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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『操るもの』
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3章 7 晩餐会①

レイナの死は事故として扱われたが、当事者の2人には罰が科せられた


クオンはまだ生徒の立場であった事もあり、情状酌量の余地もあった為に謹慎処分。ただクオンの両親が事態を重く見て学校を辞めさせた。義務教育なので続けるべきという意見もあったが、元々ケルベロス家は厳密に言うとシントの国民では無いために義務も発生しないと突っぱねた


フェイスンは講師にあるまじき行為があったと見なされ、講師資格剥奪。グレイス家は代々講師を務める家柄で講師の資格を剥奪されたフェイスンを勘当。以降フェイスンの姿を見たものはいない


今回の事件が起こった経緯を知った王になる前のウォール・シンが激怒し徹底的に調べあげ、父である現国王ウォール・フェンに告発。それによりケルベロス家排斥派は求心力を弱め、表舞台から姿を消した


元々はせいぜい陰口を叩く程度の派閥・・・それを言わなくなっただけで根は深いと感じたシンは自らが王になった時に改革する事を決意する


クオンは謹慎中、自宅でこれからの事を父モリトに説明された


本来ならば12歳で卒業した後にお務めをする予定だったのだが、学校に通えなくなった今、クオンもお務めをするように言われる


お務めとは神扉の番。ただし何をする訳でもなく、ただ神扉の前に居るだけである。もちろん有事の際は身を呈して働かなければならないが、神扉が出来てから何も起こった試しはない


そして、そこで初めてお務めの意味を聞かされる


神扉の番とは、神扉の先に居る魔族からの襲撃に備えているのではなく、魔族を守っているのだと


ケルベロス家の祖先と言って過言ではない原初の八魔の一体、アモンの力を受け継ぎ、アモンの遺志を引き継いでいた


人より遥かに強力な魔族を守るというのはおこがましいのだが、それでもケルベロス家はひたむきに魔族を守り続ける


「我々の役目は魔族が神扉に近付いたら、警告すること。神扉はアモンが残した結界だ。それも魔族と魔獣だけが通れない結界。それを知らずに通ろうとすると最悪死に至る。なので、近付かないように警告、近付いて来たら特能で追い返せ。それと万が一結界が壊れるような事があったら魔族の侵入を阻止しろ。人と魔の共存していた時代と違い、魔族は人にとって敵となっている。それは昨今魔王と名乗る魔族が度々現れては人類の脅威となり、倒せてはいるものの被害は甚大、それ故に魔族イコール人類の敵というのが根付いてしまった。魔族が人の世に侵入すれば魔族というだけで討伐対象になりかねない・・・人の為・・・魔族の為に侵入を阻止するんだ。分かったな?」



こうしてしばらくクオンは謹慎した後にお務めへと駆り出された


最初はモリトとリナについてお務めし、しばらくすると1人でお務めするようになる


何日か1人でこなしていたクオン


考える事はいつもレイナの事だった


約1年間毎日のようにレイナに教わり、話をし、褒められた。そんな毎日を振り返りお務めをしていると、レイナの教えの中で気になる事があった


原初の八魔の話・・・その中で出てきた原初の八魔の一体『白』の話


魔族同士では子を成せない為に魔族を生み出している『白』


生命を創造・・・レイナの死。その2つがクオンの中で繋がる


もしかしたら原初の八魔の『白』なら、レイナを生き返らせられるのではないだろうか?もし『白』が無理でも生命の創造を教わり、アレンジすれば自分にも出来るかもしれない


クオンの頭の中でレイナの言葉が繰り返される


「今ある力が全てじゃない。それを覚えておいて」


「あなたのせいじゃない」


今現在死者を生き返らせることは出来ない。でも、今現在の能力が全てじゃない。そして、レイナが死んだのは紛れもなく自分のせい。人に向けて能力を発動するなと言われていたのにも関わらず使ったのが原因


クオンはおもむろに立ち上がると神扉に近付く


決してこの先へは行ってはいけないと口を酸っぱくして言われていたが、今はもうレイナを生き返らせる事しか考えられなかった


自然と神扉に手が伸びるとなんの抵抗もなく通過する。同じ地下なのにヒヤリとして身体を震わせた


怖さは確かにあった


しかし、それよりもレイナの散り際の微笑みがクオンの足を進ませる


しばらく歩くと10メートル四方の壁に到着する。その壁は漆黒に塗り潰され、時折稲妻が迸っていた


黒よりも黒いその壁は奥行きがあるのかどうかも分からない。ただ黒い・・・完全なる闇


クオンが近付くと稲妻が円を描くように迸り光の渦を形成する。クオンは躊躇なくその渦に触れると、引っ張られるように漆黒の壁に吸い込まれた


「ぐっ!」


耳鳴りと吐き気が襲ってくる。目を閉じて耐えていると徐々に耳鳴りと吐き気は治まり目を開けるクオン。眼前に広がるのは薄暗くゴツゴツとした殺風景な岩場だった


ここが魔の世という確証はなかったが、明らかに違うところが一つ・・・それは魔素の濃度。シントでも瞑想すると魔力が回復してるのを感じ取る事が出来る。しかし、今は瞑想をせずとも魔力が膨れ上がり溢れそうな感覚に陥る


≪あん?ガキがこんな所に?≫


どうすればいいのか分からずにウロウロしていると、それに気付いたものが近寄ってきた。腰に布を巻いただけの巨漢の男が物珍しそうにクオンに近付くと自分の顎を触り首を捻る


≪んー?おめぇなんかおかしいな≫


「な、何が・・・がっ!」


顔を近付けるなり巨漢の男は顎に当てていた手で拳を作ると裏拳でクオンを吹き飛ばす。突然の出来事に何も出来ず吹き飛ぶクオン。朦朧としながらも立ち上がり、何が起きたのか把握しようとするも男は既にクオンの目の前に立っており、クオンは恐怖で身構える


≪やっぱり・・・禁忌が発動しねぇ!おめぇ・・・人か!?≫


「えっ?・・・」


ようやくクオンは理解する。ここは魔の世であり、目の前の巨漢の男は魔族であると


≪マジかよ・・・俺にも運が向いてきた・・・とりあえず殴るか≫


「は?」


魔族の言葉は理解出来る。しかし、意味までは理解出来なかった


突然降り注ぐ怒涛の攻撃。クオンは両腕に魔力を込めて防御するも腕をすり抜けてきた拳がクオンの顎を捉えあっさりと気絶してしまう


魔族は気絶したクオンを見下ろすとヒョイと身体を持ち上げ肩に乗せるとそのまま走り出した────




≪暇だ。何かないのか?≫


金髪の美女があられもない姿で部屋に置いてあるソファーに寝そべり、机に向かって書き物をしている男に尋ねる。男は走らせていたペンを置き、ため息をつくと女を見る


≪君もやはり人の世に行くべきだった。そこで恥じらいというものを学べば今の格好が如何に恥ずかしいか知れただろう≫


女は胸と腰に布を巻き付けただけの格好をしており、その姿で寝そべっているものだから、色々な部分が見えてしまっていた。それでも隠そうとしない女に呆れた男が再びペンを持ちまた何かを書き始めた


≪おい、暇だ≫


≪・・・私は忙しい。他を当たって下さい≫


≪また何か催せ≫


≪話を聞いてますか?それに私が催した企画を散々楽しんだ挙句に虚仮にするのは君じゃないですか?≫


≪ふん!最初は新鮮味があって楽しいが、結局は毎回同じだ。もう少し頭を使え≫


≪そっくりそのまま返します。頭を使って暇を潰してください≫


≪頭を使ったからここに来た。何かないのか?≫


≪・・・≫


男が女の扱いに頭を悩ましていると部屋のドアが開け放たれ、現れた魔族が跪き伝令を口にする


≪ご報告致します。ダンクなるものがファスト様にお目通りをと・・・なんでも人を捕らえたとか≫


≪なに・・・人だと?≫


≪あるではないか・・・面白そうな事が≫


伝令の言葉に眉をひそめるファストと起き上がりながらニヤリと笑う女。伝令に来たものにすぐに連れてくるように伝えると、ファストは立ち上がる


≪マルネス・・・手出しするなよ≫


≪カッカッ・・・人などか弱きものに興味はない。そのものが起こすであろう騒動には興味あるがな≫


ファストが釘を刺すと魔族の女、マルネスが楽しそうに答えた。魔の世では陽が昇り沈むといった現象は起きない。常に薄暗い為に時間の経過が分かりにくい為にいつから暇していたかすら忘れてしまったマルネスは期待を込めて返事をした


しばらくしてドアが開け放たれ、ダンクとダンクの肩に乗せられたクオンが姿を現す。ダンクは部屋に入るなり肩に乗せたクオンを置くとその場で跪く


≪おい、コレは生きてるのか?≫


≪げ!?マルネス様・・・い、生きてます!生きてるはずです!≫


マルネスの存在に気付いていなかったダンクがマルネスを見るなり顔を引きつらせた。まるでいじめられっ子がいじめっ子に会ったような状況にファストが苦笑すると、ダンクに状況の説明を求めた


≪へ、へい。俺がぶらついてると偶然これを見かけまして殴って持って来た次第でさ・・・す≫


≪慣れない言葉使いはしないでもいい。ところでなぜ殴った?≫


≪いや、最初は禁忌が発動しないか殴って確かめて・・・その後はつい・・・≫


()()・・・か。ならば妾も()()貴様を消してくれよう≫


危うく楽しみを無くされそうになった事に腹を立てたマルネスがダンクの傍に立ち指先に魔力を込める。黒い玉が指先に現れるとダンクの顔が一瞬で青ざめた


≪ひっひい!待ってくれ!≫


≪マルネス、よせ!≫


「う、うーん・・・ん?履いてない?」


≪あん?≫


ダンクを消し去ろうと近寄ったマルネスの足元に転がっていたクオンが目を覚ます。そして、見上げるとそこにはマルネスがいてバッチリと腰巻の中身を覗いてしまった


≪履いてないとはなんだ?しっかりと腰に巻いているではないか≫


「いや、パンツ・・・」


≪パンツ?≫


「その・・・穴が・・・」


元来魔族は衣服など着けていなかった。それが人との交流の後、衣服という文化を持ち帰った魔族の手により広まり、現在は女性は胸と腰に、男性は腰に布を巻くのが流行っていた。ただ特に着ける意味が分からずに着けていた為に見えたからと言って恥ずかしくも何ともない・・・はずだった


≪あ、穴言うな!踏み潰すぞ!≫


と、顔を赤らめクオンの顔のすぐ横に足を踏み下ろすマルネス。石畳は砕け、もし顔面にヒットしていたら潰されていたとクオンは驚愕する


≪マルネス・・・君さっきからモロ見えだったじゃないですか・・・≫


≪お、お前らに見られるのとこのガキに見られるのでは・・・なんか違う・・・こう、なんかグッとくるものがある!≫


≪訳の分からぬことを・・・で、それは本当に人なのか?≫


≪へ、へい。さっき言ったように殴って確かめたら禁忌に触れなかったので間違いないかと・・・それで珍しいのでグルニカル様に献上しようとお持ちしました≫


≪ふむ・・・なるほど≫


ファストがチラリとクオンを見ると、ようやく起き上がり服を叩いてホコリを落としていた。出で立ちを見ると確かに魔族ではありえない服装を着こなし、腰には剣をぶら下げている。魔族で武器を持つものは少ない。服装からもほぼ人とみて間違いないだろうとファストが考えているとクオンはダンクに向き直り近寄っていった


「とりあえずお返しだ」


≪ああん?なんだ・・・グッ!グハッ!≫


クオンはダンクに魔力を込めた拳を放つ。鳩尾に一撃、その後下がった後頭部に向けて一撃。ダンクは勢いよく地面に叩きつけられた


≪ほう、やるのう≫


≪きさまぁ!≫


マルネスが感心しているとダンクが起き上がりクオンに襲いかかる。しかし、クオンの後ろでマルネスが指先で創り出していた黒い玉をダンクに放る


≪お主は少々黙っておれ≫


≪ヒィ!≫


黒い玉がダンクに近付く。それがなんなのかダンクは気付き死を覚悟して目を閉じると、一向に来ない衝撃にどうなっているのか確かめようと薄目を開ける


≪勝手な事をしないでもらえるかな?マルネス≫


黒い玉はダンクの目の前で止まっており、言葉から止めたのはファストである事を伺わせた。しかし、ファストはその場から動きもせず、魔力を使った痕跡はない為にクオンにはどうやって止めたのか想像もつかなかった


≪ちっ・・・お主の部屋である事を忘れておったわ≫


マルネスは舌打ちすると黒い玉を引っ込めて自分の後ろに漂わせる。何が何だか分からないクオンはマルネスとファストを交互に見ていると、ファストが微笑みクオンに話しかけた


≪ここに何用だ?人の子よ≫


「・・・原初の八魔の『白』に用がある」


≪なに!?≫


≪ほう・・・また古い呼び名を。『白』に会うためにここまで?何が目的だ?≫


「会って聞きたい事がある。居場所を・・・教えて欲しい」


≪・・・残念ながら私は知らない。知っていても教える義理はないがな・・・マルネスはどうだい?≫


≪・・・≫


≪マルネス?≫


≪ん?ああ、知らぬな。あ奴は人前に出る事を嫌う・・・見たのも()()()が最後だのう≫


「あの時?」


≪魔と人が断絶した時だ≫


「・・・」


もう何百年と昔の話・・・そんな時から会っていないと言われると改めて魔族が歳を取らないというのが現実味を帯びる


手がかりがないことに肩を落とすクオンにマルネスが口を開く


≪妾ならば探し当てる事が出来るやも知れん。どうだ?賭けをせぬか?≫


「賭け?」


≪小僧が宛もなく『白』を探し当てるなど不可能に近い。だから妾が手助けをしてやろう。ただし邪魔は入るがな≫


「?何を言って・・・」


≪ここにいるファストの手下共がお主を襲う。それを妾が守りながら『白』を共に探してやろう。幸い小僧からは良い匂いが漂っておる・・・襲われるには打って付けであるな≫


「意味が分からない。探すのを手伝ってくれるのは助かるけど、なんでわざわざ襲われないといけない?」


≪ごちゃごちゃと煩いのう。この世の魔族はアモンの施した禁忌のせいで同じ魔族には手が出せん。しかし、人である小僧になら手が出せる。これを利用せぬ理由はあるまい?妾を突破すれば小僧を喰らう事が出来、妾は小僧を守る為に暇を潰せる≫


「喰らうって・・・魔族って人を食うのかよ!」


≪勘違いするな。食うのは小僧の中にある核のみよ。まあ、取り出した瞬間にどうなるかは分からぬがな・・・見た限り人の肉など魔力が浸透してなくて不味くて食えまい≫


「核?・・・器の事か?」


≪呼び方など知らぬ。核は核だ。魔技を持たぬ魔族にとっても、自分の魔技に納得しておらぬ魔族にとっても小僧は大層な獲物に見えるだろう・・・いや、食事か≫


「このっ・・・」


≪本来ならこの場で取り出して奪い合いさせるのが面白そうだが、禁忌が邪魔でそれも叶わん。どうだ?ファストよ≫


≪まるっきり私にメリットがないようですが≫


≪こやつの魔技・・・それを手に入れた手下を持てるやもしれんぞ?お主も勘づいておるだろ?こやつの魔技は育ってないが特殊な匂いがする≫


≪・・・≫


クオンそっちのけで話を進めるマルネスとファスト。ファストはクオンを値踏みするように見つめると、ため息をついて首を振った


≪どれほどの価値かは分かりませんが、確かに特殊ですね。豪華な食事に群がる者達から食事を守るナイト・・・それが今回のマルネスの役割ですか≫


≪うむうむ。招かざる客には帰ってもらわねばのう。妾が認めた客のみが食せる食事会・・・『晩餐会』の招待状を配ってくれぬか?≫


≪招待状を送っといて招かざる客とは・・・≫


≪当然だろう。相応しいか相応しくないか決めてから送る招待状ではないからのう。相応しい者がおれば良いがのう・・・≫


勝手に話を進められ、景品扱いされているクオンだが、目的の為にはこの話に乗るしかないと思い黙って聞いていた。何の考えもなく飛び込んだ魔の世・・・今のやり取りを見ていて感じたのはクオンをあっさりボコボコにしたダンクと呼ばれる魔族よりマルネスとファストと呼ばれた魔族の方が段違いに強い。つまり逆らえば為す術なく自分は殺されてしまう・・・逃げる事も戦う事も出来ないと判断し、流れに身を任せる事にした


結局ファストが折れる形になり、マルネスはニコニコしながらクオンを連れてファストの居城を出た。クオンは気絶していて気付かなかったが、今まで居たのはかなり大きな城の一室。ファストはその城の城主であった


「シントの城に似てる・・・」


≪人の世から帰って来たものが真似て作った建造物だ。似てて当然だろうて。ほれ、さっさと行くぞ≫


マルネスはクオンの手を引くと歩き出す。こうして2人の原初の八魔の『白』を探す旅が始まった────




「最低ー」


話を聞いていたマーナがマルネスを見つめて呟くと、サラもウンウンと頷く


「うぐっ・・・あの頃は人に興味がなかったと言うか・・・暇だったと言うか・・・」


「お兄様を餌にして魔族を呼び寄せるに飽き足らず、下半身を晒して所構わず誘惑痴女っぷり・・・反吐が出ますわ」


「ここぞとばかりに・・・」


クオンが睨み合う2人にため息をついて部屋を見渡すといつの間にか起きているレンドとエリオット。興味津々に話の続きを待つ2人を見て鼻で笑いクオンはマルネスとサラを無視して続きを話す


「何も知らないガキの俺と暇潰しに俺を守りながら『白』の元へと案内するマルネス・・・時間がどれほど経ったかも分からなく、不安が広がる一方で、マルネスは楽しげだったな」


「ク、クオン~」




常に薄暗い中での強行軍、腹の減りと眠気が唯一の時間の報せであった。クオンが腹が減ったと訴えるとマルネスが仕方なさそうに魔獣を狩る


初めな不味くて食べられなかった魔獣も、自分の周りの魔素を『拒み』魔力を減らした後なら何とか食べれた


眠くなるとマルネスがクオンを背負い常に動き続ける毎日・・・環境に慣れてきたクオンが襲いくる魔族と自らも戦い始めた


≪妾の楽しみを減らすな≫


「仕方ないだろ?最近ちょくちょく漏れてるぞ?」


最初は数体の魔族が襲いかかって来るだけだった。しかし、日が経つ毎に襲いかかって来る魔族の数は増え、同時に100体程の時もあった


圧倒的な実力を持つマルネスも守りながら戦うのは初めての経験であり、たまに興奮し過ぎてクオンの存在を忘れてしまいクオンは必死に逃げ惑う場面も何度か・・・クオンはその度にマルネスに文句を言うが、特に気にした様子もなく空返事で答えるのみ。これは自分の身は自分で守らねばとクオンは思い直しての行動であった


変わり映えしない風景、時折街や村のような建造物の集落を見つけるが誰も住んでおらずゴーストタウン化している。マルネス曰く人の真似をして建てたはいいものの住む意味がなく放置しているのだという


「だったらなんで作ったんだ?」


≪人の世からは魔人も多くこちら側に来ておった。寿命、食事、衣服、住処を必要とする魔人に対して作る必要性があったからだのう。しかし、魔人は禁忌の対象外・・・程なくして狩られて終わりだわい≫


「狩られて・・・仲間じゃないのか?」


≪仲間と思うておる者もおった。しかし、元から人の世に対してあまり良い印象を持たぬものもおったからな・・・人の混じった魔族など魔族ではないと考える者など腐るほどおる≫


「お前はどうなんだ?」


≪お前言うな。クロフィード様と呼べと言うておるだろうが。・・・妾は特に関心がない。魔族であろうと人であろうと妾を楽しませてくれるならどうでも良い。小僧のその力には少々興味があるがのう・・・今は鼻クソだが≫


「・・・いずれお前も『拒んで』やるさ・・・」


≪『拒む』か・・・ふっ≫


「あー、今鼻で笑ったな!今に見てろよ!」


≪その台詞・・・この格好で言うのは恥ずかしくないのか?≫


クオンは現在マルネスに背負われて移動していた。2人の走る速さは段違いであり、マルネスがクオンに合わせて走ると人の寿命では到底『白』の元へは辿り着けないと踏んだからだ。クオンも実際マルネスの走る速度を見て追い付けないと悟り渋々背負われていた


「なんでこんなに速く走れるんだよ!」


≪身体の作り、魔力の使い方、足の長さの違いかのう≫


「・・・オシッコ穴丸見えのクセに」


≪オ、オシッコ穴言うな!振り落とすぞクソガキ!≫


「へん!今も後ろから見たら丸見えなんじゃないのか?・・・って、後ろからお客さん来てるよ」


≪ああ、もう終わっとる。雑魚のようなので置き土産で充分だろうて≫


クオンはマルネスの言葉が理解出来ずに再度振り返ると、そこには黒い玉に為す術なく攻撃され散っていく魔族達。マルネスは気にした様子もなく速度を緩めずに駆けて行く


「ねえ・・・なんで魔族同士は攻撃出来ないのにお前は魔族を攻撃出来るの?」


≪またお前と・・・妾は禁忌を施したアモンと同格だ。たとえアモンの奴が命を賭して施した禁忌とは言え妾には効かん。まあ、多少嫌悪感くらいはあるがのう≫


「アモン・・・原初の八魔・・・」


≪ほう、知っておるか。あやつが余計な事をせねば妾も暇になることはなかったというのに・・・迷惑な話だ≫


マルネスは言いながらもクオンを背負いながら駆けて行く。時折止まり、スンスンと匂いを嗅いでは方向を変えながら・・・クオンはいつ『白』に会えるのか不安になりながらも今はマルネスに頼るしかないとマルネスの首に回した腕の力を強めるのであった




≪それは本当ですか?≫


≪私が間違えるとでも?マルネス様がいて近くまでは行けませんでしたが、間違いなくあの者はアモン様の力を受け継いでおられます。まさかアモン様が人の世で子を落としておられたとは・・・ああ・・・≫


≪アモンの力・・・『禁』の核を持つ人・・・これはマルネスの企画に本腰を入れて参加するしかありませんね≫


≪企画?≫


≪マルネスが開いている『晩餐会』・・・マルネスという障害を乗り越えられて得られる食事はあまりにも美味のようで≫


≪アモン様の核を食事に例えるなどあまりにも不敬!即刻中止なさい!≫


≪誰にものを言っている?カーラ≫


静かに言うファストだが、部屋全体に殺気が満ち、カーラからは冷や汗がしたたり落ちる


ファストの居城に呼ばれたカーラ・キューブリックはファストに依頼されてクオンの能力の正体を探っていた。本来ならばアモンの命令しか受けないカーラだが、ファストからクオンの力に懐かしさ・・・アモンの影を感じると言われて渋々動いたのだが、今は動いて正解だったと思っていた


≪も、申し訳ありません・・・しかし、アモン様の核を何処の馬の骨とも知らぬものに奪われるのは許されない屈辱・・・≫


≪分かっている。私もさすがにアモンの核となると話は別だ。この世の運命を左右する・・・なので私が出よう≫


≪ファスト様が・・・ファスト様がアモン様の核を?≫


≪不服か?≫


≪い、いえ・・・不服など・・・≫


≪カーラではマルネスを越えられまい。かと言って私が手に入れた核を渡す義理はないな・・・だが、一つ今回働いてくれた礼をしようじゃないか≫


≪礼?≫


≪アモンが人の世に落とした種・・・1つではあるまい。つまり人の世にはアモンの核がいくつかある可能性がある≫


≪・・・しかし、人の世には行けません。他ならぬアモン様が決めた事・・・私が破るとでもお思いで?≫


≪君が行く必要はない。人をこちらに連れて来て子を成せ。そして、その子に君の『扉』が宿ればその子は人の世と魔の世を自由に行き来出来る魔人となる・・・そこでアモンの核を手に入れればよかろう≫


≪・・・私に人とまぐわえと?≫


≪ならば人の世に自ら行くか?それともアモンの核を諦めるか?もしくは私と争い今この世に来てる人を取り合うか?≫


≪・・・ファスト様も意地が悪い・・・しかし、まさかアモン様の・・・憎き天使の事は監視しておりましたが・・・≫


≪天使の落とし胤・・・天人か。存外奴らもしつこいな≫


ファストも人の世に降り立ち過ごしていた魔族の1人であった。天使が降臨し、攻め立てられる中、アモンの助けにより魔の世に戻ってからは人の世の情報など入っては来なかったが、カーラは『扉』を使い人の世を監視し天使の能力を持つ天人の存在を知る


≪いずれは仇討ちと思い監視していましたが、今の方法ならば・・・≫


≪天人を害しアモンの核を取り戻すか・・・ふふっ、なかなか楽しくなりそうではないか≫


≪・・・御教授ありがとうございます・・・≫


≪健闘を祈るよ。ちゃんと『操る』のに徹しないと・・・火傷しますよ?≫


≪・・・≫


微笑みながら言うファストを無言で見つめ、カーラは頭を下げて居城を後にした。残されたファストは手下を呼び出し声高々に告げる。『晩餐会』の本格参戦を────



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