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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『統べるもの』
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4章 12 王都争乱⑧

《イテテ・・・あんだよあのピリピリは・・・》


魔の世から人の世の状況がどうなっているのかを確認しようとしたテギニスは、突然襲ってきた痛みに面を食らう。その痛みがファーラの雷魔法とは知らず隙間より人の世に現れ辺りを見回すと眉を顰める


《あれだけいたゴブリンを一瞬で?前に来た奴といい、人は弱いって話しじゃなかったのか?》


振り当てられたゴブリン数千体、人の手に余るようなら自らの手で抹殺せよと命令を受けていただけに人とはその程度の存在と認識していたテギニスだったが、見事に短時間で全て倒されて認識を改める


《この辺に誰もいねえって事は遠くから魔法を撃ったか・・・うん?》


背中に何か当たった感触がして振り向くと落ちていた槍が突き刺さっていた。とは言え突き刺さると言ってもテギニスの皮膚すら突き破らず皮膚を押しているだけの状態であった


《あん?何が・・・マァベラス!!》


痛みはないが煩わしく思い、槍をどかそうとした瞬間、体全体に雷が迸る。一瞬何が起こったのか分からずに辺りを見回すと街から4人の人がコチラに向かって来ていた


「流石にあの程度では死なないか」


「ちょっと、あなた・・・『あの程度』とは何よ!失礼しちゃうわ・・・ねえ、ムサシ?」


「あ、ああ・・・そうだね、お姉様」


「お姉様!?・・・それよりもファーラ様、あまりムサシを虐めないで下さい」


「はあ?虐めるって何よ?聞き捨てならないわね、コジロー」


「それは・・・なあ、ムサシ?」


「いや、ハハ・・・」


まるで緊張感のない4人組が会話しながら近付いて来る。魔族であり、ファストより力を与えられ五魔将にまでなったテギニスの元に


《てめえらかゴブリンをやったのは・・・デンジャアー!!》


「これだけ近付けば誘導も要らないわね・・・ゴブリンだけじゃなく、魔族まで出て来るって事は・・・」


「うん、さっきコジローが言ってたようにゴブリンは魔族や魔獣が活動する為に魔素を濃くするための贄・・・陽動ではなかったかもね」


「・・・」


容赦なくテギニスに魔法を撃ち込むファーラ。いつもの事なのか特に気にした様子もなく会話する2人を見てコジローとムサシはテギニスに憐れみの視線を送る。心の中で『叫び声がデンジャアーって』とツッコミながら


《おい・・・おいおいおいおい!いい加減にしろ!言葉の通じない魔獣でもここまでひどくねえぞ!?俺が善良な魔族だったらどうすんだ!》


「善良な魔族(笑)」


「残念ながらゴブリンは我が国の特別危険生物に指定している。そのゴブリンが大量に出て来た隙間からひょっこり出て来て無関係と言われても到底信じられない。それとも味方とでも言う気かい?」


《はっ、そりゃあそうか・・・まあ、いい。で?お前ら4人がここに来て何するつもりだ?まさか俺と戦うつもりか?》


飄々としていたテギニスの雰囲気が一変する。まるで熱風が吹き込んで来たように全員目を細め顔をしかめるとシンはファーラの前に立ち、コジローとムサシが構えをとる


そんな警戒した様子に満足したのかテギニスは4人を見回し鼻で笑う


《そう怖がるなよ。今回はお前らを潰すのが目的じゃねえ。クオンって奴を脅す為の準備だ・・・この場所ではこれ以上は何もしねえよ》


「クオンを・・・脅す?」


《そうそう。アイツ自分の核を封じてやがってさ、それを解かせる為にお前らを潰すぞって脅すらしい・・・回りくどいが人ってのはそういうのに弱いんだろ?ダリィよな?》


「・・・ムサシ!!」


「応!!五輪四之型『土刀』!」


ムサシは柄だけの刀を地面に刺し、シンはムサシに呼び掛けた後、屈んで地面に触れる


《あ?なにを・・・って、なあああああああああああああ!!》


突然動き出した2人に怪訝な表情を向けたテギニスだったが、突如浮遊感を感じ下を見ると地面が無くなっていた。シンの『操』の能力とムサシの技でテギニスの立っている部分を掘り下げ、簡易的な落とし穴を作り出す


簡易的と言っても2人で力を合わせてかなり深くまで掘り下げた。突然の事でテギニスは落ち、ようやく着地した時に上を見上げると地上は遥か上にある状態であった


《くぉら!てめえら!!》


見上げてテギニスが叫ぶと、今度は刀が伸びてきてテギニスを捉える。コジローの秘刀『影法師』なのだが、テギニスは刀が伸びてきた事よりも、さっきの経験から嫌な予感がして動きを止めた


その嫌な予感は的中する


眩い光が目を眩ませ、身体に衝撃が走る


シン達も無策で魔族の前に立った訳では無い


シンとムサシで地中に落とし、コジローの『影法師』で動きを止め、なおかつ狙いをつけた後、ファーラの雷魔法でトドメをさす・・・ファーラの魔法も最大出力で出した為にこれで倒せなければ打つ手はない


《ブババババ!!》


効いているのか断末魔のようなテギニスの叫び声が聞こえてくる。しばらく地中は眩い光を放ち続け、それが収まるとテギニスの叫び声も止まった


「・・・埋めよう」


シンの言葉にムサシは頷き、また2人で地面を操作し、今度は掘った穴を埋めていく・・・が


《だー!!てめえら!!》


ある程度土をかけた後にテギニスは地中から飛んで現れ地面に降り立つ。身に着けていた腰巻はボロボロになり、髪の毛はチリチリになった状態は笑いを誘う


「くっ!」


コジローとムサシが思わず笑いそうになり顔を背けるが、方やシンとファーラの表情は硬い


「やっぱりダメか・・・」


《『やっぱりダメか』じゃねえよ!好き勝手やりやがって・・・どうせゴブリン相手に何人か死ぬ計算だったんだ・・・4人ぐらい潰しても・・・構わねえか・・・》


テギニスの目が鋭くなり、手足の爪が伸び、チリチリになった髪がフサフサになる。肌は鱗化し、内側の筋肉が隆起すると一回り大きくなったような威圧感を醸し出す


運悪くそのタイミングでタブラが第1部隊と第2部隊を引き連れて正門から出て来た。その後ろからは更に第3第4部隊と続きリメガンタルの主力部隊が蹄鉄を鳴らす


指揮するのはバースヘイム王国軍総司令官、ヴォーク・フレバイン


鮮やかな指揮で歩兵である第1第2部隊を追い抜くと、速度を上げこちらへと向かって来る


「コジロー!?」


「タブラには・・・私たちの副官には出て来るなと伝えてあります・・・恐らくお飾り司令官のヴォークの仕業でしょう・・・」


表情こそ見えないが先頭に立ち意気揚々とやって来る様はゴブリンが全滅したにも関わらずたった一体に苦戦する4人を嘲笑うように見えた。コジローが言うようにヴォークはお飾り司令官・・・何の実績も実力もなく、ただ父親から役職を引継いだ素人であった。形だけの訓練はこなしている為に進軍の指揮はお手の物であったが、実戦経験は皆無であり、魔族がどれだけ危険かも知らずにノコノコと出て来た


ヴォーク曰く『手間取る4人を救う為』に満を持しての登場であった


《確か・・・お前ら人は他人の痛みを嫌う・・・だったな・・・》


テギニスは正門から出て来た兵士達とシン達を交互に見つめ、ニヤリと笑うと呟いた


「チッ!」


その意図する事に気付いたムサシが動くも、それよりも早くテギニスは駆け出した──────兵士達の元へ


「コジロー!!」


突風と共にすれ違うテギニス。馬を駆る兵士達はこれから何が起きるのか気付いていない・・・ムサシは相棒であるコジローの名を叫ぶと、コジローはムサシの言わんとしている事を理解したのか刀を鞘に収めたままで突き出した


「後で追い付く・・・無茶するなよ!」


「応!頼む!」


「・・・『剛力 』!・・・秘刀『影法師』!」


ムサシが鞘を掴んだのを確認するとコジローの腕と足の筋肉が隆起し着物を破り去る。そして、刀はムサシを連れてテギニスに追いつかんばかりの勢いで伸びて行く


「ぐっ・・・ぬう!」


刀を支える腕、踏ん張る足を震わせるコジロー。テギニスに届く前に刀のしなりは限界を超えた為にコジローは鞘とムサシを置き去りにして刀を引っ込めた


テギニスには追い付く事は出来なかったが、かなり距離を縮められた為にムサシは振り向きもせずコジローに助かったと親指を立てテギニスを追った


「私達も!」


「待って下さい!アレは・・・アレに近付くのはお止め下さい!」


コジローが自らも向かおうとしたシンを悲痛な声で止める。コジローの言うアレとはもちろんテギニスの事・・・魔族は強い・・・そう聞いて育って来たが実際に敵として相対するのは初めて・・・この4人なら何とかなると思っていたが、その思いは脆くも崩れ去っていた


「今更だな・・・アレをどうにかしないとバースヘイム王国は滅ぶぞ?」


「今はバースヘイムに身を置く身なれど、心は常にシントの民・・・一国民として殿をアレの前に行かせる気は毛頭ございません」


「4人であれば活路が・・・」


「どこにありましょうか!?先程の我らの連携・・・それで傷一つ付けてさえいればその言葉も受け入れられましょう!しかし、現実は姿形を面白くしただけで全くの無傷・・・更に兵の元へ向かった時のスピード・・・魔族は・・・人が手を出していい存在では・・・なかった・・・」


「コジロー・・・」


遠くから人の悲鳴と馬の嘶きが聞こえる。蹂躙は始まっていた。相棒もその場に向かっている。しかし、コジローは動かない。真っ直ぐにシンを見つめ、頑として


「・・・死ぬ気か?」


「死はもとより覚悟の上です。聞こえてくる悲鳴に胸が張り裂けそうです・・・その数が・・・その声が大きくなれば、多くなればなるほど!それでも私は動きません・・・殿が・・・撤退すると仰ってくださるまで!」


「・・・」


「あなた・・・兵の死は誉れ、民の死は嘆き、王の死は終焉・・・ご決断下さいませ・・・」


兵の死は国の為、民の為、王の為、即ち誉れである


民の死は国そのものの死であり、ただただ嘆き


王の死は要を失った国の終焉を意味する


シント国の初代国王が国の在り方を語り、今なお兵士達の心構えとして語り継がれる言葉・・・


「ファーラ・・・私はその言葉が嫌いだよ・・・意図していないかも知れないが、兵の死を賛美しているように聞こえる・・・王に代わりはないと言っているように聞こえる・・・だから私は王ではなく君主でありたい・・・代わりなどいくらでもいる一時の統治者でありたい・・・」


「殿!!」


「・・・しかし、私がシントではなく、バースヘイムで死ぬことにより問題が起こるだろう・・・それは避けねばならない・・・皆の私の扱いがクオン並だったら楽なのだがな・・・」


「えっ?」


「いや、こちらの話だ・・・・・・コジロー・・・お前達は兵である前に民である事を忘れるな・・・」


「!・・・しかと」


コジローはシンの言葉の意味を理解し頭を下げると地面に刀を突き刺した


「秘刀『影法師』」


コジローの刀はグングンと伸び始め、柄を持っていたコジローと共に天まで昇る。そして、ある一定の高さまで伸びると静かにテギニスとムサシがいる方向へと倒れ始めた




一方ムサシはと言うとようやくテギニスの近くまで辿り着いていた。コジローのは『影法師』で途中まで素早く移動出来たが、その後は自分の足でテギニスの元へと向かった・・・遠くから惨劇を見つめながら


まるで戦いになっていない。兵士達はただ死を待つだけの肉塊と化し、テギニスはその肉塊を泳ぐようにかき分けていく。血飛沫が至る所から上がり、隣の仲間が物言わぬ肉塊と化しても、周りの仲間の血で塗られても、ただ呆然と立っているだけだった


「チッ!!」


ムサシが走りながら見渡すもヴォークの姿がない。その為、指揮系統は混乱を極め、更にテギニスのスピードについていけずに逃げる事も叶わない。ならばとムサシは柄を握り締め魔力を注ぐ


五輪五之型『雷刀』


本来ならば刀身に雷魔法を纏わす技なのだが、刀身のないムサシの『雷刀』は雷で刀を型どる。常に迸る雷を出し、ムサシはテギニスの背後から飛びかかる


「うおおおおぉ!!」


《あん?》


1人の兵士の頭を掴み、ようやくムサシの存在に気付いたテギニスが振り返るも、ムサシは背中に『雷刀』を2本突き刺した


刺した瞬間に雷はテギニスの身体を激しい音を立てて駆け巡り動くことすら出来なかった兵士達がその眩しさで顔を背ける


「撤退・・・撤退だ!今すぐこの場を・・・ぐっ!!」


ムサシの声は響き渡り、我に返った兵士達が後退りし始めるが、『雷刀』を食らったはずのテギニスが腕を伸ばしムサシの首を掴み上げた


《はっ、やっぱり来たか・・・だがダメだ・・・テメェの無力さを知れ・・・》


テギニスはムサシをそのまま放り投げると再び兵士達に襲いかかる。逃げ始めはしたものの一瞬で追い付かれ無惨に頭部を飛ばされ、腕を引きちぎられ、腹を踏み潰される


「やめろぉ!!」


放り投げられ立ち上がろうとしながら叫ぶムサシ。その声を聞いてテギニスの背筋にゾクゾクと快感という名の電気が走る。更にその快感を得たいと考えたテギニスが次の標的に選んだのは後方に居たタブラ達第1と第2部隊


ヴォークの命令で戦場へ駆り出され、歩いて行軍していた為にひとかたまりになっており、そこをテギニスに目を付けられた


大量に人が死ねばまたあの快感が得られる・・・嬉嬉としてテギニスがタブラ達の元へと向かおうとした時、後ろから声が聞こえた


「ムサシ、避けろ!!」


上空から声と共に風を切る音が聞こえる


ムサシはその言葉で全てを察し横にかわすと直ぐに鉄の塊が通り過ぎた


コジローが離れた場所から刀を伸ばし、自らも上空へと行くと刀が倒れる勢いと特能『剛力』を使って振り上げ、そのまま振り下ろした。テギニスは躱す余裕があったにも関わらずコジローの一撃を受ける・・・地面に足が埋もれる程の衝撃、どんな生物でも真っ二つに出来る自信があったその一撃をもってしてもテギニスは耐えてみせた


《やるじゃねえか・・・少しへこんだぞ》


「・・・」


刀を元の長さに戻し、着地したコジローは歩いてテギニスに近付く。決して届かない相手に、確実に一歩ずつ近付いていく


「少しへこんだらしいぞ?」


「あの一撃が俺の全力だ・・・あまりにも遠いな・・・」


「・・・コジロー・・・『影法師』貸してくれねえか?」


「バカか?お前は」


「・・・分かってる・・・『影法師』は他人にホイホイと貸せるもんじゃねえってのは・・・だけど・・・俺のじゃ無理だし、その辺に落ちてる剣でも耐えきれねえ・・・(つい)之型は・・・」


「・・・・・・・・・修めたのか?」


「何とかな・・・ただ刀身がないと無理だし強度がないと技に耐えられない・・・」


「・・・それしか道はない・・・か。受け取れ・・・ただし刃こぼれ一つ許さないからな!」


「ハイハイ・・・あー、やっぱり刀身付きは落ち着かねえ・・・」


ムサシはコジローから『影法師』を受け取ると顔を顰めて刀身を眺めた。つい先程ムサシが語ったトラウマを聞いてなければ殴っていた所だが、ぐっと我慢してテギニスを見た


《お話は終わったか?俺の身体をへこませたご褒美に待ってやったんだ・・・俺をもっと楽しませろよ!》


テギニス越しにタブラと目が合った。逃げもせず共に戦う意志を宿す瞳を見てコジローはひと息つくと落ちていた剣を拾い上げる


「隙は死んでも作る・・・叩き込め」


「ああ・・・骨は拾ってやる」


《早くしろよ!それともやっぱり他の奴をグチャグチャにした方が楽しいか?》


「タブラ!援護しろ!・・・『剛力』!」


テギニスの背後にいるタブラに指示を飛ばすとコジローの全身はひと回り大きくなる。残った魔力を全て使い切る・・・ムサシの一撃に賭けて


「総員!突撃!」


タブラ達は待ってましたと言わんばかりにコジローの指示に従い武器を構え駆け出した。守られる存在ではなく、共に戦う存在であると認められた事に誇りを感じながら


《いいねぇ・・・そうこなくちゃ》


決死の総力戦


その意気込みを感じたテギニスは喜びに打ち震える。潰されると分かっているのに群がる人、無駄だと分かっているのに何かを画策する人、その存在が愛おしく思えるほどだった


正面で必死に殴りつけてくるコジローを無視して後ろから来る雑兵に裏拳をおみまいする。コジローの顔が歪むとテギニスの心は満たされていく。もっと・・・もっと・・・


コジローの顔が涙でクシャクシャになる・・・硬いテギニスの肌を殴りつけ拳が血だらけになる・・・仲間が1人また1人と命を落とす・・・それでも惨劇は終わらない


「コジロォォォー!!」


ムサシが叫ぶ


コジローは渾身の一撃を放ち横にズレるとその影からムサシが姿を現した


五輪終之型『天刀』


光り輝く『影法師』を吸い込まれるようにテギニスへと突き出した


ズブリと音を立ててテギニスの鳩尾に刀の剣先が入っていくのが分かる。初めての手応え・・・更に力を込めて進もうとした時、ふと目の前が暗くなる


《やるじゃないか・・・ご褒美だ》


咄嗟に頭を横に振り躱すと肩に痛みが走る。テギニスが大口を開けムサシに喰らいつき・・・そして、食った


「がっ!・・・かっ!・・・」


足の力が抜ける。自分の肉を食らう咀嚼音が耳にこびり付く・・・肩の肉は削がれ、手に持つ『影法師』は光を失った


《美味いじゃないか!・・・美味いじゃないか!!》


口から血を滴らせ、テギニスは叫ぶともう一口と口を大きく開けた


再びムサシの目の前が暗くなり、テギニスの口の中が眼前に広がる。足の力が抜けている為に躱す事も出来ずにただ口の中を眺めていた


「ムサシィィ!!!」


コジローの声が聞こえる。しかし、今のムサシには為す術なく口が閉ざされるのを待つしかなかった


ガクンと浮遊感を感じる。これが死か・・・そう思った矢先に再び声が響き渡る


「人の弟をぉー食おうとしてんじゃないわよ!!」


次の瞬間、眩い光が轟音と共に暗闇を打ち消し目が見えなくなり、耳が聞こえなくなる。やがてぼんやりと景色が戻り、耳に不快な喚き声が聞こえてきた


《グオオオ!!》


テギニスがムサシを食らおうとした時、突如地面が沈み込み、意図せずテギニスの大口を躱すことに成功、その後ファーラの雷魔法が腹に突き刺さったままの『影法師』に撃ち込まれた


今までは外側だけに流れていた魔法が『影法師』を通して内部に流れテギニスが大声で喚いていた


「殿・・・ファーラ様・・・なんで・・・」


コジローがムサシの足元の地面を沈ませたシンに駆け寄ると、地面に触れる為に屈んでいたシンが立ち上がりコジローに微笑みかける


「言っただろ?私は一時の統治者・・・代わりなどいくらでもいる。だが、子に代わりなどない・・・シントの民は我が子同然・・・置いてなど行けるものか!」


「弟がピンチの時に姉が来なくてどうするの?私としては早く可愛いお嫁さんを連れて来て欲しいのよね・・・馬鹿な弟とゴリゴリの妹じゃなくて可愛い義妹とお茶したいわ」


「・・・殿・・・ファーラ様・・・」


「コジロー、涙を拭け・・・残念ながらまだ終わっていない・・・」


「えっ!?」


コジローが振り向くとそこには仁王立ちしたテギニスの姿・・・口から煙を出し大口を開けて笑っていた


《ガハッ・・・ハッハッ・・・内臓が灼けちまうかと思ったぜ・・・》


「クソッ!」


コジローは絶望するよりも早くムサシの救出に動く。シン達の元からムサシの元へ駆け寄ると半分地面に埋もれたムサシを抱えすぐさま飛び退いた


《やっぱりてめえらはいい!・・・もっともっと楽しませてくれる気がする・・・だが・・・こっちの奴らには可能性を感じねえな》


ムサシを救出するコジローを見逃したテギニスは4人を見つめて微笑むと振り返りタブラ達を睨みつけた


「よせっ!俺と戦え!」


ムサシを抱えたコジローがテギニスが何をしようとしているのか勘づき吠えるもその言葉がテギニスの栄養となる。ブルりと身体を震わせたかと思うと両手から魔力を絞り出し獣のような姿形を象る


魔技『造形』


魔力を思うままの形にし意のままに操る能力。その能力で生み出された魔力の塊の獣が4つ足で立ちタブラ達に向かって解き放たれた


まるで狼のような風貌の魔力の獣は一直線にタブラ達に向かい、先頭にいたタブラへと襲いかかる


「タブラーー!!」


ムサシを地面に置き、立ち上がるも既に遅く、獣はタブラに飛びかかる。『影法師』はテギニスの足元に落ちており、自らの魔力も風前の灯・・・それでも必死に動こうとするコジローの叫びが虚しく響き渡った


タブラはまるで金縛りにあったかのように身動きが取れなかった。コジローの自分の名を叫ぶ声を聞き、ようやく剣を構えるが気付いたら獣は目と鼻の先・・・声も出ず脳裏に走馬灯のようにコジローとムサシとの出会いが映像として流れる


苦労も多かったが、楽しかった・・・死を覚悟して受け入れると自然と笑みがこぼれる


獣がタブラを飲み込もうと口を大きく開けた時、タブラはそっと目を閉じた


《フンヌ!》


聞き慣れない声が聞こえた


タブラが目を開けるとそこには巨大な背中がタブラ達を守るように存在していた。コジロー達ではない、ましてやバースヘイムの兵士でもないその背中はこれ以上ないくらい頼もしく躍動する


《これぞ天啓!ようやく見つけたぞ!強敵(とも)よ!!》


《・・・なんだてめえは・・・》


《我輩か?我輩の名はボムース・ヴィクトリー!!お主を葬るものよ!》


突如現れテギニスの出した獣の横っ腹を殴りつけ消し去ったもの・・・ボムース。強敵を求め彷徨い歩き、魔素の濃さに引き寄せられて訪れてみれば人の世では珍しい魔族を見つけ急遽参戦・・・事情は全く分かっていないがテギニスに筋肉を見せつける


《チッ・・・カーラの隙間に落ちた野良魔族か?ダリィ・・・とっとと失せろ!》


楽しみを邪魔され、見たくもない筋肉を見せつけられたテギニスは苛立ち、複数の魔力の獣を生み出しボムースに放つ。しかし、ボムースは事も無げにフンフンと言いながら次々と獣を叩き潰した


《漢なら・・・拳で語れ!》


《あ?・・・おい、待て!》


いつの間にか懐に入り込み、風を纏った拳を構えて目の前でしゃがみこむボムース。テギニスは咄嗟にボムースの顔面に拳を撃ち込むが、それを意に介さず溜めた拳を解き放つ


《よき拳だ・・・では、次は我輩だ!受け取れ!秘奥義・・・フン!》


《お、おい!・・・ボランティァ!!》


ボムースの拳がテギニスの鳩尾にめり込むと拳に纏っていた風が解き放たれテギニスを吹き飛ばす。本来は離れた敵に撃ち込む技なのだが、直接撃ち込んだ為に思いの外遠くまで吹き飛ばしてしまった


《ふん・・・鍛え方が足りんからだ!》


見えなくなる程飛んでいったテギニスに呟くと辺りを見渡す。そこには状況についていけずにポカーンと口を開く4人の姿があった


《我輩はボムース・ヴィクトリー!!》


「ボムース・・・もしかしてフウカの?」


注目されて思わず筋肉を見せつけ名乗るボムース。その名に聞き覚えのあったシンが近付き声をかけた


《うむ!フウカ殿の弟子にして魔族である我輩の名は・・・》


「いや、分かったから!・・・それよりも助かりました・・・あなたが来なければ今頃・・・」


《助かった?・・・》


シンの言葉に首を捻り、スっとテギニスが吹き飛んでいった方向を指さすボムース。4人がその方向に振り返ると言葉を失った


《・・・アレは吾輩の手には負えぬ・・・かと言って逃げるつもりはないがな!・・・ちなみに我輩は先程の一撃で瀕死よ!フハハハハ!!》


シン達が見たものは30mはあるであろう魔力の塊・・・その塊がドラゴンに似た形をし突如として現れた。もちろん発生元はテギニス・・・更にボムースの言葉が追い打ちをかける


「瀕死・・・あっ!」


ボムースの頭部はへこみ大量の血が吹き出ていた。テギニスの一撃が思いの外大ダメージだったらしく若干筋肉も萎んで見える


「そんな・・・そんな・・・クソッ!」


思わぬ助っ人の出現で窮地を脱したと思った矢先の絶望・・・相棒は肩を食われて気絶し、自らの魔力も乏しい・・・守るべきものがこの場にいるにも関わらず何も出来ない自分に苛立ちを覚えるコジロー。地面を殴りつけると立ち上がり、『影法師』を拾い上げる


「コジロー!」


「・・・俺が切り込みます・・・今度は・・・今度は本当にお逃げ下さい・・・ムサシを・・・頼みます」


ギュッと刀を握り締め、シン、ファーラ、そして、気絶したムサシを見た後に巨大な魔力の獣に向き直る。恐らく何も出来ないで終わるだろう・・・それでも少しでも・・・たった数秒でも稼げればそれで良いとコジローは駆け出した・・・が


「えっ?」


巨大な魔力の獣はふと姿を消し去った


突然の消失に呆ける一同・・・ボムースは眉をひそめてテギニスがいる方向を睨みつけた


するとテギニスが姿を現し憎々しげに睨みつけたと思ったら隙間へと歩み寄りその姿を消し去った


直後、隙間は消え去ると戦場に静けさが戻る


「一体・・・何が・・・」


終わりのない恐怖が突如終わりを告げ、状況が飲み込めないコジローが呟く。辺りはテギニスが手にかけた死体の山だけが残され、コジロー達は生を実感するのにしばらくの時を要した──────


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