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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『招くもの』
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2章 17 2人目のランス

不機嫌で眠そうなマルネスは朝食の食卓でクオンを睨み付ける。それもそのはず昨日のアレから一睡も出来ず、悶々とした夜を過ごしたからだ


他にはジュウベエが昨日の夜を抜いた為に腹ぺこの様子で朝食をがっつき、レンドは悩みを抱えたまま無言で箸を進める


「今日は俺と黒丸が所用で出掛ける。その代わりにシャンドがここを守るので今日は各自で行動してもらって構わない。ただ屋敷の中でもラフィスが訪れた場所と屋敷の外は原則2人以上で行動してくれ」


それを聞いたマルネスは鋭い目付きを和らげ、反対の声を上げると思われたジュウベエもすんなりと了承した


食事が終わり、各々が動き出す


ジュウベエが一旦自室に戻るとすぐに部屋のドアがノックされ、入るように告げると訪ねてきたのはレンドであった


「ん~?今日は休もうかと思ったけど~?」


「あっ、稽古とかじゃなくて・・・聞きたいことがありまして・・・」


しどろもどろに答えるレンドに休もうとしていたジュウベエは少し苛立つ。さっさと寝っ転がって昨日の余韻に浸りたい気持ちでいっぱいだった


「用があるなら早く言ってくれないかな~?」


語気を強めるジュウベエに更に焦り始めるレンドは当初の予定である世間話をしつつ本題に入る策が破れ去ったと知る。今日は天気が良いですねなんて言おうものなら、全身ポキポキの刑は免れない


「た、単刀直入に聞きます!もし、昨日僕がクオンさんとの戦いを途中で止めていたら、ジュウベエさんは・・・」


「止めてい()()?・・・意味が分からない。なぜそんな仮定の話をしなきゃならない?」


表情こそ変わらないが、喋り方から雰囲気が一変したジュウベエにレンドは恐怖し後退る。弁明しようにも何に対して怒っているのか理解出来ていないため言葉に詰まっているとジュウベエは大きく息を吐いた


「止められていたらなんて考えたくもないが、もし止められていたら・・・止めた奴はこの世にいないね。ボクはボクの道を邪魔する奴には容赦はしない。二度と関わらないように排除する」


今更ながらあの時クオンとシャンドに止められていなかったらと背筋に冷たいものが走る


それでもレンドは後退る足を止め、必死に前へと踏み出した


「あれは明らかにやり過ぎです!もっとやりようが・・・」


「ふざけるなよ!やり過ぎ!?やりようが!?ボクを乏して何が楽しい!?()()()()仲間だからって調子に乗るなよ!あの場合のやり過ぎはボクが死んだ場合だけだ!クオンが久しぶりに本気になって・・・ボクと戦ってくれたのに他にやりようがあっただと!?ボクの攻めがクオンのあの攻撃を導いたのに・・・それなのに・・・」


「え?・・・え?・・・」


「それ以上言葉を発するな!二度とボクの前に現れるな!寄らばクオンの仲間とはいえ首から上は無いものと思え!」


涙を流し睨み付けながらいつの間にかレンドの首に剣を当てていた。一筋の血が床に落ち、ようやく剣の存在に気付いて尻餅をつく


その後どうやって部屋を出たのか分からないが、レンドは部屋から出ていた。茫然自失となり、ふらふらと廊下を歩いているとジュウベエの声が聞こえ何事かと部屋に向かおうとしていたアカネがレンドに声を掛ける


「何したの?まさか墓標に『勇者ここに眠る』って書いて欲しいの?」


レンドの首筋の傷を見て、アカネが呆れたように言うとレンドは言葉を発する事無く首を振り否定した


アカネはこめかみ辺りを掻きながら、レンドから事情を聞くために部屋へと誘う。レンドは言われるがままアカネの部屋に入り、部屋に居たアースリーにお茶を出されると落ち着きを取り戻し、今起こったことをアカネ達に話した


「・・・そりゃあアンタが悪いわ。例えるなら・・・って例えが思い付かない・・・アリー、何か思い付く?」


「うーん、ワタシの場合ですと、このジールをいきなり燃やされた・・・くらいの感じですか?」


アカネに話を振られたアースリーが、部屋中を歩き回っているクマのぬいぐるみを指差して答える。昨日の夜にアカネを巻き込んでの名付け大会・・・優勝した名は『ジール』


「そんな感じかな?つまりレンド君・・・君はジュウベエの最も大事にしてるものを踏みにじったのよ・・・てか、それでよく生きて部屋を出られたわね・・・」


「クオンさんの仲間だからって・・・言ってました・・・」


「なーる。いや、それにしても凄いわ。ジュウベエも成長したのかな?それとも・・・」


顔を伏せているレンドを見ながらアカネは呟くと未だに要領を得ていないレンドに対して言葉を補足した


「あのね、ジュウベエは幼い時から剣の道を選び、血の滲むような努力をして剣の最高峰『剣聖』まで上り詰めたの。でも、その上には最強の男、クオン・ケルベロスが存在する・・・ジュウベエはクオンを超える為にありとあらゆる努力をしてきたわ。そのひとつが強いものに印を付けて、更に強くなった時に狩ることにより、自分を更なる高みへと導いたり、剣の鞘を極端に小さくして歩いてるだけでバランス感覚が養えるようにしたり・・・とにかくなんでもやったのよ」


レンドも剣の鞘については知っていた。いつもふらふらしているジュウベエは、常にバランス感覚を養うためにわざと小さい鞘に剣を差しバランス感覚を鍛えていた


「でね、君は模擬戦とは言えやっとこさ本気のクオンと戦えて喜んでいるジュウベエを止めようとしたのに飽き足らず、その戦いを君は乏したのよ・・・『他にやりようがあった』と言ってね」


「そこが・・・分かりません・・・ただ僕は・・・」


「君はね・・・やっとの思いで叶った戦いを・・・本気の2人が創り上げた芸術を・・・『他にやりようがあった』とこき下ろしたのよ」


「!・・・そんな意図は・・・」


「ない・・・でしょうね。でも、ジュウベエからしてみたら、命懸けでやっと創り終えた渾身の作品を展示してたらバカにされたのと同じなのよ。全力を出し、二度と再現出来ない・・・思い出して果てるくらいの記憶を・・・ね」


アカネは上手く表現出来ないながらも必死にレンドに伝える。レンドは後半はなんの事か分からなかったが、アカネの必死さと剣を向けた時のジュウベエの涙を思い出し、やっと自分の仕出かした事を理解した


「僕は・・・なんて事を・・・謝らなくては・・・」


「今はそっとしておいて。私も友達を知らないとはいえ傷付けた君に思うところがあるの・・・これ以上かき乱さないでくれるかな?」


「・・・・・・はい・・・・・・」


消え入りそうな声で返事をし、そのまま部屋を後にするレンド。アカネは少し言い過ぎたかとその姿をため息混じりに見つめた後、今後どうするかと思案する


「アカネさん」


アースリーが思案中のアカネを覗き込むと、先程のアカネの発言を聞いて疑問に思った事を口にした


「思い出して果てるってどういう意味ですか?」


思わず口走ってしまった言葉を拾われて、思案していた事など吹っ飛んでしまったアカネ。齢15の少女にどう説明するか全力で考え抜いた結果・・・


「・・・思い出して楽しむのよ」


と、微妙な返事をして濁して逃げた


アースリーは首を傾げ、これ以上は追求したらダメな案件だと思い、とりあえず納得する


アースリーは空気が読める子だった────




マルネスは楽しみにしていた


どこに出掛けるか知らされていなかったが、2人でお出掛けなんて何時ぶりだろうと自室にてお気に入りのドレスに着替え、ドキドキワクワクしながら玄関に赴くとクオンが待っており思わず走り寄りそうになるが、何とか堪えてお淑やかに振る舞う


≪さて、どこに連れて行ってくれるのだ?≫


昨日の夜からの悶々とした気持ちと眠れなかった事を隠すように冷静に尋ねるとクオンは微笑み答える


「隣町のノーズだ」




「何をむくれている?」


≪・・・話が違う≫


「話?」


≪どういう事だこれは!≫


ニーナの別荘所有の馬車・・・に並走する馬上にいるクオンとマルネス。馬車は別荘常駐の執事が操り、馬車の中にはメイドが2人乗っていた


「普段はニーナの家の私兵が護衛をして買い出しに行くらしいが、今回私兵は連れて来てないので買い出しの護衛が必要でな。気晴らしには丁度いいだろ?」


≪妾はクオンと2人で・・・!気晴らしなんぞ・・・気晴らし?≫


言いかけて昨日訪ねてきた時のクオンの言葉を思い出す。ニーナとジュウベエの2人に誘惑され、困っていると・・・だから気晴らしが必要となり、その相方に本命である自分を選んだ・・・脳内の変換は完了し、優越感が体内を駆け巡る


≪それならば仕方がない。存分に妾の身体を堪能し、気を晴らすが良い≫


鼻息荒く胸を張りながら言うマルネスに、なんのこっちゃとため息をつくクオン。マルネスはすっかり忘れていた・・・2人に誘惑される前から予定が組まれていた事を・・・



道中は特に魔物や野盗に襲われる事無く、昼前には隣街のノーズに到着。使用人達と夕方に街の入口で落ち合う約束をし、クオンとマルネスは街を散策する


上機嫌で初めて来る街をはしゃぎながら見て回るマルネスとそれについて行くクオンは傍からは、どこぞの令嬢とその従者に映っていた


場違いな水色のドレスに身を包み、街中を駆けるその姿は否応なしに人目を引いている


しばらく宛もなく歩いていると不自然にマルネスに近付く人影があった。深く帽子を被り、背格好から少年と思われるその人物は紙袋を持ち、ヨタヨタとマルネスに近付いては当たりそうになるが、マルネスは気にすることも無く自然体でそれを躱す。何度かそれを繰り返すと少年は突然帽子を脱ぎ去り、マルネスを指差して怒鳴り散らす


「お前が避けるから袋の中の瓶が割れちゃったじゃないか!どうしてくれるんだ!」


≪・・・謎かけか?≫


「黒丸が避けると割れる瓶らしいな」


理不尽な物言いに首を傾げていると、少年の後ろから頭の禿げあがった目付きの鋭い男が登場し、使い古したセリフを棒読みする


「おい!酒はどうし・・・割れてるじゃねえか!幻の酒『クインチュ』の酒瓶が!テメーどういう事だ!お使いもまともに出来ねえのか!」


「違うよ親父!こいつが避けるから・・・」


≪・・・寸劇か?≫


「魔の世では流行りそうだな」


説明口調のハゲ親父に問い詰められ、言いがかりを遥かに超えた主張をする少年。街を行き交う人々はまたかと呆れた様子で遠巻きに見ている。どうやら旅人相手に同じような劇が何度か公演されているようであった


「おい、てめえら!この酒が一体いくらすると思ってやがる!」


「幻の酒と言うぐらいだ・・・1万くらいか?」


≪阿呆を抜かすな。たかだか飲水にさほどの価値もあるまい。それだとこのドレスと同価値ということになるぞ?≫


「逆にそのドレスが安いな」


≪特別大特価と書いてあった・・・まあ、支払いはランスとやらがしておったから、特価品でなくとも良かったのだが、気に入ってのう≫


遠巻きに見ていた群衆の中に、マルネスの言葉に反応する人物がいた。その人物が群衆をかき分けて前に出て行くと、ハゲ親父がマルネス達の言葉を聞いて顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた


「1万!?バカ言うな!毒蜘蛛『クインチュ』の毒袋に入っている毒を飛ばして造られる酒・・・一体から数mlしか取れないと言われている幻の酒だぞ!100万200万でもきかねえぞ!」


ちなみに『キャミキャミカモーン』で出していた酒がこの『クインチュ』であるのは王都では有名であった


≪蜘蛛と言えば妾を食おうとした・・・≫


「あれは『フォングスパイダー』だ。あれとはどうやら違うみたいだぞ」


「おい!ごちゃごちゃうるせぇ!1000万ゴルド!きっちり耳揃えて払いやがれ!」


≪・・・いつの間にそんな話に?≫


「最近高額請求される機会が増えたな」


クオンが『キャミキャミカモーン』のデビットに1億請求された事を思い出して言うと、マルネスは首を傾げながらクオンを見つめた


≪そんなに金を持ってるようには見えんがのう≫


「今回は黒丸が原因だろ?」


≪・・・なに?≫


「お前がどこぞの令嬢にでも見えたんだろ?」


街の外から貴族の娘が遊びに来た・・・そう酒瓶少年とハゲ親父には映ったのだろうとクオンが言うとマルネスはその評価にニンマリ、ついでに1番評価して欲しいクオンに聞いてみた


≪ほう・・・クオンにはどう見える?≫


「育ちの悪さが滲み出てるから、令嬢には見えんな」


≪おい≫


答えを期待したマルネスがクオンをジト目で見つめていると、ハゲ親父が一連のやり取りを見てプルプルし始める。真っ赤な顔を更に真っ赤にし、茹でダコのようになると拳を振り上げた


「てめえら無視してんじゃねぇ!」


振り上げた拳を目の前にいたマルネスに振り下ろそうとしたが、マルネスに当たる寸での所で動きを止めた。ハゲ親父の首元にはどこからともなく現れた人物が短剣を当てており、短剣の剣先に塗られた液体がハゲ親父の首元を濡らす


その人物は特に変わった服装をしている訳でもなく、街に紛れれば見分けのつかない風体だが、切れ長の目と整った眉、小顔でなかなかの美形であった。身長は低いがいつの間にかハゲ親父の懐に入る俊敏さと首元に短剣を当てた技から腕が立つ冒険者に思える


「動かない方がいい。この短剣にはお前の大好きな『クインチュ』の毒が塗られている。表面なら害はないが、一度体内に入れば毒が体内を巡り死に至るぞ?」


「あ・・・ぐ・・・」


「ディートグリスの恥晒しが・・・街の警備に突き出してやる」


「親父ー!」


短剣少年がハゲ親父を恫喝すると酒瓶少年が地面に膝をつき、腕を伸ばして涙ながらに叫んだ。なかなか堂に入っている為、演技か本気か周囲も判断しかねていると、群衆をかき分けて警備兵が2人到着した


「何をしている!?・・・あっ、ゲオヤ!またお前か!」


警備兵が来た段階で探検少年はハゲ親父から短剣を引いていたが、警備兵は群衆の中心にいるハゲ親父を見て騒動を起こしているのはコイツだと決め付ける


「チッ・・・サカオ!ズラかる・・・」


「待ってくれ!俺らはそこのハ・・・ゲオヤに道案内を頼んでいたんだ。で、他所から来た俺らを楽しませようとちょっとした見世物をしてくれてたら騒ぎになってしまった・・・すまない」


「なっ!?おま・・・」


クオンがゲオヤを庇うと、短剣少年が何か言いたげに詰め寄ろうとする。それをクオンが手で制して警備兵の返答を待った


「・・・あなた達は?」


「ニーナ・クリストファーに頼まれて野暮用で来ている。ここは穏便に済ましてくれると助かるが・・・」


「ニーナ様の!?・・・嘘偽りではない証拠はありますか?」


「ここに来る時にニーナの使用人と共に来ている。街に入る際は一緒にいたからその時の門番に聞けば分かるんじゃないか?」


クオン自身はニーナと繋がっている証拠は有さなかったが、使用人はニーナの使用人であるという証文を持っている。街に入る際も提示していた為、それを確認するよう言うと、警備兵達はヒソヒソと話し始め、やがて結論が出たのかクオンに向き直る


「ニーナ様の馬車が来られたのは聞いています。街中ではあまり騒ぎ立てぬようお願いできますでしょうか?」


「手間を取らせて悪かった。騒がないよう今後気を付けよう」


クオンの返答を聞いて警備兵達はクオンに一礼すると野次馬と化していた群衆に解散するよう指示する。それを受けて群衆も、騒ぎが終わったと認識したのかパラパラとこの場を離れていった


「優しさのつもりか?捕まらなければまた同じ過ちを繰り返すぞ?」


「もうしないさ・・・なあ?」


短剣少年に言われると、クオンはゲオヤに話を振る。しかし、ゲオヤは憎々しげにクオンを見ると舌打ちしてそっぽを向いた


「・・・黒丸、騒ぎにならぬ程度で頼む」


≪了解だ≫


クオンの言葉にマルネスは瞬時に動き、ゲオヤの腰に差してあった剣を引き抜くとゲオヤの前に突き立てた


≪もうこんなものは要らんだろ?≫


マルネスが妖しく微笑むと手の中の剣は真っ赤になった後ドロドロと溶けていく。マルネスの手の平が鉄の溶解温度を超え、一瞬にして鉄で出来た剣を溶かしてしまっていた


「ギ・・・ギフト持ち・・・」


≪真っ当に働け。次見かけた時に特別に頬を撫でてやろう・・・仕事ぶり如何によっては手の温度が違うがのう≫


言外に詐欺まがいな事を続けていれば溶かすぞと脅すと、ゲオヤはサケオを連れて這うように逃げて行く。恐怖心は充分に刻まれたようで、何度も振り返り追って来ていないか確認していた


「・・・お前らが街を出たらまたやるぞ」


「かもな」


「無責任な!これ以上被害者が出ないように牢屋にぶち込むべきだった!」


「これでも被害者なんだがな・・・それに牢屋に入れたとしてどれくらいで出て来る?その間の子供の面倒は誰が見る?出て来た後に同じ事をやらないという保証は?捕まれば仕事に就きにくくなり、また同じ事を繰り返すと思わないか?」


「それでも!罪は償うべきだ!」


「罪?難癖つけて殴りかかろうとしたけど、毒の短剣を首に当てられて剣を溶かされたのが罪と言うなら、牢屋の数が足りないほどこの世は犯罪で溢れかえってるぞ?」


「くっ・・・詭弁を・・・もういい!」


これ以上話しても無駄と判断した短剣少年は踵を返し、歩き出す。それをクオンが待ったをかけた


「なあ、少年!」


「なんだ!」


「昼飯でも一緒にどうだ?助けてくれたお礼に奢るぞ?」


「はあ?何を言って・・・いや、丁度いい。僕も君に聞きたいことがある。奢られる言われはないが、相伴に預かろう」


一時断ろうとした短剣少年だったが、思い直して共に食事をする事に・・・承諾を受けたクオンは微笑み、2人の時間を邪魔される事になったマルネスは頬を膨らませて不機嫌になる


丁度昼時と言うこともあり、適当な店を選んで入ると3人はテーブルに着き、水の入ったコップを置いた店員に各々が注文する


「助けに入ってくれてありがとう。感謝するよ」


「・・・皮肉か?助けなぞ必要なかったみたいだがな。お陰でこっちは赤っ恥だ」


「そんな事は無い。それに必要なかったとしても、助けてくれた事には変わりない」


「はっ、どうだか・・・まっ、そんな事で言い争っても仕方ないか・・・素直に受け取っておく」


「そうしてくれると助かる。クオン・ケルベロスとマルネス・クロフィードだ」


「そういや名乗ってなかったな・・・・・・ランスだ」


聞き覚えのある名前にクオンが反応する。ありふれた名前ではあるが偶然で済ますには少し気にかかる


「へえ、奇遇だな。最近知り合った奴に同じ名前の奴がいる。ディートグリスでは流行ってるのか?その名前」


「・・・どうだかな」


ランスは答えた後、置かれている水をあおり無言となる。丁度その時注文していた食事が運ばれ、3人は黙々と食べ始めた


食べながらクオンはランスに気になっていた事を聞いてみる


「確か俺らに聞きたいことがあるって言ってなかったか?」


食事に誘った時に聞きたいことがあると言っていたが、一向に聞いてこない為、クオンの方から尋ねると、ランスは口の中の肉を飲み込み、クオンの方を見た


「・・・ランスとはどこで知り合った?」


「さっき街中で」


「僕ではない!最近知り合ったというランスの事だ!」


「ややこしいな。向こうのランスはランランと呼ぼう。ランランとは王都でな。知り合いか?」


「・・・フルネームは?」


「ランス・ラン何とか」


「くっ・・・どんな風貌だ?地位・・・いや、所持している武器は・・・?」


「騎士の鎧に槍を持っていたな・・・地位も言おうか?」


「いや・・・概ね把握した・・・どうやら間違いはないようだ。して、君らは・・・何者だ?」


ジロリとクオンを睨み付け、警戒しながら問い質す。事と次第によっては斬りかかって来るような勢いにクオンはため息をつく


「・・・ニーナから野暮用・・・使用人の買い出しの付き添いを頼まれてな。要は護衛だな」


「その使用人の姿が見えぬが?」


「ニーナの別荘から街までの道中の護衛だ。今頃買い物でもしてるだろう。まさか王都近くの街中で争い事に巻き込まれるとは思わないからな」


「巻き込まれていたではないか!」


「恐ろしい国だな」


「・・・護衛のくせにニーナ様を敬称も付けずに呼び、自らが争い事に巻き込みれたにも関わらず使用人の心配もなしか・・・物の言い方から我が国の者ではあるまい・・・改めて聞こう・・・君らは何者だ?」


「使用人の護衛だ」


「・・・」


≪ごちゃごちゃ五月蝿いのう。黙って飯も食えぬか?そちらの素性も明かさぬままこちらを詮索しおって・・・奇異な服装といいお主の方が何者だ?≫


運ばれてきた食事を食べ終わったマルネスが、クオンとランスの問答にしびれを切らして口を挟む。早くランスと別れてクオンとのデートに集中したいお年頃だ


「・・・そうだな・・・身元は明かせないが、一つ頼みを聞いてくれないか?ニーナ様とランスの知り合いで、あれ程のギフトを持っている君達になら・・・」


≪断る!断固拒否だ!身元も明かせぬ者の頼みなど聞いている暇はない!一切ない!て言うかどういう流れでそうなる?助けて奢ってバイバイの流れだろうが!≫


「虫のいい話とは承知している。だが、ここにいる冒険者ではみすみす死にに行くようなもの・・・どうか話だけでも・・・」


≪おい!聞いておるのか?我らは・・・≫


「話だけならな」


≪クオン~・・・≫


クオンも食事を終え、聞く態勢になっているのを見てマルネスが情けない声を出す。どうやら2人きりのデートは終わりを告げ、血なまぐさい事になりそうだとマルネスは肩を落とすのであった────



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