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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『操るもの』
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3章 12 魔物掃討作戦②

「顎がぁー顎がぁー!」


ゴロゴロと顎を押さえながらのたうち回るマルネスを無視してクオン達は今日の予定を話し合う。レンドの剣の購入、フード付きのローブの購入、明日の携帯食の購入などの買い物とチリの所にいるアースリーの様子を見に行く事になり、各々が準備を開始する


特に準備のなかったマーナとステラが転げまくるマルネスをぼーっと眺めていると恥ずかしくなったのかスクッと立ち上がりスカートについたホコリを叩く


「・・・なんだ?」


「何でもないです・・・」


気まずい雰囲気の中、男達よ早く戻って来いと願うマーナにマルネスはソファーに座りテーブルに頬杖をつくとニヤニヤと笑う


「そろそろ他の男を探したらどうだ?妾とクオンの間に入り込む余地などないと薄々気付いておるだろう?」


「確かに()()難しそうですね」


「含みのある言い方だのう・・・今後に何がある?」


「クオンの中にあるマルネス様の核・・・それが取り除かれた時、果たしてクオンはマルネス様を傍に置きますかね?」


「・・・ど、どういう意味だ?」


「そのままの意味ですよ。今は一心同体と言えるほどの絆があっても、核がなくなればどうだか・・・もしかしてマルネス様とクオンって核を預けた預けられた()()の関係なんじゃ・・・」


「そ、そんな事はない!」


「どうですかねー」


クオンとの馴れ初めを話し、絆の深さを教えようと思いきや逆手に取られるマルネス。思うところがあったのか動揺し視線を泳がせる


アンズの言った言葉も重くのしかかり、性に興味津々な年頃のクオンが手を出さないのは何が原因かと頭の中で考える。今までは幼女の姿が原因と考えていた。核が戻りさえすれば元の姿に戻る為、野獣のように襲いかかって来るだろうと内心核の戻りを待ちわびていた


しかし、本当の所はどうなのだろうか?


魔族の身体ならば人とは違い幼女姿でも多少の無理が効くことはクオンも知っているはず・・・ならば幼女姿に欲情しても良いはずなのだ。健全な青年なら手を出して来ないのはおかしい・・・それに周りにはクオンに好意を持っている女性も多い。ジュウベエ、ニーナ、マーナ・・・そして、アンズ・・・みんな女性のマルネスから見てもそこそこのレベル・・・それらにすら手を出さないとは・・・


「・・・もしや不能?ガンッ!」


「誰が不能だ。誰が」


後ろに居たクオンに気付かずにマルネスが呟くと脳天にゲンコツが降り注いだ。マルネスは勢いでテーブルに頭を打ち付け額と頭を押さえながらテーブルの上を転げ回った


「レンドは?まだか?」


「え、ええ。もしかしたら・・・昨日買った服を着てるのかも・・・」


顎に脳天に額にと散々なマルネスを見て流石に不憫に感じたマーナだったが、転げ回る姿があまりに可笑しく、口な手を当てて笑いを堪える


そうこうしている内に2階からレンドが降りて来た。その姿はクザンが着ていた着流し姿で、昨日エリオットとマーナと出掛けた時に衝動買いした物だった


初お披露目で何か言われるかとドキドキしていたレンドだったが、居間の雰囲気が微妙であり何事も無かったようにスルーされ4人と1匹は出掛けることとなる


先ずは明日の作戦参加の為に必要な武器を買いに武具屋へと訪れた


シント唯一の武具屋であり広い店内に所狭しと武器や防具が並んでいる。店の奥にはこれまた大きい工房と試し斬りスペースが設けられていた


「圧倒されますね・・・何か剣の選び方でコツなんてありますか?」


「手に馴染むのが1番だな。手にしっくりくるかどうかは直感も関わってきてそれが愛着にも繋がるからな。重さは軽過ぎるのは良くないが、少し重いと感じても慣れてしまえばどうとでもなる。剣の形状はお好みだが・・・長く使いたいなら両刃のショートソードかな。場所を選ばないし耐久性に優れてる」


店内を見回しながらレンドがクオンに聞くとショートソードが並ぶ棚を指さしながら答えた。それを聞いたレンドが少し言いづらそう違う棚を見た


「あの・・・剣はどうでしょうか?」


レンドが見ていたのは片刃の剣、刀が並ぶ棚だった


「お前その格好・・・そういう事か。止めておけ。刀は刃のない方、棟の部分で受けると折れやすい。長所もあるが、その短所が大きすぎて慣れてないとすぐ折るぞ?」


「長所は?」


「斬れ味が両刃の剣と段違いだ。元々片刃にした理由が斬れ味向上の為だからな。達人の刀使いは魔力を込めなくても魔法を斬ったらしい。後は両刃の剣より空気抵抗が少なく剣速が出やすい・・・クゼン程の手練ならまだしもいきなり刀はハードル高いぞ?」


「・・・ですか・・・」


明らかにテンションが落ちるレンド。ディートグリスでクゼンの戦ってる姿を見てカッコイイと思ってしまい、昨日はクゼンの着ていた着流しに良く似たものを衝動買いしてしまった程だ。これで刀も・・・と思っていたが、あっさりと止められてしまう


「おう、クオン!それは決め付けってもんだぜ!」


店員と思わしき厳つい男が店の奥から顔を出しニカッと笑う。店員らしくエプロンは付けてるものの筋骨隆々でどこから見ても冒険者か山賊だ


「バイアン・・・お前アレを売りつける気か?」


「けっ、やっぱ知ってて勧めなかったか。俺の打った最高傑作・・・『鬼包丁』をよ!」


「当たり前だ。しかも、アレは刀とは言えん」


「んだと!?」


厳ついエプロン男、バイアンがクオンに食ってかかるがクオンは気にせず歩き出す。そして、1本の刀の前で立ち止まるとレンドに視線を向けた


「レンド・・・持ってみな」


レンドが言われるままクオンの傍まで歩きその刀を見た


他の刀とは明らかに異質な刀。確かに片刃であるが先端が尖っておらず長方形、かなりの厚みがあり、棟を打たれてもそうそう折れそうにはなかった


「な、何ですか・・・これ?」


「おう!聞いて驚け!10代目バイアンこと俺が打った『鬼包丁』とはこれの事よ!」


「ちなみに俺の持つ神刀『絕刀』は初代バイアンが打ったとされている」


「は、はあ」


「神刀・・・ね」


クオンが腰にある剣を抜き、レンドに見せながらバイアンの言葉を補足するが、バイアンはそれを見て目を細める。レンドはそう言われましてもと戸惑っているとクオンが『絕刀』をしまい、『鬼包丁』に手をかけると棚から取り出した


「遂に買うか?クオン」


「買わん。この男・・・レンドに試し斬りさせても?」


「・・・構わんが結果は見えてるぞ?」


「物は試しだ」


「え?え?」


よく分からないまま『鬼包丁』の試し斬りをする事になったレンド。場所を移動する際、一体いくらなんだろうと『鬼包丁』の置いてあった場所の値札を確認するも値段が書いていなかった


首を傾げるレンドにクオンは行くぞと急かし、試し斬り出来る広場に来た3人。藁人形に木人形、それに鎧を着けた木人形が三体立っていた


「試し斬り1回1000ゴルドなんだが・・・今日はクオンの顔に免じてタダでやらしてやる。ただしお前さんはアレだ」


バイアンが指したのは藁人形。流石に木人形でもそこまで太くないので斬れると思ったが、タダなので贅沢は言えないと頷きクオンから『鬼包丁』を受け取った


「うわ!」


『鬼包丁』の重量で身体が傾く。とても片手では持てずに両手で持ち、何とか上段まで上げれたのだが身体がふらついてしまう


「レンド!身体強化!」


クオンに言われてすぐに魔力を流すと身体のふらつきはピタリと止まり、やっとまともに藁人形の前で構えを取れた


「ほう・・・そこそこ・・・」


バイアンは呟くと表情は変わり真剣な眼差しでレンドと『鬼包丁』を見つめた


レンドは1度息を吐き、再び吸い込むと息を止め、一気に『鬼包丁』を振り下ろした


ザクッという音と共に藁人形は斜めに斬り裂かれ、半身を地面に落とす


レンドは『鬼包丁』が地面に当たる前に止めようとするも勢いと重量に耐えきれず盛大に地面を抉ってしまった。値段の分からないバイアンの最高傑作を地面に叩き付けてしまった事に青ざめて振り返るとバイアンは特に気にした様子はない


「それぐらいで刃こぼれするほどヤワな作りじゃねえ・・・だが、やはりお前さんには売れねえな」


バイアンは言うとレンドに近付き『鬼包丁』を受け取るとクオンへと放り投げる


「・・・おい」


「たまには『鬼包丁』のイキイキした姿が見てえ・・・そこの使って良いから試し斬りしてみな」


クオンが受け取るとバイアンが指さしたのは鎧を着けた木人形。レンドのイメージでは普通の木人形なら余裕で斬れそうだと感じたが、流石に鉄の鎧は・・・と心配していると、クオンはため息をついて左目を開けた


身体に魔力を流し、『鬼包丁』を持ち上げると肩に乗せる。そして、バイアンの指した鎧を着けた木人形の前で構える


レンドとは違い片手で持ち、一瞬肩を浮かせるとその勢いで『鬼包丁』を振り上げ、振り下ろすタイミングで両手で持ち一気にレンドと同じく斜めに斬りかかる


キンと高い音が鳴り、地面スレスレで『鬼包丁』を止めたクオンが姿勢を戻すと鎧を着けた木人形は斜めにズレ始め地面へと滑り落ちた


「満足か?」


クオンはバイアンに『鬼包丁』を投げ返すとバイアンは受け取り、満面の笑みで頷く


「やはり・・・クオンにならタダで譲ってもいい」


「いらん」


クオンがぶっきらぼうに返答しレンドを見ると、レンドは自分の斬った藁人形とクオンの斬った木人形を交互に見つめていた


「クオンさん・・・どうすれば・・・」


レンドには何をどうすれば同じ刀でここまでの差が出るのか検討もつかなかった。一つだけ分かったのは魔力の使い方ではない・・・それが分かった為に逆に混乱してしまう


「そうだな・・・バイアン、刀匠としてどういう剣士にその『鬼包丁』を使われたいか教えてくれないか?」


「あ?・・・ったく、しゃあねえな。俺はこの『鬼包丁』に魂を込めた。言わばコイツは息子みてえなもんだ。だから『鬼包丁』を対等な・・・相棒のように扱ってくれる奴に預けてえ・・・ただの斬る道具としてじゃなくてな」


「それにしては酷いネーミングセンスだな」


「うるせえ!・・・お前さんはコイツの呼吸を感じたか?ただ闇雲に振るだけなら誰でも出来る。そして、振られた刀はただの鉄の塊よ。呼吸を感じ一心で振れば刀は刃となり敵を斬り裂く」


レンドはジュウベエが模擬刀で大木を切り落としていたのを思い出す。使い手によって刀はなまくらにも名刀にも成り得る。もし自分が刀鍛冶だったらバイアンと同じく名刀を名刀として使ってもらいたいと思うのは当然だろうとレンドは納得した


「ん?」


自分にバイアンが作った刀や剣を扱えるだろうかと心配になりとりあえず店内に戻ろうとした時、試し斬りの場の壁に無造作に立て掛けてある刀に気が付いた。10本程ある刀の形は全て『鬼包丁』と同じで、少し小振りになっている


「バイアンさん、アレは・・・」


「あ?・・・ああ、娘の作った失敗作だ。生意気にも『鬼包丁』を模してるのが笑えるだろ?」


「いや・・・ハハハ」


何故か気になり愛想笑いをしながら刀に近付くレンド。1番気になった刀を手に取りマジマジと見つめる。確かに『鬼包丁』に比べると荒々しさが目立つように感じる。だが、妙に手にしっくりくるのが気になり何度か刀を振ってみる


「おいおい、それは・・・」


「ちょっとあんた!何勝手に触ってんだい!」


隣接された工房から出て来たのは作務衣姿にタオルを頭に巻いた20代の女性。レンドの持つ刀を指さして怒鳴りながら近付いて来る


「あ・・・いや・・・」


「マツ!客だ・・・しかもクオンの連れて来たな」


「クオン?・・・なんだい、とうとう親父の『鬼包丁』を受け取りに来たのかい?」


「違うから・・・それよりマツ・・・すまん、『風斬り丸』は折れた」


マツと呼ばれた女性はバイアンの実の娘で刀鍛冶士。そして、『風斬り丸』の製作者でもある。マツが剣を作り、フウカが付与した『風斬り丸』・・・それをアカネの護衛をする事になったクオンにお護りとして渡していた


「あー、だろうね。アレはクオンには向いてないし、付与を意識した分耐久性に欠けていた。半端なもんは出したくなかったけどフウカにせがまれてね」


「お前・・・お陰で俺はフウカに殴られてお星様になりかけたぞ?」


「はん!それでも折らないのが一流だろ?剣のせいにしてんじゃないよ!で、そこのアタイの出来損ないを持ってるのは誰なんだい?」


訝しげな表情でレンドを見るマツにクオンは簡単な紹介を済ませて自分に合う剣を探す為に来たことを告げた


「ふぅーん、で、なんでそんな失敗作を触ってんだい?」


「失敗作・・・いや、僕には何だか・・・」


「何だか?」


「あ・・・何となく・・・」


「何となく?」


見るからにイライラしてきているマツに対して間に入ろうとしたクオンをバイアンが止めた。クオンがなぜと視線を向けるとただ首を振りその視線に応える


「要領を得ないね!何が言いたいんだい!?」


「その!・・・一目惚れと言うか・・・なぜだか気になってしまって・・・手に取ったらやっぱりしっくり来るって言うか・・・」


「その失敗作が?」


「失敗作なんてとんでもない!・・・いや、刀の事はよく分からないのですが、僕にはとっても光り輝いて見えまして・・・」


「ふぅーん・・・なら試しに使ってみたらどうだい?木人形が一体残ってるだろ?・・・てか、本当なら試し斬りもタダじゃないんだからね!こんなスパスパ斬りやがって!」


「す、すみません」


レンドは謝りながらもマツ曰く失敗作と言われた刀を試せる事に興奮していた。刀を握り締め、木人形の前まで歩くと身体に魔力を流し片手で持ち上げて肩に乗せる


一呼吸つくと目を閉じて先程のクオンの姿を思い浮かべる。肩から一気に振り上げ、振り下ろすタイミングで両手に持ち構えて一気に振り下ろす。剣筋は木人形の肩の部分から斜めに斬り込む袈裟斬り・・・頭の中でイメージが固まり、目を開けると一気に刀を振り上げる


『鬼包丁』よりは軽い。しかし、それなりの重量がってある為に片手ではすぐに限界が来た


振り下ろす前に両手に持ち替え、何とか振り上げきるとそのまま一気に振り下ろす


予定していた軌道とは異なり、重量により真っ直ぐに近くなり木人形の腕の部分を切り落としてそのまま地面に打ち付けてしまった


「なんだい、そのへっぴり腰は!アタイの方がまだ上手く扱えるよ!」


「うっ・・・」


「出来損ないを打ったてめえが何を言ってやがる。剣技は世辞にも上手いとは言えねえが・・・なるほど・・・クオン!斬り方ってのを教えてやれ・・・もう一度だ!」


バイアンが言うとクオンは頷きレンドの元へ。そして、レンドに先程と同じ構えをするように言った


「こ、こうですか?」


「構えは・・・まあ、さまにはなってる。身体強化は少し高めにして振り上げる瞬間に肩を少し上げるんだ。初速が変わり安定もする。ただ肩を上げた時に姿勢を動かさないように注意し、少し前のめりになった方がより安定する。後は木人形を目で追うのではなく心の中で捉えろ。目を閉じてもハッキリと見えるようにイメージし、斬った後は刀を止めるのではなく斬った後の態勢をイメージして前に力を送れ。で、そのままの姿勢を維持」


「・・・は、はい!」


レンドは再び木人形の前で構えるとじっと木人形を睨み付けて目を閉じる。クオンの言われた通り目を閉じても木人形の存在が分かるまでイメージし続けた


ぼやっと木人形の姿が浮かんで来た瞬間、自然と肩を上げ刀を跳ねさせるとその力を利用して振り上げた


今度は上手く片手で刀は上がり、目を閉じたままイメージした木人形に振り下ろす


斬ったら止めようとせず前へ・・・その意識が足を踏み出させ身体が自然に木人形へと近付いていた


今度は上手く地面に打ち付けなかったと思い目を開けるといつの間にか両手で刀を握っているのに気付く。五十式はしていなかった。ただ振り下ろした後の態勢をイメージしていたら自然に空いていた手は刀を握っていた


「あ、あれ?」


ふと木人形が気になり見てみると先程の状態から変化がない。まさかの空振りと思っていると木人形の上半分が斜めにズレ始め慌ててレンドは木人形から離れた


「見事だ。相性良いじゃねえか」


バイアンは満足気に頷くが、納得出来ないのはマツだ。失敗作と断じていた刀で剣技がそこそこの男に上手く扱われたのだから理解出来ない


「ちょっと!何なんだい!さっきのへっぴり腰は演技だったとでも!?」


「いや・・・あの・・・」


「マツ!お前が何で失敗作としたか言ってみな」


「・・・それは・・・特能を付与しない最高傑作と言わしめる剣や刀は純度が90%、残り10%は魔力を流す為の余地として組み込む・・・けど、その刀は純度は90%だが、余地は10%未満・・・つまり全部合わせて100%に満たない不出来な刀さ」


レンドは前にクオンに聞いた事を思い出す。確か鍛治職人必須のギフトがってあると・・・確か・・・


「『職眼』・・・」


「うん?ああ、知ってるのかい?その『職眼』で途中経過も見れるが焼き入れした瞬間に変化が起こるから博打みたいなもんだね・・・途中まで完璧でも焼入れ後になまくらなんてのはよくある話しさ」


「その・・・残りの数%って何なんですか?」


「余地が更地なら、残りの数%は荒地。上手く魔力を流せなかったり、強度に影響してくる。壁紙を糊付けした時の気泡みたいなもんさ・・・見映えが悪いばかりかそこから破けてしまう可能性がある」


「荒れ地・・・もしかしたら・・・」


「そうだ。その荒地が上手くお前さんに合った。だからしっくり来るんだよ。荒地が合うなんて早々ねえ・・・適当に切り刻んだ紙同士がピッタリと合うなんて奇跡にしか思えねえな・・・マツ、この刀をコイツに譲ってやんな」


「はあ?なんで!」


「処分せずにここに置いてた刀を見出したのはコイツ自身の力だ。それにお前の失敗作を業物の域まで持っていったのもコイツだ。この出会いを蔑ろにするのは刀打ちのする事じゃねえ・・・それぐらい分かるだろ?」


「だからって!・・・いつもいつも出会いとか運命とか・・・乙女かっ!」


マツは肩を強ばらせバイアンに詰め寄るが、バイアンは微動だにせずマツを見下ろす。お互い睨み合っているのを見てレンドは刀を握り締め意を決して叫んだ


「マツさん!この刀を僕に売ってくれませんか?」


「失敗作を売れだぁ?くれてやる気も売る気もないね!刀や剣なら他にいくらでもあるだろ?それを・・・」


「マツ・・・誰がお前に『鬼包丁』の看板背負わせた?」


「!・・・そういうつもりじゃ・・・」


頑なに売らないと言うマツに対してバイアンがため息混じりに言うとマツは視線を泳がした


「大方その『鬼包丁』を模した刀が世に出て不出来な印象を与えちまうと俺の『鬼包丁』の評価も下がる・・・とでも思ってんだろ?冗談じゃねえ・・・世間の評価なんてクソ喰らえだ。刀は芸術品じゃねえ・・・お前は名刀として飾ってもらったら満足か?ちげえだろ?使ってもらってなんぼなんだよ・・・俺らは使い手が欲しがる刀を打ち、使い手は自分が気に入った刀を選ぶ・・・ただそれだけだろ?」


「・・・」


「お前も本当は失敗作なんて思ってないんだろ?本当に失敗作と思ってるならいつまでもここに置いておかずにさっさと溶かしたまうだろ?それに・・・完璧な刀なんてその年で作れねえ方がいい・・・ジュウベエの持っている『大虎太』や数々の名剣や名刀を生み出した初代バイアンが神刀『絕刀』を生み出した後・・・打てなくなった話は知ってるだろ?完璧なものを生み出しちまったら、次からの作品に納得出来なくなっちまう・・・極めたって言葉は聞こえはいいが、要は成長限界なんだよ・・・」


「・・・」


「俺の『鬼包丁』だって現時点の最高傑作だが、完璧じゃねえ・・・まだまだ荒削りな部分がある・・・俺だっていずれ到達してやるさ。神すら・・・」


「神すら?」


「・・・何でもねえ。で、どうすんだ?売るのか?くれてやるのか?」


「なんでその2択なんだよ・・・おい、あんた!その刀に幾ら出す?」


突然マツに聞かれたレンドは答えに戸惑う。刀の相場を知らないから下手な金額を言うとせっかく売ってくれそうな雰囲気なのに台無しにしてしまいそうだった。悩んだ挙句出した答えは


「僕の出せる金額全て・・・100万ゴルドでお願いします!」


マツに向かい頭を下げるレンド。チッと舌打ちが聞こえ、刀を奪われた瞬間にやってしまったと後悔する


「あんたどこに差すんだい?」


「・・・え?」


「惚けてるんじゃないよ!あんた刀を抜き身で持ち歩く気かい?鞘を拵えてやるからさっさと答えな!」


「!・・・それじゃあ・・・は、はい。前の剣は左腰に・・・」


「ふん!戦闘スタイルは?この刀は普通より若干重い・・・戦闘スタイルによっては背中にした方がいい場合もある」


「戦闘スタイルと言っても・・・特に・・・」


「特能は?身体強化を使ってたみたいだけど、そのまんま身体強化かい?」


「いや、ギフト・・・特能は持ってません」


「・・・は?だって魔力を・・・」


「魔力はクオンさんに器を開けてもらって・・・」


「え?」


「え?」


もしかしたら特能持ってない奴には譲れないとでも言われるのかとレンドは心配になるがそれは杞憂に終わった。何故かバイアンとマツがヒソヒソと話し始めると何かの結論に至ったのか2人は頷き合いレンドへと振り向く


「気が変わった。腰に差すにしても、背中に差すにしても、腰帯やベルトが必要だね・・・鞘だけ拵えるなら後で取りに来てもらおうかと思ったが採寸するからあんたは残りな」


「・・・おい、マツ・・・」


「クオンよ・・・自由だろ?」


「バイアンまで・・・ハア・・・」


「え?・・・え?」


レンドがやり取りの意味が全く分からずにキョロキョロしていると店内から騒がしい声が聞こえ、全員がその方向を見た


「ねえねえー!クオン、見て見てー!」


そこには店内で忘れ去られていた2人、マーナとマルネスが前後に立っており、前に立つマーナが店内にあったアンズが着けている下着のような鎧を着込み挑発的なポーズをとっていた。その後ろにもチラチラとクオンを伺いながら同じ格好をしたマルネスが自分の出番を待っている


「お前ら・・・」


「おいおい嬢ちゃん達、そいつは試着用だからあんまり動くと・・・」


バイアンが焦ってマーナに声をかけた瞬間、ガシャンと音がして胸に着けていた鎧が地面に落ちた


「・・・え?」


調子に乗って頭の後ろに手を回してセクシーボーズを決めていたマーナは何が起きたのか理解出来ずにそのままのボーズで固まる。クオンは顔に手を当てて盛大にため息をつき、レンドは白目を向け、バイアンはほほうと言いながら顎に手を当てた


「並だね。アタイの方が大きい」


マツの冷静な分析で我に返ったマーナが悲鳴をあげるまで、そう時間はかからなかった──────





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