2章 21 フウカ・シルファス
クオン達がニーナの別荘に住み始めて2週間、いつの間にか日差しが肌を焼くように強くなり始めていた
「あづい・・・なんでこう急に・・・」
アカネが茹だるような暑さに音を上げて木陰に座り込むと首元のシャツを伸ばしてパタパタと手を動かして肌に風を送り込む
「だらしないです・・・こうして土の冷たさを感じれるので、まだまだ暑さは序の口です」
「んな事言ったてー・・・アリーと違って私は『火』使いよ?」
「・・・余計に暑いのに耐性ありそうです・・・」
と言いつつ土いじりするアースリーもジールに団扇を仰がせていた
ここ最近は雨も降らず快晴が続き、日課になった森での訓練に勤しむ2人。虫の音だけが響き渡る森の中で涼んでいたアカネの耳に悲鳴が聞こえてきた
「相変わらずね・・・生きてるのが不思議なくらい」
「生に対する執着だけは1番高いかもです」
聞こえてきた悲鳴の主はレンド。こちらも日課になったジュウベエからの扱きを受けていた。腕が上達したかはさておき、そんじょそこらの攻撃なら耐えられるのではないかとアカネは思う。何せ相手はあのジュウベエなのだから
「これ以上は本当に死にます!勘弁して下さい!」
「死ね!いっそ死んでしまえ!」
聞こえてくる悲鳴に混じって聞こえてくる会話に、無言で見つめ合うアカネとアースリー。2人はただただレンドの無事を祈るしか出来なかった
しばらくすると悲鳴も収まり、今度は翼をはためかせる音が聞こえてきたと思ったら、近くにステラが降りてきて背中に乗っていたマーナが2人に近付いてきた
「あら?散歩はおしまい?」
「はい。こちらに向かってくる一団がいたので、もしかしたらクオンの言っていたフウカさん達かと・・・」
「あー、そうかもね。じゃあ、一旦戻りましょうか・・・その前にマーナ・・・いつものやつやって」
「えー、またですか?ステラ、あれをやった後、ブツブツ文句言うんですよ。『我の技をなんだと思ってるんだ』とか言って・・・」
「いいじゃない。お願い!」
「・・・もう・・・」
マーナは渋々ステラに連絡を取ると、離れた場所にいたステラが空を見上げてウォーターブレスを放つ。ウォーターブレスは宙で分散し、まるで雨のようにアカネ達を濡らした
「あー、気持ちいい。やっぱ、暑い時のウォータードラゴンよね」
「それステラの前で言わないで下さいね」
アカネは水を全身で受け止めるように身体を反らし、アースリーは集めた土が濡れないように身体で庇い、ジールは自分が濡れないように必死になって降ってくる水に向けて団扇を仰いだ
遠くからジュウベエの気持ちいい~という声が聞こえてきたが、レンドの声は一向に聞こえてこなかった────
6人が屋敷に戻ると申し合わせたように馬に乗る一団が屋敷に到着した
先頭にいた者が馬から降り、日差し避けのフードを取ると6人に対して深々と礼をする
「アカネ様、ジュウベエ様、お久しぶりです!それと各々方、お初目にかかります。シント国四精将『風』のフウカ様配下テストと申します」
「・・・初めてシントの人でまともな人を見たような気がするわ」
「・・・です」
「どういう意味よ、それ」
テストの挨拶にマーナが感想を述べるとアースリーがそれに同意する。アカネは自分は比較的まともだと思っていたが為に2人をジトっと見つめるが、そのアカネを見た馬上の1人が大慌てで馬から降りた
「うんしょぉ・・・アーちゃん!ジュウちゃん!」
モタモタと馬を降り、やっとの思いで降りたと思ったら、胸を揺らしながらアカネとジュウベエに駆け寄る。これには瀕死のレンドも腫れた瞼をこじ開けて見る他なかった
「色々な意味で相変わらずね・・・フウカ」
「フウちゃ~ん!」
アカネが胸の揺れに呆れてると、ジュウベエが駆け寄るフウカに飛び付いた。2人は抱きついてその場でクルクル回るが、何かに気付いたフウカがジュウベエをペッと地面に放り投げる
「ノワ~」
「ジュウちゃん汗臭いぃ」
鼻を摘んで地面にうつ伏したジュウベエに言うフウカを見て、何とも掴みどころの無い人だと印象を持ったマーナとアースリー。レンドはそれどころではなく、躍動する部分に釘付けだった
フウカは振り返り、アカネ達を見て首を傾げると口に手を当てて足りない者達を探すような仕草をする
「あれぇ?クーちゃんとマルちゃんはぁ?一緒じゃないのぉ?」
「ああ、クオンとマルネスなら今マーナの相棒が呼びに行ってる。にしても、フウカ・・・お前『風』継いだのか?」
「うん、この前の誕生日の時にぃプレゼントとしてぇ」
「四精将の地位が誕生日プレゼントかよ・・・さすがフゼンおじさんだ・・・」
アカネが呆れていると、テストが昔の気苦労を思い出したのか乾いた笑いを浮かべていた。テストはフウカの父、フゼンが四精将として活躍している頃からの部下であり、散々苦労させられた過去を持つ
ようやくステラからの報せを受けたクオン達が外に出て来ると気付いたフウカが全力で手を振る
「クーちゃん!マルちゃん!」
それに対してクオンは手を上げるが表情は固い。頭の中ではいつ風斬り丸の事を切り出そうかと考えてると、それは向こうからやって来た
「クーちゃん、風斬り丸ちゃんの具合はどお?いい子にしてるぅ?」
思いの外早くに来た質問・・・もう少し場を和ませてからが理想だったが意を決してクオンは答えた
「スマン!戦ってる最中に折れ・・・ぐはっ!」
言葉の途中での強烈なボディーブロー。フウカの拳の周りには風が纏われ、威力は数十倍と化していた。めり込む拳にくの字に身体が折れ曲がるクオン。足は地面を離れ、次の瞬間にクオンの身体は吹き飛んだ
≪だぁー、クオン!≫
「・・・」
吹き飛ばされたクオンを追いかけるマルネス。それを見ていた周囲の者達は何が起こっているのかよく分からず無言になる
「クーちゃんの・・・バカー!!」
フウカの身体の周りに風が吹き荒れ、フウカを中心に竜巻が発生する。事情の分からぬものは呆然と立ちつくし、砂埃から目を守りながら薄目を開けると徐々に竜巻は威力を増していた
「え・・・何これ・・・」
竜巻が眼前まで迫り、身体が持っていかれそうになった瞬間、マーナの前から竜巻は突然消え去る
吹き飛ばされたクオンが手を突き出し、竜巻を拒んだお陰で被害はなかったが、そのまま竜巻に巻き込まれていたらと考えるとゾッとする
「落ち着け、フウカ」
殴られた鳩尾を押さえながらマルネスの肩を借りて何とか起き上がったクオンに対して、フウカが両手を突き出した
「クーちゃんの・・・アホォー!!」
泣きながら今度はクオンに向けて風を放つと、風は螺旋状に回転し竜巻を形成・・・クオンとマルネスを巻き込んで屋敷へと向かっていき屋敷に当たる寸前に上昇。天まで届くかの如く上昇するとやがて消え去り、嘘みたいな静寂が訪れる
シクシクと泣くフウカと目を点にして事の顛末を見ていた者達はクオンとマルネスの行方が気になりながらも、フウカの恐ろしさに顔を強ばらせるのであった────
クオンとマルネスの行方が分からない状態ではあったが、旅の疲れを癒す為とちょうど食事時である事が重なり屋敷に入ると食堂へと向かった。いつもの面々とフウカとテスト、そしてその他の4人の従者はフードを外し、食堂でくつろいでいると食事が運ばれてくる
軽く挨拶をした後に食事を済ませると、食堂の扉が開き、傷だらけのクオンとマルネスが戻って来た
「・・・お前ら・・・この状況でよく飯を食えるな・・・」
「クオンとマルネスだし・・・クオンが悪いし」
「だね~他の人なら死ぬと思うけど~」
「もうクーちゃんとは一生口聞かない!」
シントの者達にとってはよくある光景・・・しかし、ディートグリスの者達もクオン達を気にすることなく食事をしているのに対して視線を向けると
「女性を泣かせたクオンが悪いな。屋敷に当たらんで良かった」
「マルネス様もいるし平気かなーと・・・」
「どこまで飛んだか興味は湧いたが腹の減りには勝てんでの」
「風を使えばジールも飛べるのでは・・・と考えてたです」
「あ・・・あはは、僕如きが心配するのも何かなーと」
「グエ!」
それぞれの答えを聞いてクオンは深くため息をつく。実際はかなり苦労していた
空中に投げ出された時には地面がどこにあるか分からずにマルネスと共にキョロキョロしていると、地面を見つけた時には遥か上空にいる事が分かった。ニーナの屋敷がかなり小さく見え、2人で青ざめていると下降が始まる。何も掴むところがないので、落ちる速度を緩めることも出来ず、ひたすら風圧に耐えている時にクオンは服を脱ぎ始めた。まさかここでとマルネスが明後日の思考を披露するが、クオンはそれを無視してマルネスに身体に捕まってるよう指示すると服のはしとはしを持ち簡易パラシュートの作成。魔力操作で服と手の力を強化し何とか速度を緩めると木に突っ込み何とか事なきを得た。その時の枝で傷だらけになるもかすり傷程度で済んだのは幸いだったとクオンは思う。マルネスとしては上半身裸のクオンに抱きつけて、ある意味ご褒美だった
「てか、マルネスの風魔法で浮けば良かったんじゃないの?」
「・・・」
クオンが如何に苦労したか語るとアカネが一言でその苦労を無にした。普段のクオンならば他の者が気付かなくてもいち早く気付きそうなものだがと全員が思っていると、マーナがクオンの異変に気付く
「あっ・・・サオン!」
左目を開けているクオンを指差して言うと一同納得。それに腹を立てたクオンがテーブルを叩いた
「仕方ないだろ!?フウカの竜巻消すのに右は魔力を大分使っちまったから・・・考える担当は右に任せてるんだよ!」
クオンが話していた対『招くもの』の作戦の必要なメンバーが揃った為に午後から作戦会議の予定を立てていたが、どうやらサオンでは難しいらしい。そこで、マーナにクオンの魔力を回復してもらい、それが済み次第会議をしようと話していたところでレンドが手を上げる
「ニーナ様、フウカさん達の部屋はどうします?」
「あっ、そうよね・・・部屋は・・・」
レンドの指摘にニーナが考え込んだ。客室は満室。ベッドは各部屋に2床あるが、一気に男性が5人増えた為にどうしても男女部屋が1組出来てしまう
「フウちゃんはボクの部屋でいいよ~」
「あらぁ懐かしいわねぇ。昔はよく一緒に寝たもんねぇ」
そうなると後5人。ここはクオンは私の部屋で・・・と言いかけるとテストが立ち上がった
「私共は道中のフウカ様の護衛として来ました。が、フウカ様の父上、フゼン様より『帰りはクオンに頼んでお前らはさっさと帰って来い』と言われております。ですので、すぐにでも発つつもりです」
「私が言うのも何ですが、少しくらい休まれては・・・」
デラスが旅の疲れを気遣いテストに声をかけるがテストは首を横に振り、すぐに出て行くと改めて伝えた。テスト達はフゼンが怖いらしく、どこから休んで戻ったというのが伝わるか分からないので、逆に気が休まらないと言い、フウカを置いて早々に帰って行った
「家督を譲っても相変わらずみたいね・・・フゼンおじさん」
テスト達の慌てようを見てしばらく帰っていないシントを思い出し懐かしむ。『招くもの』を倒さない限り戻れない・・・調査名目だったが、部下を全て亡くしたが、たまたま加わったジュウベエと今回加わったフウカがいればと早期解決に意欲を出す。が、それもアイツ次第だけど・・・とマーナに回復してもらっているクオンを見た
ちょうど回復したのかクオンが右目を開けてマーナに感謝すると周囲を見渡す。アカネと目が合い、まるで心が読んだかのように無言で頷いた
「待たせた。てか、フウカ・・・やり過ぎだ」
「ふん!・・・クーちゃんがわるいんでしょぉ。風斬り丸ちゃんを折ったなんて・・・絶交よぉ」
「それは悪かったって。今度折った張本人紹介してやるから、そいつをぶちのめせ」
「ん?折った人って生きてるのぉ?クーちゃんと戦ったのにぃ?」
「ああ。折ったのはシャンド・ラフポース。上級魔族だ。何の因果か今は俺の執事って事になってるがな」
「・・・なるほどぉ。相手が上級魔族なら仕方ないかぁ。風斬り丸ちゃんはクーちゃんを守って逝ったのねぇ・・・そのシャンちゃんもお仲間になってくれたのは風斬り丸ちゃんの執念の賜物なのねぇ・・・」
違う、早々に折れた・・・という言葉を飲み込み、クオンはウンウンと頷く。どうやら溜飲が下がったみたいで、フウカは亡き風斬り丸に祈りを捧げると腰から小刀を抜きクオンに投げた
「これは・・・神刀『絶刀』」
「どうせクーちゃんしか使えないしぃ、必要になるかもって殿がぁ」
「殿らしいな。有難く借り受けよう。他に何か言ってたか?」
「ん。ワタシの到着をもってぇ、フォロとレンの任務をアーちゃんの監視からクーちゃんの従者に変更するだってぇ。フォロ!レン!」
「はっ!」
フウカが突然名前を呼ぶとフォロとレンがどこからともなく現れて膝をつく
「聞こえてましたかぁ?これが殿からの書面ですぅ。お願いしますねぇ」
「はっ!」
書面を受け取るとフォロとレンは再び姿をくらます。クオンやジュウベエには丸わかりなのだが、レンド達普通の人々には突然現れて突然消えたように見えた
諜報部のフォロとレンは口頭では決して命令の変更を聞くことはない。諜報部しか分からない暗号化された文章のみで命令の変更を受け付ける。シン・ウォールからの書面は先程フウカが話した内容が暗号化され書かれていた
「大盤振る舞いだな。2人の能力は非常に助かる・・・じゃあ、始めようか・・・『招くもの』対策会議を────」
クオンが全員に向けて語った作戦。それは『招くもの』ラフィス・トルセンがギフトを使用した際に捕捉するというものだった
具体的には、ラフィスがギフトを使用した際に生じる大気の乱れをフウカが感知し場所を特定、そこにシャンドがクオンを連れて飛び、クオンが逃がさぬようにラフィスのギフトを拒むというものだった
「なるほどな。しかし、フウカ殿の感知能力はどこまでの範囲をカバー出来るのだ?範囲が狭ければ時間を浪費するばかり・・・それともラフィスが居る場所をある程度特定出来ているとか?」
「心配には及ばない。恐らくディートグリス内なら感知出来るだろう。ただし、ラフィスの使用する能力にもよるが・・・」
「能力?」
「ああ。ラフィスは能力を使い分けてる・・・まあ、単純に繋げる場所だ。同じ人の世か魔の世か・・・アカネを襲った時は人の世に・・・シャンドやステラの時は魔の世に繋げた。そして、フウカが感知出来るのは・・・」
「魔の世に繋げた時だけねぇ。人の世から魔の世を繋げる事が出来たならぁ、そこには澱みが生じるのぉ。人の世と魔の世は別世界ぃ、ワタシが注意深く探っていればすぐに分かるわぁ」
クオンの説明の続きをフウカが言うと、理解した者と理解出来なかった者に分かれる。クオンは仕方なさそうにため息をついて補足した
「綺麗な水に綺麗な水を足しても量は増えるが見た目は変わらないだろ?もし足した水が濁っていたら?」
「すぐに分かるわね」
「そういう事。問題はラフィスが魔の世と繋がない限り感知出来ないってところだな。後手もいいとこだ」
「虱潰しに探してみる?」
「戦ってくれたらいいが、逃げられて終わりだろ?」
「確かにのう・・・現在地が分かっても逃げられたら水の泡・・・せっかく手に入れたワシの『解析』の能力も約立たずだな」
「そうでもないさ」
デラスはマルネスの指導によりようやくスキル『鑑定』を『解析』に昇華する事が出来た。しかし、相手を見ない事には意味がないので愚痴っているとクオンが否定する
「ラフィスの目的が未だ不明だが、アカネの言葉から王都には用があるみたいだ。王都にはハーネット達もいるし、魔素が、ない利点がある・・・だが、ラフィスには繋げる場所がいくつかある」
「謁見の間とバーミリオン邸か・・・他にもあるやもしれんな」
「ニーナの言う通り、ラフィスは王都内部に突然魔族や魔物を送り込むことが可能だ。魔素がないとは言え魔法やギフトは使える・・・つまり王都は丸裸って訳だ」
「それとワシのギフトがどう関係するのだ?」
「二手に分かれる。俺、フウカ、シャンド、ニーナ、マーナ、捨丸、アースリーは屋敷に残り、デラス、黒丸、ジュウベエ、アカネ、レンドは王都へ行きラフィスを待ち構える。その際にデラスは王都に来る者達に『解析』をお願いしたい」
「擬態化・・・か」
「ああ。正直ラフィスの目的が不明な時点で後手に回るのは覚悟の上だ。しかし、唯一の情報として、ラフィスは王都に用があるって言うのが分かっている。ディートグリスの国王にとっては癪だろうが守りを固めておいて損は無い」
「だけどクオンよ・・・ラフィスとやらは繋げればその場所に移動できるのであろう?わざわざ入口より侵入するか?」
「と、相手も思ってたら入るかなって思ってな」
「・・・なるほど、裏の裏をかく・・・か。しかし、ガクノース卿の『解析』で魔族の擬態化を見破れるのか?」
「無理だな」
「おい」
「だから、見破れない奴が魔族だ。仮に魔族ではないにしても、デラスが見破れない奴が王都に入って来たら警戒しても損は無いだろ?ちなみにデラスが見破れないのはこの中で俺と黒丸とジュウベエだけ・・・ここにいないがシャンドも無理だろうな。つまり、そのクラスの奴が王都に何の理由もなしに入って来たら・・・」
「恐ろしいのう・・・そんな奴が王都に入るのも、しれっと上級魔族と同列にいるクオンとジュウベエも・・・な」
「そこは恐ろしいじゃなくて頼もしいと言ってくれ」
「いつまでも味方ならな」
ニーナはクオンを見つめながら、ディートグリス国王ゼーネストがなぜクオンを自国に抱え込もうとしていたか分かったような気がした。そして、その為に露出度を上げる覚悟をしているニーナをよそに恐る恐るマーナが手を上げる
「あの・・・ちょっと疑問が・・・」
「遠慮なく言ってくれ」
「ラフィスって・・・なんで人の世と魔の世を繋げられるの?クオンの話だと行ったことのある場所しか繋げられないんじゃ・・・」
言うと全員黙ってしまった為にマーナはやってしまったと顔を伏せる。マーナ以外の全員が知ってる事を重要な会議中に質問してしまった間抜けな子になったと思っていたら、黙ってた者達が口々に疑問の声を上げる
「そう言えばそうだな・・・失念しておった」
「それ次第ではクオンの考えが根底から覆るな。行ったこともない場所に行けるとすると、手の打ちようがないぞ」
「ラフィスが魔の世に行ったことある・・・想像つかないわね」
ニーナ、デラス、アカネが呟くと一斉にクオンの方に向き直る。どうせこの男は答えを持っているのだろうと丸投げだ
「・・・あくまで可能性の話だ。ラフィスの未知なる能力、ラフィスには協力者がいる、ラフィスは実は隙間から落ちてきた上級魔族だ・・・どれがいい?」
「どれがいい?と言われてもな・・・どれも厄介ではないか」
「頭が痛くなるのう・・・他にないのか?」
「ラフィスが魔族・・・」
それぞれがそれぞれの反応を示す中、マーナがナイス質問をした事により1人プレッシャーを感じていたレンドがシュバッと手を上げた。これには周囲もマーナ級の質問が来るのではと固唾を飲んで見守ると・・・
「僕は王都で何をすれば?」
と、超個人的な質問
落胆のため息が部屋を埋めつくし、焦りながら周囲をキョロキョロするレンドに対して背もたれに全力でもたれかかって寝ていたと思われてたジュウベエが言い放つ
「君は雑用~」
何かしら重要な任務が与えられるのでは・・・少しばかり期待していたレンドの胸に突き刺さる『雑用』。本当はクオンも特に決めてはいなかったのだが、この時点でレンドの『雑用』係は決定してしまった
しばらく細かい話を進めていると夕食の時間になり、フウカが加入した事と明日から始まる『招くもの』対策作戦の成功を祈ってささやかなパーティが催された。会議中寝ていたマルネスがいつの間にか明日からクオンと離れ離れになる事を聞きつけて暴れたり、酒が入ったジュウベエがフウカの胸をガン見しているレンドを殴るなど騒がしくも楽しい時を過ごした
その日の夜、フウカはジュウベエが使っている部屋に寝る事となり、寝巻きに着替えているとジュウベエが話しかけてきた
「なあ、フウちゃん・・・ボクが風斬り丸を預かってて折っちゃても、フウちゃんは全力で攻撃してた~?」
「んー、どうだろぉ。クーちゃんだからってところはあるかもぉ。クーちゃんなら死なないかなぁって」
「そっか~」
「どおしたのぉ?ジュウちゃんらしくないよぉ」
「・・・この前クオンと立ち合った時、手も足も出なかった・・・届かないんだよ~フウちゃん・・・ボクはもう孕みたいんだよ~」
ベッドに仰向けに寝ると手を天井へと突き上げる。天井と手の距離がまるでクオンと自分の差だと言うように
「んー、ジュウちゃん、クーちゃん、マルちゃんは強さの次元がワタシと違うからよく分からないけどぉ・・・クーちゃんはあの時から更に強くなっちゃったからなぁ・・・まるで人が変わったように」
「人が変わったように・・・か~」
突き上げた拳を握り、届かない天井を睨み付けるとゆっくりと目を閉じた。フウカはその様子を見て微笑むともうひとつのベッドに入ろうとした時にある事に気付く
「ジュウちゃん!」
「なっ!なに~いきなり~」
「忘れてたぁ・・・ジュウちゃん、めっ!」
「へ?」
「ディートグリスのぉ国境の人殺しちゃったでしょぉ」
「あ~確かそんな事が~」
「はい、そこに正座してぇ」
「え~ボクもう眠いんだけど~」
「いいからぁ早くぅ。いい、人はねえ────」
フウカはジュウベエを正座させ、朝までこんこんと説教を続けた。何度か寝落ちするジュウベエをその度に起こし、説教を続けるフウカを見てジュウベエ始まる心の中で明日から王都で助かったと思うのであった────




