する視線は鋭く暗く冷たい。失望を隠さぬその瞳にレッタロッタは言い訳の言葉を飲み込んだ


《ファスト様・・・発言をお許し下さい》


《・・・申せ》


何も言えないレッタロッタを見かねてヘラカトが場に一石を投じる。横目でチラリとヘラカトを一瞥するとファストは発言の許可を出した


《シャンド・ラフポースは百戦錬磨の上級魔族・・・一対一ならレッタロッタも遅れは取らぬと思いますが、他の魔族がいる状況では追い詰めても逃げられる可能性が高いと思われます。クゼン・クロームに関しましてはマルネス様に伝わらねば問題ないかと・・・幸いマルネス様は我らが手中・・・知られる可能性は皆無と考えます》


《ふむ・・・つまりレッタロッタに落ち度はないと?》


《誰がいても対処は難しかった・・・と見ております》


ファストの顔色を伺いながらもレッタロッタを庇うヘラカト。ファストは目を閉じ少し微笑んだのを見て通じたと思った矢先、部屋は凍りつくような殺気に包まれた


《なるほど・・・詭弁もいいとこだな。シャンド・ラフポースは戦闘狂で有名・・・戦いを挑んで逃げる事など考えられまい。それにクゼン・クロームの死がマルネスに伝わらねばいいと?生きてこそ価値がある存在の死をひた隠しにする意味がどこにある?》


《あ・・・いえ・・・》


《君達『駒』が勝手に動けば盤面が乱れる。君達は指示通りに動けばいい。レッタロッタ・・・()()()()ぞ》


《は、ははっ!》


《そして、ヘラカトよ。思慮浅き発言は不快なだけだ。今後は気を付けろ》


《・・・はっ!申し訳ございません・・・》


部屋全体を包んでいた殺気は和らぎ、レッタロッタはほっと胸を撫で下ろし、助け舟を出してくれたヘラカトに視線を送った


ヘラカトとしては庇いきれてないので感謝される言われがない為にその視線を敢えて無視し、ファストの次なる指示を跪きながら待つ


《では次は──────》





時間という概念が崩れていく


人の世では太陽が昇り、沈む事により一日を肌で感じていた。しかし、魔の世では太陽は昇らず、暗闇が支配する。月の灯りが唯一の光・・・慣れはするが次第に時間の感覚はなくなっていった


もしかしたらチリはこういう状況を作り出したかったのかも知れない


地下にある牢屋兼研究所に籠るチリの気持ちを理解し始めたクオンは寝転がりながら思考を巡らせていた


《これはまた悠々自適だね。食べて寝てを繰り返し、たまにジュウベエと体を動かすのみ・・・些か怠惰が過ぎるのではないかな?》


「暇だからと言って人の世にちょっかい出してる奴には言われたくないな。人に迷惑かけない趣味でも見つけたらどうだ?」


部屋に入って来るなり嫌味を言うファストに起き上がらずに答えるクオン。ファストは視線で部屋の中にいたメイドのミーニャに下がるよう促すとミーニャは一礼して部屋を後にする


《気にならないのか?あれから人の世がどうなったのか》


「気にしたところでどうする事も出来ないだろ?それとも聞いたら懇切丁寧に教えてくれるか?」


《もちろんだよ。なにせ君の為にやってるようなものだからね。それとも・・・私から聞く必要がないとでも?》


「・・・どういう意味だ?」


ファストの言葉にクオンは起き上がると真意を探るようにファストを見つめる


《自分の胸に手を当てて聞いてみるがいい。君には本当に驚かされるね・・・あの手この手と・・・君が魔族であったのなら是非部下に欲しいくらいだよ。それで・・・いい返事は聞かせてもらえそうかな?》


「話が読めないが、とりあえず返事は『NO』だ」


《・・・なるほど。準備を終えた今、次に行われる事を理解しての答えと思ってもいいのかな?》


「まるで俺が人の世の命運を握ってるような言い方だが、お門違いもいいとこだ。俺はお前に器を使わせない・・・それが唯一の抵抗手段だからな」


《なぜだい?》


「なぜ?」


《君は知っているはずだ・・・私は君が核に施された『禁』を解くまで暇潰しをする。それがどういう事か分かっているのに止めないのはなぜだ?人の世が・・・人の世と呼ばれなくなるのになんの憂いもないと?》


「暇潰しに人の世を滅ぼそうとしてる奴が手の付けようがなくなるのを手助けしろと?お前が言う『進化』・・・それが必要な理由は全てを手に入れる事だっけか?それは具体的に何を指している?」


《君に答える必要は無い》


「当ててやろうか?人の真似して城を作ったりするような奴だ・・・欲してるのは人の『文明』・・・それを手に入れるのは簡単だ。人の世に自由に行けるようになったお前自身が人の世に行き、人を操れば済む話・・・そうしないのは他の原初の八魔を恐れてるから。人の世を支配しようとした時にそれを止めに来るであろう原初の八魔に対抗する為にお前は『進化』を求めてる」


《・・・どうしてそう思った?》


「小さい頃は気付かなかったが、この城はかなりよく出来てる・・・興味が無い奴が作ったとは思えない程にな」


今クオンが居る場所・・・それはファストが人の世から戻った後に魔族を操り作らせた城。内部は大雑把であるが部屋もあり各部屋にはドアもついている。用途を考えているのか分からないが部屋の大きさも変えており、調度品なども置かれているこだわりよう。魔族は寝食を必要としない為に元来住処などは必要としないはずであるがゆえの不自然さだった


《・・・なぜ人の世を統べる事を他の原初の八魔が邪魔すると?》


「それはマルネスに聞いていた。原初の八魔・・・いや、『白』が言っていたと・・・人の世と魔の世が交わるのは『意思』とは違うと。つまり反対する奴が一体はいるって事だ・・・それに対してお前が対抗手段を用意しないってのは考えにくい。だから必要なんだろ?『進化』ってやつが」


《・・・もし仮にそれが真実だったとしよう。だが、私は五魔将を創り出した。原初の八魔という存在を超える五魔将を。君が言う原初の八魔の『白』が邪魔しても対抗出来る手段が私にはある》


「それでも自分の進化が必要と思うくらい不安なんだろ?アモンの遺した禁忌が発動しない五魔将・・・つまり原初の八魔を超えた存在がいるにも関わらず不安になる理由がある・・・例えば五魔将の裏切り・・・もしくは五魔将に何かしらの欠点がある・・・とかな」


《・・・五魔将に欠点などない。裏切りなど以ての外だ》


「事前にパスを繋いでたとか言ってたよな?そう言えば。でも例えば・・・事前にパスを繋いでたにも関わらず想定外の事が起きた・・・だから俺の器を必要としている・・・だったりしてな」


今話している内容はクオンの想像に過ぎない。故にクオンはファストの表情の変化を(つぶさ)に観察していた。だが、ファストは一向に表情を変化させない


《妄想するのは勝手だが、その勝手な妄想で人の世が滅びるかも知れないぞ?》


「俺の妄想で人の世が?滅ぼすのはお前だろ?俺じゃない」


《君が頑なに断り続ける事によって滅びる可能性もあると言ってるのだよ》


「それでも滅ぼすの俺じゃない」


《・・・》


「・・・」


《残念だ・・・入れろ!》


しばらく見つめ合いファストはため息混じりに呟いた。そして、部屋の外に向かって声を張り上げるとドアが開きデサシスとレッタロッタ、それに見た事もない女魔族がゾロゾロと部屋に入って来る。それに連れられてマルネスともう1人が顔を覗かせる


「黒丸・・・っておい」


初めに顔を出したのはマルネス。その後ろから姿を現した人物は流石に想定外で思わずツッコミを入れる


「クオーーーン」


「すまぬクオン・・・つい」


現れたのはマルネスとニーナ。まさか魔の世で真っ赤なドレスを見る事になるとはと頭を抱える


「ついじゃない、ついじゃ。それに黒丸・・・それって」


《封印布・・・人の世には便利なものがあるものだ。我々には使えなかったのは残念だがな》


人化しているマルネスにしっかりと封印の布が巻かれていた


封印の布は主に囚人等に使われる拘束具としてシントから他国へと流通している物であり、魔法や能力を封印する内容が刻まれている。クオンも何度かマルネスに使用していたが、使用する時は木刀に擬態している時のみ・・・ファストの言う通り魔族には通用しないだろうと考える


《さて、手札は見せた。どう切り返す?クオン・ケルベロスよ》


「・・・流石に手詰まりだよ。ちなみに・・・マルネスをどうするつもりだ?」


《そうだな・・・ちょうど試していない事があってね・・・ゴブリンと魔族が交わると何が生まれるのか・・・興味深いと思わないかい?》


「悪趣味ここに極めけり・・・だな」


クオンは真っ直ぐにファストを見つめると立ち上がり、そのままファストの元へ。周囲の魔族が身構えるがファストは笑みを浮かべて手でそれを制しクオンを迎える


周囲の魔族の予想に反して、そして、ファストの予想通りにクオンはファストの前で跪く。それを見ていたマルネスが何かを喚くがすぐさまレッタロッタに押さえつけられた


《人の世を人質に取られてもなびかなかったのに・・・どういう風の吹き回しだね?》


「言ったはずだ。俺はマルネスただ1人の番犬・・・守る為なら何でもする 」


《それで人の世が滅びても?》


「ああ、滅びても・・・だ」


「~~~~~~~~~!」


クオンとファストの会話にマルネスが声にならない叫びを上げ、ニーナはドレスの裾を噛みちぎらんとばかりに口で引っ張る。まるで淀みのない応えに羨ましいとさえ感じていた。人類よりも優先されたマルネス・・・それを愛しい人から聞かされたニーナは堪ったものじゃない


《不思議だな・・・私もそうなると思っていたし望んでいた気がする・・・期待通りだよ・・・クオン・ケルベロス》


立場的には常に優位に立っていた。しかし、精神的には優位とは言えずにズルズルと時間だけが経過していたが、それも全てが報われたように感じたファストは、おもむろに自らの胸に手を突っ込みクオンより渡されていた核を取り出す


《ファスト様!》


デサシス達が叫ぶのを無視してファストは核をクオンに差し出す。当然受け取ったクオンが、やるべき事はひとつなのだが・・・


「せめて拭いて・・・は無理か」


血で汚れた核を見て眉間にシワを寄せるクオンだったが、ファストの無言のプレッシャーに負け、自分の服である程度拭ってから一気に飲み込む。そして、これみよがしに核に施していた『禁』を取り除く


「今飲み込んだ器の全ての『禁』を解く」


その言葉を聞いたファストがデサシス達に目で合図するとレッタロッタともう一体の魔族がそれぞれクオンの腕を抑え、デサシスはクオンの前に進み出て胸を開いた


切り刻む訳でもなくラフィスがやってたように胸を開き、そこから見える核を取り出すと振り向きファストの指示を待つ。取り出された核の後ろにもうひとつの核があり、その核をどうするかと確認していたのだ。マルネスは暴れ、ニーナは目を見開きその様子をじっと見つめるが、ファストは表情を変えずに首を振る


《約を違えるな。我らは魔族ぞ》


ファストの言葉に全てを察したデサシスはクオンの胸を閉じ取り出した核を跪きファストに渡した


「殺されると思ったんだがな」


《意外だね。君なら殺されない事が分かってると思ってたんだが》


「守られる事に慣れてなくてね。それにお前がジュウベエとの約束を守るかどうか分からない」


「ジュウ・・・ベエ?」


暴れていたマルネスが動きを止めてクオンとファストを交互に見た。ファストは含み笑いをしながらマルネスを見ると口を開く


《君より先に彼を助けに来た・・・単身でね。人の世の支配など造作もないが、人の心理はなかなかに難しい・・・そこで彼女の協力を仰いだのさ・・・クオン・ケルベロスの弱点を教える代わりにクオン・ケルベロスの命を助ける・・・健気じゃないか・・・なあ?マルネス》


まるで晩餐会の時に逃げたマルネスを責めるような物言いにマルネスの顔が苦渋に満ちる。あの時はクオンとの子がいるという風に自分を言い聞かせていたが、それもマルネスの勘違い・・・今は逃げたという事実だけがマルネスにのしかかる


「黒丸・・・あの時は助かった・・・ぐっ!」


《勝手に発言するな》


レッタロッタが腕を捻りクオンの顔が地面に押し付けられる。ファストはその様子を満足気に見ると受け取った核を口に運んだ。核はファストの喉を通り体内に取り込まれる


《・・・最高の気分だ・・・全てを超越した万能感!私の進化は今・・・成った!》


ファストは両手を広げ叫ぶと天井を見上げ目を細める。体内に取り込んだ核が先程までと違い体に染み込んでくるのが分かる


しばらくその力を満喫した後、ファストはクオンに近付き頭を踏み付けた


「クオン!!!」


《感謝する、クオン・ケルベロス。君の小細工が私の悦びを更に増幅させた・・・苦労した甲斐があった・・・と言うのはこういう事なのだろうね》


「・・・やってる事は感謝の欠片もないがな・・・がっ」


更に踏み付ける足に力を込めるファスト。クオンの顔はファストの足と地面に板挟みになり頭蓋骨の軋む音が頭の中に響く


「ファスト!!おのれ!おのれ!!汚い足をどけろ!」


《汚い?・・・君はまだ自分の立場が理解出来てないようだね》


ファストはクオンから足をどけるとマルネスへと近付いた。マルネスは今にも噛みつかんばかりの表情で睨みつけるがファストは微笑みを浮かべマルネスの顎に手を当てた


「ファストぉ!!」


《ゴブリンは好きか?》


マルネスを見下ろし冷たい声で言い放つ。マルネスは目を見開き顔を強ばらせ、クオンが震える


「ファスト!約束が違うぞ!!」


《約束?君と約束などした覚えはない。・・・ああ、もしかして先程のやり取りを約束と?私はただ魔族とゴブリンが交わるとどうなるかと言っただけだが?それをマルネスの事と勘違いして核の『禁』を解いたのは君が勝手にした事だ。それを約束と言うにはあまりにおこがましいと思わないか?》


ファストはマルネスの顎を手に乗せながらクオンに振り返り言い放つ。手に違和感を感じ再びマルネスを見るとマルネスがファストの手に噛みついていた


《貴様!ファスト様に!!》


マルネスの横にいたデサシスがマルネスを蹴り上げマルネスは壁に激突・・・そのまま気を失ってしまう


「マルネス!!」


《デサシス・・・まだ殺すな。楽しみが減るではないか》


《はっ!申し訳ございません》


ファストは気を失ってうつ伏せに倒れるマルネスの髪を掴みあげると顔を覗き込んだ。ニーナは恐怖で動けずクオンは歯軋りをして地面に押さえつけられながらファストを睨みつける


《指を噛むとはな・・・番犬に相応しい狂犬ぶり・・・ゴブリンとお似合いだな》


「ファストォォォォ!!!」


クオンの叫ぶ声が部屋に響き渡る。しかし、ファストはそれを意に介さず髪を掴んだまま部屋の外へと向かう。ズルズルと引き摺られるマルネス。デサシスが代わりに運ぼうとするがファストは首を振る


《元同列のよしみだ・・・せめて私が運ぼう。デサシスはそこな人を運べ・・・ゴブリンも一体じゃ足りなかろう》


《はっ!》


デサシスは言われた通り、ニーナの腕を掴むと引っ張り連れ去る。クオンは必死に抵抗するがレッタロッタ達の押さえる力が勝りビクともしなかった


クオンの叫ぶ声は部屋を出た後もファストの耳をくすぐり、えもしれぬ感覚がファストを悦ばせた


《ファスト様・・・奴の核の能力・・・そのままで宜しいのですか?》


チリより聞き出したクオンの中にある擬似核の能力『通信』。それを使いクオンがシャンドらに情報を流している可能性があり、それを危惧してデサシスはファストに尋ねるがファストは振り返りもせず答える


《何が出来る?それにシャンド・ラフポースを使うのならそれを逆手に取ればいい・・・奴にはヘラカトかジンドを当てろ。奴の『瞬間移動』は有用だ》


《はっ!》


クオンの叫ぶ声をバックにファストはデサシスを従えて城の廊下を歩く。手にはマルネス、手中には魔の世と人の世を入れて──────

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