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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『招くもの』
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2章 25 意外な来訪者

アカネが街の入口へと向かっていると今まさに魔族に襲われているレンドとデラスに遭遇した。不意打ち気味にアカネが炎の蛇で攻撃すると魔族はターゲットをアカネに変更・・・アカネは難なく魔族を撃退しレンド達に歩み寄った


「大丈夫?」


「ええ・・・ええ!ありがとうございます!ありがとうございます!!」


レンドは涙ながらにアカネの足に縋り付き、デラスはその姿を見て安堵の表情を浮かべた


レンド達が二体の魔族を倒してからは人に化けた魔族も見当たらず順調に街の入口へと進んでいたのだが、街の入口から逃げてくる兵士とすれ違った後に笑みを浮かべて歩いてくる人を発見・・・デラスが解析するまでもなく魔族である事に気付いたレンドが思わず剣を抜いてしまった


魔族は人化がバレたと分かると人化を解き、本来の姿になりレンドを襲う。レンドは必死に逃げ回るがとうとう魔族に捕まってしまった時にアカネの攻撃で九死に一生を得た


アカネ達はその足で街を出るとちょうどマルネスが『黒花星章』を放った時であり、次々に消えて行く魔族達を目の辺りにする


デラスは興奮し近付こうとするが、それをアカネに首根っこを掴まれて止められる


「・・・死ぬわよ?」


止められた事によりまるで捨てられた子犬のような顔をして振り向くデラスにアカネは一言で切って捨てる


ようやく魔法が落ち着いた時、辺り一面には何事もなかったように静寂が訪れ、遠くに何人かの人影があった


アカネ達はその人影に近付くと向こうも気付いたのか軽く手を上げる


「アカネ・・・そっちはどうだ?ラフィスは?」


「クオンがいるなら急ぐ必要はなかったわね。こっちはてんやわんやよ・・・ラフィスが現れて逃げられた・・・フォロを人質にしたままね」


「フォロは居たのか?」


「いえ、どこかに捕らえているような言い草だった。レンが繋げられないって言うのがよく分からないけど生きてる・・・と思うわ」


レンの『レン話』は1度繋げてしまえば距離は関係なく再度繋げる事が出来る。最初の1度目が直接相手に触れて繋げないといけない事とレンからしか繋げられない事を除けばかなり便利なギフトだった


「どこかに隔離して『レン話』を妨害しているのか・・・その他には何か言っていたか?」


「三日後、フォロが居た場所で待つ・・・ラフィスが言い残した言葉よ。クオン1人で来いとね」


「フォロが居た場所か・・・ラフィスは戻ったんだよな?」


「ええ・・・どこにかは分からないけどね」


「分かった。ちょっと待っててくれ」


クオンは言うとシャンドと交信をする。シャンドが向かった先が『フォロの居た場所』であり、恐らくラフィスが戻った場所の可能性が高い。調査に行ったシャンドと戻ったラフィスが鉢合わせするとフォロの命が危険にさらされる可能性を考えてクオンはシャンドを止めた


シャンドはまだ屋敷へと入る前であり、クオンの命令でニーナの別荘へと戻った。ラフィスとの話し合いが三日後の為、その間は攻めて来ないと思われるが、念の為1箇所に仲間を集める算段だ


「とりあえず三日後、俺一人でラフィスと会ってくる。それまで全員王都に集まって情報交換と今後の対策を練ろう」


「へ・・・クオン。そう言えばジゼンの親父さんが亡くなった街でもう1人・・・『魔力を奪われ使えなくなった』って方が居たんだ。ファナト・ジテン・・・子爵の前家長みたいだが・・・これも何か関連があるのか?」


「ファナト・ジテン?・・・どっかで聞いた事あるような・・・」


「クオンよ、忘れたか?ファーレン・ジテン卿・・・ドラゴン調査で一緒になった御仁だ。ファナト・ジテン卿はファーレン卿の父親のはず・・・」


ガトーの言葉にクオンが記憶を探っていると、横からデラスが口を挟む。その言葉でドラゴン調査で一緒になった目を布で覆った男を思い出した


「ああ・・・・・・そういう事か。フォロが捕まるのはおかしいと思ったんだ。気配を消し、遠くから隠れて探るフォロを捕まえるのなんて至難の業・・・だが、ギフト『千里眼』を手に入れていたのなら話は別だ・・・」


「とりあえずハーネット様が心配だ。一旦屋敷に戻ろう、へ・・・クオン」


「行こう・・・へん・・・クオン」


「・・・変態・・・」


「・・・お前ら・・・」


ガトーを先頭にジゼン、ソフィアが歩き出し、クオンの前を通り過ぎる瞬間に顔を見ながら呟く。どうやら3人には魔力の譲渡の為に仕方なく口づけしたと言うのが信じられず、『あれだけ濃厚な口づけをする必要があるだろうか?いや、ない』と結論付け、クオンを幼女好きの変態と認定していた


「クオン・・・何やらかしたの?」


アカネが訝しげに尋ねる中、クオンはどう誤解を解くのかひたすらに考えるのであった────



クオン達がハーネットの屋敷に戻ると未だハーネットは屋敷に戻っていない事を知る。ガトー達3人はハーネットの元へ、残りの者達は特にする事もなく腰を落ち着かせ暫しの休憩を取っていた


ややするとシャンドがニーナとアースリーを、続いてマーナとステラ、フウカを連れて来た


ニーナはすぐに王城へと向かい、入れ違いでハーネットとソクシュがガトー達を連れて戻り、ようやく全員が揃い踏みしたところで情報交換を始めた


ハーネット達からは国家機密ということもあり、ほとんど話せる情報はなかったが、超厳戒態勢へと移行したと告げ、ハーネットとソクシュは王城にしばらく滞在する事となった


ガトー達は行った先で得た情報を改めて話し、ハーネットからの頼みで屋敷に残りクオン達のサポートに回ることになったと告げる


クオンからはラフィス達と戦った事、そして、仲間であるフォロが人質になっている事を話した


「それとフウカが探知した結果、同時に何ヶ所も開かれた隙間は現在閉じているらしい。もしそこから魔物や魔族が出ていたら教えてくれ。俺とシャンドで始末しに行く。念の為街の外で探知は続けてもらう予定だ」


「何ヶ所かの隙間も街の入口に現れた大量の魔族も全ては陽動の為か・・・ラフィスの目的はほぼ間違いなくディートグリスの機密に関してだ。動機は分からないがな」


「その件でハーネットに頼みがある。俺を・・・その機密の場所に連れて行ってくれ」


「クオン・・・それは叶わない。たとえクオンでもあの場所へは・・・」


「ちゃんと許可は取るさ。最高責任者のな。行く理由を聞けば納得してくれるはず・・・でなければディートグリスは滅ぶぞ?」


脅しとも取れるクオンの発言にハーネットは顔を顰めた。実際今回の襲撃もクオン達が居なかったらどうなっていたか分からない。王城ではアカネが、街の入口ではジュウベエとマルネスが居なければ被害は甚大になってた事は容易に想像がついた


ハーネットは暫く考えた後、クオンを最高責任者・・・ディートグリス国王ゼーネストとの面会を約束するとソクシュを伴い王城へと向かって行った


フウカとアースリーは街の外に出て探知をすると言い、その護衛をガトーとジゼンが買って出る。ジュウベエはそそくさと屋敷を出て行ってしまい、それを追うようにレンドも出て行った


マーナと犬ステラは魔力の回復の為にフウカ達の後を追い、アカネはレンを伴い気分転換すると街へ繰り出し、デラスは自分の屋敷へと戻る


残されたクオンとマルネスとソフィア


マルネスはフウカが王都に来た時に何かを受け取っており、時折クオンを見てはグフグフと怪しく笑う


「な、なあ、クオン。フォロの心配をする気持ちも分かるが、三日後まではどうする事も出来まいて。奴らも下手に手を出せばクオンの逆鱗に触れる事ぐらい分かっておるだろうし・・・ここは戦いの疲れを癒す為に・・・その・・・街へ繰り出さぬか?」


「・・・確かにな。はしゃぐ気にはなれないが、気分転換くらいはしておかないと気が滅入るか・・・ソフィアも行くか?」


クオンがソフィアに話を振るとマルネスが物凄い速度でソフィアを見つめる。クオンからはマルネスの顔は見えなかったが、ソフィアの表情が恐怖に染まっているのを見るとどんな顔をしているのか想像がついた


「わ、私は屋敷に残ります・・・プロネスさんもいらっしゃいますし・・・お2人でごゆるりと・・・」


「そうか!それは残念だ!では、クオン、少し準備してくるから待っておれ。あー、ソフィア・・・少々手伝って欲しいのだが・・・」


「え?・・・え?」


マルネスはソフィアの言葉を聞いて即座にフウカが置いていった荷物を持ち上げるとソフィアの背中を押して2階へと上がって行く


何を企んでるのやらとクオンが呆れて待っている事30分・・・ようやく降りてきたので階段を見上げると言葉を失った


「ふふ・・・どうだ?フウカが作ってくれた特別製だぞ?髪はソフィアにやってもらった。存外似合うであろう?」


真っ赤な光沢のある生地のワンピース、袖は肩から少し伸びてほぼ腕は剥き出しで、両足の部分には大胆にスリットが入っており、歩く度に太ももが露出する。髪型は金髪ロールを無理やり頭の上でお団子にし、2つのお団子からは纏めきれなかった髪が垂れ下がる。何故か手には羽根突きの扇子を持ちクオンを見つめて妖艶に微笑んだ。顔は幼女だが


ニーナの屋敷でマルネスがクオンと離れる事に難色を示した際に耳打ちした言葉『クーちゃんはこの格好が好きなのぉ。マルちゃんに同じ服作ってあげるからぁ・・・悩殺しちゃってぇ』を今まさに実践した


悩殺されたクオンを想像し、何とか離れる事を了承したマルネスが満を持して登場。小道具も扇子だけでは無い。胸の部分にはいくつものパッドが仕込まれており、不自然に膨らみを帯びていた。顔は幼女だが


これでもかとドヤ顔をかますマルネスにクオンはどう返事したものかと悩んでいると、マルネスの背後にいるソフィアが軽蔑の視線をクオンへと向けていた


『このド変態が』


そう幻聴が聴こえてきた


街中でこの格好をしたマルネスと歩けば、同様の視線がクオンに突き刺さるだろう


下手すれば兵士を呼ばれるかも知れない


『あそこに幼女に卑猥な格好をさせて連れ回す変態が!』


そう言われて兵士が近寄ってくる光景が脳裏に浮かんだ


「・・・黒丸・・・久しぶりに元の姿が見たいのだが・・・」


苦肉の策


人化しているマルネスが擬態する際に年格好を変えれるのはクオンも知っていた


しかし、それをされるとクオンの心が惑わされる為にあえてさせていなかった。擬態化する魔力が増えるというデメリットを理由にして


マルネスはニタァと笑うと急いで部屋に戻り人化し直す。背格好が変わる為にドレスはどうなるかと思ったが、生地がかなり伸びるようになっていてピチピチ度が上がっただけで済んだ。窮屈になった為に胸のパッドは外し、靴を履こうとするが、靴のサイズも変わっていた為に履けない・・・が、それよりも別の問題に気付いた


スカート部分が短くなり、ちょっと屈むと何か色々なものが出てしまうくらいのミニと成り果てた


「これは・・・破廉恥を通り越して痴女だのう・・・」


生地が伸びたとは言え上半身の部分に引っ張られるようにしてスカート部分の丈がえらいことに。流石のマルネスもこれで外に出てはクオン以外のものに色々と見られてしまうと部屋の中で喚いていると隣の部屋にいたプロネスが部屋に訪れた


マルネス痴女バージョンの姿を見て家族を殺されて塞ぎ込んでいたプロネスも引く。誰だと思う前に引く。夜の街でもそうそう見ない痴女っぷりに引く


ひとしきり引いた後にマルネスに事情を聞き、プロネスは夜の女としてのテクニックをマルネスに伝授する


前は小物で隠せ、後ろはこの際気にするな、靴はドレスに合うものを私が貸してやる、座る時は小物を膝の上、小物はバックなんかが良い、それも貸してやる、扇子は持ち歩くな激しくダサい、歩く時はしなりを加えろ、座る時は両足揃えてお尻を椅子に添えるように・・・etc・・・


装備を整え、いざ部屋を出たマルネス夜の蝶バージョン


しなりを加えて階段を降りると、そこにはソフィアしかいなかった


「クオンなら出て行ったわよ・・・遅いって言って・・・」


マルネス夜の蝶バージョンはそれを聞いて膝から崩れ落ち、両手を床に叩きつけた


「なんで・・・なんでだよぉー!!」


「色々出てますよ・・・色々・・・」


屋敷全体に響き渡るマルネスの悲痛な叫び


ソフィアはそのマルネスの姿を冷静に見つめて思った『意外とお似合いのカップルだったのね』と────



フウカ達は街の外に出て、ちょうど良さそうな木陰を見つけた。その場所に持って来たシートを引くとフウカはその上に座り座禅を組む


アースリーも見よう見まねで隣にちょこんと座り座禅を組むと2人して目を閉じて探知を開始した


それを護衛する役目を担うガトーとジゼン・・・2人は目のやり場に困っていた


今日初めて会った女性、フウカ。妖艶な格好で顔も可愛く何よりソフィアを凌駕する山脈を持つ女性・・・2人の視線は山脈に釘付けになるが、見てはいけないという罪悪感からか視線を逸らし、だが見たいという本能が視線を戻す・・・それを繰り返していた


「・・・そんなに興味がありますかぁ?」


「あっ!いや、その・・・まあ・・・」


スっと目を開けてフウカがガトーとジゼンを見て言うと、ガトーがしどろもどろになりながらも素直に頷く。するとフウカはクスリと笑い立ち上がると2人を見た


「探知は風の澱みを感じるもの・・・アーちゃんのように特殊ではないので修得は可能ですがぁ・・・やってみますぅ?」


「そっち!?」


「どっちぃ?」


「あっ!いえ!・・・そ、そうですね・・・探知に興味はありますが・・・自分は戦闘系ですので・・・」


「ぼ、僕も・・・」


ガトーとジゼンの答えに『ふぅん』と言って2人を観察するフウカ。クルクルと2人の周りを回るとポンと手を叩いた


「じゃあ、ワタシと戦ってみましょうか?探知が戦闘に役立つのを教えてあげますよぉ」


「へ?何を・・・」


「今探知したら、何も無かったしぃ常にしてる必要も無いってクーちゃんが言ってたからぁ・・・お2人に手ほどきでもと思ってぇ・・・」


「フウカさん・・・自分らは四天が一人、ハーネット様の護衛を務める者です。一部には遅れを取っていますが、これでもディートグリスの中では上位に・・・」


「そうなんだぁ。探知してるワタシを興味津々に見てるからぁてっきり・・・じゃあ、逆に頼もうかなぁ・・・久しぶりに身体を動かしたい気分なんだぁ」


「うごっ!・・・自分で良ければ是非!動かしましょう!身体を!!」


「ぼ、僕も!」


躍動する何かを見たいという気持ちが2人を突き動かす


「じゃあ、最初は・・・ガトーさんからぁ」


「はい!・・・フウカさん得物は?」


「ワタシは無手ぇ・・・じゃあ・・・はじめぇ」


突然始まった立ち合い


ガトーは狼狽えながらも負ける訳にはいかないと即座に構えた


さすがにギフトをぶち込む訳にはいかず、寸止め出来るように手加減して左拳を繰り出した


フウカは目の前に繰り出された拳を巻き込むように腕で受けるとガトーが前につんのめり、脇腹をフウカの前に晒してしまう


そこにフウカは掌打を叩き込むと追加で風魔法を使ってガトーの巨体を吹き飛ばす


「・・・え?」


数メートル叫びながら吹き飛んでいくガトーを見て、ジゼンが言葉を失っているとフウカが滑るように目の前に現れた為に慌てて槍を構えようとするが、両腕をトンと触られたと思ったらバンザイ状態に


隙だらけの腹部にガトーがやられたと同じように掌打をくらい風魔法にて吹き飛ばされた


「お、おい!・・・うわあああ!!」


吹き飛ばされて起き上がろうとしていたガトーの元にジゼンの身体が勢いよく飛んできてぶつかり2人は気絶してしまった


あまりにも呆気ない結果にフウカが佇み首をかしげていると、それを見ていたアースリーが冷や汗を流しながら呟いた


「・・・恐るべし天然山脈・・・」


この後、目が覚めたガトーとジゼンが再度立ち合いを申し込むのだが軽くいなされ、後に2人はフウカに弟子入りすることとなる────



森の中、フウカ達とは別の場所で一心不乱に剣を振るうジュウベエが居た


1度静止したと思ったら、また振り始める。そんな事を小一時間繰り返したところで、じっと見つめる視線の主に話しかける


「何か用か~い?」


「い、いえ!その・・・あまりにも・・・美しいって言うか・・・なんて言うか・・・見蕩れてしまって」


視線の主、レンドはジュウベエの後を追ってこの場所まで辿り着くといきなり剣舞を始めたジュウベエに声をかけぬままずっと見つめていた


初めからその視線には気付いていたジュウベエだったが、特に気にすることもなく剣を振り続け、ひと息ついたところで話しかけた


「・・・そうか~」


ジュウベエは関心なさそうにまた剣を振り始める


散々魔族達と戦った後、おびただしく浴びた返り血も自分のギフトで綺麗になり、受けた傷も既に塞がっている。しかし、普段なら小一時間程度では疲れを見せる事の無いジュウベエが既に息を切らせているのは先程の魔族達との影響であった


「・・・うおおおおぉ!」


レンドは何を思ったか全身に魔力を巡らせ身体強化を行うと、剣を引き抜きジュウベエの剣舞に参加する


ジュウベエはチラリとレンドを見るとレンドが振るう剣に合わせて剣を振るう


まるで決まってた流れのような剣舞が続くとジュウベエがレンドに微笑んだ


「勇気あるね~首を落とされると思わなかったか~い?」


「危なくなったら全力で逃げます!でも、今は傍に!」


ジュウベエの剣を振るう姿は美しかった


陽光で汗がキラキラと光り、流れるように振るわれる剣が綺麗な軌跡を描く。舞台などで披露される剣舞ではなく、実戦さながらの剣の舞


しかし、剣を振るうジュウベエの表情はどこか儚げで、まるで消えていなくなってしまうと感じたレンドが舞台へと上がりジュウベエを繋ぎ止める


ヒュンとジュウベエの剣が音を鳴らすとレンドの首元に置かれていた。剣は首に触れ、その冷たさがレンドを凍りつかせた


「バカだね~・・・何をしてもボクの心は揺るがない。骨折り損のくたびれもうけってやつさ~」


「・・・ど、どんなに!報われなくても・・・僕は僕のしたいようにするだけです!ジュウベエさんのように!」


レンドが目を閉じて首元にある剣の恐怖に負けないように叫ぶとジュウベエは一瞬惚けたような顔をした後、剣を引いて笑い出す


持っていた剣を放り投げ、地面に大の字に寝っ転がるとしばらく笑い続けた


そんなジュウベエをキョトンとした顔で見つめていると笑い終えたジュウベエは顔を手で覆い口を開いた


「・・・君も見ていただろ?マルネスが魔法で魔族達を殲滅する様を・・・一瞬で・・・魔族達が消え去る様を・・・」


「え、ええ・・・」


「本当なら・・・もっと早くに決着はついていた・・・ボクが援護し、マルネスが魔法を唱えれば・・・でも、ボクは1人駆け出しマルネスを援護しなかった・・・ムシャクシャしてたんだ・・・誰でもいいから切り刻みたかった・・・」


「ジュウベエさん・・・」


「ガト~達が駆け付け、目の前で殺されそうになった時、やっと気付いた・・・自分の愚かさに・・・クオンが来なかったらボクも彼らも死んでいた・・・」


「・・・」


「最初からマルネスの援護をして魔法を撃たせておけば・・・でも、クオンは状況が分かってるにも関わらずボクを責めようとしない・・・クオンはボクに期待なんてしていないんだ・・・」


ジュウベエの話を聞いてレンドは返す言葉が見当たらなかった。状況と今の話から凡その見当はつく。大量の魔族を前にしてジュウベエが嬉しそうに飛び込む姿は容易に想像がついた


何か言わなくてはと思っても気の利いた言葉が浮かばない


何か話さなくてはと口を開いた瞬間、後ろから声がした


「えらく乙女してるじゃないか。ミン」


俯いていたジュウベエはバッと顔を上げ、声がした方向を見た


そこにはここに居るはずのない人物が立っており、ジュウベエは思わず叫んだ


「殿~!?」


「・・・との?え?・・・」


レンドがジュウベエと殿と呼ばれた人物を交互に見ながら、頭の中で殿と呼ばれるのはどういう人かを思い出した


茹だるような暑さの中、袖の長い着物を着込み、涼し気な表情でジュウベエを見てるその人物こそシント国国王、シン・ウォールであり、ジュウベエにとっての叔父にあたる


「なんで~?」


「自分の胸の内に聞いてみなさい、ミン。と言うかこっちの国王に私が謝罪するなどと勝手に約束したクオンのせいなのだが・・・まあ、その原因を作ったのはミンだし・・・うーん」


「・・・あっ・・・国境の~?」


「そう国境の。でも、聞けば国境警備隊の者達がミンの身体を舐め回すように見て、触ろうとしたからって聞くとどっちもどっちだけど・・・いや、むしろ向こうが謝罪するべきでは!?」


「殿・・・それ誰から聞いたの~?」


「レン」


「・・・まあ、見られたし、触られそうになった・・・かな?それよりも殿~・・・ボクが乙女ってどういう事よ~」


「うん?乙女だろ?好きな相手に責められたい~期待されたい~って・・・私の知るミンはもう死んだと思ったよ」


「ううっ・・・」


「あのっ・・・口を挟んで申し訳ありません。貴方様はもしかしてシント国国王の・・・」


「シント国君主のウォール・シン・・・こっちではシン・ウォールかな?気軽に殿と呼びたまえ。君は?」


「あっ、はい!ぼ・・・私はレンド・ハネスと申します。・・・ところで・・・えっと・・・殿?なんで宙に浮かれているのでしょうか?」


見上げて言うレンド。そう、シンは浮いていた。地面からちょうど2メートル程の高さにまるで普通に地面に立つようにしっかりと・・・浮いていた


訳が分からず目を白黒させて思わず質問してしまったレンドは一国の王に対して失礼だっただろうかと冷や汗を流すが、シンは気にした様子もなく笑顔で答える


「おっと、これは失礼。シントから急いで来たものだからつい・・・」


シンはそのまま音もなく垂直に降りるとシンの後ろに浮いていた大きめな袋も同時にドサリと音を立てて地面に落ちる。音からするとかなりの重量があるようだった


「んで、乙女なミンよ・・・クオンはどこにいる?」


「乙女乙女言うな~!殿には分からないよ・・・ボクの気持ちなんて!」


「うん、分からないよ。でも、これだけは言える。今回の件で何かあったら全て『クオンが悪い』。私は今回の件をクオンに任せたのだから、何かあった時は・・・」


「俺はアカネの護衛は頼まれましたが、『招くもの』退治までは頼まれたつもりないですけどね」


「クオン~・・・」


「クオンさん!」


マルネスを待ちきれずに飛び出したクオンがそこに居た。ジュウベエは一瞬笑顔でクオンを見るがすぐに顔を背ける


「フォロとレンを任せた時点で汲み取ってくれてるものだと思ったんだがね・・・拒否らなかったし」


「一方的に押し付けといてよく言いますね。それにフォロが捕まった以外は概ね順調ですよ。ジュウベエの件で責められる言われはありませんね」


「私の大事な姪っ子が落ち込んでいるのだが?」


「落ち込む理由はありませんよ。ジュウベエは俺の期待に十二分に応えてくれた。百を超える魔族の襲撃にあいながら街の被害は軽微・・・ジュウベエとマルネスが居なければ街は滅びていたでしょうから、これ以上ない成果です」


「・・・え?」


「じゃあ、なんでミンは落ち込んでるんだい?」


「さあ?ただ一つジュウベエに落ち度があるとすれば・・・自らの危険を顧みず、他の者を助けようとした事でしょうか」


「・・・え?」


「ほう・・・どういう事だい?レンから凡そは聞いているのだが、その辺は詳しく聞いていない」


「単純な話です。黒丸とジュウベエが魔族達を相手にしてると聞いた時点でどういう展開になるか分かってました。その上でどのように行動すれば最善かを考えて行動したのですが・・・どこかの阿呆共が自分の力量も考えずに魔族を刺激し、結果ジュウベエの足を引っ張った・・・捨ておけばいいものをジュウベエはそいつらを助けようとして窮地に陥った・・・その行動以外は俺の期待通りでしたよ・・・なあ?ガトー!ジゼン!」


「あっ・・・」


森の中で2人がフウカにやられた直後、アースリーはクオンが森の中に入って来た事を告げる


4人はクオンが何しに来たのか気になり、アースリーの案内でここまで辿り着いていた


クオンに言われて姿を現すとフウカはシンに気付き跪き、ガトーとジゼンはあの時を振り返り、自分らの侵した過ちを思い出す


国を・・・ジュウベエを守る一心だったとは聞こえは良いが、ジュウベエの足を引っ張ったのも事実


「だけど・・・だけどよお!じゃあ、どうすれば良かったんだよ!?あのまま見捨てて隅で震えてれば良かったのかよ!?」


「ああ、そうだ」


「んだと!てめぇ!」


ガトーが叫ぶとクオンは即答する。それを聞いて更に頭に血が昇ったガトーがクオンへと歩み寄るがクオンは殺気を込めてガトーを睨みつける


「強大な敵に立ち向かうのは勇気と言える。だけどその陰で誰かが犠牲になるのなら単なる無謀な行いだ。本来ならジュウベエに泣いて謝る所をお前らは何も言わない、何も感じてない。助けようとしたジュウベエが己の力のなさを悔やんでいるのに・・・だ」


「うっ・・・」


「最近魔力の扱いを覚え、ギフトもないのに必死になって俺らについてきて、死にそうになりながらも街の中に侵入して来た魔族を倒したレンドとあれだけの魔族と戦いながら他人の為に傷を負い、それでも力量不足と修行に励むジュウベエを前にして・・・お前らは何を思い何を感じる?」


「・・・お、俺は・・・」


「その辺で勘弁してあげたらどうだ?クオン。どうやらミンを危険に晒させた張本人達のようだが、所詮は住む世界が違う。強要は良くないよ?」


シンがクオンとガトーの間に入り込み、クオンを宥めた。ガトーとジゼンはその事に気付かない程クオンの言葉に打ちのめされ俯く


「・・・住む世界が・・・違う?・・・」


呆然とする2人を見てため息をついたシンが視線を移すと、様子のおかしいジュウベエに気付いた。何かをブツブツ言いながらクネクネしている


これは・・・とシンはここぞとばかりに姪っ子のアシストを開始する


「・・・それにしてもウオンがここまで怒るとは・・・サオンとクオンなら分かるが・・・愛されてるねえ?ミン」


「・・・うん・・・ボクが心配過ぎて・・・普段ならそんな事で怒らないクオンが・・・これはもう・・・プロポーズ?」


「待て、ジュウベエ!それはちが・・・」


「『お前らのせいで俺のミンが傷付いたんだ!どうしてくれる!』なんて、普通言うだろうか?いや、言わないな。可愛い姪っ子が嫁に行くのは寂しいが、叔父として認めよう。古い慣習などこの際無視だ。シント国君主としても認めようではないかクオンとミンの結婚を!」


「・・・おい、オッサン」


「クオン~!」


「なん・・・ん!?」


振り向いたクオンの頬を両手で押さえ込み、無理やり唇を奪うジュウベエ。レンドは目の前で起きた出来事がショック過ぎて卒倒する


フウカとアースリーは両手で顔を覆うが、指の隙間から2人の様子をガン見していた


「クオン、あなたはここにいるミンを、

病める時も、健やかなる時も、

富める時も、貧しき時も、

妻として愛し、敬い、

慈しむ事を誓いますか?」


「誓いま~す」


≪お前ら・・・いい加減に・・・≫


シンが牧師の真似事をし、ジュウベエが勢い良く答えるとクオンの肩がわなわなと震え両目を開けていた


「ヤバい!ミン!そこの袋に跨がるのだ!」


シンが持って来た袋を指差して叫ぶと2人は袋に跨り空を飛ぶ。2人が間抜けな絵面で空を飛んでるのを見つめながらクオンは一言『拒む』と呟くと2人は悲鳴を上げながら真っ逆さまに落ちていった


呆然とするガトーとジゼン、未だにキャーキャー言っているフウカとアースリー、ショックで気絶したレンドを見回し、深い深いため息をつくクオンであった────

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