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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『統べるもの』
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4章 5 王都争乱①

丁寧にカットされた石が積まれただけの建物の一室。人によっては長時間そこにいるだけで苦痛に感じてしまう簡素な部屋に、似つかわしくない豪華な椅子。そこに座るは原初の八魔『操』のファスト・グルニカル


椅子の肘掛に肘をつき、頬杖をついた視線の先には、目の高さまである小さなテーブルに置かれている2つの核


厳密には2つの核はくっついており、1つの核の様相を呈しているのだが、ファストにとっては細かい事だった


椅子に座りじっと核を眺めるファストの前には4体の魔族が片膝をつき、主の言葉を待っていた


その内の1体、デサシスが顔を上げて言葉を発する


《ファスト様・・・そのままですと核は壊れてしまうのでは?》


《・・・崩れゆく旧友の核を眺めるのも一興ではないか?》


《ファスト様!》


《・・・そう喚くな。少しばかり思い通りに行かず素直にこの身体に入れるのを躊躇していただけだ。くすみ崩れゆく核を見ていれば気持ちも晴れるかも知れぬと・・・》


ファストは自嘲気味に笑うと素手で核を掴みそのまま飲み込んだ。2つの核はするりとファストの喉を通り、体内に取り込まれる


その様子を見てデサシスはほっと胸を撫で下ろすが、ファストの表情は冴えない。本来ならばこの時点で目的の8割りは達成したと言っても過言ではなかった。だが、そうでは無いことを表情が物語る


《ファスト様が操ってからアイツに核を渡して封印を解かせれば良いんじゃないですか?》


《テギニス・・・あんたバカ?操ったとしても核を戻したら意味ないじゃない。普通にまた暴れるだけよ?》


《なんでだよ!俺らみたいにすればファスト様は操ったままで・・・》


《あのねえ・・・私達の時とは違うでしょ!》


《どこがだよ!?》


《テギニスとレッタロッタ・・・少し黙りなさい。ファスト様の御前です。それにテギニス、ファスト様の御力をもう少し理解したらどうですか?ファスト様がパスを繋ぐのはあくまでも核・・・クオン・ケルベロスなる者の核は現在作り物。パスを繋いで操ったとしてもそこにある核を戻せば自然と解けてしまうでしょう。補助的な核にパスを繋いだとしても意味はありません》


《ならそこにある核にパスを繋いで・・・》


《ハア・・・あんたねぇ・・・同格以上のものにはパスは繋げないの!繋げるとしたら同意の上でしか無理なの!散々ファスト様から教えられたでしょ!?》


《あっ・・・》


デサシスとレッタロッタの説明でようやく理解したテギニス。ファストより核を与えられる際にファストは自分の能力の説明をし、核を取り入れる前に各々とパスを繋いだ。それは核を取り入れた時、ファストの力を上回る可能性があったからであり、五魔将全員がそれを承諾していた


《じゃあ手詰まりじゃねえか!》


《何がかな?》


《あ、いえ、その・・・》


《テギニス・・・君の思慮の浅さはどうにかならないか?それとも私が完全に操る他ないかな?》


《そのような!・・・事はありません・・・》


椅子に座り頬杖をつくファストが無表情でテギニスを見つめるとテギニスは視線を逸らし小声で否定する。パスを繋いだとはいえ五魔将には強制的な能力は使ってはいない。それはファストにとって実験的な意味合いもあった。核を取り入れ、原初の八魔であるファストを超えた事による精神への影響・・・主に増長などが起こりえるかを見定めていた。今後、戦力の増強を図る時に事前にパスを繋ぐかどうかの判断材料として


《もっとも君の懸念は充分理解出来る。原初の八魔・・・いや、私以外の六長老が動き出すと少々厄介だからね。核を取り入れて日が浅い君らが彼らに勝つにはまだまだ経験不足といったところか。本来ならば私がアモンとマルネスの核を取り入れて支配する予定であったが・・・》


その予定もクオンによって阻まれている。先程取り入れた核はファストの中に入っているが何の力も感じ取れてはいなかった


《如何致しますか?》


《能力で拒むようにしているのなら、自ら献上するように仕向けたらいい。そうだろう?ジュウベエ》


ファストの前で跪く4体の魔族とは離れて壁に寄りかかり話を聞いていたジュウベエ。ファストの言葉に全員が一斉に振り向くとジュウベエは手をヒラヒラさせてそれに答える


「だね~。あのメイドだけじゃ足りないね~・・・もっとド派手にやってクオンから『是非この核を使ってくれ』と言わせないとだね~」


《は?それってどういう事だよ?》


「少しは自分の頭で考えたら~?それだからファスト様に怒られるんじゃないの~?」


《あ?人の分際で・・・》


《テギニス!彼女はファスト様の協力者・・・言葉を慎め》


《くっ!》


デサシスに窘められるもテギニスはジュウベエを睨み続ける。吹けば飛ぶような存在に軽口を叩かれ、我慢の限界だったがファストの手前必死にそれを抑え込む


《ジュウベエよ、そう虐めるな。奴が自ら核を取り出したのは恐らく予定通りなのだろう。丁寧に紙に書いておいたのは、事前に奪われる事を察知していた証拠・・・きっかけとなったあの娘を傍付きにし、情が移ったところで交渉材料にでもしようと考えたが・・・それで弱いならジュウベエの言う通り派手に行くか》


《しかし、それでは六長老が・・・》


《知る術は少ない。カーラがちょっかいを出してこない限りはな。デサシス、成功率は上がったか?》


《最初の1回目はどうしても開きません。徐々に安定はしてきておりまして、2回目にはほぼ開くまでには・・・》


《上出来だ。レッタロッタ、魔物の繁殖状況は?》


《はっ!順調に数は増えております・・・それはもう気持ち悪い程に・・・》


《うむ・・・では各自に言い渡す。デサシスの開く扉を使い各自魔物を引き連れて人の世を蹂躙せよ!》


《はっ!》


言い終えたファストは人であるジュウベエを見やる。今の内容にピクリとも反応しないジュウベエを興味深く眺めると口に手を当てほくそ笑んだ


《気にはならないのか?肉親、友人、知人がたった1人の男の気を変える為に殺されるやも知れぬのだぞ?》


「遅かれ早かれ起きる未来・・・理由はただの結果に過ぎません。人が魔族に抗う術などありませんから」


《分かってるじゃねえか。だったら素直にヘコヘコしてりゃあいいんだよ!》


テギニスが横から茶々を入れるとジュウベエはため息をついてから言葉を続ける


「・・・品というものはすぐに身に付くものではありません。人の世を統べた時、上に立つものがあのようなものではファスト様の品格も疑われる事でしょう。早急に手を打つことをオススメします」


《ふっ・・・肝に銘じよう》


《あん?どういう事だ?》


ファストが苦笑いをして返事をする傍らで、テギニスはジュウベエの言っている意味が理解出来ずに両隣のレッタロッタとジンドを見た。レッタロッタは呆れたようにため息をつき、ジンドは無言を貫き通す。結局テギニスはジュウベエの言っていた意味を理解出来ずにこの場は解散となった──────





既に日課になっている精神統一をする為の座禅を組むクオン。それを見つめるのはメイドのミーニャと・・・


「そう睨むなよ、ヘラカト・・・言いたい事でもあるのか?」


クオンが一刀両断したはずの五魔将の一体、ヘラカトが腕を組みクオンを睨みつけていた。両目を瞑っていたクオンが片目を開けてヘラカトを見て言うと、ヘラカトは視線を逸らし口を開く


《未来のない貴様に怒りをぶつけるなど詮無きこと。それに所詮貴様はファスト様に核を献上した後、我らに縋るだろう・・・どうか殺してくださいと。それで我が溜飲は下がるだろうから無理に今何かをするつもりはない》


「そっか。つまりファストに核を献上するまでは俺に手出しは出来ないと?それじゃあ、その目が気になるから1回殴っていいか?」


《調子に乗るなよ!生きてさえいれば構わぬのだ!四肢をもぎ、地べたを這わす事など容易いのだぞ!》


「容易い・・・ねえ。だったらやればいい。気持ち悪い視線を向けられるより幾分マシってもんだ」


《グッ・・・ヌッォ!》


拳を握り必死に怒りを耐えるヘラカトはこれまで以上にクオンを睨みつけ部屋から出て行った


ようやく邪魔者が居なくなったとクオンは微笑み、再び精神統一をするべく目を閉じた


ミーニャはヘラカトが出て行った先を見つめた後、震えながら恐る恐るクオンに視線を向けた


「あ、あの・・・良いのですか?怒らせたら酷いことをされるのでは・・・」


「・・・魔族にとって人は取るに足らない種族。つまり魔族から見たら死にやすい生き物だからな。下手に手を出して死なれては困るって思っている内は大丈夫さ」


「そ、そうなのですか・・・」


「確かに人相手なら拷問でもされかねない状況だからな・・・心配してくれてありがとう」


「い、いえ!ワタシのせいで捕まってしまったのです・・・せめてワタシの出来る事をさせて下さい!」


「ミーニャのせいじゃないさ・・・と言っても頼みたい事はある」


「はい!何でも!」


「腹減った」


「はい!?」


「ここって日が出ないからずっと薄暗くて時間の感覚がなくてさ・・・とりあえず腹時計に従うと今は昼・・・そう昼飯の時間だ。用意してくれるかな?」


「は、はい!ただ今!」


そう言うとミーニャはバタバタと走りながら部屋を出て行った。クオンはその姿を微笑みながら見送った後、床に一筋の傷をつけた


床には他にいくつかの傷があり、3つのキズが重なると隣りに移動している。食事の度に1つの傷を付けることにより日の経過を記しているのだが、記しているクオン本人も日が経つにつれてズレていってるのが分かっていた。それでもないよりはマシと続けている


「さて・・・そろそろ到着する頃か・・・」


クオンは床の傷を数え、人の世へと思いを馳せる。細工は流々仕上げを御覧じろとでも言わんばかりにミーニャの運んで来るであろう料理に頭を切り替えて床にゴロンと寝そべった──────






クオンの細工の一端とは知らずに隣国バースヘイムの王都リメガンタルに到着したシン一行


もちろんファーラも同行しており、それに伴い従者5名護衛10名の所帯となり馬車と馬での移動となった。シン1人ならばひとっ飛びで行ける距離も正規のルートを通る馬車での移動は時間を要し、速度を上げての強行だったが丸1日かかってしまった


バースヘイムの王都はバースヘイム領地の中心よりややシント寄りにあり、距離的には近くはあるのだが、やはり馬車での移動は時間がかかる。いつ魔族が攻めてくるかも分からない状況でのんびりしている訳にもいかず、かと言ってそんな状況だからこそシン1人で行かせる訳にもいかない為の強行だった


本来ならば君主であるシンが移動するには心許ない護衛の数だが、シントの守りを割く事も出来ず、尚且つシンの実力を知る幹部達は渋々少ない護衛に首を縦に振らざるを得なかった


「あなたー、お、お尻が・・・」


「公務中だよ、ファーラ。あなたじゃなくて殿と呼ぶものそうだし、君主の妻として人前でお尻がなんて・・・」


「仕方ないでしょ!馬車が石に乗り上げる度にふわっと身体が浮いて落ちるを繰り返して臀部にダメージを与え続けているのよ!それを一昼夜・・・もう臀部の感覚がないわ!」


「言い方を変えても・・・ほら、迎えが来てるよ・・・と、これはまた・・・」


リメガンタルの貴族のみ通れる通用門、そこにはシン達を出迎えるバースヘイムの兵士達がズラリと並び、その中心で笑顔で手を振る2人の青年がいた


「一国の君主を出迎えるのに手を振るかね?」


「殿は堅苦しいの嫌いでしょ?」


「てか、飛んで来ると思って待ってたから待ちくたびれちまったよ」


手を振っていた2人の青年、コジローとムサシがシンの言葉に反論する


コジローとムサシはバースヘイムの軍強化の為にシントが派遣している2人で主な仕事は魔物討伐と兵士の訓練。大陸で全ての国と隣接しているバースヘイムは国家樹立後すぐに交易に力を入れ、軍事力をほぼ放棄してきた。そうする事で他国の信頼を得ていたのだが、他国との小競り合い、魔の世との繋がりによる魔物の発生に伴いバースヘイム国内で軍事力強化をするべきだという声が高まり、国交が深く戦闘力の高いシント国に白羽の矢が立った


当時のシント国国王は国家交流を深める為と手練を無償で派遣しそれが現在の信頼関係に繋がっている。バースヘイムは領地は広く気候も安定している為に作物の育ちが良いのでシント国に食糧を優先的に売る事になり、シントは領地は狭いが高い技術力と戦闘力を提供する代わりに食糧を得るに至った


切っても切れない関係となった両国は長年に渡り交流を続け現在のシント国君主シン・ウォールとバースヘイム国女王イミナ・リンベルトも例外なく知己とも言える仲であった


そのイミナがシントを訪れる事もあれば逆に今回のようにシンがバースヘイムを訪れる事もあったが、お互いの国がどちらかの国の王を呼び寄せるなど異例中の異例。しかも初の4ヶ国会談後ともなれば普段は飄々としているシンの心中も穏やかではなかったのだが、出迎えに来た2人の様子に思わず気が抜けてしまう


「2人の顔を見れたのは嬉しいが、もっと焦燥感にかられてると思ったのだがね」


「?なぜでしょう?」


「なぜって・・・何かの行事でお互いの国に行く事はあっても呼び出されるのは初めてだからね。何か深刻な問題があると考えるのが普通だろ?」


「・・・え?」


「え?」


シンの言葉にコジローとムサシが驚いた様子を見せ、思わずシンも素っ頓狂な声を上げる。しばらく見つめ合う3人を訝しげに見るファーラが街の方が騒がしいのに気付くとそちらに視線を向けた


「あなた・・・あれは?」


「殿と呼ぶようにと・・・ん?」


ファーラに服の裾を引っ張られ、言葉遣いを窘めようとするが、ファーラの視線の先が気になり視線を移す。視線の先には街の外壁沿いに馬を走らせる兵士が1人、何かを叫びながら近づいて来ていた。その兵士の表情から察するに危急な用事のようだった


「何事だ!」


コジローがシンとファーラを庇うように前に出て、やって来た兵士に問い質すと、兵士は急ぎ馬から降りて手綱を握ったまま膝をつく


「申し訳ありません!コジロー殿とムサシ殿に至急応援要請をと!街の正門より報告が入り、街道上に突如魔物の大軍が現れたとの事!」


「魔物の大軍?数は?」


「それが・・・どこからともなく現れ、徐々に増え続け、物見の話では現段階で数千とも・・・」


「数千だと・・・バカな!?」


「なんじゃそりゃ!?見間違え・・・な、訳ねえよな・・・」


コジローとムサシの2人が兵士の報告を聞いてる後ろで、シンは神妙な面持ちで何かを呟いていた。そして、呟き終えた後に顔を2人に向けると兵士の言葉を裏付ける内容を口にする


「今レンとラックから連絡が来た・・・ディートグリスと我が国シントでも同様に魔物が現れたらしい。その数は数千とも・・・」


「なっ!?」


「まさかこんなにも早くに・・・コジロー、リメガンタルの兵士の数は?」


「・・・掻き集めて千・・・ですが戦えるのは俺らが鍛えてる二百ってとこです。レーズンさんの魔法兵団を合わせても・・・焼け石に水って感じですね」


「二百か・・・君、魔物はどんな状況か分かるかね?」


「えっと・・・貴方様は・・・」


「シント国君主シン・ウォールだ」


「し、失礼致しました!警備隊長より急ぎ御二方に報せてくれと頼まれたので細かくは・・・しかしながらすぐに攻め込んで来る様子はなかったように思えます」


「分かった、ありがとう。コジローとムサシは要請に従い正門に向かってくれ。私は急ぎイミナ殿に会いに行く」


「殿!シントの方は・・・」


「・・・ここに私がいるのは天啓かも知れないからね。それにシントにはモリト達がいる・・・彼らを信じ、今はバースヘイムの窮地を脱する事に専念する」


「はっ!タブラ!急ぎ正門に第1部隊と第2部隊を集めろ!ムサシ!俺らは先に正門に向かうぞ!」


「応よ!殿!またあとで!」


2人はシンとファーラに頭を下げると用意された馬に乗り外壁沿いに正門へと向かう。残されたシン達は急ぎリメガンタルの通用門へと歩き出した


「・・・毒水なら良かったのだがな・・・」


「あなた?」


「いや、何でもない。急ごう・・・恐らく私達も魔族の暇潰しに付き合う必要がある」


「え?私まだ臀部が本調子ではないのですけど・・・」


シンはあえてファーラの声を聞こえないフリをして足早に街を目指す。やる事は山ほどある・・・今は愛する妻のお尻の調子を気にかけている余裕はシンにはなかった──────

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