表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『操るもの』
60/160

3章 1 セガスへ

よく晴れた日の朝、ディートグリス王都ダムアイトの門の前には多くの人が集まっていた


ここを去るもの見送るものに分かれ、しばしの別れを惜しむ声が所々に上がっていた


「達者でな・・・クオン。私はいつでも股を開く準備が出来てるぞ」


「ハーネット・・・『法の番人』がビッチになったぞ?」


「変えたのはクオンだろ?責任取ってくれ」


「責任・・・結婚・・・ニーナ・ケルベロス・・・悪くない・・・」




「マルネス・・・本当にありがとう。もしあのまま足が・・・」


「ん、おお、気にするでない・・・ちっ、あの女また・・・」


「・・・そんなにニーナ様とクオンが気になるの?心配しなくてもクオンとマルネスはお似合いよ?」


「おお!?そうであろう!お主天人のクセに見所があると思うてたが、妾の目に狂いはなかったな」


「どこがー?ソクシュ姉ちゃんも見る目ないなー」


「ガキ・・・ちぃと黙っとれ」


「エリオット、本当について行くの?」


「うん!僕の『千の剣』でマルネス様をお守りするのさ!」




「ジュウちゃんをよろしくねぇ・・・アカちゃん」


「よろしくも何も1人でさっさと帰っちゃうんだから・・・あのバカ・・・フウカ、帰りたくなったらいつでも言いなよ?クオンに頼んでシャンドの瞬間移動ですぐに迎えに行くから!」


「アカネ様ー、私が帰りたくなったら?」


「レンは我慢なさい。私と貴女でフウカ様の身の回りの世話をするのが今回の任務です」


「レンちゃんもジュウちゃんをよろしくねぇ」


「あ、はい!頑張ります!」


「フウカ様ー、この男をレンちゃんって呼ぶのやめてくださいよー!それほぼ私じゃないですか!」


「レンは・・・レちゃん?」


「短っ!」





「ドラゴン調査の時から考えると・・・一番成長したのはマーナ・ハネス卿だな」


「卿は止めてくださいデラス様。それに私一人じゃ何も出来ません。皆がいて、ステラがいるから・・・」


「それもお主の実力よ。マーナ。それに様はやめてくれんか?デラスで良い・・・共に旅した仲だしのう」


「・・・はい、デラスさん」





≪フハハハハ・・・で、いつまでぶら下がってるつもりだ?小娘≫


「飽きるまでです」


≪そうか・・・なら早々に飽きてくれるか?我輩が飽きた!≫


「・・・まだです。もっと筋肉の波動を迸らせるです」


≪うぬも波動を感じるか!?・・・良かろう!得と味わうが良い!≫


「うお゛お゛お゛お゛お゛」





「シャンド様・・・次はいつ王都に来られますか?」


≪主が来られる時です≫


「そう・・・ですか・・・次来た時は私と食事でも・・・」


≪主のご命令とあらば≫


「私が・・・嫌いですか?」


≪好きでも嫌いでもありません≫


「おい、さっきから聞いてれば・・・」


「よせ、ランス!このままの方が何かと都合がいい」


「だってよぉ、シード・・・」


「姫、こんなクズ野郎の事は放っておいて、他の人に挨拶に行きましょう」


「姉様・・・」


≪ああ、確かミゼナ・クロームでしたか?師であるマルネス様に何も告げずに人の世に落ちた恩知らずのクゼンの娘の≫


「こ、このっ!」




「おいおい、なんかあっちが険悪な雰囲気になってるぞ?」


「放っておこう・・・下手に手出しするとこちらに飛び火しそうだ」


「でも、凄い光景ね・・・王女で在られるゼナ様を筆頭に侯爵で在られるニーナ様、四天の方々、デラス・ガクノース卿・・・そうそうたるメンバーのお見送り・・・」


「そして、『白銀の翼』の面々・・・ってか?」


「クオンさん・・・あれ?ニーナ様は?」


「ハーネットに任せた」


「・・・人の主を矢面に立てないで下さい」


「侯爵の暴走を止めるのも四天の務めだろ?」


「そんな務めはありません!・・・話しは変わりますが、クオンさんには感謝してもし足りません・・・あの時の『ハーネットを頼む』という言葉・・・遅過ぎますがやっと理解出来た気がします」


「なーに、ハーネットとお前らなら言わずとも気付いていたさ。それが早いか遅いかの違いだけだ」


「いえ、もっと早くに気付かねばなりませんでした・・・せっかく忠告して頂いたのに・・・」


「ソフィアからそんな言葉が聞けるならもう大丈夫だな。最初の頃は俺と目も合わせてくれなかったからな」


「それは!・・・反省してます・・・」


「・・・ハーネットを頼む」


「お任せ下さい。お元気で・・・また会える日を楽しみにしています」





別れを惜しみそれぞれ挨拶を交わすとシャンドを中心にシントに向かう物が集まった。クオンがディートグリスに残るもの達に微笑みながら手を上げるとシャンドの『瞬間移動』が発動する


一瞬の別れに当分会えなくなるといった感覚はなく、またすぐ会えるような気がして王女を除いては晴れやかな笑顔で見送っていた────




「ここは?」


「セガス・・・マーナとレンドの生まれ故郷だ」


移動した先はセガスの入口付近。突如現れたクオン達に門番が驚き腰を抜かしているが、気にせずアカネがクオンに尋ねた


「てっきりウェントまで移動するのかと・・・」


シャンドはディートグリス全土の地理を知り尽くしている。当然ディートグリスとバースヘイムの国境線上にある街、ウェントに移動すると思っていたレンドがその思いを口にするが、クオンは首を振った


「一旦ここで何日か過ごそう。ラフィスの件でドタバタしてたからな・・・レンドとマーナも久しぶりの故郷だろうしとりあえず俺もゆっくりしたい」


「ジュウベエが通るかも知れないしね。この先は徒歩?馬・・・は現実的じゃないから馬車?」


「シャンドにバースヘイムとシントへの通行証を渡してる。魔力満タンで自分だけなら一国くらい余裕で行き来出来るらしいからシャンドに先行してもらって瞬間移動でシントに向かう」


「・・・結構準備して来たんだけど・・・」


「この人数で移動だと何かとトラブルになるだろ?シャンド様々な案だが1番確実で早い」


≪お任せを。マーナ様に魔力を回復して頂き次第行って参ります。戻るのは一瞬なので、急げば半日ほどで戻って来れるかと≫


「ぶっ・・・どんだけよ・・・じゃあ、旅のことは気にしないで久しぶりにのんびりするわ」


「ああ。レンド達の宿屋についたらとりあえず荷物を置いてフォーの屋敷に向かうか・・・アースリーは本当に戻らなくて良いのか?」


「大丈夫です。元々嫁ぐ予定でしたし、あの家に未練はありませんです」


「分かった。シャンドの荷物・・・半分持つか?」


≪いえ、平気です。中は所詮服ですので≫


「そうか・・・じゃあ、行こうか」


クオンが歩き出すとシャンドは器用に片手に5箱ずつ持ち上げそれに従う。その後にアカネ、アースリーが続くとマーナとステラが追いかけ、レンドが後ろを気にしながら歩く。最後にマルネスとつまらなそうに頭の後ろで手を組んだエリオットが続いた


門を通り抜けそこまで日にちが経ってないにも関わらず懐かしさを感じるレンドとマーナ。歩き慣れた街並みを進むと見慣れた我が家である宿屋に辿り着く


「ただいま!」


レンドとマーナが勢いよく中に入ると、客が来たと思ったレンド達の母、マーニャ・ハネスが椅子から立ち上がるがレンド達の顔を見てため息を漏らす


「なんだい・・・あんた達か。最近は客先も遠のいてるんだ、期待させるんじゃないよ」


「久しぶりに戻って来た子供に対して・・・まあ、いつも通りか。クオンさん達が泊まりたいらしいんだけど・・・この様子だと空いてるみたいだね」


「おや?あらあら、また泊まってくれるのかい?部屋は空いてるから大丈夫だよ。えっと・・・何部屋必要なんだい?」


レンドの後ろにいるクオン達を見て笑顔になるマーニャ。前回はクオンとマルネスだけで2人1部屋だったが、人数の多さに目を白黒させて尋ねる


「人数分でお願い。もちろんマルネス様の分も」


≪これマーナ・・・勝手に≫


「人になれるし大人にもなれるマルネス様をクオンと同じ部屋にする事は出来ないわ・・・それとも木刀になります?封印の布付きで」


≪ぐぬぬ・・・クオンー、マーナがいじめてくるのだが≫


「観念しろ黒丸。俺も今の黒丸と同部屋になろうとは思ってない。人化してゆっくり休め」


≪人化など覚えねば良かった・・・≫


しゅんとするマルネスを他所にマーナがマーニャに部屋の数を伝える。マーニャは久しぶりの大盛況に喜び、部屋の案内を2人の子に任せて食材の買い出しに行ってしまった


2人は適当に部屋を振り分け、各々が荷物を置き終えると1階の食堂に集まり、街が気になり途中で帰ったフォーに現状の報告とこれからの事を伝える為、屋敷へと向かった


マルネスとシャンドは部屋で人化し、マルネスはお気に入りのブカブカなメイド服、シャンドはいつもの執事服だが、どうやら箱から1着取り出したらしくいつものより高級感が漂っていた


それからあまり関わりのないアカネとエリオットは街を見て回ると別れ、クオン、マルネス、シャンド、アースリーにマーナ、レンド、ステラ(犬)が屋敷に到着すると、クオン達の顔を覚えていた使用人がフォーに伝えすぐに屋敷の中へと通された


「皆さんご無事で何よりです!色々と聞きたいこともありますが、まずはゆっくりとお茶でも召し上がってください」


フォーがクオン達を笑顔で出迎えるとすぐに食堂に案内し、お茶を振る舞う


全員にお茶が行き渡り、少し落ち着いた所でクオンがフォーと別れてからの事を話し始めた


熱心に聞いていたフォーが少し表情に陰を落とすとクオンがその理由を尋ねる。するとセガスの街周辺に少しばかり異変が起きており、その時期はラフィスが王都を最初に襲撃した日と重なると言うのだ


「生態系の変化と思わせる現象です。森から今までいた動物や魔物が消え、狩人が大型の魔物を見たとか・・・」


それを聞いてクオンとマルネスの視線が合う。2人は同時に同じ事を考えていたのか頷くと声に出した


「ラビットタイガーの時と同じ・・・」


「後でクオンの部屋に・・・」


「・・・万年発情期か」


クオンがマルネスにゲンコツを食らわし、マーナが睨みをきかせ、宿屋に戻ったらクオンの部屋に鍵を付けようか真剣に悩み始めた


フォーは変わらぬやり取りに苦笑するとクオンの言いかけた内容を尋ね、クオンはソクシュと出会ったノーズでの出来事を話した


巨大な魔獣、ラビットタイガー。恐らくラフィスの『扉』を通って魔の世から人の世に現れたと思われ、四天のソクシュでさえ苦戦していた魔獣。もしラフィスが同時多発的に色々な場所に『扉』を開いていたらラビットタイガーのような魔獣が出現している可能性は無きにしも非ず


「だが、ラビットタイガーなら退化で魔素を感じられないからその場に残るのは分かるが、他の魔獣だと魔素の濃いシント方面に向かいそうなものだが・・・」


「イタタタタ・・・う、うむ。ステラと同じように行動する可能性が非常に高いのう。だとすると別の要因やも知らん・・・その場に残ってる理由がのう」


「魔素を求めないでその場に残る?だって魔獣ってステラと同じように魔力が無くなると・・・」


「消滅する・・・擬態を使えれば存命も可能だが、擬態を禁忌としている魔の世から来たばかりで擬態が使えるとは思えぬ。もしその狩人の見た大型の魔物がラビットタイガーでなければその場に残る理由はただ一つ」


マルネスが言葉を溜めると全員がマルネスに注目しゴクリと喉を鳴らす。そして、クオンを指さしたので全員の注目がクオンに集まった


(つがい)を見つけた」


「・・・なぜそこで俺を指差す」


「つがい?それって・・・」


「言葉の通りだ。魔族と魔獣は同種族で子は成せぬ。逆に他種族となら子は成せるのだ。魔と人が良い例だな。もし『扉』から人の世に来た魔獣が番を見つけておれば、充分その場に残る理由となろう」


「・・・あの」


「なんだ?」


マルネスの説明に納得しつつもレンドは疑問に思った事があり、手を上げるとマルネスがレンドを見た


「いや、クロフィード様の言葉通りですと、魔の世って子供が出来ない環境って事ですよね?でも、ステラとかってまだ幼いとか言ってましたけど・・・」


「・・・説明せねばならぬか?」


レンドの質問にあからさまに嫌そうな顔をするマルネス。振り返りクオンを見ると、クオンは当たり前だと頷く。諦めたのかマルネスは渋々説明を始めた


魔族や魔獣は同種族では子供を作ることが出来ない。では、そもそもどうやって生まれてきたのか


魔の世の創成期、全ては原初の八魔から始まる


法を司る『禁』、無を司る『黒』、有を司る『白』、物を司る『操』、火を司る『炎』、水を司る『氷』、風を司る『嵐』、土を司る『地』


その中の有を司る『白』は魔族や魔獣を創る事が出来る。その『白』が創ったもの達が現存している魔族や魔獣なのである


「え?え?・・・その『原初の八魔』は一体誰が?」


「それは分からぬ。お主ら人がなぜ存在するかを説明出来ぬようにな」


「『氷』が水を司る?逆なのでは?」


「阿呆め。『地』を削り土を取り出すように、『氷』を溶かしたのが水だ。『炎』の一部が火であり、『嵐』の一部が風のようにな」


「ワタシの創るゴーレムと同じ?」


「そうだのう。考え方は似ておるが、違うのは『核』が生きているかどうか・・・お主の創る『核』は成長せぬが、『白』の創る『核』は成長する。それが魔族や魔獣の成長ともなる」


「無を司る『黒』って・・・クロフィード様?」


「・・・だのう」


マーナ、フォー、アースリー、レンドの質問に答えるマルネス。最後の質問はあまり答えたくなかったのか、少し表情が曇った


「つ、つまり今も『白』の魔族が魔族や魔獣を創り続けていると?」


「今も・・・と問われると正直分からんと答えるしかないが、恐らくは創り続けておるだろうな。でなければ魔獣は全て魔族に狩り尽くされてしまう」


「・・・魔獣ってまさか・・・」


「本来の意味は分からん。だが、今現在の意味は魔族の玩具・・・であろうのう」


その言葉を聞き、ステラがくぅんと小さく鳴く。何とか生き延びてエンシェントドラゴンとなれば魔族に対抗しうるのだが、成長しきってない魔獣はただの魔族の遊び相手と化していた。その為、知恵の高いドラゴンは『隙間』・・・カーラの創り出した『扉』を見つけると幼いドラゴンを人の世に落としていた


「とりあえず・・・『白』が創り出した魔族や魔獣同士では子共が作れない・・・って事よね?」


「そうなるのう。妾もシャンドもステラも『核』が本体・・・身体の構造は人や動物と似ているが、似て非なるもの・・・その似て非なるもの同士が子を成そうとしても上手く出来ぬ・・・だが、人や動物と交わる事により子を成すことが出来るといった具合だ」


「・・・」


全員がマルネスの話を聞いて言葉を失った。『核』が本体、『核』の成長、『核』を創り出すもの・・・そして、原初の八魔。普通に生きていたのなら知り得なかった情報に頭がついていかず混乱していると、フォーが手を鳴らし注目を集めた


「理解し難い内容でしたが、何となく分かりました。そのラビットタイガーという魔獣?でなければ、魔の世から来た魔獣はこの世の魔物か動物と番になり、この地に留まっている可能性が高いと・・・ちなみに一般的に魔獣の強さはどれくらいでしょうか?」


「個体による・・・が、エーランク冒険者では、歯が立たぬな。ステラや魔族と同等と認識しておれば間違いないだろう」


「ドラゴンや魔族・・・」


「街など一両日くらいで破壊し尽くせる・・・魔力が続けばだがな」


「・・・明日、兄さんとエイトが冒険者と共に調査に行く予定になっているのですが・・・」


「止めておくのだな。わざわざ食事を与えてどうする?それに人は敵、もしくは食糧と認識すれば被害は拡がる一方ぞ?」


「ど、どうにかならないでしょうか・・・ただでさえ何も無い街に危険な魔獣が近くにいると知られれば外部からのお金が入って来なくなり財政は破綻してしまいます・・・」


自給自足を主としている村と違って街では、他の街との交易などで収益を上げている。簡単に言えばレンドの家の宿屋に商人や旅人などが泊まることによりお金を払い、そのお金の1部を税収といった形で領主が受け取り、1部を国に、残りを街の修繕や兵士の給料に当てられる。街の収益が少なくなれば国に支払いをする事が出来なくなるばかりか、兵士への給料が払えず反感を買ったり、街の修繕などが出来ずに外観が損なわれたりと更に商人や旅人が寄り付かなくなる要因ともなる


フォーはチラリチラリとクオンを見てため息をつくと、クオンはそれに気付きやれやれとため息をついた


「分かった分かった。俺が同行する。フォーには世話になったし、セガスの街が廃れるのを見たくないからな」


「!感謝する!クオンが手伝ってくれるなら百人力だ!今日は妻の料理を振舞おう!存分に味わって欲しい!」


「いや、今日は宿屋で・・・妻?」


フォーに妻などいたかとクオンが首を傾げ、マーナとレンド、アースリーへと視線を移す。そういえば元々アースリーはフォーに嫁ぐとか言ってたなと思いを馳せてると、フォーが照れながら手を叩いた


すると食堂にドレスを着た女性が顔を伏せながら食堂に入り、フォーの座る椅子の斜め後ろで立ち止まる


「紹介が遅れてしまい申し訳ない。セガスに戻った後にギフトを気にしなくて良いと思ったら視界が広がり・・・いつも支えてくれた彼女に心が揺らぎ・・・」


「・・・それをお手付きと言う」


クオンのツッコミにフォーが頭をかいて誤魔化していると、ヨダレを手の甲で拭いながらマルネスが呟く


「・・・主人とメイド・・・良いではないか」


マーナがそれをジト目で見つめて牽制し、レンドが慌ててその視線を遮って喧嘩を未然に防ぐ。そんなレンドのファインプレーも相まってフォーとの再会はつつがなく終わり、今晩はフォーが宿屋に赴き、簡単な食事会を開く事となった


クオン達が宿屋に戻り夜になったらフォーが来る事をマーニャに伝えると、マーニャは青ざめて再び買い出しに・・・レンドは荷物持ちで連れていかれ、マーナはシャンドの魔力の回復をステラと共に行った


シャンドは魔力が充分に回復すると休むこと無くシントヘ向けて出発。働き者の執事服の魔族と違ってクオンは自室でゆったりと暇を満喫した


日も傾き、マーニャとマーナ、レンドは食堂の内装を一新・・・と言っても木で作られたテーブルにクロスをかけ、椅子は雑巾で丁寧に磨き、床にある傷は絨毯を敷いて誤魔化すくらいではあったが、普段の質素な食堂から少し豪華な食堂へと姿を変えた


そこからマーニャは旦那であり、マーナとレンドの父親でもあるレノスと共に調理に没頭、時間になると所狭しとテーブルの上に食事が並べられていた


ちょうど準備が終わった頃、フォーが夫人のレイを伴い宿屋に顔を出す。マーニャとレノスは平伏しフォーを奥の席へと案内しようとした時に苦笑いしながらこう言った


「同じ男爵家、新参とはいえ上も下もありませんよ。堂々とされて下さい、ハネス卿」


「へ?・・・ハネス・・・卿?」


日中フォーの屋敷を訪ねた時にラフィスの件で爵位を授かった事をフォーには伝えたレンドとマーナ。しかし、実の親にはなかなか言い出しにくく、ズルズルと言わずに来てしまっていた


レンドとマーナが授かった爵位は当代のみの名誉男爵ではなく、列記とした男爵の位。本来なら領地などが与えられるのだが、レンドとマーナはそれを辞退した。その為、代わりに毎月ハネス家に爵位に対する給金が支払われる事になっている


「私達が・・・男爵?そんな訳・・・」


「ごめん、母さん・・・言いそびれて・・・」


「・・・・・・・・・冷めない内に皆に食べて頂こう、マーニャ・ハネス男爵」


「・・・あんた受け入れるの早すぎよ・・・」


こうして再会の宴からハネス家の爵位おめでとうパーティーに変わり果て、フォーの持参した高級酒に皆が酔いしれ、新参男爵のマーニャとレノスが作った料理に舌づつみを打った


全員が満足し笑顔になり、料理も酒もなくなる頃にフォーとレイは屋敷からの迎えの私兵と共に帰り、クオン達もそれぞれ割り当てられた部屋へと戻る


マルネスは久しぶりの酒にほろ酔いになりながら、前は2人で過ごした部屋を眺めて寂しさを感じていた


部屋の中で佇んでいるとふいにドアのノブを回すカチャリと音が聞こえ、振り向くと愛しの人の姿が・・・酔っているのかと何度も目を擦り確認するも立っているのはクオンに間違いなかった


「ク・・・クオン?部屋を間違え・・・」


無言でドアを開けて立っているクオンを覗き込むように下から見上げると、普段と変わらないクオンが目に映る。しかし、いつもの半目の為にどこを見ているか分からずに近付いて見るといきなり抱きつかれた


「んあ゛ぁぁ!・・・ちょっ・・・クオッ・・・ン」


突然抱きつかれてパニックになるマルネス。力強く抱き締められ狼狽えていると唇を奪われた。心の準備がーと心の中で叫ぶも徐々に力を抜いていきクオンに身を任せる


チラリと横目で確認するのは部屋のベッド・・・遂にと胸の高鳴りを心地よく感じ、ふと部屋に備え付けてある鏡を見ると抱っこをせがむ幼女の姿・・・いや、クオンとマルネスの姿が映り込んでいた


「・・・ク、クオン?少しだけ・・・少しだけ待っててくれるか?その・・・子のこともあるが、この際そうも言ってられぬ・・・受け入れよう・・・だが、そのちょっと見た目を・・・な?」


前にニーナに言われた擬態状態の時に子を成すとどうなるか・・・その答えは出ておらず、不安も残るがこの機を逃すと次はいつになるのか分からない・・・それは何としても避けたいマルネス。子が産まれるまで擬態を解除しないと心に決め、受け入れる覚悟はしたのだが、客観的に見ても物理的にもこの姿では無理だと判断しアダルトマルネスになるまでの時間をくれとクオンに伝える・・・が


「ふにゃぁ゛!」


立ったままの姿勢からベッドに押し倒され、自然とクオンの顔が近付く。無理矢理にでも寝た態勢から大人ヴァージョンに擬態化出来ないものかと頑張るも、興奮している為か魔力が上手く操作出来なかった


もうどうにでもなれと目を閉じて幼女姿のまま受け入れようとするが、一向に服を脱がされる気配はない。もしや脱がすのに手間取っているのではと目を開けると・・・ぐっすりと寝息を立てて寝ているクオンがそこに居た


「・・・・・・・・・」


マルネスは目を見開き拳を握るが、もし起こしてしまいさっきまでのがただの寝ぼけた故の行動だとしたら部屋からクオンが去ってしまうと考え、握った拳を解いた


そして、寝てしまったクオンを抱きしめ、自らも深い眠りにつくのであった────




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ