4章 7 王都争乱③
《先ず動き出したのは天族の国・・・魔憎しと言ったところかな?戦うのが魔族とは何とも皮肉な事だが・・・》
4つの隙間の内、1つの隙間を興味深そうに眺めるファストは呟いた後にチラリと視線を動かした
視線の先には同じように隙間を見つめるクオンがおり、表情を崩すこと無く冷静に4つの隙間の先の戦況を分析する
《興味が無いと言われたらどうしようかと思ったが・・・住んでいた場所はやはり気になるようだね。それも窮地となれば仕方ないか・・・》
「・・・何がしたいのかさっぱりだが、1つ聞いていいか?」
《聞くのは自由だ・・・答えるとは限らないけどね》
「じゃあ、1つ・・・俺の認識では人の世と魔の世では時間の流れが違う・・・そう思っていたんだけど、隙間から見ると時間の流れは同じに見える・・・なんでだ?」
《・・・》
予想外の質問にファストの表情が変わる。ファストとしては自らの仕掛けた劇が如何にクオンを刺激するか楽しみにしていた。これから起こる惨劇に耐えきれなくなり懇願する・・・『どうかやめて下さい』と・・・すぐにはそうはならないだろう・・・もちろんファストも分かっていた。そうなる過程を楽しむのもファストの目論見の1つなのだから問題なかった。しかし、劇とは全く無関係な質問に対しファストの心は掻き乱される
「あー、答えてくれないか・・・いや、答えられないか。知らない事を聞かれても、そりゃあ答えられないよな」
《貴様!ファスト様に向かって・・・》
《よい、デサシス。・・・君の言う通り私は答えを知らない。そもそも時間と言う概念すら人の世で知り得た事・・・人が創り出した概念を私が知る由もなかろう?》
「・・・なるほど。ある意味それが答えなのかも知れないな。じゃあ、代わりの質問いいか?何故あんなにゴブリンが増え続けている?」
《答え・・・?まあ良い。しかし、キミはどうでもいい事が気になるのだな。そんな事で良いのなら答えてやろう。あの魔物・・・ゴブリンと言ったか・・・アレはオーガと人の間の子だ。子はほぼ雄なのだが稀に雌が産まれてくる》
「ゴブリンの雌?聞いた事がないな」
ゴブリンが人を襲い、子を成す事はあまりにも有名な話。それ故に忌み嫌われ優先的に狩られている程だった。その人を襲う理由は偏に雌がいない事とされており、種の存続の為に人を襲っていると言われていた
《必要は進化の元だよ、クオン・ケルベロス。必要とあらば変化し、変化で足りなければ進化する・・・貧弱な肉袋では物足りないと感じた魔物が独自に進化し子を成すことが可能な個体を創り出す・・・至極自然な流れだと思わないか?》
「ああ、そうだな。で、そのゴブリンを使って人を襲わせて・・・結局何がしたいんだ?」
《質問は1つではなかったのかね?・・・まあ、良い。私はね・・・暇なんだよ・・・君が遊んでくれないから、他の遊び相手を探すのも自然の流れだろう?》
「そうそう、自然の流れ自然の流れ・・・人が脅威を淘汰するのも・・・自然の流れ・・・だよな?」
見つめ合うクオンとファスト
しばらくしてファストは鼻を鳴らすとデサシスに隙間を閉じさせた
《君が人類の未来を握っている・・・その事を覚えておくがいい》
部屋を出る前、背中越しにクオンにそう伝えるとファストはデサシスを従えて部屋から出た
部屋の外で待機していたミーニャを見つけるとニヤリと笑い、それに合わせたかのようにミーニャは頭を下げた
その後、入れ替わるようにクオンのいる部屋に入っていたミーニャを見届け、ファストは歩き出す。幕が上がったばかりの劇の進行をするために──────
バースヘイム王国王城内会議室
そこに通されたシンとファーラをバースヘイム王国女王、イミナ・リンベルトが迎え入れた
「申し訳ございません・・・本来ならば歓迎の宴でも催すものを・・・」
「気に召されるな、イミナ殿。こちらこそ差し出がましい事をしてしまい、申し訳ない」
「いえ、感謝こそすれ差し出がましいなどと・・・対応が迅速であった為に民の混乱も最小限で済みました。今尚増え続けていると聞き及んでおりますが、いまいち状況が掴めず恥ずかしながら私達もどうすれば良いのか・・・」
イミナが対応に悩んでいる時、兵士からコジローとムサシが警戒に当たっている事を聞いた。それはシンが命令を出さなければイミナ自身が出していたであろう命令であった為に文句が出るはずもない。ただこれからの事は全くの白紙・・・イミナが言葉を濁していると、会議室のドアが開かれる
「陛下、魔法兵団準備整いました・・・と、これはシント国国王陛下!失礼致しました」
「国王じゃなくて君主・・・って、そんなことを言ってる場合じゃないね。久方ぶりです、レーズン殿。唐突ですが、魔法兵団は何名ほどですか?」
会議室に息を切らせて駆け込んで来たバースヘイム王国宮廷魔術師レーズン・ジャナシードはシンの存在に気付くと恭しく礼をするとシンの質問に答える
「はい・・・数は各属性10名ずつの計40名・・・魔法兵団と名乗っておりますが、実戦経験に乏しく、果たして役に立つのやら・・・」
「40・・・か。魔法知識に他の追随を許さないレーズン殿の従える魔法兵団・・・この状況下で期待はしているのですが、問題が少々ありましてな」
「そんな事は・・・それよりも問題とは?あの魔物達以外でも何かあると?」
バースヘイム王国宮廷魔術師、レーズン・ジャナシードは火水風土の4つの属性を使える稀代の魔術師。齢50にして賢者と呼ばれ、他国からの弟子入り志願も数多くシンも認める人物だった
そのレーズンが厳選したと思われる40名の魔法兵団が弱いとは決して思ってはいない。逆に剣士であるコジローとムサシよりも大軍との戦いには向いているだろう・・・しかし
「他国でも同じように魔物が出現きたとの報告が来ています。ディートグリス・・・それに我が国も。サドニアは分かりませんが・・・恐らくは。そして、知る限りでは皆街道沿いに突然出現したとの事です」
「なんと!・・・そこまでの軍事力を持っているとは・・・」
「いえ、正直ゴブリン達は人の世で例えると武器を持たせた一般市民のようなもの・・・問題はそこではありません。問題はそのような弱いゴブリン達を街から離れ、尚且つ目立つ場所に出現させた事です」
「それが何か?・・・いや、まさか!」
「レーズン?何が『まさか』なのだ?」
狼狽するレーズンを見て黙って聞いていたイミナが口を挟む。病で倒れた前国王である父から若くして王位を継承した時から献身的に支えてくれていた宮廷魔術師のレーズンの姿をこれまで見たことがなく動揺する
「陛下・・・我らは戦争を知りませぬ・・・しかし、先人達の書物を紐解くと過去の戦争の話が書かれております。その中に弱卒をわざと攻撃される策も・・・」
「策?・・・ゴブリンを・・・離れた場所・・・攻撃される・・・策・・・陽動?」
回りくどいレーズンの言葉を噛み砕き、イミナが導き出した答えを呟き顔を上げるとレーズンは深く頷いた
「しかし、私はここに来る前にゴブリンの群れを見たのですが、とても陽動には見えませんでしたが・・・」
レーズンはシンに言われるまで、魔物の群れが陽動だという考えは全く浮かばなかった。それは魔物の群れの規模が王都を飲み込む程に思えたのが要因であるのだが、シンは首を横に振る
「私がそう思うのにはもう1つ理由があります。魔物が突如出現した方法は十中八九『隙間』から出て来ている。たまに魔獣などを出現させる『隙間』・・・御存知でしょう?」
「え、ええ。しかし、アレは完全に偶然によるものと・・・」
「少し前までは我らもそう思っていました。しかし、先のディートグリスで起きた魔族襲撃事件・・・その首謀者のギフト『扉』の正体が『隙間』であると分かったのです」
「そんな!・・・ならば魔族は『隙間』を自由に出せると?」
『招くもの』ラフィス・トルセンの事を知っているのはシント国の一部とディートグリスの一部のみ・・・シンは掻い摘んで事件のあらましを話した
「・・・話を戻します。レーズン殿が陽動に見えないのは分かります。大軍と聞いてますのでね・・・でも、『招くもの』の能力を考えると、不思議でならないのです・・・本気でゴブリンなどの魔物だけで国を攻めようとするのなら何故に街の真ん中に招かないのか・・・離れた場所で招いたとしても何故奇襲をかけてこないのか・・・私が敵ならばどちらかを実行します・・・戦いを優位に進める為にね」
「確かに・・・大軍に目を奪われ、敵はゴブリンと思っておりましたが、敵はあくまで・・・件の魔族」
「ええ。クオンに『暇潰し』と言っていたと聞きますが、それがゴブリンと争わせる事を指すのか分かりませんから・・・」
「ハッ・・・もしやその事で今回?・・・いや、でもそれなら水晶で教えて頂ければ済む事・・・今回のお話したい事とは別なのでしょうか?」
「やはりそういう事ですか・・・お互い騙されたのですよ、イミナ殿」
「騙された?・・・一体どういう・・・」
「私はイミナ殿の『話したい事がある』と言う言葉を聞き、こうして来ました。そして、イミナ殿は誰かにそのように言ってくれと言われたのですよね?」
出迎えに来たコジローの反応、今のイミナの反応を見てシンは確信した。今回の件を仕組んだ者がいると。そして、その意図を
「私とこちらにいる私の妻、ファーラをこの国に来させたのは・・・クオン・ケルベロス。その目的は戦力の分配」
「え?」
「来たるべき魔族の襲撃に備えて派遣したんですよ・・・私とファーラを」
「え・・・ええ?」
「失礼・・・奥方のファーラ様とはあのファーラ様・・・『らい・・・』」
「その二つ名は止めてちょうだい!私はシント国君主シン・ウォールが妻、ファーラ・ウォールです。それ以上でも以下でもありませぬ」
「は、はあ」
シンの言葉の意味が未だに理解出来ないイミナとファーラに興味を抱き、話そっちのけのレーズン・・・2人が言葉の意味とファーラの正体を知るのはもう少し後になる──────
サドニア帝国王城内執務室
息を切らせて部屋に飛び込んで来たのは皇帝補佐官、テグニ・ユーヤード。震えるメイドを傍らに優雅にコップを傾けるサドニア帝国皇帝、ベルベット・サドニアの前で片膝をつく
「恐れながら申し上げます!帝都センオント近郊に魔物が多数出現!その数1000を超えると思われます!」
「・・・で?」
「あ、いや、軍部とギルドへの指令を頂きたく・・・」
「なぜ?」
「で、ですから・・・」
「落ち着け、テグニ。突然現れたから殺すというのはあまりにも理不尽。何かをされた訳でもなかろう」
「・・・ですが魔物に民は怯えています!いつ襲われるか分からない状況が続けば街中がパニックに陥る事も・・・先手を打って然るべきかと」
「やられる前にやれと?となると私はハリーナを始末せねばならぬな。いつ襲われるか分かったものでない」
ベルベットは頬杖をつきながらチラリと視線を壁際に立つ女性に向けた
被っていたローブを外すと妙齢の美女、ハリーナ・コナリアがニッコリと笑う
「ひどいですわ、陛下。私はただただ皇后の地位が欲しいだけ・・・それに見合う容姿と実力もあると思いますが?」
「ははっ、素直だな。確かに君以上の女性を探そうとしても難しいだろう」
「陛下!今は・・・」
「テグニ殿・・・陛下のお言葉をお聞きになって?陛下は現れただけの魔物を虐殺する趣味はないと申していますよ?陛下の性分・・・理解しておいででしょうに」
「・・・脅威は充分討伐の動機になるのではないですか?ハリーナ殿」
「脅威を感じるのは弱いから。弱さを盾に言われなきものを葬ると?」
「魔物ですよ!?奴らが日々何をしてきたかご存知でしょう!」
「そうだな。生きる為に人を殺してるな・・・人と同様に」
「うっ・・・それは・・・しかし、魔物は生きる為以外にも人を襲います!」
「ほう、随分と魔物に詳しいのだな。では聞こう・・・突如現れた魔物は何しに来たのだ?今現在何をしている?我らを害しに来たのであればそれを証明してみせろ。それが出来ぬのであれば確かめてくるがよい。話はそれからだ」
テグニはベルベットに言われて無言で俯く。てっきり兵を挙げて排除に向かうものだとばかり思っていたが、宛が外れた。魔物の動機など知るものかという言葉が喉まで出かかるが、辛うじて堪えて頭を下げ部屋を出て行く
「陛下・・・本当のところはどうなさるおつもりで?」
「本当のところも何も、今言った言葉通りよ・・・奴らが何をしに来たのか知るまで動くつもりは無い・・・襲い来るなら滅せればいい・・・庇護を求めるなら、対価しだいで考えなくもない。何もせぬのなら・・・こちらも何もせぬ」
テグニが去った後を眺めていたハリーナが尋ねるも、ベルベットを平然と答える。その答えにハリーナは目を丸くした
「豪胆なお方・・・このまま押し倒されても私は受け入れるでしょう・・・というか押し倒して下さいませんか?」
「お前は・・・周りの目というのを気にしないのか?」
「見たければ見れば良いのです・・・その代わりあまりにも激しくて目が灼きついてしまいますけどね・・・」
ハリーナが部屋にいる執事とメイドに視線を送ると、全力でその視線から逃れようと何も無い壁などを拭き始める
「冗談はここまでとしよう。何かあればハリーナ、お前が魔物を処理しろ」
「冗談ではありませんのに・・・簡単に言いますけど、陛下は?」
「私用だ」
「まさか・・・女じゃありませんよね?」
ハリーナがギロりと睨むとベルベットは鼻で笑い部屋を後にした。残されたハリーナは執務室の窓から魔物たちの姿を見ようとするも、この部屋からでは見えなかった
「さすがに陛下みたいに平然とはしてられないわ・・・どこからくるのかしら・・・あの豪胆さは・・・」
ハリーナは1人呟くとメイドに飲み物を頼みソファーに寝転がる。充分貴女も豪胆ですよと執事とメイドは思うが、ハリーナとしては必要な休息であった・・・いつテグニが駆け込んで来て魔物の討伐をお願いされるか分からない・・・その時までじっと爪を研ぐのがハリーナの仕事なのだから──────
《えらい騒がしいのう・・・母体に響くわい》
目を擦りながら2階から降りてきたマルネスが居間にあるソファーに座り、そのままポテッと横たわる。その姿勢のまま眠気まなこで忙しなく動くメイド達の姿を眺め、1人のメイドに声をかけた
《イミナ・・・飯をくれ・・・お腹の子が飯を欲しておる》
「マルネス様・・・今はそれどころではございません。どうやら街のすぐ前に魔物が現れたようでして、旦那様方が対応に追われております・・・クオン様の食事の件もありますので・・・」
《・・・クオンからの食事の催促は?それか手紙は?》
「・・・ありません・・・申し訳ありませんが急いでおりますので」
1度目の手紙から音沙汰がないことを知らされ、足早に去っていくメイド長、イミナを見た後ソファーに顔を埋める。なるべく魔力を消費しないように眠くもないのに無理やり眠りについていたせいか身体が妙に重く感じた
《これも子の影響かのう・・・なあ、クーネ?》
頭の上でチョコチョコと動き回るクーネに話しかけ、返事を待つが来るはずもなく、重い身体を起こしてどうするべきかと考える
普段であれば食事など摂る必要もなく、寝る必要もない。魔力さえ充実していれば特に何かをする必要はなかったのだが、ファストの晩餐会で出された食事や戻って来てからの睡眠など普段と身体が違く感じるのはお腹の子の影響であるとマルネスはみていた
お腹の子が必要としているのであるならと重い腰を上げると、玄関が開け放たれ、見知った顔が現れる
《・・・何故お主がここに?》
「なぜ?決まっているであろう!クオンに呼ばれたのだ!是非私の力が借りたいと!で、クオンはどこに!?」
現れたのはディートグリス王国侯爵、ニーナ・クリストファーとクオンの万能執事、シャンド・ラフポース。ニーナはキョロキョロと見渡し、シャンドは無表情でそれに付き従う
《ここにはおらん・・・というか何しに来た?お主が来て助けになるような事が果たしてあるかのう?》
「いっぱいあるわよ!例えば・・・ほら、夜の・・・」
《間に合ってるわい。見てわからぬか・・・この母性に溢れた妾を見て・・・》
「母性?・・・何も変わってないように見えるが・・・まさか!?」
《そのまさかよ。勝負は妾の勝ち・・・そういう事よ》
マルネスの声には魔力が込められている為に『審判』では真偽は分からなかったが、勝ち誇ったマルネスの顔から全てを察したニーナは膝を落とし床に手をついた
「まさかそんな・・・ちびっ子に後れを取るとは・・・クオンはそこまで飢えていたというのか・・・」
《これこれ、失礼な事を言うでないわ。ごく自然な流れだ・・・で、用がないのなら早々に・・・》
「失礼致します。もしやクオン様の仰ておりましたニーナ・クリストファー侯爵様であられますでしょうか?」
突然後ろから声がしたものだからマルネスはビクッとして後ろを振り向くと打ちひしがれてるニーナを見つめる人物がいた
《・・・イミナ?》
「イミナ?バースヘイム王国の女王陛下?」
「いえ、ケルベロス家のメイド長を務めておりますスパーナ・・・イミナ・スパーナと申します」
「お、おお、そうか。確かに私はディートグリス王国侯爵、ニーナ・クリストファーであるが・・・」
「左様でございますか。ご無礼を承知で申し上げます。クオン様より依頼のあった義・・・着いて早々でおもてなしもなく大変申し訳ないのですが早速お願いしても宜しいでしょうか?」
「・・・うむ。シャンドに連れて来てもらった故に疲れなどない。構わぬから案内するといい」
《お、おい、イミナ。依頼のあった義とは?ニーナをどこに・・・》
メイド長イミナがニーナを連れて行こうとするのを見て、置いてけぼりを食らった形のマルネスが声をかけるとイミナは立ち止まり、マルネスを見て鋭い視線で見つめた
「マルネス様・・・もしクオン様の奥方になる事をお望みでしたら既成事実など全くの無意味とお知り下さい。クオン様はケルベロス家の跡取りとなるお方・・・故にサラ様と結ばれる事をモリト様とリナ様も望んでおられます」
《ぐっ・・・それは・・・》
「もし・・・万が一クオン様がマルネス様を奥方にとお望みでも・・・誰が見ているか分からない居間にてソファーで寝そべったり、クオン様のお客様を用事も聞かずに追い返そうとしたりと私から見てクオン様に相応しくない振る舞いをされてるようでしたら・・・私はメイド長として全力でお二人の仲を引き裂かせて頂きます」
《なっ・・・にぃ・・・》
「しかし!マルネス様がクオン様に相応しい毅然とした態度を取り、淑女となったあかつきには・・・クオン様のご意向に反対するつもりは毛頭ありません・・・マルネス様にはその器量があると思っておりますが?」
《あ、当たり前だ・・・わよ。クオン・・・》
「旦那様」
《旦那様のお客・・・様は妾・・・ワタクシの客も同然・・・ワタクシがも てなそう・・・すわよ》
「かしこまりました。クオン様からの言伝をお伝えしますので共に参りましょう。ニーナ様、お待たせして申し訳ございません。それではご案内致します」
「う、うむ・・・サラ?・・・」
聞いた事のない女性の名前が出て、また敵が増えたのかと訝しむニーナを他所に、マルネスは早着替えでドレスに身を包むといそいそとイミナの傍に歩み寄る
「マルネス様・・・私は他に用事があるのでおいとまいたします」
その様子を無表情で見ていたシャンドがようやく口を開いた。存在すら忘れていたマルネスは振り返ると頭の中でどう返事するか考え、ドレスとセットになっていた扇子をシャンドに向けると胸を張って答える
《よきにはからえ!》
シャンドはその答えを聞いた後、一礼してから屋敷を後にする。シャンドが出て行くのを見送ると再び3人は歩き出した時・・・
「・・・マイナス1点・・・」
ボソッとイミナが呟き、マルネスが身体を震わす。そのマイナスが何を意味するのか、1点というのがどれくらいのものなのか分からずに戦々恐々するマルネスを見て、ニーナは思った
ケルベロス家のメイド長、恐るべしと──────




