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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『操るもの』
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3章 3 住む世界

シャンドの瞬間移動により森の中で身動きが取れなくなった4人は無事にセガスへと戻ってくることが出来た


エリオットはただの魔力切れで無傷、レンドは魔力切れと傷を負ってはいるが、身体強化で防いでた部分もあり軽傷で済んでいた。ツーとエイト、それにサードは石の礫による傷が思ったより酷く即病院送りとなる


宿屋で魔力をマーナに譲渡してもらい回復したレンドとエリオットが揃うとクオンはこれからの予定を切り出した


てっきりシントに行くだけと思っていたレンドとマーナは驚き、アースリーは何故か興奮、エリオットは腕が鳴ると言って、シャンドは表情を変えずに耳を傾けていた


「あー、行くのは俺と黒丸とシャンドだけだ。他はシントで・・・」


「なんでだよ!ズルいぞ!」


「ムキムキがー」


「ですよねー」


「まっ、そうだと思ったわ」


エリオットとアースリーは魔の世に興味あり行けない事に残念がり、レンドとマーナは露骨に胸を撫で下ろす


「エリオット・・・お主ビックモンキー如きに苦戦しておってよう言えるわい。魔の世にはビックモンキークラスの魔獣がウヨウヨおるのだぞ?」


ビックモンキーとはレンド達が戦った猿の事。その名の通り大きい猿の魔獣である。元来魔の世にのみ生息しており、サイレントモンキーの元となったと考えられている。もし今回討伐せずに放置していた場合、新種の魔物・・・シールドモンキーかビックベアが生まれていた可能性があるとマルネスは言う


「ウヨウヨ・・・それも『白』が創り出してる魔獣なんですか?なんかほとんど猿だったんですけど・・・大きさは別として」


「うむ、基本『白』は人の世にいる動物をベースに魔獣を創り出しており、それゆえ人にも馴染み深い姿形をしておる。強さは見た目とかけ離れておるがのう。魔の世では『白』が創り出した魔獣はもちろん、同じく創り出した魔族もおる・・・生半可な実力ではなんの足しにもならん・・・邪魔なだけだ」


レンドの質問にマルネスが答え、その最後に魔の世へと行きたがっていたエリオットを軽く睨んだ


エリオットは悔しそうに顔を歪めると拗ねたようにぷいっと視線を外す。アースリーもそのやり取りを見て肩を落として俯いた


「アリーはシントに着いたらチリと話すといいよ。色々ヤバい所はあるけど、基本的には優秀な土使いだし」


「エリオットもジュウベエの祖父が同じギフトだから教えを乞うといい。千とはいかないが、かなりの剣を同時に操るぞ」


アカネとクオンは落胆する2人のフォローをするが、魔の世への興味は尽きないらしく複雑な表情をしていた


そこへハシゴを担いだレノスが外から戻って来た。宿屋の入口で何かを打ち付けているようだったのでレンドが何をやってたか聞くとレノスはニヤリと笑い胸を張る


「看板を入口に付けてたのさ」


レノスは言うと満足気にハシゴを担いで奥へと去って行き、その姿に不安を感じたレンドとマーナが外に出て看板を確認した


レンドは膝から崩れ落ち、マーナは口元に両手を当てる。その看板にはデカデカと『男爵』と書かれており、ハネス家の宿屋の名前が『男爵』になった瞬間を目の当たりにして絶望に明け暮れるのであった────




次の日、レンドが折れた剣の代わりを買いに行こうとするとクオンに止められる。どうせ買うならシントにある武具屋で買った方がいいと言うのだ


レンドもクオンの風斬り丸や神刀『絶刀』、ジュウベエの『大虎太』などを見て来ているのでセガスで買うのは止めてシントで買う事を決意する。しかし、そうなると心配になるのが懐事情・・・クオン達はラフィス討伐の謝礼に爵位の代わりに金銭を貰っている。レンドとマーナは爵位を授かったので手持ちは心元なかった


「金なら俺が出しても良いが・・・」


「いやいや、そこまで甘えられませんて。ところでどれくらい必要ですか?前の剣は貰い物で買った事がないので・・・」


「うーん、レンドの実力だと・・・出来れば1000・・・最低でも100かな?」


「意外と安いですね・・・それなら・・・」


「万だぞ?」


「え?」


「最低100万・・・それくらい出さないと魔力に耐えられなくて壊れてしまう。1000万なら付与付きが買える。まあ、付与は俺の知り合いに頼めばしてもらえるから100万だな。それくらいなら魔力を流しても壊れないし、付与分の空きはあるはず・・・」


「100万!?・・・女王アント2匹分!?そんな高級品僕にはとても・・・」


「全体的な強化が得意なレンドが武具強化で剣に魔力を流すとどうしても剣に負荷がかかってしまう。しかし、剣の腕をいくら磨いても硬い相手には通じない時がある。妥協しない方が身の為だぞ?」


クオンの言う事は理解出来た。ビックモンキーの時に経験済みであり、身に染みていた。が、先立つものがないのでどうしようもないと諦めていると出掛ける支度をしているマーナが何かに気付いたように手を叩く


「あっ、レンド!ビックモンキーの報酬は?」


「・・・そう言えば・・・でも、貰えるのかな?」


「当然でしょ!しかも、調査から討伐までやったんだからそれなりに貰わないとね!」


「そう・・・だな。ところでマーナはどこに?」


「・・・ははっ、ちょっとギルドに・・・」


実はマーナがステラに乗って街中で降りたのがちょっとした騒動になっている。目撃した者はもちろん、噂を聞いた者達が不安になっている為にステラが安全であると各機関の代表者に説明しなくてはならなかった


「まずはバンデラスさんに説明して、それから・・・ハア・・・憂鬱」


領主のフォーがステラの安全性は説明済みだが、それでもドラゴンの名は恐怖の対象であり、そのドラゴンが街の中に居ることに不安視する者も多い。その為、マーナとステラが実際に目の前で安全である事を証明する必要があったのだ


大勢の人の前で何かを喋った事のないマーナは想像しただけで気が滅入り、ステラは心配そうに傍らで鳴いている


「じゃあ、一緒に行くか?」


「ステラがお腹空いたって言ってるし、私ももう少し落ち着いてから行くわ。私の剣貸しておこうか?最近使ってないし」


「街中で剣はいらないだろ?ビックモンキー討伐か・・・いくらだろ・・・」


「女王アントが50万くらいと言っていたから・・・最低100万くらいだと思うが、ディートグリスでは未知の生物なだけに査定がどうなるか分からんな」


クオンが前に女王アントを討伐した時にセガスの冒険者ギルドマスターのバンデラスが言っていた事を思い出す。しかし、有名なドラゴンとは違いビックモンキーはマイナー魔獣。一般的に知られてない魔獣の討伐、しかも核の破壊により死体が残っていない為に査定は難しくなるとクオンは考えていた


「ですよね。100万か・・・5人で1人頭20万・・・あれを5匹?・・・」


レンドはもし100万ゴルド出るならと目標金額までの道のりを想像するが、とてもビックモンキー5匹を生きて討伐出来るとは思えず身震いする


都合良く魔獣が出るとも限らない為に地道にお金を稼ごうと心に決め、とりあえず貰えるものは貰っておこうとギルドへと向かった


宿屋を出ると遠巻きに宿屋を見ながらヒソヒソと話す住民達が目につく。ドラゴンの飛来と看板『男爵』が悪目立ちし、住民から奇異な目で見られるようになっていた。元々宿屋は街の住民からしたら無用の長物・・・旅人や行商相手の商売の為必要な施設とは分かってはいるが問題を起こすなら無くなって欲しいというのが本音のようだ


レンドが出て来た事によりヒソヒソ話はなりを潜め、チラチラと見るだけに留まるが、あまり良い気分ではない為足早にギルドへと向かう


ギルドに入ると懐かしのカミラがレンドを見て手を振る。どうやらビックモンキー退治の件はギルドに通達されているらしくレンドはほっと胸を撫で下ろし受付へと向かった


「カミラさん、久しぶりです。その様子だとビックモンキーの件は聞いているんですね」


「久しぶり・・・って、ビックモンキー?調査しに行ってついでに討伐した猿ってそんな名前だったの?」


「ええ、らしいです。本来なら魔の世にしか居ない魔獣とか・・・」


「へぇ・・・で、依頼料の受け取りに来たのよね?」


「ええ。クオンさんの代わりに行ったのでどういう感じになってるか分からないですが・・・」


「そう・・・ちょっと」


カミラは受付のテーブルから身を乗り出しレンドに顔を近づけるよう手を招く。レンドは眉を上げ、何事かと顔を近づけるとカミラが小声で耳打ちした


「ツー様とエイトさん、それにサードさんも討伐報酬は辞退したの。調査報酬と傷の手当の費用はギルド・・・と言うよりフォー様から出てて、討伐報酬もフォー様から・・・その金額は100万ゴルド」


「100万!?」


思わず大声を上げてしまい、慌てたカミラがレンドの口を塞ぐ。ギルドに居た者達が一斉に受付を見るが、カミラは苦笑いしながらそれをやり過ごす


「バカ・・・今回討伐証明がないから、本来なら出ないところをツー様とエイトさんの口添えで特別に出る事になったの。未知の大型猿・・・ビックモンキーだっけ?Aランク冒険者のエリオットさんがやっとの事で倒せたって評価でこの金額になったんじゃない?」


「は、はあ」


先程クオンと話してた剣の購入費用100万ゴルド・・・それが棚ぼた的に手に入ってしまった。3人で分けても33万、マーナに借りれば66万は既に用意できた事になる


100万ゴルドが途方もない数字に見えていたのに、一気に現実味を帯びてきたので興奮しているとカミラはため息をついてテーブルの下から袋を取り出してレンドの前に置いた


「金貨100枚・・・ここで確認して」


「えっ?今ですか?」


「後から確認して足りなくても知らないわよ?この位置からなら後ろには見えないから・・・あと・・・何か奢ってね」


カミラが営業スマイルではない妖艶な微笑みでレンドに言うと、レンドは顔を真っ赤にして視線を落とし金貨を数え始める。内心ではお金の力はスゲーと思い、チラチラとカミラの胸元を見ながら金貨を数え、きっちり100枚あるのを確認して袋にしまう


「あっ、それとフォー様が屋敷に来るように言っていたわ。恐らくランクの事だと思うけど」


「ランク?」


「推定だけどAランク相当の相手を討伐したのだもの、Eランクのままでは格好つかないわ。領主権限でランク上げてくれるんじゃない?」


「は、はあ」


レンドが気のない返事をするのを訝しげに見るカミラ。そのまま頭を下げて立ち去るレンドに手を小さく振ると、別の冒険者の対応に移った


レンドは金貨が入った袋を持ちながらフォーの屋敷へと足を伸ばす。その最中に考えていたのはランクの事。クオンに会う以前ならランクアップするかもと聞いて喜んでいたはず。しかし、今現在のレンドはランクに対してあまり興味がなかった


「ランク・・・ランクかあ」


1人呟き近道になる路地を曲がる。今まではランク=強さみたいに思っていた。しかし、ディートグリスのAランク冒険者を遥かに超えるクオンやジュウベエなどを見ているとランクとは?と考えさせられる。そして思い当たったのがギルドで高ランクの依頼を受ける為の手形。ギルドの依頼を受けて一生を終えようとするなら必要に思うかも知れないが、レンドは既に冒険者として生きるつもりはなかった


宿屋の主人・・・もしくはジュウベエのお婿さん・・・もしくはその両方・・・


お客からオーダーを取るジュウベエの姿を想像してニヘラと笑うレンド


だが、幸せな時間は長くは続かなかった


「なあ、お金貸してくれねえか?」


レンドの前に立ち塞がりベタベタなセリフを吐く男。それに合わせてレンドの後ろに更に2人の男が現れる


「て、手持ちがなくて・・・」


つい妄想にふけて周囲の警戒を怠った自分を戒め、金貨の入った袋をぎゅっと握り締める。男の視線は袋にあり、恐らく金貨が入っている事を知っている


「そうか・・・ならその袋はいらないな?」


「ふ、袋は僕のじゃないんだ・・・あげられない!」


「うっせえ!さっさと寄越せや!」


迫り来る男に対して咄嗟に腰に手を回すが、その時やっと思い出す。剣は折れ、マーナにも借りずに来たことを


サーと血の気が引いて顔を歪めると慌てて男から袋を奪われないように腕を上げて躱す。男は躱された事に腹を立て、残りの2人に目で合図した


2人の男は頷き、懐からナイフを取り出し構えた


3人とも腰に剣をぶら下げてはいるが、路地裏で狭い為に小回りのきくナイフを選択し、ジリジリとレンドに迫る


「こっから先は選択ミスが命取りだぜ?オススメは地面に置いて速やかに立ち去る・・・だがな」


「100ゴルド欲しいが為に・・・僕を殺す気なのか?」


「『万』だろ?」


「・・・冒険者・・・」


「ご名答。ギルドで仕事探してたら受付の方からなんともまあ美味しい仕事の匂いがするじゃねえか・・・トッポそうな兄ちゃんが100万ゴルド・・・しかも周りにいた奴に聞いたらEランクで、更に武器も持ってねえときたもんだ。そんな奴がフラフラと路地裏に・・・ヨダレを我慢するのに苦労したぜ」


「お、お前らなんて見た事ないぞ!」


「だろうな。つい最近この街に来たばかりだからな。予想外に湿気た街だったが最後にいい仕事にありつけたぜ・・・ここの住民なら俺らに餞別くれて笑顔で送ってくれよ」


「このお金は・・・僕のじゃない!・・・死んでも渡さない!」


「頭が悪いのか命が安いのか・・・たかだか100万ゴルドで命を投げ出すのか?まあ、いいや・・・死んどけ!」


「くっ!」


後方に2人、前方に1人、路地裏で壁との距離が近く躱すスペースがない。剣を持っていないレンドが選択したのは魔力を全身に流して防御力を高めて致命傷を避けること。死ななければ押し倒して一気に駆け抜ける算段をするが・・・


ガッと音が鳴り痛みに顔を歪める。恐怖で閉じていた目を勇気を振り絞って開けるとそこには・・・驚愕の表情を浮かべる男が立っていた


「へ?」


なんでそんな顔を?と男の視線の先を追うと腹に突き立てられたナイフがあった。しかし、男のナイフはレンドの腹を傷付けること無く服だけを破り止まっていた。衝撃はあった。その衝撃はただナイフが腹に当たっただけの衝撃・・・男はレンドの魔力の壁を抜けきれなかった


「なっ・・・なんだてめえ!?」


男が顔を上げるとレンドと目が合う。次の瞬間、男は飛び退き後ろにいる2人に合図する


何が起こっているのか分からない2人は男の合図を受けてレンドに向かって動き出す


その動きを察知したレンドが身体を捻り回転すると蹴りを繰り出した


相手との距離もわからず繰り出した蹴りは2人の男の前髪を揺らすほどの風圧を生み出した。それは男たちの足を止めるのに充分過ぎる牽制となり、男たちは顔を青ざめさせ動きを止める


「クソガキが!!」


片足を上げ背中を見せる無防備なレンドに対して正面に居た男が再びナイフを握りしめレンドに向かう。さっきのは偶然何かに当たっただけ・・・ナイフの刺さらない人など居ない・・・男はナイフを持つ手に力を込めると今度は背中に突き立てようとする


レンドは咄嗟に動きを止めている2人の男の内1人の腰にある剣の柄に手を伸ばし抜き去ると身体を回転させ腕をたたみ剣を振るう。腕をたたんでいる為に横の壁には当たらず、駆け寄る男よりも先にレンドの剣が男の首元に辿り着く


レンドの剣と男の動きが同時に止まる


男は横目で首元にある剣を見つめた後、視線をレンドへと戻した


「・・・化物かよ・・・」


「・・・」


男の表情が恐怖に染まるのを見てもレンドには現実感がなかった。屈強そうな男3人。レンドをEランクとバカにしていたので恐らくはEより上のランクの冒険者達。その3人に取り囲まれて無傷は疎か、圧倒してしまった。ここでクオンやジュウベエなら相手を恐怖させる言葉の1つでも浮かんでくるだろうが、経験の少ないレンドは気の利いた言葉が浮かばず無言で男を見下ろし続ける


「ちっ・・・分かった・・・悪かったよ・・・」


「・・・斬られると死ぬぞ?」


「いや、だから謝ってるじゃねえか!・・・引くから見逃してくれねえか?」


考え抜いた脅し文句は少しタイミングがズレたらしく怒られてしまう。その後どうすれば良いのか分からずに無言でいると後ろにいた2人がヒィと情けない声を上げて逃げていく。おいてけぼりをくらった形の男は更に焦り額に脂汗を滲ませる


「・・・行け」


精一杯絞り出した声はか細く、一瞬呆けた男だったが、我に返ると慌てて後退りすると危機を脱した瞬間にレンドをひと睨みして去って行った




まるで自分ではない感覚に陥ったレンドはそのままフォーの屋敷を目指し、辿り着いた時には使用人達が慌て、私兵がレンドを取り囲む


「へ?・・・え?」


「流石に知った仲とは言え抜き身の剣を持って敷地内に入られると困るな」


取り囲む私兵の背後から苦笑しながら言うフォーの言葉で初めて自分がまだ奪い取った剣を持っている事に気付き慌てて剣を落とす


「あ、あの・・・すみません!ボーとしてまして・・・」


「何かあったのか?」


「実は・・・」


レンドは先程襲われた事をフォーに伝えると、フォーは私兵に命じてその3人組を捕まえるように指示する


訳が分からずキョロキョロしているレンドを屋敷の中に案内し、屋敷内の応接室に入るとフォーは座り、レンドにも座るように言った。メイドがお茶を運んで来てやっと人心地ついたレンドに対してフォーが口を開く


「レンドのお陰で色々助かった。昨日の魔獣の件と言い今回の強盗の事と言い・・・」


「強盗・・・ですか?」


「君のお金を取ろうとしたのだろ?強盗以外の何者でもないよ。君の話だと冒険者かもしれないが、やってる事はただの強盗行為・・・冒険者ギルドと領主としての私から厳正な処分を下さねばならない」


「でも・・・何も盗られてないのですが・・・」


「結果的にはね。でも、君が弱ければお金は奪われ、最悪命までも・・・セガスを出る行きがけの駄賃的な感覚だったかもしれないが、そうなると他の街でも同じ事を繰り返していたかもしれない。目撃者がいなければ普通に他の街で冒険者として暮らしていけるからね」


「た、確かに・・・」


「そいつらが次に行った街で悪さをして捕まり、セガスから来た・・・なんて言ったらその街の領主から何を言われるか分かったもんじゃない・・・友好関係を結んでいる所なら破綻しかねない・・・なので、律するべきところは律する」


「処刑・・・ですか?」


「そこまではしない。その方が後腐れなく楽なのだが・・・どうせならレンドが殺してくれていた方が楽だった」


ニヤリとフォーが笑うとレンドは手を前に突き出して首を振る。それを見たフォーが冗談だと呟き椅子に背を預けた


「君も徐々に貴族としての立ち振る舞いを覚えておいた方がいい。貴族は国にとって有益であるという証明・・・強盗が君を貴族と知って襲ってきたのなら国家反逆罪として有無も言わさず処刑する・・・いや、本来ならば知らないで襲ったとしても処刑にすべきなのだろうが・・・どうせ名乗ってはないだろ?」


「今フォーさんに言われるまで自分が貴族である事すら忘れてました・・・」


「・・・だろうね。今回の件は強盗に余罪が無ければ冒険者による強盗で片をつける。愚かにもCランク冒険者に挑んだ馬鹿共としてね」


「・・・Cランク?」


「今回寄ってもらったのはその事を告げる為だよ。魔獣討伐の功労者エリオット・ナルシスとレンド・ハネス、それにマーナ・ハネスに討伐報酬として1人100万ゴルド。それと領主権限で上げられる最大のCランクへのランクアップ。本来ならBランク相当の腕前だろうけど我慢して欲しい」


「あっ・・・えっ?1人100万?」


「そうだよ?バンデラスに聞いてないかい?討伐報酬として100万ゴルド・・・ラフィスの件で魔獣の存在は知れ渡ってる。それゆえ国も被害などを考慮して魔獣討伐者には100万ゴルドの報酬を与えると伝達があった。国から出るお金だ遠慮なく受け取ってくれたまえ」


ラフィスが陽動の為に各所に開いた『扉』。魔の世と繋がり、少なからず魔獣が出没しているとの報告を受けて国が対策に乗り出していた。しかし、魔獣に対抗出来る人数は限られている為に討伐報酬を国が用意し冒険者へ協力を促していた


「バンデラスさんとは会ってないです。受付のカミラさんから討伐報酬として渡されただけですので、まさか1人100万なんて・・・」


「それだけ国も深刻な人手不足なのだよ。埋もれてる人材の発掘も兼ねてるかも知れないね。セガスはその点、幸運だね・ ・・君にマーナ・・・魔獣は別格としても普通の魔物なら苦もなく討伐出来るのでは?」


「いや・・・どうでしょう・・・」


「強盗3人を剣も持たずに無傷で撃退する。そんな事が出来るのはほんのひと握りだよ。正に『住む世界が違う』ってところかな?」


フォーの『住む世界が違う』という言葉に反応するレンド。前にクオンから言われた時は意味が分からなかったが、今なら分かる気がする。そして、分かるからこそクオンやジュウベエの凄さが身に染みる


「僕なんてまだまだです。僕はシントに行ってもっと強くなって帰って来ます・・・街の皆を・・・守れるくらいに」


レンドの力強い言葉にフォーは目を細めて頷いた


「ええ。あ、それとマーナとエリオット君にも報酬を受け取るようにと伝えておいてくれ。バンデラスが伝え間違えたのか3人に渡すように300万ゴルド渡していたのに・・・」


「・・・国から出るならサードさん達も辞退する必要なかったのでは?」


「ツー兄さんとエイトはプライドの問題だね。サード君は何もしてないし、受け取ったら今後やばい現場に駆り出されそうなので止めておきますと言っていたね」


「なるほど・・・僕も辞退していいですか?」


「ダメ」


そういう視点で考えてなかったレンドが尻込みするが、フォーは笑顔で即答する。レンドは今後魔獣などが現れたら駆り出される可能性を考え、無意識に金貨の入った袋を握りしめて苦笑いするのであった────




一方その頃、レンドと入れ違いでマーナは犬ステラを連れてギルドに訪れていた


「あっ、マーナ!こっちこっち!」


マーナを見つけたカミラがマーナを呼ぶとレンドと同じ説明をして100万ゴルドの入った袋を渡す


「2人して大金貰って良いわねー・・・今度奢ってね」


「ははっ、私はほとんど何もしてないのに・・・ところでマスターは居ますか?」


「用事?ちょっと待ってね」


カミラはギルドマスターのバンデラスを呼びに2階へと上がり、2人で戻って来ると思ったが、カミラだけ戻って来てマーナに2階でバンデラスが呼んでると伝えて来た


マーナは頷き職員用の通路を通り2階へ。冒険者がギルドの2階に上がる事など滅多にない為にギルドに居た冒険者達がそれを見てザワついていた


2階に上がるとバンデラスが苦笑いしながらマーナを待ち構えており、共に廊下を歩き自室へと招いた


部屋に入るとマーナを座らせて自らも椅子に座るとステラを見つめため息をつく


「そいつが件のドラゴンか?」


「ええ。今は擬態化して犬の姿をしてますが・・・」


「カダノースに出た?」


「そうです・・・あの時は縮小化しか出来ずに小さいドラゴンの形をしてましたが、今は擬態化を覚えて犬の姿に・・・」


「あー、噂には聞いていた。小さいドラゴンみたいなのがいるってな・・・まさかそれが本物のドラゴンだとは思ってもみなかったが・・・従属してるのか?」


「従属・・・なのかな?マルネス様は使役って言ってたけど。でも、命令したりされたりの関係じゃなくてパートナーみたいな感じですかね。最近は犬の姿でも声だけに魔力を流して話したりも出来るようになって」


「分かった分かった。そんな嬉しそうに話すなよ・・・こちとらそいつのお陰で頭を悩ましてるんだから・・・」


マーナがステラの成長を嬉しそうに話すとバンデラスはそれを止めて盛大なため息をつく。マーナもバンデラスが言いたいことは理解してるので口を閉ざしシュンと肩をすぼめた


「やっぱり街の人から・・・」


「ああ。フォー様がとりあえずは抑えてくれてるがな。流石に領主が大丈夫と言ってもドラゴンが街中を平然と歩いてるのは気が気でならないらしくな・・・かと言って領主に反抗する気はないから冒険者ギルドへ文句を言ってきやがった・・・冒険者の管理はどうなってるんだ・・・とな」


「でもステラはいい子で!」


「俺もそう思うぞ?クオンの連れていた魔族っ子といい、俺らが知らないだけだ。だから知ってもらう為に説明しなきゃならないんだが・・・思ったより反発がデカい」


「え?」


「見た目の問題かな・・・人の数倍あるドラゴンが空から飛来して来たんだ・・・誰だって恐怖を感じる。人によっては言うことを聞いているうちに処分しろとまで言ってきている」


「そんな・・・」


「はっきり言って説明しても聞く耳持たない連中ばかりだ。だから・・・」


「処分しろと?」


「・・・街を出ないか?情けねえが俺にはどうすることも出来ねえ・・・万が一そのドラゴンが暴れた時に俺に任せとけ・・・なんて無責任な事は言えねえんだよ・・・かと言って今騒いでる連中を納得させる材料も見つからねえ・・・」


「・・・」


「幸い今回の魔獣?討伐報酬で100万ゴルド入ったはずだ。それにギルドからとフォー様に頼んでいくらか出してもらって・・・」


「街の安全の為に?」


「そういう事だ」


普段は豪快な笑顔を見せるバンデラスも今は神妙な面持ちでマーナを見つめる。本来ならこれから各機関の代表者を集めての説明会を開く予定なのだが、受け入れられる事はないと判断したバンデラスの苦渋の決断だった


「・・・まだステラが・・・ドラゴンが擬態化して犬になってる事は知られてないですよね?」


「ん?ああ、それは知られてないっぽいな・・・まさか嘘をつくのか?」


「ステラは家族も同然・・・かと言ってセガスも慣れ親しんだ街・・・両方捨てる気はありません」


「しかしなぁ・・・」


「バンデラスさんには迷惑はかけません。ちょうどクオン達とシントに向かいますので戻って来る頃にはほとぼりは冷めてるかと・・・」


「うーん、確かにな・・・だが、バレた時・・・最悪極刑だぞ?」


「その時はステラと共に飛び去りますよ・・・バンデラスさんとフォーさんには迷惑かけません・・・決して・・・」


マーナがステラの背を撫でながらバンデラスを真っ直ぐと見つめて言うと、バンデラスは頭を掻いて下を向く


「クソっ・・・情けねえ・・・冒険者を守れねえで何がギルドマスターだ」


「そんな事はないです。こうして説明に行く前に街を出るように言ってくれたのは私が糾弾されるのを避けるためですよね?言っても聞いてくれない人の前に立って説明しても責められるだけだと・・・でもせっかくだから街を出るフリしてギルドからの資金提供を受けようかな・・・」


「勘弁してくれ・・・俺が自腹切るつもりだったんだ」


「尚更貰おうかな」


「・・・おい」


マーナの冗談にやっと普段のバンデラスの表情に戻り部屋に笑いが響き渡る


その後、マーナとバンデラスで話を詰め、ステラを魔の世に送り返す為にシントへ向かうと辻褄を合わせた


「各機関には俺が説明しておく・・・ハア、これで俺も共犯か」


「フォーさんもね」


「・・・お前いつからそんな悪女になった?」


「クオンとマルネス様の影響・・・かな?」


マーナはクスリと笑い椅子から立ち上がるとバンデラスに礼をして部屋を後にする。残されたバンデラスは天井を見上げながらマーナの言い残した言葉を噛み締める


「魔族を従属させる奴と魔族の影響か・・・そりゃあ強くもなるか・・・」


バンデラスは呟くと、説明する際の言葉を1人考え始めるのであった────



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