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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『統べるもの』
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4章 6 王都争乱②

「師匠!今・・・」


「うん、そうねぇ・・・こんな大きい澱みを探知出来なかったらぁ、お空に飛んでもらおうかと思ったわぁ」


ディートグリス国王都ダムアイト近郊の森の中、日々探知の修行をしていたガトーが叫ぶとフウカが頷いた。2人には少し離れた場所で大きな澱みが出来たのに気付き、顔を顰めてその方向に視線を向ける


「?一体何が?」


修行に付き添っていたジゼンが2人の会話についていけずに首を捻ると、座禅を組んでいたフウカが立ち上がり澱みを感じた方向を指さした


「この先・・・恐らく街道沿いかなぁ・・・魔素が急激に流れて来たのぉ。しかも閉じる気配が全くないのぉ」


「え?それってつまり・・・」


「魔の世と繋がってるって事ぉ・・・ほっとくと魔物やら魔族やらが大量に来るわぁ」


「ちょっ!・・・急いで塞がないと!」


「どうやってぇ?・・・あっちょっと待ってねぇ」


焦るジゼンに疑問を投げかけた時にレンから『レン話』が入る。レンの言葉に耳を傾けるフウカの顔は次第に険しさを増していった


「フウカさん?」


「急いでダムアイトに戻りましょう・・・下手したら閉め出されちゃうかもぉ」


「閉め出されるって・・・」


「澱んでる場所から魔物が大量に出て来て街中大騒ぎらしいわぁ。街を封鎖しかねないってレちゃんから『レン話』が来たのぉ」


「封鎖!?」


封鎖という言葉に反応してジゼンはおもわず大声を上げる。ダムアイトは結界が張ってある為に常に開放されている為、住んでいるジゼンですら正門が閉じられた所を見た事がなかった。3人は急ぎその場を離れダムアイトを目指した──────




ダムアイトの王城内にある謁見の間。そこに主要人物が集められ今後の対策が練られていた


フウカ達は僅差でダムアイトに入る事が出来たが、その後正門は封鎖され、街は異様な雰囲気に包まれている


「魔族の次は魔物の大軍か・・・」


玉座に腰掛けたディートグリス国国王ゼーネスト・クルセイドがため息混じりに言うと、その場に居る全員も跪き顔を下げながら先の戦いに思いを馳せた


ほとんどの魔族はクオンとマルネス、そしてジュウベエの活躍により街中に通すこと無く倒す事は出来たのだが、何体かの魔族には結界を張って以来初の侵入を許し、あまつさえ王城最上階にある結界生成場所まで攻め込まれる始末・・・苦い経験が頭をよぎる


「未だ動きはないのですが、数は増える一方との報告が・・・既に万に達したとの見方もあります」


頭に包帯を巻いた痛々しい姿のカインが聞き得た情報を述べると壁際にズラリとならぶ大臣達はざわつき始める


「ゴブリンを主力にスポイトマンティスが混じっているとか・・・他にもいるかも知れないのですが、その2種類しか確認が取れていません」


気にせず続けたカインの言葉を聞き、ざわつき顔色を青くしていた大臣達の顔がみるみる内に安堵の表情へと変わっていった。内勤に従事る大臣達とて魔物の強さは耳に入る。魔物としては弱い部類のゴブリンが主力と聞いての変化だったが、それに待ったをかけた人物がいた


「不味いな・・・下手したら数日でディートグリスは詰むぞ」


「なに?どういう事だ、クゼン・・・確かに数は多いが所詮はゴブリン・・・それこそ魔族100体の方が余程脅威に思えるが?」


ゼーネストに問われ、クゼンは顔を上げ髭を擦りながら安堵していた大臣達を見た


「大臣方は勘違いしてるかも知れないが、ゴブリンは弱くない。知能もそこそこあるし、力も普通の成人男性より高い・・・つまり少し頭の悪い兵士が万も集まってると同じって事ですよ。更に脅威なのが繁殖能力・・・これに関しては数週間で・・・いや、数日でディートグリスの人口を上回る可能性すらある」


「バカな!!」


大臣達は再び色めき立ち、1人の大臣が声を上げる。万のゴブリンがどうやってディートグリスの人口を数日で・・・信じられない気持ちが声を大にするが、クゼンは嘘ではないと首を横に振る


「ゴブリンは元々オニもしくはオーガと呼ばれる魔獣と人の間の子・・・それ故に人を苗床にするのだが、繁殖能力が人とは雲泥の差・・・孕んだら最後、数日で出て来やがる」


「そ、そうだとしても数日で我が国の人口をなど・・・」


「あー、言い忘れていたが、あの隙間は魔の世と繋がっている。魔の世の時の流れは人の世より早く、凡そ10倍の早さで時が流れている・・・つまりこちらで1日経過したら、向こうでは10日経過している事になる・・・向こうに繁殖用の苗床があると芋づる式に増えていき、数日で・・・それに奴らが今いる場所から動かないって保証はない。もし近隣の街を襲い始めたら自ずと・・・苗床は増えるわな」


「苗床苗床と・・・クゼン殿、あまりに不謹慎ではないか!」


「言い繕ってる場合じゃねえんだよ・・・表現なんて気にしてる暇があったら、無い頭でこれからどうすれば良いかちっとは考えろ」


「ぐっ・・・」


「あまり大臣達を虐めるでない・・・して、クゼンよ・・・そう言うお主には何か考えがあるのか?」


黙ってクゼンと大臣達のやり取りを聞いていたゼーネストがクゼンに尋ねると、クゼンは指を1本立てて口の端を上げる


「1つ・・・相手の繁殖力を上回るペースで倒しまくる・・・くらいですかね 」


「なるほど・・・単純にして明快だが、果たしてそれは可能なのか?」


「可能かどうかではなく、やらねば滅亡するだけですよ」


「勝算は?」


「・・・ありますよ。いくつか条件がありますがね──────」




「クゼンさん!」


謁見の間を出て足早に廊下を歩くクゼンを呼び止めたのはソクシュ。クゼンは立ち止まるとゆっくりと振り返りソクシュを見た


「言ったはずだぜ?条件の1つは『女は一切戦場に出ない事』だ。もしかしてついてんのか?」


「ついてません!でも・・・あまりにも・・・無謀ではありませんか?」


「少数精鋭の事か?さっきも言ったが、ディートグリスは元々魔素が薄い・・・だから魔力供給用のスポイトマンティスがいる訳なんだろうが、その他にも魔力の供給源を与える訳にはいかねえ。下手に兵士を大量投入すれば奴らの魔力供給源になっちまうし、はっきり言って邪魔なだけだ」


「うっ・・・それでも・・・」


「それに単体で行く訳じゃない。ハーネット達に逃げねえように見張っててもらう。なぁに、一振五体・・・二千も振れば片付く話だ。お前さんは後処理の心配でもしてろ・・・ゴブリンは不味いからな・・・食えねえぞ?」


「食べません!」


クゼンはソクシュの頭に手を乗せると髪の毛を掻き乱す。頭をクチャクチャにされたソクシュはクゼンの手をはねのけながら叫んだ


「お前さんは姫を守る事に集中しろ。隙間が出来るって事はゴブリン達が陽動の可能性もあるって事だ。四天が同じ轍を踏むってのはあまりにみっともねえぞ」


「踏みませんよ!二度とあんな・・・」


ラフィスにいいようにやられていたのは記憶に新しい。その際に切断された両足もマルネスとソフィアのお陰で元通りにはなっているが、当時の事を思い出すと痛みが走る


「雑魚狩りは任せておけ・・・あとは・・・頼んだぜ、フウカ」


ソクシュが振り向くと、そこにはいつの間にかフウカが立っていた。フウカも謁見の間におり、そこでクゼンからある事を頼まれていた


「んー、『隙間を塞ぐ方法』ねぇ・・・マルちゃんに聞いてもらってるけど・・・期待しない方がいいわぁ。方法があったとしてもぉ、実行出来る人が居ないってなりそぉ。クーちゃんがいればねぇ・・・」


「斬れりゃあ、いいんだけどな・・・ところであの暑苦しいやつは?」


「暑苦しい・・・ボムちゃん?ボムちゃんなら『強敵を求めていざゆかん』って言って旅立っちゃったぁ」


「そ、そうか・・・」


フウカに弟子入りしたボムースがいればかなり楽になると思ったが、当てが外れたクゼン。両頬を叩き、気を引き締めると不安そうにしているソクシュを見つめた


「よっしゃ、ちょっくら行ってくるわ!善は急げって言うしな!ハーネット達には段取り通りにしてくれって言っといてくれや!」


「クゼンさん!ミゼナさんには・・・」


「あん?・・・帰ったら酒を浴びるように呑んで寝るから用意しとけって・・・」


「違います!会っていかないんですか?」


「会ってどうする?これからゴブリンの群れに突っ込んで来るわって言うのか?」


「あっ・・・」


「安心しろ・・・まだ呑んでねえ酒は山ほどある。それを呑み終わるまでは死ぬ気はねえさ・・・言伝、頼んだぜ」


「・・・はい。お酒は私が準備します!クゼンさんが呑んだ事のないお酒を用意してミゼナさんと共に待ってます!」


「・・・お前さん、俺の死期を早める気かよ・・・」


クゼンは再び廊下を歩き出し、それをソクシュとフウカが見送った。しばらくするとハーネット達がその後を追うようにやって来た


「クゼンさんは?」


「もう行ったわ・・・あなた達は?」


「クゼンさんが突っ込んだら、ゴブリン達が他の街などに行かないように誘導するように言われてる。俺は飛べるけどガトー達は・・・」


「俺の『エアーハンマー』もあるし、ジゼンの『伸縮自在』もある。逃げに徹すれば何とかなるさ。俺ら2人で東・・・西南はハーネット1人・・・これで出来ないとは言えねえな」


「・・・そうだな。ソクシュ、陛下を・・・王女を頼む。すぐに終わらせてくる・・・やるのは俺じゃないのが悔しいが・・・」


北に位置するダムアイトの正門からクゼンが攻め込み、西南にハーネット、東にガトーとジゼンが回り込み魔物達が逃げないように陣取る作戦・・・当然1万の群れが一斉に散り散りになれば逃げないようにするのは無理だと大半の者が思っていた。しかし、クゼンは言い切る・・・散り散りにはならないと


「確か・・・原初の八魔のファストだっけ?」


「ああ。魔物を操ってるのがそんな名前の奴で、魔物が動かないのもそいつに操られているからだそうだ。数が多くて一体一体を操ってるのは不可能だから恐らく単純な命令を全体にかけているんじゃないかって・・・今の状態は『待機』とかな」


「その命令が『街を襲え』になるのも怖いが、ファストって奴が操るのを放棄したら・・・」


「ダムアイトは無事だったとしても近隣の町は壊滅するかも知れない・・・俺らは決して抜かれてはいけない・・・」


ハーネット達は先に行ったクゼンに追いつく為にソクシュどうやってフウカに別れを告げ、急いで待ち合わせ場所の正門へと向かった──────





クゼンは城を出てからはゆっくりと歩き正門へと向かっていた。街は緊張に包まれ、人々の表情は取り繕う事無く一様に暗い。そんな中で走って正門に向かうクゼンを見たら良からぬ想像をしてパニックに陥ってしまうのでは無いかと考えての歩く速度だった


この街はしばらくすると一切の魔を拒絶する。それはディートグリス国王女ゼナ・クルセイドのギフト『浄化の光』が向上した事によるものだとゼーネストは言うが、タイミングが良すぎるとクゼンは訝しんでいた


元々あった能力なのか、タイミング良く昇華したのか、それともまだ何か隠している事があるのか・・・天族と魔族は相容れない関係・・・その魔族であるクゼンを冒険者として扱ってくれているゼーネストには感謝はしているが、心の底から信用は出来ていなかった


「ク、クゼンさん!街は・・・街はどうなってしまうのでしょうか?」


歩くクゼンに駆け寄って来た巡回中の兵士がクゼンに尋ねる


国からの依頼を受け、兵士に訓練をつけたことがあるので、兵士はクゼンの事を知っていた


「お前らが不安そうな顔してどうする?笑え・・・何も無いと安心させてやれ。俺が何とかしてやる」


「は、はい!」


畏まる兵士の肩を叩き再び正門へと歩き出すクゼン


正門に辿り着くと普段は開けられている門が閉められており、まるで捕らえられたような気分になる


「クゼンさん!」


ようやく追い付いたハーネット達が息を切らせながらクゼンに話しかける。住民の不安を駆り立てるなと叱責しようとも考えたが、詮無きことと諦め必死に追い付いてきたハーネット達を笑顔で迎えた


「ハーネット、俺らが門を開けて外に出た後も門を閉めさせるな」


「え?しかし・・・」


「ダムアイトの門は開いてないとダメだ。息苦しくて仕方ねえ。それに閉めてたら街のヤツらに俺の勇姿が見せれねえだろ?安心しろ、姫さんの能力が向上して魔を拒絶するって言うんだ・・・こんな門なんかより安全だろ?」


「・・・はい、分かりました。そのように伝えて来ます」


一部の住民は突然出てきた魔物の姿を見ていた。その後に門は閉められ、外がどうなっているのか確認出来ずに不安が拡がっている。それを払拭するには堂々と見せてやれば良い・・・その魔物達が倒される様を


「うし!」


ハーネット達が伝えた事により、正門はゆっくりと開かれる。そして、遠くの方で蠢く魔物達の群れが見て取れた


「ひぃ!」


門柱の傍に立っていた兵士が情けない声を出すが、それも仕方がないだろう。離れた場所とはいえ見た事もない程の魔物の大軍が1箇所に集まっているのだ


クゼンは開かれた門を通り抜けようと歩き出すが、すんと鼻を鳴らすと立ち止まり兵士を見る


「なあ」


「は、はいっ!」


「腰にぶら下げた飲み物・・・少し飲ませてくれや」


「あ、いや、これはその・・・」


「いいからいいから」


クゼンは奪うように兵士が腰から下げていた水袋を取り上げると一口口に含み喉を通す。取り上げられた兵士はその様子を見てアワアワするが、気にした様子もなくクゼンは水袋を突き返した


「美味い水だ・・・だが、程々にしとけよ?」


「クゼンさん!門は開けておくように・・・ん?この匂いは・・・」


ハーネットが戻って来てクゼンの周辺に漂う匂いに眉間をしかめる。兵士はその様子を見て青ざめるが、クゼンは笑いながらハーネットの肩を掴み魔物達の大軍を指さした


「アレが見えるか?アレを見て正気でいられるのは頭のネジが外れてる奴か魔物が大好きな奴だけだ。分かるだろ?」


クゼンに言われてハーネットは改めて魔物の大軍を見つめ喉を鳴らす。所狭しと敷き詰められた魔物の絨毯は死を覚悟した者ですら踏むのを躊躇う異質な世界を創り出していた


「なあ!そのサ・・・水はなんて水だ?」


「こ、これは最近出回り始めたサ・・・水でして、格安で売られている『家族』って名前の・・・水です」


「・・・通りで・・・まだまだ俺の呑んだ事のねえのがありそうだな。ハーネット!手筈通り配置に着いたら知らせろ!」


「はっ!ガトー!ジゼン!行くぞ!」


「おう!」


ハーネットは翼を出し、ガトーとジゼンは魔物達を刺激しないように大回りで東側に駆けて行く。未だにその場から動かない魔物達を睨み付けながらクゼンは刀を抜き放ち、紐で刀の柄と手をグルグルと巻き、口で思いっ切り締め込んだ


「なあ」


「は、はい」


「お前さん、家族はいるかい?」


「はい・・・妻と子が・・・」


「そうか・・・なら、今度その()を呑みながら話してやんな・・・お前さんが今から見る俺の大活躍を」


「は、はい!」


「・・・末期の水が『家族』か・・・悪くねえな」


「え?」


クゼンと兵士が話していると、ハーネットからの合図と思しき天翼羽が空へと打ち上げられる。それに気を取られ兵士が空を見上げていると、クゼンは刀を握り締め、真っ直ぐに魔物達を見据えた


「さーて、散歩の時間だ。マルネス・クロフィードが弟子、『黒刀』クゼン・クローム・・・推して参る──────」



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