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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『操るもの』
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3章 2 森の中の死闘

薄暗い部屋の中、朝を告げる鳥たちのチュンチュンと鳴く声が聞こえ、頭痛のする頭を振りながらクオンは目を開けた


珍しくうつ伏せで寝てた事に驚きながらベッドに手をつくとムニュっとベッドの感触とは違うものに触れ、その感触の正体を見るべく視線を落とした


「・・・なぜお前が俺の下にいる・・・黒丸」


目を真っ赤にして見つめてくるマルネスに対して出た第一声がその言葉であった。マルネスはその言葉を聞いた瞬間に拳に黒いモヤを纏わせる


「おい・・・待て。それはシャレにならないぞ?」


マルネスの動きを止めようとするが、頭痛が邪魔して上手く魔力が練れないクオン。右目を細め、何とか起動しようとするが時すでに遅し・・・マルネスの拳がクオンの鳩尾にめり込み、クオンの身体がくの字に曲がる


「ぐはっ!」


「クオンの・・・バカー!!」


涙を溜めたマルネスが放った一撃はクオンが今まで受けた打撃を軽く凌駕する。全身がバラバラになるかと思う一撃に目を覚ましたばかりのクオンは再び眠りにつくのであった


激しい音を聞きつけたマーナ達がマルネスの部屋に駆けつけた時には気絶している男とその傍らで泣きじゃくる幼女という光景が展開されており、全員数分間固まって脳みそをフル回転


「ここ・・・マルネスの部屋よね?」


「そう記憶してます・・・クオンが夜這い?」


「このっ!とっちめてやる!」


「待って待って!エリオットさん!」


「謎は深まるばかりです」


部屋の惨状を見たアカネの呟きにマーナが答え、憤慨したエリオットがクオンに対して怒りをぶつけようとするが、それをレンドが、必死に止める。アースリーが顎に手を当て謎のポーズを決めながら呟くとステラが同意するかのようにワンと1回吠えた


「レンドー!マーナ!何かお迎えが来てるわよー!調査のどうたらこうたらって・・・」


下の階からマーニャが叫ぶ。それを聞いて血の気の引く一同。フォーの頼みで森の調査に行くはずだったクオンはノックアウトされ、マルネスはなぜか泣きじゃくる


「ど、どうしよう・・・私まだ特能使えないわよ?」


「ステラも昨日シャンドさんに魔力渡しちゃったし、私も魔力はそんなに回復してない・・・」


再びマーニャの急かす声・・・5人と1匹はこの状況をどう乗り切ろうかと頭を抱えるのであった────



「おお、レンド!受付のカミラちゃんから聞いてな。何でも前に女王アントを倒したクオンって人が今回の調査を手伝ってくれるって聞いたから迎えに来たんだ。この宿屋に居るんだろ?」


宿屋の玄関に居たのはサード。女王アントの調査の時にも駆り出されていた調査好きのオッサンだ。レンドを見て片手を上げるとクオンの姿を探してキョロキョロしていた


「あ、いや、サードさん・・・どうやら手違いがあって・・・日程変えません?」


「無理無理!ツー様もエイトもやる気満々で街の出口で待機してるぜ?今更今日は・・・なんて言える雰囲気じゃねえよ。なんだ?トラブルか?」


「ええ・・・まあ・・・」


サードの問いかけに半笑いで目を泳がせるレンド。手伝うと言ってて日にちを変更しろとは強く言えるはずもなく、レンドが悩んでいると後ろからエリオットが降りてきた


「あの情けない男の代わりに僕が同行してやる。感謝しろ」


「エリオットさん!?」


「・・・誰?」


サードがエリオットを指差してレンドに聞くと、レンドは仕方なくエリオットの説明をする


「Aランク冒険者!?ひぇー、お見逸れしました。それなら安心だ。もしクオンさんがダメでも俺らだけで行こうとしてたんだ・・・感謝するよ」


「ハア・・・僕も行きます・・・準備してくるので少し待ってて下さい」


レンドが肩を落とし、2階の自室へと戻って行く。本当は今日はゆっくりとしようと考えていたが、さすがにエリオット1人に行かせると何か問題を起こしそうだと判断しついて行く事に決めた


シャンドがこの場に居てくれたら・・・そう強く思うのだが、ないものねだりしても仕方ないと急いで着替えて1階に降りた


こうしてレンドとエリオットがクオンの代わりに森の異変の調査に赴く事になり、サードと共にツー達の待つ街の出口へと向かった


「・・・君は・・・」


「よっ、ツーさん!久しぶり!」


ツーがエリオットを見て呟くと、エリオットは片手を上げて笑顔で応える。以前はクオンを殺す為の雇い主と雇われ冒険者の間柄だったが、何の因果か今度は雇われ冒険者が殺すはずだった対象者の代わりに助っ人に訪れる


「フォーからクオンが来ると聞いていたが?」


「すみません・・・手違いで・・・」


まさか幼女に殴られて失神中ですとは言えずレンドが笑って誤魔化しているとツーの後ろに居たエイトが不機嫌そうな顔してレンドとエリオットの前に出る


「はぁ?手違い?それで代わりにガキとレンド?舐めてんのか?消し炭にしてやんぞ?」


「よせ、エイト。レンドとやらはともかくエリオットはAランク冒険者だ。戦力としては申し分ない・・・そもそも今回の目的はあくまで調査だ・・・然るべき対策を講じる為のな」


以前子さの不健康そうな顔とは違い、少しふっくらとして凛々しい姿のツーがエイトを諌める。エリオットが暴れないかとハラハラしていたレンドだが、エリオットは気にした様子もなく頭の後ろで手を組んで早く行こうと急かしていた


エイトは渋々ツーの言うことを聞き、踵を返すと1人で街を出ていく。ツーがため息をついてその後に続き、エリオットも歩き出す。レンドとサードが顔を見合せ、置いてかれまいと小走りで3人の後を追った


しばらく森の中を進んでいるとレンドは確かに違和感を感じる。魔物はおろか動物さえも姿を見せず静まり返っている森・・・あまりにも静か過ぎて耳鳴りがするほどだ


「ツーさん・・・その狩人が見たっていうのはどの辺ですか」


「『ツーさん』だあ?様付けろやレンド!」


「エイト、構わない・・・レンドだったか?確かこの辺りと聞いているが狩人も慌ててたみたいでな。正確な位置は分からないのだ」


「そうですか・・・」


「もう少し奥まで行ってみよう。動物か魔物・・・1匹でも見かければ少しは安心出来るのだがな・・・」


ツーも異様なまでに静かな森に警戒心を強めていた。しかし、更に歩くも一向に生物の息吹は聞こえてこず、次第にエイトとサードも異常差に身体を震わせ始める


「今は暑い季節なのになんだかひんやりしてますね・・・そう言えばレンド・・・お前その額に巻いた布は何なんだ?王都で流行ってるのか?」


サードが恐怖から逃れようとわざと話題を変える。その矛先になったレンドはこめかみを指で掻きながら苦笑いして視線を上げて自分の額に巻かれた布を見る


「これは・・・ちょっと傷を・・・」


「そ、そうか。悪かったな・・・変な事聞いて」


「いや、別に気にしてないって言うか・・・」


「あー、ほら、女王アントの時の嬢ちゃん!あの子は元気に・・・」


「トイレー!」


レンドが言いにくそうにしてるのを感じてサードは次の話題をと考えている時、当然エリオットが叫んで何処かへと消えてしまった。次の瞬間、レンドの背中に嫌な汗が流れ背筋が凍りつく


この時初めて気付いた。異様な雰囲気を感じていたのに平気だったのはエリオットが居たから。そのエリオットが離れた事により心臓の鼓動が早まり、息が荒くなる


今まで止んていた風が頬を撫でる。生暖かい風に顔を引き攣らせると鳥の鳴き声で身体をビクつかせた


「おいおいビビり過ぎだろ?なんならマーナと代わってもらえよ・・・俺様は大歓迎だぜ?」


ビビるレンドをニヤニヤとしながら眺め顔を近付けるエイト。しかし、レンドの視線は目の前のエイトではなく、エイトの背後にある木を見つめていた


「あーん?どこ見てやがる」


エイトがレンドの視線の先を追い、後ろを振り向いた・・・が、何も無いと分かると鼻で笑いレンドに向き直ろうとした時、視線の端に何かが映り込む


咄嗟にその方向を見ると木の影から覗き込むようにこちらを見ているシールドベア


「な、なんだよ。シールドベアじゃねえか・・・狩人の奴がビビって話を大きくしたんじゃねえのか?なあ、ツー兄」


エイトがビビって損したとばかりに横にいるツーに話しかけると、ツーの視線はシールドベアではなく上の方を見ていた。気付くとサードもレンドも上を見ている。エイトは眉をひそめ、3人が見ている方向に視線を移した


「────!」


木に掴まりこちらを見下ろす3m位の巨大な・・・猿。全身が黒い毛で覆われ、人に近い体型、やや腰を丸めこちらを見下ろしていた


「なっ・・・なんだありゃ・・・」


エイトが呟いた時、猿の手の辺りからバキッと音が聞こえた。見ると木に指がめり込んでいた。どれだけの握力があれば実現するんだとレンド達が目を見開いて見ていると猿はニッと笑いスルスルと木から降りてきた


地上に降り立った猿は腰を丸めているから3mに見えただけで、伸ばせばもう少し高い。更に腕が異様に長く筋骨隆々・・・狩人が大きいと思うのは仕方ないとレンドは思った


「けっ・・・猿かよ!消し炭にしてやる!」


「よせ!エイト!」


ツーの制止を振り切り、エイトは炎の玉を創り出し猿に向けて放った


レンドは少し前までエイトのギフトが怖かった。手の平より炎の玉を創り出し、放たれれば確実に待っているのは死だと思っていた。しかし様々な経験をして来た今のレンドにとって、エイトの炎の玉はあまりにも遅く威力は全くないように感じた


猿も同じ事を思ったのか、エイトの炎の玉を気にすることなく腕を振るった


長い腕とはいえ届く距離ではない・・・たが、猿の振った腕はレンド達を直接攻撃する為ではなく、魔法で攻撃する為・・・石の礫がレンド達に襲いかかる


予想外の攻撃に4人は為す術なく礫を食らってしまう。エイトとツーは前に出ていた為に全身を強打、レンドは腕を交差して防ぎ致命傷は避けるも何発か食らってしまい、1番奥にいたサードは1番被害は少ないもののその場にうずくまる


猿はそのまま飛び上がり、1番近くに居たエイトに向けて長い腕を振るう


朦朧とする意識の中、エイトは飛びかかってくる猿を見つめた。とても躱せない速度に死を覚悟し、街を案じているととつぜん身体は後ろに引っ張られ、その後に猿の腕が目の前を猛烈な勢いで通過する


当たっていれば確実に頭部を失っていただろうとゾッとし、後ろを振り向くとレンドが猿を睨みながらエイトの服を引っ張っていた


「エイトさん!ツーさん!サードさん!ここは引きましょう!僕らでは太刀打ち出来ません!」


「・・・素晴らしい提案だが・・・身体が動かん」


「残念だが俺様もだ・・・てめえらはとりあえず街に報せにいけ!」


猿が警戒し一旦飛び退いたのを見てレンドが叫ぶが、ツーとエイトは見た目以上にダメージを受けているらしく動く事が出来ないと首を振った


レンドは眉をしかめ振り向くと後ろに居たサードは何とか起き上がろうとしている最中で、レンドを見て頷いた


「俺らでツー様達を担いで・・・」


「サードさん・・・先に街へ!宿屋にいるクオンさんかクロフィード様に連絡を!」


「しかし!」


「足止めする役がいなくてあの猿から逃げれると思いますか?いいから言ってください!」


「・・・ああ、そうだ。足止めなら俺様1人で充分だ!てめえもツー兄を連れて早く行け!」


エイトが声を張り上げ両手から炎の玉を創り出す。先程よりも勢いのあるまるで命を燃やしているかのような炎の玉を見て猿は少しばかり目を細めた


「・・・いや、私も残ろう・・・元領主として街に被害を及ぼす可能性のある魔物を見過ごすわけにはいかない」


口から出てくる血を手の甲で拭うと両手に炎を灯すツー。2人の兄弟が見つめ合い苦笑すると猿に対して向き直る


「サードさん!行ってくれ!手遅れになる前に・・・早く!」


「あ、ああ。どうか無事でいてくれ!すぐに応援を連れて戻って来る!」


サードは後退りながら叫ぶと踵を返し一気に走り去る。それを見てレンドはため息をつき剣を抜いた


「ツーさんエイトさん・・・援護・・・よろしくお願いします」


「はあ?援護?・・・っておい!」


エイトの制止する声を振り切り、レンドは身体強化し一気に猿へと駆け寄る。動かなかった猿が突っ込んでくるレンドを見てニヤリと笑うと両腕を高々と上げて向かい来るレンドを迎え撃つ


風を切り、振り下ろされた猿の腕はレンドを掠めるが、レンドは気にせずそのまま走り抜け胴体へと剣を薙ぐ


斬った────そう思ったツーとエイト。しかし、斬られた後の胴体は少しも傷付いておらず、通り過ぎ様にレンドは顔を顰めた


戦い慣れしていないレンドは身体強化のみで猿に突っ込み、剣に魔力を流すのを忘れてしまっていた。魔獣の身体は硬く普通の武器では毛ほども効かない。それを焦って失念し気付いた時には遅かった


ツーとエイトが炎を当てようと動き出すがそれよりも早く猿が腕を振るいレンドの鳩尾を捉える。レンドの身体はくの字に曲がり、そのまま勢いよく飛ばされて木に打ち付けられた


「レンド!!くそったれ!」


ツーとエイトの複数の炎の玉が猿に襲いかかる。だが、猿は冷静に腕を振るい石の礫で炎の玉を撃ち落とす


「あっ・・・」


猿は吹き飛ばしたレンドを放っておき、ゆっくりと2人との間合いを詰める。動けない2人は再度炎を創り出すが、それよりも早く猿は目の前にいくつもの石の塊を浮かせて2人に笑いかける


最初に放った石の礫よりも数は少ない。しかし、ひとつひとつが大きく先端が鋭く削られた石を見て2人の手に灯された炎はいつの間にか消えていた


≪ウキッキッキッ!≫


まるで勝利の雄叫びのように尖った歯を剥き出しにして叫ぶ猿は準備完了とばかりに腕を振り上げすぐさま振り下ろす


石の礫は2つに分かれ、ツーとエイトに降り注ぐ


躱せない・・・そう判断して死を受け入れる2人の前に突如として現れる光る剣。その剣が高速で回り始めると石の礫を通さずに砕いていく


「人がトイレに行ってる間にー勝手に始めないでよね!」


エリオットが走りながら右手の指を2本立てて猿に向けて突き出した。するとエリオットの後ろで浮かんでいた4本の魔力の剣が猿めがけて飛んで行き、猿の身体を切り刻む


「まだまだー!」


右手をしきりに動かし剣を操るエリオット。左手も2本の指を立てて猿に向けるとエイト達の前にあった魔力の剣も猿に向かって行った


合計6本の剣の乱舞。堪らず猿は腕を振るい後退するが、エリオットは攻撃の手を緩めずにひたすら切り刻んでいた


「チッ・・・硬いなー」


顔を歪め呟くと魔力の剣を一旦引っ込める。剣は操作に従いスっとエリオットの背後まで戻った


「エリオット・・・助かった。勝てるか?あの猿に・・・」


「分かんないなー・・・とりあえずツーさんともう1人・・・邪魔だから端っこにいて欲しいんだけど」


「身体全体が痛くて動けないんだよ!Aランク冒険者ならちゃっちゃと片付けろよ!」


「うわー・・・助けなきゃ良かった。次は穴ボコだらけになっちゃいな!それに言われなくても・・・あっ、それは止めた方が・・・」


エリオットがエイトから猿に視線を移し呟く。猿が顔を守っていた腕を下ろしエリオットの言葉に眉をひそめると背中に痛みが走った


猿は振り返ると吹き飛ばされたレンドが剣に魔力を纏わせ背後から剣を突き立てていた。しかし、纏っていた魔力と剣を突き立てる腕力が足りずに剣は猿の筋肉に阻まれ途中で止まる


「届かないか・・・ここでいいはずなのに・・・」


レンドが剣を離し膝をつくと傷付けられた怒りを顕にする猿が咆哮し両腕を振り上げた


「チッ!もうー、勝手に動くなよー!」


エリオットは再び魔力の剣を操作し猿を攻撃・・・しかし、猿はそれを無視して振り上げた両手を組み一気にレンドへと振り下ろす


レンドは俯きながら猿の攻撃が来るのを察知し屈んだまま前転し猿の足の隙間を通り抜ける


地鳴りするくらいの衝撃と激しい音が背後から聞こえる。それを無視して立ち上がり、一気にエリオット達の元へと走り出すとエリオットは剣の操作をして追いかけようとする猿の妨害を試みた


エリオットの魔力の剣は猿の皮膚は切り裂くが肉までは切れず、鬱陶しがる猿の振り払う手に1本、また1本の消されていく


「エリオットさん!魔力の剣ってまとめられますか!?」


「ああ?なんで・・・」


「今の剣の強さだと猿の筋肉は通りません!まとめて強くすればもしかしたら・・・狙いは僕の剣が刺さってる辺りで!」


「やったことないよ!しかも魔力も残りそんなにないから消されたら終わりだぞ!?」


「僕が・・・注意を引きます!頼みます!」


「お、おい!まだ出来るかどうか・・・あー、もう!」


レンドが残りの魔力を使い身体強化をする。そして、目指すは猿ではなく、木の陰に隠れているシールドベア。レンドは思い出していた。魔獣がこの地に残っているのは(つがい)を見つけた可能性が高いとマルネスが言っていた事を。他の魔物がいないのにこの場にいるシールドベア。木の陰からじっと戦いの様子を見てるのはもしかしたら猿を心配してなのではとレンドは賭けに出た


「うおおおおぉ!!」


レンドはわざと大声を上げてシールドベアに向かって行く。剣は猿の背中にある為、両手を上げて少しでも目立つように走っていると猿がそれを見て憤怒の表情でレンドに襲いかかる


「クソックソッ!!」


エリオットは消された2本の分を追加で出し、何とか剣をまとめようと忙しなく手を動かすがなかなか上手くいかない。するとすぐ耳元で囁く声が聞こえた


≪イメージよ・・・坊や≫


ゾクッとするような冷たい声。しかし、気にしてる暇はなく、エリオットは目を閉じて剣がひとつになるようにイメージした


すると上手くいかなかったのが嘘のように6つの剣はひとつになる。大きく力強く輝く魔力の剣はエリオットの命令を今か今かと待ち望むように佇んでいた


「いっけええぇぇ!!」


レンドを追いかける猿の背後に向けて手を突き出すと剣は真っ直ぐと飛んで行き、レンドを捕まえようと手を伸ばした猿の背中に突き刺さる。刺さっていたレンドの剣は砕け散り、背中から貫通した魔力の剣を猿が見ると振り返り放ったエリオットを睨みつけた


「うっ・・・」


全ての魔力を使い切ったエリオット。ゆっくりと身体をエリオットに向けて歩き始めた猿に為す術がないと顔を歪めると猿は突然その場に倒れた


エリオットはヘタリ込み、終わったのかと息を吐くと囮役のレンドを見た。レンドもその場で倒れ、猿が倒れたのを確認して安堵の表情を浮かべていると木の陰に隠れていたシールドベアが咆哮を上げながらレンドを通り越してエリオットへと駆け出した


「く・・・くそっ!」


力の入らない足を叩き、何とか立ち上がろうとするエリオット。レンドも再び身体強化を試みるも魔力切れで力が入らない。ツーとエイトも動けずシールドベアがエリオットの前に来て襲いかかろうとした瞬間、背後から今度は別の女性の声が響き渡る


「ステラ!ウォーターブレス!」


エリオットに襲いかかろうとしたシールドベアをウォーターブレスが吹き飛ばす。数mほど吹き飛んだシールドベアが再び立ち上がろうとするが、そうはさせまいと次なる魔法が唸りをあげる


「ステラ!ウォーターカッター!」


極限まで圧縮された水がシールドベアに向けて放たれると立ち上がろうとするシールドベアを通り過ぎる。するとシールドベアは断末魔を上げると2つに分かれ絶命した


それと同時くらいに猿の巨体は跡形もなく消え去り、森は再び静けさを取り戻す


「間に合って良かった・・・冷や冷やものね」


奥からステラを従えたマーナが現れる。マーナはレンド達が気になりステラに乗って追いかけている最中に街へ向かうサードを見つけ、状況を聞いて飛んできた。遠くからエリオットが、襲われそうになっている姿を見てウォーターブレスを放ち、降りた後にウォーターブレスを圧縮させたウォーターカッターでトドメを刺した


「ははっ、ナムリの街とは反対の立場になったねー、僕はおっぱい出てないけど」


「おっぱい言うな!・・・これで貸し借りなしね・・・ところで大型の魔物ってシールドベア?サードさんはでかい猿がどうとか言ってたけど・・・」


マーナはそれらしき魔獣が居ないため警戒しながら見渡した。レンドがふらふらしながら立ち上がるとマーナに状況を説明した


猿の魔獣はエリオットの一撃で倒した事、ツーとエイトが動けない事、エリオットと自分も魔力切れで自力で帰るのはきつい事


マーナはため息をついて頷き、馬車を手配してくると言ってステラに乗りセガスへと戻って行った


4人はその場にヘタリ込み、ようやく終わった事に安堵する。そして、ひと息ついた後、エイトがレンドの顔を見て首を傾げた


「お前・・・そんな傷あったか?」


エイトに言われ、レンドは自分の額を触ると巻いていた布が外れている事に気付いた。額に刻まれた十字傷・・・あまりにも目立つ為に布を巻いて隠していたのだが戦いの最中に外れてしまっていた


「いや、まあ・・・約束手形みたいなもんですよ・・・」


レンドが苦笑しながら言うとエリオットも自分の頬にある傷を掻いた後、寝転び大の字になる。そして、目を閉じて考えるのはあの時の声・・・≪イメージよ・・・坊や≫・・・聞いたことのない声に咄嗟に反応して上手くいったが、一体誰の声だったのか・・・もしあの時あのアドバイスがなければもしかしたら・・・ふと寒気がして考えるのを止めた


それから10分も経たずにマーナが戻って来る。ステラの足にシャンドをぶら下げて────




────数分前


マーナがステラに乗って全速力でセガスに戻ると宿屋の前に降り立った。街はドラゴンの来襲に慌てふためいているが説明している暇もなく、ステラを置いて中に入るとシントから戻ったシャンドが優雅にお茶してた


「シャンドさん!良いところに!お願い・・・私と一緒に来て欲しいの!」


「これはマーナ様・・・お茶でも1杯いかがですか?」


「こりゃどうも・・・ってここ私んち!その、急いでるんで・・・」


「お急ぎですか?ですが私はクオン様に仕える身・・・良いところに一緒に来てと言われましても」


「いやいやいや、そうじゃなくて!レンド達が森の中で動けなくなってるのよ!」


「とても良いところには思えませんが?」


「でしょうね!あーもうっ!」


マーナが苛立っていると2階から降りてきたクオンが苦笑しながらシャンドに声をかける


「シャンド、戻って来てそうそう悪いが意地悪しないで行ってくれ」


「仰せのままに」


シャンドはクオンの言葉を聞いてお茶の入ったカップを置き、スっと立ち上がるとクオンにお辞儀をする


マーナはそれを見てため息をつくと降りてきたクオンを見た


「・・・大丈夫なの?」


「死にかけた・・・が、大丈夫だ」


クオンが微笑むのを見てマーナは安心するとシャンドを連れて宿屋を出た


街の住民が遠巻きにステラを見てザワザワしているが説明している時間はないとステラの背に乗る


「シャンドさんは・・・」


「勝手に飛んで下さい。私は足に捕まって行きますので・・・」


「?」


よく分からなかったがシャンドの言う通りにステラに飛ぶように支持する。ステラは小さく鳴くと翼を羽ばたかせて大地を蹴る。そのタイミングに合わせてシャンドは飛び上がるとステラの足を掴んだ


一瞬、ステラがビックリしてバランスを崩すも何とか持ち直し、そのままレンド達の元へと飛び立った




「で、黒丸・・・いつまでそこにいるんだ?」


クオンが食堂の椅子に腰かけ、チラリと階段の方を見ながら言うと枕を抱えたマルネスが渋々降りてきた


アカネとマーナに昨日の出来事は全て話した。部屋を間違え、マルネスを押し倒しそのままベッドで眠り、朝起きた時になんでお前が発言・・・最低・最悪・朴念仁と散々罵られ説教されていた


クオンはアカネとマーナの説教が身に染みたのか、頭を掻いてマルネスの様子を伺った


メイド服からパジャマに着替え、大きめの枕で身体の半分を隠しジト目でクオンを見つめている


怒っていると言うより拗ねていると感じたクオンはどう対応すればいいか困っているとトコトコと歩きクオンの膝の上に座った


「聞きたいことがある」


「なんだ?」


ボソリと小さい声で喋るマルネスにクオンは耳を近付けて問いかける。何を聞かれるのか内心ドキドキしているとマルネスが上を向いてクオンを見つめた


「あの時、妾の部屋でなければ・・・例えばマーナやアカネの部屋だったら同じ事をしておったか?」


同じ事・・・正直覚えていないクオンだったが、アカネとマーナがマルネスに事情聴取した限りでは抱きつきキスをして押し倒したと・・・うわ、何それ鬼畜だなっと自分の事ながら思ってしまった。だが、質問の内容がその事を責める訳でもなく他の女性に同じ事をするかどうか・・・クオンは昨日の1件を振り返り答える


「あー、その・・・多分だけどな。酔った勢いで・・・だから決して部屋を間違えた訳では・・・ない」


「・・・つまり・・・妾の部屋と知って入ったと?」


「そうなる・・・な」


いつものような自信たっぷりに何でもこなすクオンの姿はなく、歯切れの悪い言い方で困ったように頭を掻きながら言うクオン。逆にマルネスはこれでもかと満面の笑みを浮かべキラキラとした目でクオンを見つめた


「つまり、つまりな。クオンは妾と・・・その・・・致したかったから部屋に訪れ・・・その行為の途中で疲れ果て寝てしまったと・・・」


「そこまでは・・・でも・・・そう・・・なるのか?」


マルネスが怒っていたのはクオンの行った行為にでは無い。クオンが目覚めた時に放った言葉「なぜお前が俺の下にいる」と言う言葉から、クオンは別の女性がいると認識していたのではと思ったからだ


しかし、先程のクオンの言葉から、クオンは起きた時には夜の記憶がなく単純にマルネスが居た事に驚き発した言葉、尚且つクオンは酔った勢いで自分を襲おうとしたという衝撃の事実・・・これが笑わずにおられるだろうかと怒りMAXから幸福度MAXへと変化する


酒は人の本性を引き出すと言う。つまりはクオンの本性は・・・と瞳を潤ませ背中をクオンの胸に預けてじっと見つめる


「おい・・・発情するな」


「それは無理というものだ・・・妾は既に受け入れる準備が出来ておる・・・本能のままに・・・ああ、大丈夫だ。大人の状態に戻れば・・・。それに安心せい、子が産まれるまでそのままでおる故に・・・」


「ねえ・・・そういうのは自分の部屋でやってくれない?」


「黙れ愚民!」


「ぐ、愚民?」


いつの間にか食堂に居たアカネが発情しているマルネスにツッコミを入れるが、マルネスはアカネを見ようともせず一言で切り捨てた


「のう・・・クオン・・・」


「あのなぁ・・・これから魔の世に向かおうというのに擬態化したまんまで済むわけないだろ?」


「・・・は?魔の世?」


発情マルネスはクオンの突然の言葉に目を丸くして固まる。これから向かう先はシント・・・それなのにクオンの口からは向かう先が魔の世と告げられる


「クオン?どういう事?」


それはアカネも聞いていないと驚くが、クオンは椅子の背もたれに身体を預ける。クオンに身体を預けていたマルネスはいきなり動いたクオンに驚き身体を起こすと上半身を捻ってクオンをまじまじと見つめる


「カーラをそのままにしておく訳ないだろ?俺と黒丸とシャンドで魔の世に向かい、カーラを止める」


「ま、待て!神扉は・・・」


「擬態化すれば通れるはず・・・アモンが魔の世で擬態化を禁じた理由は神扉を通過出来ないようにする為のはずだからな」


「なっ!?」


甘いムードが一変、地獄に叩き落とされたように顔を青ざめさせるマルネス。アカネもクオンの発言に驚き、言葉を失った


「久しぶりの魔の世だ・・・何が起こるか」


クオンは微笑み、シントのある方向を見つめる


マルネスとアカネはただただ呆然とクオンを見つめるのであった────

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