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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『拒むもの』
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1章 7 ドラゴン調査隊前編

ダルシン家フォーからの指名依頼『屋敷の掃除』を完了させた4人。ジャイアントアントの蜜が報酬1万ゴルド、シールドベア討伐が5万ゴルドに対してフォーから渡された報酬額は100万ゴルド。街の平均月収が10万ゴルドなので4人は割っても1つの依頼で2ヶ月以上の金額を稼いだ事になる


「クオンさん!俺ら何もしてないし、貰えないですよ!」


「そうよ!さすがに今回は受け取れないわ」


「全員の成果だ。もし受け取らないなら今後一切俺と関わりを持たない方がいい」


「・・・え?」


≪カカ・・・それが良い。2人で別の街にでも行って・・・ムグッ≫


いつもの宿屋の食堂で4人で食卓を囲み、出て来たパンとコーヒーを食べながらの1幕・・・マルネスはクオンにパンを口に押し込められ言葉を遮られる


「クオンさん・・・それはどういう・・・」


「お前ら2人が遠慮する気持ちは分からんでもない。だが、依頼は2人がいないと受けられないし、今後もお願いしたいと思っている。だから、依頼を受ける度に遠慮されると思うと・・・な」


「僕も・・・今後もお願いしたいと思ってます!でも、さすがに均等に渡すのは違うのでは・・・」


「活躍の度合いで変えると色々と揉め事の原因になる。それぞれの役割を果たせばそれでいいんじゃないか?それが仲間と思うがな」


「・・・仲間・・・」


「もし貰いすぎと思うなら、これから強くなってくれると助かるよ。そうすれば狩りも楽になる」


「強く・・・でもギフトなしの僕らなんか・・・」


ギフトがあるのとないのとでは天と地ほどの差が出る。それを今回のクオンとエリオットの戦いを見て改めて痛感した。しかし、クオンは首を振り、自国のシントのある剣士を思い浮かべる


「シント最強の剣士は戦闘で使えるギフトを持ってない。自らの肉体と剣だけで最強の座に上り詰めた。付与付きの剣も使わずにな」


「まさか・・・」


「あのAランクの奴より全然強いぞ?ギフトに頼らず研鑽を重ね、気付いたら剣聖と呼ばれるまでに至った・・・俺もギフトを使わないと歯が立たない」


「クオンさんでも!?」


「まあ、そこまで至れとは言わない。でも、ギフトがないからって言って諦める事はないと思うぞ?」


「ギフトなしでAランク冒険者に勝つ・・・そんな事想像もしてなかった。でも・・・クオンさんが言うなら・・・僕、受け取ります!」


「私も!クオンと仲間でいたいから!」


「助かるよ」


2人の決意に微笑むクオン。マルネスはそれを面白くなさそうに

聞き、口の中のパンを飲み込む


決意新たに気合いを入れ朝食を食べる4人の前にギルドからの使者が現れた


報酬の支払いの件かと思ったが、どうやら違うみたいで、すぐにでもギルドに来て欲しいとの事


4人は朝食を食べ終えすぐにギルドへと向かった


「すまんな、急に呼び出して」


ギルドに入るとギルドマスターのバンデラスと見知らぬ女性が4人を待っていた。女性は4人を見ると丁寧にお辞儀する


「バンデラスさん、用ってなんです?」


レンドが尋ねるとバンデラスは頭を掻きながら隣にいた女性に目線を向けた。女性は1歩前に出ると再びお辞儀して口を開く


「私はカダトースの街のギルド職員をしているファナスと申します。この度は急なお呼び出しをしてしまい申し訳ありません。実は・・・」


カダトースはセガスから北に向かった隣街。そこのギルド職員を名乗ったファナスはなぜセガスに来たのかを淡々と話し始めた


1ヶ月前、カダトースの更に北に位置する渓谷近くで魔物の死体が散乱しているのを狩人が発見した。その魔物は全て中型クラスで食い散らかしたような状態であったという。つまり、中型クラスを喰らう大型の魔物がいると考えられた


まずは調査をとギルドから依頼を出し向かわせるも空振りに終わる。しかし、その調査の時ある魔物の鳴き声を聞いた。その魔物とは────


「ドラゴン・・・の鳴き声に聞こえたそうです」


「・・・え?」


レンドは目が点になり、思わず自分の耳を疑う


ドラゴン・・・魔物の頂点とされる種族の総称。ドラゴンは多岐にわたり存在するが、いずれも人の手には負えない強力な魔物とされている。基本はファイアードラゴン、ウォータードラゴン、ウィンドドラゴン、グランドドラゴンの4種族。そこから派生したドラゴンが多く存在すると言われている


「ちょ、ちょっと待って下さい!それが本当なら軍を投入するレベルの話では?」


「そうです。しかし、国に動いてもらうにはまずは本当にドラゴンがいるか調査しなければなりません。ドラゴンの鳴き声を聞いたと国に伝え、万が一ドラゴンでなかった場合・・・領主家はお取り潰し確実でしょう」


「でも・・・もし本当にいたとしたら、早急に手を打たないと・・・」


「はい。その為に領主権限で再度調査隊を結成し、調査を行う予定でした。しかし、調査隊の護衛役として呼び寄せたAランク冒険者の方が行方知れずとなり・・・」


隣街、Aランク冒険者、行方知れずというフレーズから想像するのはあの男。レンドとマーナの額から冷や汗が滴り落ちる


「そのAランク冒険者ってエリオットって人ですか?」


「そうです!ご存知なんですか?ちょっと野暮用を済ませてくると言ったきり戻って来なくて・・・もし居場所をご存知なら教えて頂きたいのですが!」


居場所は知らないが、その野暮用の内容は知っている・・・しかし、それを伝えてしまうとセガスとカダトースの間で大問題となるだろう。カダトースの領主が呼び寄せたAランク冒険者をセガスの領主が連れて行き行方不明にさせてしまったのだから


「い、いや、何となくエリオットって人かなって・・・」


目を泳がせてファナスの追求を避けるレンド。マーナも焦りながら話をそらそうと口を開いた


「そ、それでファナスさんは私達にどう言ったご要件で?」


これでファナスの口から『エリオットはどこ?』とか言われたらとドキドキしていたが、ファナスの口から出た言葉は違う意味で心臓に悪かった


「え、ええ。数日前にセガスの街付近で5m級の女王アントが出て見事退治した冒険者がいると聞きまして・・・そこでその方々にエリオットさんの代わりに調査隊の護衛を頼めないかと」


心臓が飛び出そうになるのを必死で口を塞いで耐える2人。ドラゴンの調査の護衛・・・もちろんドラゴンと戦うわけではないのだが、もし見つかれば死は免れない。そんな危険な依頼をされるとは思いもよらなかった


「む、むりです!無理無理!僕達なんかが・・・」


と言いかけて思い直す。ファナスが頼みたいのは5m級の女王アントを倒した冒険者。そして、Aランク冒険者の代わりになる人・・・それはレンドとマーナの事ではなくクオンとマルネスの事だった


ふとクオンを見ると少し困ったような表情をしてるように見えた


「・・・クオンさん?」


「ドラゴンか・・・気が進まないが思い当たる節もあるし、受けてもいいのでは?調査隊と言うくらいだから探索に特化した者かそれ相応のギフトを持った者を同行させるのだろう?」


「はい。調査隊の面子も他からお呼びしたスペシャリストです。それにレンドさん達だけではなく当ギルドからも護衛は出しますので・・・どうかご同行願えませんでしょうか?」


あくまで調査隊の護衛、そしてクオンとマルネスの存在、エリオットの引け目が合わさりレンドとマーナは渋々頷いた。2人は最下級とも言える兵隊アントを相手にしていた頃が懐かしく遠い日のように感じていた


「助かる!屋敷の件は聞いている・・・お前らなら無事に任務をやり遂げると信じてるよ。あー、フォー様から指名依頼の完了証明は頂いている。受付で達成料貰っておいてくれ。それと・・・クオンいいか?」


「ん?なんだ?」


「その・・・そこで鼻ちょうちん膨らませて寝ている嬢ちゃんなんだけどよ・・・出来れば服を着させてくれねえか?」


いつの間にか立ったまま寝ていたマルネス。その姿はやはり下着姿であった。自分の事を言われたと気付いたのか鼻ちょうちんが割れて不機嫌そうに周りを見渡す


≪どこだここは?飯か?≫


「朝飯食べたばかりだ、間抜け。今はお前の格好の話をしている」


≪んあ?格好?乳袋と股隠しはしてるだろうが≫


「だ、そうだ」


「良いのか?セガスでは慣れたかも知れないが、カダトースでそんな格好の幼女連れてたら変態って思われるぞ?」


「・・・」


≪はん!言いたい奴には言わせておけ。妾は別に・・・ヒャッ≫


「着るか斬られるか選べ」


変態を襲名する気はサラサラないクオンが風斬り丸の剣先をマルネスに向ける。尋常ではない殺意にマルネスは無言で頷くしか出来なかった


こうしてドラゴン調査隊の護衛任務を引き受ける事となり、ファナスの希望で今日の午後に出発する事となった


屋敷の掃除の達成料を受け取り、クオンとレンドが旅の買い出し、マーナとマルネスが服を買いに行くこととなった。マルネスはクオンと一緒に行くと駄々をこねるが、再び剣で脅され渋々マーナと服屋に赴く


≪この格好の何が悪い・・・動きやすくていいではないか≫


「男は毎日同じ格好ですと飽きてしまうのですよ。クオンも例外ではないかと」


≪・・・マジ?≫


「マジです」


それ以降、マルネスは必死で服を買い漁る。マーナのアドバイスを聞きながら・・・


昼食を取るために合流地点を決めていたのだが、その場所に訪れたマルネスの荷物の量は軽く彼女の身長を超えていた。マーナはげっそりし、マルネスは満面の笑顔だったのが印象的だった


既に購入した服を着用していたマルネスはチラチラとクオンを見る。評価してくれアピールだ。首元の襟元部分だけが白く、あとは全て黒いゴスロリ調のワンピース。足は白いタイツを履き黒い靴を履くマルネスは人形のような顔立ちも手伝って、まるでどこかの令嬢のような雰囲気を醸し出す


ほれほれとアピールするマルネス。変態と呼ばれるのは避けたいクオンは脱がれては元も子もないと仕方なく評価する


「だいぶマシだな」


その言葉を聞いて鼻息を荒くするマルネス。そんな言葉でいいのかと呆れるレンドとマーナをよそに道端でファッションショーを始めようとするマルネスを止め昼食を取った


ギルドに戻ってファナスと合流し、用意されていた馬車に乗りいざカダトースへ


馬車の中、昼食を取ったばかりのマルネスがしきりに腹減ったと繰り返し訴える


「クロフィード様、さっき食べたばかりですよ?」


≪うるさい・・・減ったものは減ったんだ≫


「魔力切れだ」


「へ?魔力切れ?」


「魔族や魔物は動くだけで魔力を消費する。人の世は魔素が少ないから取り込める量と減る量では減る量の方が大きい。特に黒丸クラスになると力が強い分魔力の消費が激しいからすぐに枯渇してしまう・・・だから木刀に姿を変え、消費を抑えてるんだ」


「なるほど・・・でも、魔力が減ると腹が減るんですか?」


「いや、その表現は魔力の摂取の仕方からきてるんだと思う。大気中の魔素以外で魔力を補充する方法・・・それが魔力を保有するもの摂取だからな」


「魔力を保有するものの摂取?」


「つまり魔物を喰らうって事だ」


保有魔力の少ない魔物は大気中の魔素で事足りる。しかし、保有魔力の多い魔物は大気中の魔素だけでは足りなくなるので魔力を保有する魔物もしくは人を喰らわねば生きていけない


「ギフト持ちは魔力があるからな。魔物的には美味そうに見えるらしい。特に俺はご馳走に見えるらしく、ドラゴンにはかなり好かれていた・・・食材って意味でな」


「だから、気が進まないって言っていたんですね・・・って、クオンさんドラゴンと遭遇した事があるんですか!?」


「あるぞ?たまに匂いに釣られてやって来る・・・とてもウザイ・・・黒丸、とりあえず戻れ」


クオンが手を差し出すとマルネスは力なく頷き木刀に変化した


「・・・そうなると中型クラスの魔物が食い散らかされていたのって・・・」


「魔力切れの魔物・・・更に言うなら中型クラスを捕食出来る魔物が居るって事だな」


ドラゴンが居なくともそれに近い存在がいるという事を想像し、レンドとマーナは身震いする


「餌が足りてればいいけど、喰い尽くしていたら・・・餌場を広げ、下手したら街も餌場になるかもな・・・」


一刻も早く調査が必要なのはその為。今更ながら今回の任務がどれだけ重要なのかを知る事となった2人はどうか前回の調査隊の聞き間違えであるようにと祈るのであった



夕方近くになり、ようやく馬車はカダトースの街に到着した。そのまま馬車は街中を走りギルド前で停車する


「あ、あれ?もう1人の子は?」


4人乗りの馬車なので行者の隣に座ってここまで来たファナスには馬車の中の会話は聞き取れておらず、いつの間にか居なくなっていた人形のような幼女の姿を探す


「大丈夫だ・・・後で合流する」


何が大丈夫なのかは説明せずに適当に流すクオン。実はマルネスが魔族である事は説明していなかった。その為今から説明するとなると時間もかかり、ようやく木刀化したのにまた表に出さないといけなくなるのがとても面倒と考えたからだ


「そ、そうですか。まずはギルドマスターの所へ」


カダトースのギルドの中に入るとほとんど人が居らず備え付けのテーブルに座る2人とギルドの受付嬢しか居なかった


テーブルに座る2人・・・1人は腕を組み眉をひそめて目を閉じ、1人は両目を隠すように布を巻き、起きているのか寝ているのか分からない状態だった


受付嬢は入って来た4人の存在に気付き、先頭にいたファナスに声をかけると、そのやり取りを聞いて腕を組んでいた男の方が片目を開けて4人を見る


「・・・やっとか。グズグズしおって」


テーブルに手を付き立ち上がると男は4人に近付きファナスの連れて来た3人を品定めするようにジロジロと観察する


「この2人は・・・ちっ・・・コイツは・・・読めない?」


ブツブツと言う男を放っておいてギルドの受付嬢が呼びに行ったギルドマスターを待っていると2階からそれらしき妙齢の女性が降りてくる


「デラスさん、そんなに人を見ては失礼ですよ?」


「こっちは命を預けるんだ!それに散々待たせておいてなんだコイツらは!?とてもAランクの代わりになるとは思えん!」


デラスと呼ばれた男、今回の調査隊のメンバーで年の頃なら50前後の白髪の男性で常に眉間にシワを寄せ不機嫌そうな顔をしていた。メガネをかけ、その奥から鋭い眼光を降りて来たギルドマスターへ向ける


「その方達は5m級の女王アントを苦もなく倒した強者達と聞いております。それにウチのギルドからもDランクとCランクの冒険者も付けますし調査に行く渓谷なら平気かと」


本当だったらAランク冒険者であるエリオットを護衛に少数で調査に向かってもらう予定だったのだが、エリオットが行方知れずの為に冒険者の数を増やす事により補う事にしていた


「ふん!とてもそうは見えないが・・・だが、時間に猶予がない・・・貴様ら明日は私達を死ぬ気で守れ!いいな!」


鼻息荒くギルドをと出て行くデラス。その声で起きたのか目を布で隠した男が布をズラしてクオン達を見るとニコリと笑い無言でギルドを出て行った


「すみません、遥々来て頂いたのに・・・私はカダトースで冒険者ギルドのマスターを務めていますエンリ・メクロと申します。今回は無理なお願いをお聞きいただきありがとうございます」


丁寧にお辞儀しながら3人に挨拶したエンリは今回の経緯を改めて話し、協力を仰いだ。もちろんここまで来て断る事などせず承諾すると明日の朝に出発する旨を伝えられ宿屋に案内される


1度荷物を置いて宿屋の1階にある食堂で夕食を済ますとそのまま床につき、翌朝も食堂で朝食を軽く済ませてギルドへ


ギルドに入ると中央にギルドマスターのエンリと昨日のデラスと布目男、それに冒険者と思われる2人がクオン達を迎える


「・・・この3人がセガスの?」


「そうよ、ゲイン。セガスのギルドより来て頂いたレンドさん達です」


「Eランクのレンドです」


「Eランクのマーナです」


「クオンだ」


「・・・は?Eランク?」


ゲインと呼ばれた男の後ろにいた男がレンド達のランクを聞き前に出る。足の先から頭のてっぺんを舐めるように見回した後に床に唾を吐いた


「冗談じゃねえぞ!こんな雑魚と一緒に行けるかよ!サラニス渓谷舐めてんのか?」


ドラゴンがいるとされている渓谷はサラニス渓谷と言い中型クラスの魔物が出る場所となっており、Dランク以上の冒険者が行く場所。そこに探索に行くのにEランク冒険者では護衛は務まらないと言うのは至極真っ当な意見だった


先頭に立つレンドをリーダーとして見たのか、その力量を測るように観察して出した答えが『雑魚』だった


「モリス・・・彼らは5m級の女王アントを・・・」


「エンリ婆!そんな嘘か本当か分からない話なんか聞いてねえ!俺ァコイツらに命を預けるなんてまっぴらゴメンだぜ!」


≪やいのやいのとうるさいのう。うるそうてオチオチ寝てられはせん≫


「なっ!?誰だ・・・お、まえ?」


突然現れたゴスロリ幼女。欠伸を手で隠しながらイマイチ状況が飲み込めず辺りを見回す。目隠し男、白髪ジジイ、ごつい男にチンピラ男、優しげなオバサンが初めて見る顔。だが、興味無さそうにクオンの元に戻ろうと踵を返すとモリスが背中を向けたマルネスの肩を掴もうとする


「なんだお前・・・ぐはっ」


肩を掴もうとした手を逆に掴まれ、そのまま手首を返され一回転、地面に背中を打ち付ける


無様にマルネスを見上げる形になったモリスはまるで虫けらを見るかのような視線をマルネスから感じ、呟いた


「・・・惚れたぜ」


マルネスは背中にモリスの顔をした虫がワサワサと這いずる感覚に陥り、この意味の分からない生物を避けてクオンの背中に逃げ込む。レンドとマーナもモリスの視線からマルネスを守るように立ち位置を変えた


「背中越しでモリスをひっくり返すとは・・・何者だ?」


「まぞ・・・クロフィード様よ!物凄く強いんだから!」


「そ、そうだ!お前らなんか目じゃないぞ!だからクロフィード様に近付くな!」


事も無げにDランク冒険者をひっくり返したマルネスを興味深そうに見るゲインに2人が更に警戒を強めると、ゲインは口の端を上げてニヤリと笑う


「クロフィード()か・・・なるほどな」


2人のマルネスの敬称で何かを感じ取ったゲインはそれ以上何も言わず自分の荷物を肩に担ぐ


「レンドとマーナと言ったな?デラス殿とファーレン殿の荷物を持て。ほれ、モリスいつまで寝てる気だ。行くぞ」


急に仕切り出したゲインによって自己紹介も中途半端にドラゴン調査隊は動き出す


言われた通りレンドとマーナはデラスと布目隠し事ファーレンの荷物を受け取り、モリスは打ち合わせしていたのか隊の後ろに回った。先頭ゲインにデラスとファーレンが続き、その後ろにレンドとマーナ、それにクオンとマルネス、最後尾にモリスといった隊列となる


モリスは最後尾から度々マルネスに話しかけては撃沈していた。マルネスも欲情を向けてくる相手ならば容赦しないのだが、モリスのは純粋な好意の為無下にも出来ず、かと言って相手にする気はサラサラないので無視を決め込んでいた


懸命に話しかけてくるモリスにいい加減キレそうになった時、先頭のゲインが手を上げて、停止の合図を全員に送る


縦に伸びた隊列がゲインが停止した事により集合する形となり一旦円陣を組む。そして、神妙な面持ちでゲインは口を開いた


「おかしい・・・既にウォーウルフの縄張りに入ってるにも関わらず全く気配を感じない。それどころか他の魔物や動物までもが姿を見せない」


渓谷まで1km程の所まで来たにも関わらず今まで出会った魔物は居らず順調に進んでいたが、冒険者として何度か来たことあるこの場所に異変を感じていた。護衛役としては楽なのだが、あまりにも生物自体の息吹が聞こえず不安になる


「うーん、確かにおかしいな。俺も何度か来たことあるけどさすがに1匹も出くわさないのはおかしい」


「ファーレン殿、見れますか?」


「うん、ちょっと見てみようか」


モリスもゲインの違和感に同意し、それを受けてゲインはファーレンに頼む


ファーレンは承諾すると少し離れた大きめの岩の上に立ち、目隠ししてある布を取り外した


岩の上で周囲を見渡し、360度見終えると岩から降りて戻って来る。そして、首を振りながら開口一番出た言葉が「いない」だった


ファーレンはギフト『千里眼』を用いて周囲を観察していた。遠くのものを見る力、単純だが索敵においては無類の力を発揮する。その千里眼がドラゴンどころか魔物や動物さえも見つけられないのは確かに異常事態であった


千里眼でドラゴンの姿さえ確認出来れば調査依頼完了で街に引き返す事も出来るが、その姿が確認出来てないのであれば進むしかない


一行は覚悟を決め更に奥へと進んでいく


「まだ見えませんか?」


「・・・遮蔽物が多過ぎます。それに相手があまりにも強大な力を持っていますと気配を遮断されてる場合も・・・やはり目視できる距離に行かなくてはダメかも知れません」


ゲインが再度ファーレンの千里眼を頼るが、返ってきた答えは芳しくなかった。元々デラスは目視するつもりでいたため気落ちせず俄然やる気だが、護衛の者達とファーレンは表情に影を落とす


≪ところで・・・どこに向かっておるのだ?≫


「え?」


場違いなマルネスの質問に一同は目を丸くしてマルネスを見る


魔力切れ状態であったマルネスは今回の依頼の話を全く聞いておらず、ただクオンに着いてきているだけでこの隊がどこを目指し何を目的としているのか全く分かっていなかった


「クロフィード様、半端ねえっす!」


いつの間にか下僕のような立ち位置のモリスがマルネスを讃えるが、何が半端ないのかよく分からない。この会話は先頭を行くゲインの耳にも入りその足を止めた


「ふぅ・・・ギフト持ちと思い何も言わなかったが、少々自覚が足りぬようだな」


振り返りマルネスを睨み付ける。荷物を置いてマルネスの前に立つとその小さい体を見下ろした


「従者を従えて冒険者をする・・・その身で5m級の女王アントを倒すと聞いて期待していたが・・・自覚のない者に護衛など務まらん!早々に立ち去るがいい!」


「じ、従者?」


≪ギフト?≫


ゲインの言葉にレンドとマルネスが首を傾げる。レンドはいつの間にか従者認定されてるのは荷物を持たされてる自分達だと気付き、方やマルネスは人間の劣った力を持ってると言われて理解に苦しんでた


「まさかギフトすら・・・」


≪スン・・・スンスン・・・なんだ、懐かしい匂いがするのう。この先から≫


ゲインを無視して突然マルネスが指差した場所はドラゴンがいるとされている渓谷だった────


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