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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『招くもの』
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2章 26 王と王

それぞれ心境の変化がありつつハーネットの屋敷に戻ったクオン達は王城より戻ったハーネットより明日の謁見を取り次いだ事を聞いた


「ところでその方は?」


「シント国国・・・君主のシン・ウォール様だ。明日の謁見に連れて行く。今日は適当に空いている部屋を・・・」


「ちょちょちょっと待て!く、君主!?そのような国賓の方を・・・いや、待て!色々おかしい!落ち着け!」


「お前が落ち着け。国賓扱いなど不要だ。1人で来てディートグリス国王に会ったらすぐに帰る。前に謁見の間で話したように謝罪と賠償に来たのだから、国賓扱いはおかしいだろ?」


「おかしくない!全くおかしくないぞクオン!他国の王を迎えるにあたって国を挙げて出迎えるのは至極当然のこと・・・理由など問題ではない!」


「それは今から行くよと正式な手順を踏んだ王に対してやってくれ。予告なしに来たんだ・・・屋根があるだけマシってもんだ」


「・・・ミンよ・・・クオンが冷たいのだが・・・」


「なんでだろうね~?」


まるで心当たりがないように惚ける2人に冷たい視線を送るクオンとどうするべきか呻くハーネット。結局今更国賓対応は難しいと判断したハーネットはクオン達と同様に扱う事を決めた


シンも特に文句を言う訳でもなくそれを受け入れ、食堂で食事を取った後にいつもの会議室でこれまでの経緯をこと細かく話した


「・・・そうであったか。苦労かけたな、アカネ」


「いえ!預かりし4人の兵士を亡くし、未だ『招くもの』を捕らえられていないのは私の不徳の致すところ・・・」


「そんな事はない。報告を受けた時点で即座に次の策を授けなかった私の落ち度だ。クオンがいるから大丈夫かと思ったが・・・よもやはぐれて冒険者に身を費やすとは思いもしなかったぞ」


「こっちはこっちで事情があるんです。ところでいつまでこちらに?」


「明日の会見が終われば帰る。書き置きはして来たが、今頃モリトとファーラがカンカンだろうからな・・・なんだ?私にも手伝って欲しかったか?」


「ご冗談を。そんな事をしたらファーラ様に泣きながら殴られてしまいます。邪魔なのでさっさと帰って欲しいだけです」


「邪魔・・・少し辛辣ではないか?」


「思いを言葉にしたまでです」


口をとんがらせるシンにクオンがコップを傾けながら答えた。明日は朝からクオンとシャンド、そしてシンの3人が国王ゼーネスト・クルセイドと謁見する運びとなり、ハーネットとソクシュがそれに同行する


明日の予定が決まったところでソフィアがプロネスを連れて来た。だいぶ気持ちも収まってきたので家に戻る事になったという


「大変お世話になりました。店は閉めましたが、家はまだあるので細々と暮らしていきたいと思います」


「実際手を下したのはラフィスって奴だが、きっかけを作ったのは俺だ。すまなかった」


「話は聞いております。父は強欲に飲まれただけの事・・・誰のせいでもございません」


「・・・ギフトは?」


「父と弟のマクターのみが受け継いでおります。残念ながら私は・・・」


「必要か?」


「?必要と申されましても・・・」


クオンの言っている意味が分からずにプロネスが首を傾げると、クオンは懐から1つの玉を取り出した。黒い直径5センチ程の球体が手の中で転がっている


「これはギフト『増加』が刻まれた『器』。敵の魔族が君の父親か弟から奪ったものだ。本来なら取り戻す事は出来ないが、特殊な技法で取り戻せた・・・必要なら譲る」


「・・・私も商売人の娘・・・やると言われて貰うほど落ちぶれてはいません。手持ちがないので身体で・・・」


「待て!それ以上言うな!」


「?」


身体をくねらせるプロネスに対して2つの影が殺気を放ち動こうとしていた。もちろん2つの影はマルネスとジュウベエであり、クオンが止めた事により落ち着きを取り戻す


「そうだな・・・『増加』のギフトに今回助けられた・・・結果は残念だったが、今度俺達が必要となったら助けてくれないか?・・・要は貸しって事で」


「貸しはするもので作るものではないと言われて育ちましたが・・・背に腹はかえられません・・・それでお願いします」


「ああ」


クオンは頷くと黒い玉をプロネスに手渡した。渡されたプロネスは改めてその黒い玉を見て困惑する


「あの・・・えっと、これをどうすれば?」


「口から飲み込む」


「さすがにこの大きさは無理なんですが・・・」


「口に入れたら分かる・・・その玉は君の魔力と調和されれば自然と体内に溶け込んでいく。喉を通り胃にはいる訳ではないから・・・まあ、とりあえず口に含んでみてくれ」


クオンの言葉にプロネスは頷くと覚悟を決め目を閉じて口に放り込む。直径5センチの玉で口いっぱいになると一瞬眉毛をピクリと動かし、なんらかしらの変化を感じ取っていた


しばらく口の中をモゴモゴさせていたと思うといつの間にか口の中から消えたみたいで、本人は自分の身体を見回して変化を確認する


見た目の変化はまるでない事が分かると、どうすれば良いのかとクオンを見た


「もうギフトが発動するくらいの魔力はあるはず・・・このコップの水を増やすイメージで何でもいい・・・唱えてみてくれ」


プロネスはコップを渡されて頷くと、コップの水を凝視して一言『増加』と唱えた


するとみるみるうちに水は溢れ出し部屋の床を濡らす


「わっ・・・わっ・・・ちょっと!」


止め方が分からずに慌てるプロネスからクオンがコップを取り上げると何とか水は止まった。まだ実感が湧かないみたいで、プロネスはボーッと溢れ出た水を眺める


「要練習だな。同じようにコップを使って練習すれば自在に水を増やす事が出来るはず・・・後は使い方次第だ」


プロネスはクオンの言葉に頷き深くお辞儀をして感謝の言葉を述べるとハーネットの屋敷から去って行った




翌朝、クオンとシャンドとシンはハーネットとソクシュを伴って王城へと赴く


謁見の間が使用禁止になっている為に他の広間に玉座と絨毯を引き、玉座にゼーネスト、両脇にはランスとシード、少し後ろにニーナがクオン達を招き入れた


壁際には大臣と兵士が交互に並んでおり、その視線は冷たい。前回シャンドの瞬間移動を用いて色々とやらかしたせいもあるが、今回のクオンの願いも関係していた


「貴様ら御前であるぞ!跪け!」


「よい、カイン。クオンが誰にも従わぬのは聞いておる・・・そこの執事服もな・・・だが、はて・・・そなたは?」


「シント国君主、シン・ウォールです。お初目にかかるディートグリス国国王よ」


「・・・なっ!?」


一瞬間があった後、ゼーネストは玉座から立ち上がり驚きの声を上げる。それに追従するように周囲がザワつき、ゼーネストはニーナに振り返るとニーナは無言で頷いた


ニーナはシンに会ってはいない。しかし、ギフト『審判』は肯定を告げる。シンの言葉に嘘偽りがないと


「これは礼を失した・・・まさかシント国王が来られてるとは露知らず・・・」


「お気になさらずに。予告なしに来たこちらに非があります。昨日思い立って来たので予告など意味なかったのですが・・・」


「昨日?」


「まあ、細かい事は置いておいて・・・此度は我が国の者が許されざる罪を犯したにも関わらず寛大な対応をして頂いた事への感謝の言葉を・・・そして、謝罪と慰謝料としてお1人一千万ゴルド・・・足りなければ後日持参致しますが、まずはお納め下さい」


シャンドが金貨千枚入った袋を2つ、玉座とシンの間に置いた。シンの言葉とその袋を見て周りが再びザワつくとゼーネストが口を閉ざすよう手を上げた


「まさか本当に国王自ら謝罪に訪れるとは思いませんでしたな。ただ我らにも非がある・・・国境警備兵の賠償はこちらで行うのでそちらの袋は下げてくれませんかな?」


「それでは・・・」


「引くの早くないですか?こういう時はお互い駆け引きをした後に渋々引くものでは?」


ゼーネストの言葉にすぐに反応して袋を回収しに行くシンに対してクオンが呆れて言うと、シンは袋を持ち上げて元いた場所に戻りながら答える


「馬鹿言え・・・黙って国庫から持ち出したのだ・・・正直命拾いした気持ちだよ。要らないと言うのだから、ここは素直に持ち帰るべきだ」


「・・・たまに殿が本当に殿であっていいのか分からなくなります」


「・・・同感だね」


「オホン!・・・クオンよ、何かワシに伝える事があったのではないのか?」


場をそっちのけで会話するクオンとシンに対してしびれを切らしたゼーネストがクオンに尋ねると、クオンはシンを放っておきゼーネストを見て頷いた


「先の魔族の襲来のおりに『招くもの』ことラフィスの目的が判明したのは知ってると思う。なので今後の為に俺とシャンドをその場所に案内して欲しい」


「・・・不可解な点が多いな。何を持って目的が判明と至ったのか、今後の為にとはどのような意味かイマイチ理解出来ん」


「あれだけの陽動を使って仕掛けた本人が主力と思われる上級魔族を伴い向かった先が目的じゃなくてなんだと言うんだ?それに今のディートグリスにあの戦力を止める手立てはない・・・同じ戦法で来られても防げる見込みがないなら対策しないといけないだろ?」


「それが場所の案内と?」


「シャンドのギフトで何かあったら瞬時に移動出来るようにしておく。もちろん危急の時以外は使用しないと約束する」


四天の四人はその言葉を聞いて歯噛みし、状況の知らなかった他の兵士が騒ぎ立てる。自分らは役立たずと言われてるのと同じなのだから堪らず1人の男が前に出た


「貴様が何処を指して言っているの知らないが、不遜な態度に四天の方々や近衛隊に対する暴言とも取れる言動・・・少し行き過ぎではないか?」


「カイン、下がっておれ」


「しかし、陛下!」


「その四天が手も足も出ずにやられた訳だが・・・近衛隊ってのは四天より強いのか?」


「馬鹿な事を・・・ちゃんと敵を退けてるではないか!」


「シードがギフトを破られ、ランスは首を掴まれ、ハーネットとソクシュは狭い通路で戦いにくい状況・・・相手が引いたのはたまたまウチのアカネが混じってたからだ。違うか?ランスにシード」


「・・・返す言葉もない」


シードが言うとカインは顔を歪めた後にクオンを睨みつける。四天が最上とするが近衛隊も国王を守って来たと自負している。それが役立たず扱いされたのでは引くに引けなかった


「そのアカネという者が四天の方よりも脅威であったと?笑わせるな・・・他の街ならいざ知らず、王都において四天は最強だ。そして、我ら近衛隊の者達も・・・」


「だからその最強が遅れを取ったと言っている。話の分からん奴だな」


「嘘を・・・つくな!!」


カインが叫ぶといつの間にかカインの足元にあった糸がクオン達に向けて放たれる。糸は意志を持ったようにクオン達の周りをグルグルと回り捕縛するとカインは剣を抜き、剣の柄から出ている糸を掴んだ


「我がラド二レス家に代々伝わる宝剣『蜘蛛』から逃れる術はないと思え!」


「・・・他国の使者を捕縛する近衛隊ってどうなんだ?」


「・・・他国の君主を捕縛する方が問題では?」


仲良く3人がカインに捕縛されると堪らずハーネットとソクシュがクオンの前に出る


「今すぐに拘束を解け!御前での抜剣、友への仕打ち・・・目に余るぞカイン!」


「友!?友ですと!?いつから目が曇られた!こヤツらが来たタイミングとラフィスとやらが動き出した時期・・・それに我が国の機密を知りたがる言動、魔族を従えてる事・・・全てはこヤツらがラフィスとやらと裏で繋がってる証拠!」


「カイン!落ち着け!そんな訳がないだろう!」


「では、その証拠は!?そんな訳がないと言いきれる根拠を示して下さい」


クオンら3人がぐるぐる巻きの芋虫状態の中、ハーネットとカインが言い争う。ゼーネストは止めずに言葉に耳を傾けていたが、その後ろにいたニーナが1歩前に出た


「カインよ。私のギフトが信用ならぬか?クオンらの言っている事に嘘偽りはない。兄を魔族に殺された心中は察するが、陛下の御前であるぞ・・・武器をしまえ」


「ニーナ様・・・兄を殺した魔族は違う魔族が殺したと聞いております・・・しかし、ニーナ様はその場面を見ていないという・・・本当に・・・本当に魔族が魔族を殺したのでしょうか?殺したと言って逃がしたのでは?それに界隈でギフトを奪われたり貴族の方が殺される事件が多発しております・・・確か陛下はそこのクオンという男にギフトを記した一覧を渡したとか・・・それを元に脅威になり得るギフトを選んで犯行に及んでいるのでは?」


「名推理だな。俺ですら俺が怪しいと思えてきた」


「自白するなら私の拘束が解かれてからにしてくれ。このままでは一緒に細切れだ」


カインの言葉にクオンが感心すると、シンがツッコミを入れるが、周囲はそれどころでは無い様子


「ならばこの場にて私がクオンらに審議をかけよう。それならば・・・」


「もし!ニーナ様の『審判』をすり抜けられるギフトがあったとしたら?そのような手段や道具があったとしたら?『審判』は我が国の者だけに適用するべきです!彼らの行動は怪し過ぎます!」


カインはあくまでもクオン達が怪しいと主張し、ニーナの提案を跳ね除ける。すると今まで静観していたゼーネストが口を開いた


「確かに・・・カインの言わんとしている事は分からぬでもない。我らは『審判』に頼りきり、この目で真実を見抜く事を放棄していたのかもしれぬ・・・」


「陛下!」


「陛下・・・我がギフトにより是非を決める事が国の方針のはず・・・その理から外れれば根底が揺らいでしまいます」


突然のゼーネストの言葉にハーネットが驚き、ニーナも自分の能力を疑われていると思い口を挟む


相手の思考を読むのではなく、発した言葉の真偽を見抜くギフト『審判』はディートグリスにとって何よりも重きを置くもの・・・それゆえギフト『審判』を持つクリストファー家は王家に次ぐ地位の侯爵であり、ニーナも重責を自覚していた


「カインの言うてた事を聞いていたか?様々な可能性を考えると他国の者が未知のギフトを所有している事を考えると『審判』を鵜呑みにするのは危険・・・ここは精査し慎重に事を運ぶべきだと思うがな」


「なっ・・・陛下?」


1人の兵士の言葉にこれだけすぐに方針を変えるだろうかと疑問に思いながらもニーナは何とか説得を続けるが、ゼーネストは首を縦には振らなかった


しばらく応酬を重ねるが頑として聞く耳を持たないゼーネストが出した結論は・・・


「クオン他『招くもの』調査の者達を一時拘束し、疑いが晴れるまで監視下に置く。無論牢獄とまではいかないが、行動は制限・・・王城に留まってもらおう。なに、ワシも疑ってはおらぬのだが、事が事なだけであり慎重にならざるを得ない・・・理解してもらいたい」


と、ここにいる3人及びシント国の者達の拘束を告げた


ニーナと四天の四人は尚も食い下がろうとするが、所詮は臣下・・・国王であるゼーネストの決定を覆せるはずもなくクオン達は近衛兵に取り囲まれる


「なんか既視感のある光景だな。誰かが玉座近くに突然現れるんじゃないか?」


クオンの言葉に近衛隊の一部がゼーネストの周りを固め、壁際にいた大臣達はそのまま奥へと退避する。ちょうど構図としてはアカネやジュウベエが謁見の間で囲まれていた時と同じであった。ただしその時突如現れた3人の内2人は芋虫状態になっている


「何かあった瞬間に反抗の意図ありと判断し即座に糸を引く・・・細切れになりたくなければ助けが来ない事を祈るのだな」


「そいつは困った。らしいですよ?殿」


カインが張った糸を更に引くような仕草をしながらクオンに警告すると、クオンは困ったようにシンを見た。シンは俺に振るかとため息をつくと糸を引くカインではなくゼーネストを見た


「今までの話だと私も君主かどうか疑われている・・・そう思って良いんですかね?」


「確かめようがない・・・その範疇には貴方の身分も含まれておる。残念ですがそうなりますな」


「では、身分を証明するので拘束を解いてもらっても?あっ、クオンと彼は拘束したままで結構ですので」


「拘束を解いた瞬間に暴れられる可能性を考慮すると難しいですな。仮に拘束を解いたところでその証明するものが本物かどうか判断出来ません・・・偽造を見破る術がないのでね。正式な手続きをされて来られたのでしたら国賓扱いで待遇させてもらいましたが、突然来られて国王を名乗られても・・・」


確かに・・・と頷くクオンを睨みつけた後、シンは再びゼーネストを見て首を振る


「厳しいですね・・・確かに事前に通達しなかったこちらに非があるように思えます。ですが、せっかく二千万ゴルドを支払わずに済んだので、私はさっさと帰って国庫に戻したいのですが・・・今ならバレてない可能性も・・・」


「先程から気にはなっていたが・・・我が国とシントはそれほど近くはない・・・隣国でもあるまいし、昨日出発しただの、すぐに帰るだの・・・積み重ねた嘘が信用を落とすとは思いませんかな?」


「嘘?・・・なるほど。では、こういうのはどうですか?『あなた達は私の気まぐれで生かされてる。感謝しすぐに拘束を解け』・・・なんて言葉は『審判』の彼女にはどう映ったでしょう?」


シンが微笑みニーナを見るとニーナは首を振りゼーネストに告げる


「・・・嘘はついておりません」


「何がしたい・・・自称シント国国王よ」


「嘘をついていない証明を」


ゼーネストに聞かれて答えたシンがニヤリと笑うとカインの糸が突然動き出す


巻き付けられていた糸が徐々に解けていくのを見てカインはギョッと驚愕の表情をした後に手に持つ剣に魔力を注ぐが、それでも糸はシュルシュルと音を立て3人の拘束を解くと剣の柄に納まった


「少し借りるよ」


シンはカインに向けて手を伸ばして言うと、剣はカインの手から離れ、シンの元に向かって飛んで行くとシンの手に綺麗に収まる


「貴様!何を!!」


「・・・うん、良い剣だ。魔力が流れやすいように丁寧に造られている・・・で?どうする?」


拘束もなく武器を手にしたシンに対して周囲を囲っていた兵士が一斉に槍を突き出す。当てこそしなかったが、目と鼻の先に穂先を突き付けると国王ゼーネストの指示を待った


シンはその隙に剣を持つ手と反対の手でまるでイタズラするようにチョンチョンと並べられた穂先を触り、ゼーネストを挑発するように微笑んだ


「・・・捕らえよ!」


ゼーネストはシンの挑発には乗るが、決して殺せとは叫ばず、捕らえるように指示する


それを聞いた兵士達が一斉にシンを捕らえようと動き出した・・・が、何故かその動きはチグハグでシンの周りをバランスを崩したようにつんのめる


「!?・・・何をしている!!」


剣を奪われたカインがおかしな行動を取る兵士達を押し退けて、シンに掴みかかろうとした時、シンは剣先をカインの顔に向けた


「止めた方がいい・・・襲われるぞ?」


「は?・・・なっ!?」


シンの言葉の意味が理解出来ずに一瞬立ち止まると、横から槍が突き出してきた。それを躱して柄の部分を掴むが、襲って来たのが自国の兵士である事に驚きの声を上げる


槍を突き出した兵士は狼狽え、自分の意思ではないと槍から手を離すが、槍は操る者が居なくなっても、槍は徐々にカインへと近付く


「こ・・・これは・・・」


「特能『操』・・・君の『操作』の上位の能力だね。君の能力が魔力を流して操るのに対して、私の能力は魔力を流したものを操る。その違い・・・分かるかな?」


「どこが違う!」


「簡単だよ。君の能力は手にあるものを操ってるのに対して、私はその手になくても操ることが出来る。だから、君の剣は私の手元にあり、兵士達の槍は私の意のまま・・・ほら、こんな事も出来るよ」


シンが手を振り上げるとカインと兵士達が持っていた槍が手を離れ宙に浮くと、全ての穂先がカインに向けられた


「こんな・・・」


「さて、そろそろかな?」


カインが複数の槍を向けられ絶句しているとシンが呟いた。槍たちはその言葉を待っていたかのように糸が切れたが如く地面へ次々落ちていく


「この場所でなければもう少し保つと思うけど・・・さすがはディートグリス王都ですね・・・ゼーネスト国王?」


呆然としているカイン達を無視して散らばった槍を足元にシンはゼーネストに微笑んだ


「・・・魔素のない王都でなければ・・・か。確かにカインを手玉に取る実力はあるようだが、それで我らが生かされてると言うのは・・・」


「私の操れるものが武器だけとお思いで?」


ゼーネストの言葉を遮ってシンが言葉を発するとゼーネストの足元の床が突然隆起し、先端を尖らせてゼーネストの頭部に向けられる


ゼーネストを守っていた兵士も傍にいたランスとシードも一歩も動けずただ驚くしか出来なかった


無言で槍と化した床の一部を見つめるゼーネスト。ややすると床は逆再生するように元の床へと戻っていった


「・・・生かされたか」


「気まぐれでね」


ゼーネストの呟きにクオンが付け加える。それはその場の支配権がゼーネスト達からクオン達に移った事を物語るようでもあった


「さて、これで私がどのように移動してきたか見当もついたはず」


「身に付けているものに魔力を流し操作・・・まさか『天使翼』以外で飛ぶ方法があるとはな」


「ご名答。私の能力はシント国民全員が知るところ・・・隣国バースヘイム王国にも知れ渡っておりますので、必要ならばご確認を・・・ちなみにこの門印と呼ばれる門が描かれた判子は今代の君主のみが持てるもの・・・移動手段、君主の印・・・それに先程の言葉の実行・・・全てが嘘でないと言えると思いますが?」


「確かに・・・な」


「王都を襲われ心中お察しします。しかし、かと言って私共もディートグリスの都合で動くと思わないで頂きたい。シント国として『招くもの』が呼び寄せる魔族や魔獣をどうにかしたいと思っておりますし、今は仲間の救出に力を入れております。どうかその辺をご配慮頂ければと存じます」


「何を・・・望みますかな?」


「何も・・・強いて言えば我が友人の子を信じて頂ければと・・・決して人に仇なす様な結果を望む子ではありませんゆえ」


「友人の子?・・・クオンの事ですかな?」


「いえ、今ディートグリス国にいる全ての子です」


シンの真っ直ぐな視線を受けてゼーネストはフラフラと玉座に近寄ると深く腰掛けた。数的優位にも関わらず1人の者に圧倒的実力差で組み伏せられ、要求されたのは『信じてくれ』とだけ。これならば多額の金銭を要求された方がマシだとため息をつくと疲れ切った表情でシンを見た


「・・・これまで以上の支援を約束しましょう。それと・・・ここまでの非礼・・・お詫び致します。シント国国王、シン・ウォール殿」


「君主ですがね・・・国を思っての事と理解しておりますゆえ頭をお上げ下さい」


顔を上げたゼーネストが薄く微笑み、シンも微笑むと決着が着いたと言わんばかりに場は穏やかな空気に包まれた。その後、場所を移すとお互い対等な立場での話し合いをし、クオンとシャンドは四天とアカネ達がラフィスと会った場所・・・王城の4階へと案内される


危急の時以外は訪れない事を条件とされたが、クオンは元々そのつもりだと告げ、目的を果たした3人は王城を後にした


馬車を出すと言われたが、クオンは必要ないと断り、シャンドの『瞬間移動』にてハーネットの屋敷に瞬時に戻るとシンはクオンに振り返る


「さて、とんだ会合となったが、ディートグリス国王は何を考えている?調査に協力的であったと聞いていたが・・・」


「さあ?ただあのカインという男が誰かに言わされてるってのは確実ですね。まあ、その誰かって言うのは言わずもがなですが」


「・・・なかなかタヌキだね。あの国王は」


「殿も相当ですがね・・・」


会話を終えると3人は誰が言った訳でもなく食堂へと歩き出した。時は既に昼となっており、クオンとシンの腹が満たされる事を望んでいた


「勝手知ったる何たらだな」


「その袋1つこの屋敷に置いていってもバチは当たりませんよ?」


シンは袋をクオンの視界から離し、口笛を吹いて誤魔化す。このまま長居すれば金銭を要求されかねないと思い、昼を食べたらすぐにシントへ戻ろうと固く決意するシンであった────




「陛下!何故あのような!」


クオン達が帰った後、ニーナがゼーネストの居る執務室へと駆け込んだ。ゼーネストがニーナにクオンと同行しろと言ったのはクオンを味方に付けるため・・・今回のやり方はまるでその逆であった為にニーナはゼーネストの言動が腑に落ちなかった


「あのようなとは?」


1人机に向かい何かをしていたゼーネストが手を止め顔を上げるとニーナの質問の意図を問い質す


「カインの言葉に賛同し、クオンらを拘束しようとした事です!あれではまるで敵対・・・」


「味方ではない。お主の婿ならいざ知らず、未だ彼奴はシントの番犬よ・・・ラフィスを倒すのは誰でも良い・・・だが、国を守るのは・・・国の者でなくてはならない」


「ですがラフィスは神出鬼没・・・ここは協力して・・・」


「此度の襲撃・・・我が国はどれほど戦えた?王都に攻め込まれ、静寂の間の一歩手前まで踏み入られ・・・我らは抗う術もなく、シントの者にどれほど助けられた?」


「だからこそ!協力して・・・」


「協力とは!互いに助け合う事を言う!現状の我らとシントでは、協力関係とは言えぬ・・・我らは庇護されておるのだ・・・他国の者にな!」


「・・・陛下・・・」


机に拳を叩き付け激昴するゼーネスト。普段は感情を表に出さない国王の怒りにニーナは言葉を失った


「・・・すまぬ、取り乱した。だが、いつまでおるか分からぬ者達に頼る訳にはいかぬのだ。だから、多少強引な手を使ってでも即戦力を得る為にカインに芝居を打ってもらった」


「?・・・即戦力?ですか?」


「言うたであろう。クオンを囲い込めと。嫌疑をかけられ軟禁された男が、唯一味方してくれる見目麗しい女と何日も同じ部屋におったら・・・どうなるか分かるであろう?」


「・・・ま、まさか・・・」


「まさかシント国の王が来てるとは思わなんだが・・・カインを止めようとも考えたが、始まってしまったものは仕方なしと続けてはみたものの・・・失敗だったな」


先程まで激昴していた人物とは同じとは思えない悪戯な笑顔を向けるゼーネストにニーナは絶句していると、ゼーネストは尚も言葉を続ける


「敵の戦力を舐めていたのは事実・・・そして、我が国の戦力を過信していたのもな。だから、クゼンを呼び寄せた。もうそろそろ王都に着く頃だろう。だが、出来ればクオンを手に入れたい・・・ラフィスの件だけではなく、今後のディートグリスの未来の為に・・・な」


「クゼンさんを・・・確かに陛下に言われるまで心のどこかでクオン達がいるのが当たり前と思い、あぐらをかいてかも知れません・・・。必ずやクオンを我が手に・・・」


ニーナは決意を新たにクオン攻略へと思いを馳せる。屋敷で二人きりになった時、手応えはあったと自負していた。もう一押し・・・そう心の中で呟くとラフィスそっちのけで意気込むニーナであった────


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