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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『拒むもの』
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1章 3 女王アント

クオン達はレンドがジャイアントアントに襲われていた場所を目指していた


宿屋の朝食の後、レイドに誘われて冒険者ギルドの依頼を共に行く事となり、携帯食料と水を片手に街を出た


金が欲しいクオンと依頼を達成したいレンドとマーナの利害の一致による一時的なパーティー。マルネスは納得せず拗ねて木刀になって今はクオンの腰に差されてる


『ジャイアントアントの蜜』


ジャイアントアントの中でも兵隊アントが集めた木の蜜


ジャイアントアントの中でも一般的な兵隊アントは初心者冒険者でも倒す事が出来るそれほど強い魔物ではない。ただまとまって動くこともあり、数匹に囲まれてしまうとベテラン冒険者でも苦戦する場合があるので注意が必要である


レンド達は1匹のジャイアントアントを狙うも運悪く他のジャイアントアントに遭遇し芋づる式に数が増えていき窮地に立たされた。本来ならば自分の狩場に追い込み狩るのが常識だったのだが、手間を惜しんでその場で狩ってしまった為・・・その反省点を活かし、今回は見張り役、誘導役、討伐役に分かれる


「確認します。僕が見張り役を、マーナが誘導役でクオンさんが討伐役でよろしいですか?」


役割を再度確認し、2人が頷くのを見た後にレンドは木に登り周囲を伺う。昨日襲われた場所まで遠いが、既にジャイアントアントの生息地帯には入っていた。警戒し、同じ轍は踏まないと心に誓ったレンドは目を凝らし注意深く観察する


数分が経ちスルスルと木から降りてくるとジャイアントアントが居た場所へと向かう。そして、遭遇する前に誘導する場所を探して決めると誘導役のマーナが深く息を吸い込んで吐いた


意を決してジャイアントアントがいる場所へ向けて歩き出し、すぐさま慌てて戻って来た


「ちがーう!これちがーう!」


手を振り猛ダッシュで戻って来るマーナの後ろから来る黒い物体。その顎は兵隊アントよりも大きく横に開き、今にもマーナを噛み砕かんとガチガチと音を鳴らして開けたり閉じたりを繰り返す


「うえ?ぐ、軍隊アント!?」


兵隊アントが木の蜜を集める係に対して軍隊アントは肉を集める係。栄養バランスを考えた2種類のアントが今日も女王アントに貢ぎ物


肉の種類は動物はもちろん人も含まれる。餌から近寄って来た好機を逃す訳もなく、数匹の軍隊アントが唾液のようなものを撒き散らしながらマーナに迫る


「強いのか?」


「・・・ごめんなさいクオンさん・・・もう逃げられない・・・」


レンドは項垂れ、地面に膝を落とす。その言葉が示す通り、軍隊アントが何かしらの信号を出しているのか右から左からとワラワラ湧いてくる


「軍隊アントには手を出してはダメ・・・近付いてもダメ・・・ギフトで広域範囲攻撃を持つ冒険者が数人揃ってやっと駆除出来る相手です・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」


クオンが居て気が大きくなったのか昨日の失敗を取り戻そうと焦ったのか普段はしない失敗をし、迫り来る死に耐えきれず涙する。せめてマーナとクオンだけでもと震える足を手で押さえ、意を決して立ち上がった


「クオンさん!僕が囮に!クオンさんはマーナと・・・なっ!?」


レンドが覚悟を決めた時、既にクオンはマーナに向かって走り出していた。剣を抜き、走り来るマーナを左腕で抱きとめると剣を一閃横に振る


「風斬り丸」


数十匹の軍隊アントに向かって放った風斬り丸に付与された風は鋭い刃となり軍隊アント達を真っ二つにする。ゴウっと風の音が激しく鳴り響き、静けさを取り戻した時には立っている軍隊アントは存在しなかった


目の前の光景に言葉を失い佇むレンドにマーナを下ろして剣を収めたクオンが微笑む


「蜜は取れるか?」


「へ?・・・い、いや軍隊アントに蜜は・・・」


「そうか。じゃあ、次だな」


クオンの次と言う言葉が理解出来ず、そのまま立ち竦んでいるとやっと我に返ったマーナがレンドに近付いて頬を叩く


「痛い?」


叩かれた頬に手を当てながら、レンドは聞かれた言葉にただ頷いた


「なら、夢じゃないね。でも、夢みたい・・・まだ足がフワフワしてる・・・」


普段なら僕で確かめるなと起こるところだが、今は素直にもう一度頷くことしか出来なかった。クオンはその時真っ二つになった軍隊アントに近付き、焼いたら食べれるか真剣に悩むのであった



「クオンさん・・・それ何なんですか?」


落ち着きを取り戻したレンド達はジャイアントアントがあまり近寄らない水辺を探してひと休憩。水分を補給しひと心地ついた後にレンドはクオンに尋ねる


「風の魔法を付与・・・こちらでは魔導武具か・・・された剣だ。昨日見ただろ?」


「いや、だって昨日は・・・」


昨日エイトの炎の玉に向けて放ったのは確かに見た。しかし、その大きさは炎の玉を切り裂くのに精一杯の小さな風の刃。今回のクオンが放った刃とは比べ物にならないくらい小さかった


「そう言えば国宝級とか何とか言ってたな。なら、見た事ないか」


クオンは剣を抜くとレンドとマーナに見えやすいように掲げる


「付与された風魔法は調整出来る。最大出力は決まっているが、小さく出すのは可能だ。この刀身に見える風紋・・・これが残りの魔法力を表していて、これが全部消え去るとただの刀になる。まあ、時間が経てば元に戻るし、風魔法師が居れば付与してもらえば一瞬で戻る」


「付与ってそんなに簡単に?でも、ディートグリスには数本しかないから国宝級なんですよ?」


「1度付与されれば器が出来て簡単に付与出来るみたいだな。付与出来る武具を作るには特能を使ってるから・・・まあ、この国で流行らない訳だ」


シントでは鍛冶師必須の能力、職眼(しょくがん)。武具を作る工程の際、100%の物を作るのではなく、付与が入る隙間を残して完成させないと付与は出来ない。もちろん隙間が大きければ付与も大きく出来るが、その分武具の耐久性は落ちる。武具の強度と付与のバランス・・・そのバランスと隙間を作る際に必要な眼が特殊能力の職眼である


「この国の上が職眼を管理してわざと多く作らせないようにしてるか、そもそも職眼持ちが居ないか」


「そんな・・・わざわざ数を制限する理由が・・・」


「そうか?少なければ価値が上がるだろ?それこそ国宝級と呼ばれるほどに」


「あっ・・・」


「それよりも軍隊アントの討伐依頼ってないのか?あればあの死体持ってけば金になるんじゃないか?」


レンドから軍隊アントは体内に毒がある為食べれないと聞き、使い道がないかと考えての発言だったが、レンドは静かに首を振る


「冒険者ギルドで依頼を受けてない時点で報酬は受け取れません。今から街に帰って受けてもいいですが、誰かが受けてたら無駄足になりますし、そもそも僕らのランクでは依頼自体が受けれません」


冒険者にはランクがあり、依頼にもランクがある。軍隊アント討伐はDランク相当。レンド達はFランクであり、受けることが出来ない。ちなみにクオンは他国の者のため、冒険者ギルド自体に登録ができない


「そっか・・・じゃあ、兵隊アントを探しに行くか」


「ええ。改めてお願いします」


レンドは今度こそ失敗すまいと気合を入れ直し、マーナは少し離れた所でチラチラとクオンを見て話に加わらず溜息をついていた


休憩を切り上げ、今度は慎重に兵隊アントを探していると奥の方から2人組の冒険者が何度も後ろを振り返り警戒しながら走ってこちらに向かって来ていた


「サードさん達?奥で何を?」


その表情から、何かよからぬことが起きていると判断しクオン達も彼らに事情を聞くべく足を向けた


「どうしたんです?血相変えて・・・」


「レンド達か!・・・ヤバい、ヤバいぞ!すぐに街に戻れ!アレは俺らの手に負えない!」


肩で息をしながら必死の形相でまくし立てるとまた後ろを振り返る。これからクオン達が向かおうとしていた方向だ


「一体何が?」


「俺達はジャイアントアントの調査依頼でこの奥に行ったんだ・・・そしたら・・・5m級の女王アントが・・・」


「5m!?まさか・・・ありえない!」


ジャイアントアントの唯一のメスである女王アント。その女王アントの大きさは兵隊アント、軍隊アントと同じくらい。人間と同じか少し大きいのでも2mほど。その倍以上の大きさなど聞いたこともなかった


「ああ、俺もこの目を疑ったさ・・・だが、どっかのバカが女王アントに馬を提供しやがった!食いかけの馬の残骸を見た・・・アイツらに馬を与えると急激にでかくなりやがる・・・野生の馬は決してジャイアントアントの巣に近寄らない・・・誰かの所有する馬が・・・野生の勘を失った馬がジャイアントアントの巣に近付きやがったんだ!」


どっかのバカ候補のクオンは思う。ほぼ100パー俺の馬だと


「そんな!でも、残骸が残ってたって・・・そんなに急激に大きくなるもんなんですか?」


「俺も詳しくは知らねえが、ジャイアントアントの女王に馬を食わすのは禁忌って言われるぐらいだ・・・大きくなったとしても不思議はねえ・・・あの大きさから産まれるアント・・・ジャイアントってレベルじゃねえぞ!5m級の軍隊アントが大群で押し寄せて来たら街どころか国すら・・・」


レンドは先程の襲ってきた軍隊アントを思い出す。大きさはレンド達と同じくらいなのに数の多さはもちろん、あの顎に噛み砕かれたら即死は免れないと感じた。あの大きさでも脅威なのに5m級の女王アントから産まれる5m級の軍隊アントの大群を想像して吐き気とめまいが襲ってきた


「とにかく俺達は一旦ギルドに戻り、住民の避難と近隣の街への協力を要請する!まだ日が経ってないのか、卵は見受けられなかった!今なら間に合う!」


「そいつは少し待ってくれないか?」


「は?・・・あんた誰だ?」


普段はあまり表情の変えないクオンが少し冷や汗をかきながらサードに話しかける。もしサードの言ったことが本当なら原因となったのはクオンの馬。そして、それが発覚すれば外交問題になりかねない・・・いや、確実になる


「その女王アントは俺が駆除する。ちょっと思い当たる節があるからな」


ちょっとどころではないのだが、サクッと倒して証拠隠滅を図る気マンマンのクオンは言葉を濁す


サードともう1人の男は訝しげにクオンを観察するが、クオンは何処吹く風の様子で腰に差しているマルネスを引き抜いた


「起きろ、黒丸」


ポイっと放り投げると地面にそのまま落ちる。マルネスを知るレンド達は落ちる前に人型化すると思ったのに予想が外れ言葉を失い、マルネスを知らないサード達は何してんだコイツ状態


「・・・」


周囲の視線を痛いと感じたクオンが逆恨み的にマルネスを後ろ踏みつけようとした時、マルネスから黒い煙が出て人型化したマルネスが現れた


≪ふ、踏もうとするな!殺気がダダ漏れだったぞ!≫


「素直に起きないからだ」


≪チ、チスで起こせと言ったろうに!・・・うん?なんだココは?昼飯を食いにピクニックか?≫


「ジャイアントアントの巣の近くだ。お前の昼食はジャイアントアントだな」


≪いや、アレ不味いから!舌がピリピリするだけで身がスカスカ・・・まあ、女王アントは美味いけど≫


レンド達は食ったことあるんかい!と心の中でツッコミ、サード達は木刀が幼女になった衝撃から戻って来れずにいた


我に返ったサード達にマルネスが魔族である事、クオンが軍隊アントの大群を一瞬で片付けてしまう程の強者であることを説明する。それでもサード達には信じる事が出来ずに街に報告に行き先程の件を進めると言い張る


≪ビビりだのう・・・本当に。虫けら如きで・・・ん?≫


ジャイアントアントに怯える2人に呆れていると奥の方からガサガサと音が聞こえた。そして、2m級の軍隊アントが数匹に姿を現す


「なっ・・・巣からかなり遠いのに!?」


≪はっ、大方ブクブク太ったメスブタの胃袋には今までの範囲の食糧じゃ足りんのだろう。遠出してまで狩りに勤しむとは甲斐甲斐しいではないか≫


余裕を見せ言い放つマルネスを他所にサード達は軍隊アントから逃げようと後退り始める。6本足で動く軍隊アントのスピードは人より速い。水辺を嫌う為にそこまで逃げ切れればと動き始めようとした時にマルネスが軍隊アントに向かって歩き始めた


「お、おい!」


見た目幼女のマルネスを気遣って止めようとするが、マルネスは躊躇なく進み、それに応じるかのように軍隊アントもマルネスに狙いを定め襲いくる


≪実力差も分からぬ低俗の虫けらにはコレで充分か・・・黒花星章≫


マルネスが腕を軍隊アントに向けて上げると指先で狙いを定める。そして、技の名前を呟くと狙った場所から黒い花が咲き、軍隊アントが通過した瞬間に軍隊アント全てに届くように弾けた


黒い花が弾け消え去るとそこにあった軍隊アントの姿も跡形もなく消え去っていた


「やり過ぎだ」


≪なっ!?これ以下で範囲攻撃など持っておらん!≫


「だが、上出来だ」


≪はう!≫


いつの間にかすぐ隣に居たクオンに窘められ文句を言うが、すぐに褒められて頭に手を乗せられ顔を赤らめる


クオンはクネクネしているマルネスを放っておき、サード達に向き直ると微笑みながら口を開く


「コイツ1人で事足りる。もちろん俺も行くがな」


「あ、ああ。しかし、その子は・・・」


「言ったろ?魔族だ。だが、人に仇なす者ではない」


「ま、魔族・・・」


≪ま、待てーい!まだ手伝うとは言ってないぞ!≫


「・・・何が望みだ?」


≪・・・そ、添い寝?≫


「却下」


≪うおーい!少しは考える素振りくらい見せたらどうだ!?こんな美少女と添い寝するチャンスなど早々ないぞ?≫


チャンスとは全然思っていないクオンだが、自分のせいで魔物を強化させてしまった可能性が拭いきれず、早々に退治したい衝動に駆られ渋々頷く


「・・・1晩だぞ?」


≪構わん!≫


交渉成立し、鼻息荒く興奮するマルネス。そのやり取りを見て周囲の者達は苦笑いするしかなかった


話がまとまり、とりあえずサード達は街に戻りクオン達の帰りを待つことになった。時間の猶予は夕刻まで。それを過ぎたらギルドに報告すると言って帰っていった


「ここから巣までは1時間くらい・・・倒して戻ってギリギリか」


巣に向けて歩きながらサードからの情報を元に計算する。今は昼過ぎ、何としても夕刻までに戻らなければクオンはシントの王にこっぴどく怒られるであろう。それは是が非でも避けなければならなかった


巣に向かい森の奥を進む際、やはりジャイアントアントの数は増えていく。クオンの風斬り丸、マルネスの魔法で蹴散らかしながら進んで行くとようやく巣と思われる場所に到着。その中心には女王アントと思われる5m級のジャイアントアントとその半分の大きさの卵が1つ目に映る


「・・・ありえない・・・なんだあの大きさは?それに卵・・・本来ならあの半分くらいのはずなのに・・・」


やはり産む女王アントの大きさによって卵も大きくなる。このまま放置すれば徐々に数を増やし、人の世に多大な被害をもたらすだろう


レンドが実際に巨大な女王アントを見て尻込みしていると、意に介さず突き進むクオンとマルネスに焦りを覚える。てっきり遠くからマルネスの魔法で仕留めると思っていたからだ


しかし、止める為に声を上げてしまうとジャイアントアントが一斉に襲ってくるかもしれないと慌てて手で口を塞ぎ、クオン達と離れる恐怖に耐えきれず仕方なく2人に着いて行く


≪魔法で蹴散らかすか?≫


「ダメだ。俺の馬かも知れんという事は、俺の荷物もそこら辺にある可能性がある。範囲魔法は禁止、なるべく肉弾戦で駆除しろ」


≪ぐぬぬ・・・汚れるのは嫌なのだが・・・≫


「汚れたら洗ってやる。今度は湯でな」


≪聞けい!虫けら共よ!妾にかかって来るが良い!≫


突然叫び、両腕が変化する。腕に模様が浮かび上がり爪が伸び刃と化す。ウケケケケと奇妙な笑い声をあげながら突進するとワラワラと湧いてきた軍隊アントに突撃した


「え、ええ!?」


レンド達が目を疑い何度も目を擦るが、黒い下着姿のような格好の幼女が素手で凶悪な軍隊アントを笑いながら駆除していく姿は変わらなかった


マルネスが女王アントに近付くと、その陰から少し大き目の軍隊アントが2匹出て来る


「あれは・・・近衛アント!?」


軍隊アントと違うのは大きさだけではなく、2本の前足が鎌のような形をしており、その研ぎ澄まされた前足は人をも容易に貫通する。女王アントを護る最後の砦、近衛アント


大物風に登場した近衛アントの2匹はご褒美が増えたマルネスの相手にはならず、軍隊アントと共にその短い生涯を閉じた。ちなみにレンドが「あれは・・・近衛アント!?」のンの部分の時には既に絶命していた


迫り来る幼女に危機感を感じた女王アントが巨大な体を起こし威嚇するように鳴く。耳障りなギギギと言う音に笑っていたマルネスも顔を顰める


≪ちいとデカいのう≫


マルネスの大きさは凡そ130センチ。5倍ほどの大きさの女王アントを見上げて呟いた。魔法を使えば一瞬で事足りるが、両腕の刃では時間がかかりそうだと舌打ちする


「黒丸!足を狙え!」


周囲にジャイアントアントが居ないことを確認したクオンが、女王アントに向かい駈けながら指示を飛ばす。マルネスはニヤリと笑い女王アントの足元に入り込むと体を支えている足を2本切り落とした


体勢を崩し前のめりになる女王アントにクオンは飛びかかると人とは思えぬ跳躍力で頭の付近まで飛び、抜いていた風斬り丸を振り下ろす


垂直に落ちながら女王アントの体を切り裂き、汚れないようにすぐに後方に離脱すると、切り裂かれた体から大量の血が吹き出す。マルネスは足元でその血をシャワーのように浴びるのをレンド達は目撃していた


女王アントの生命力は高く、絶命寸前ながらも残った4本足で器用に後ろに下がると、後ろにある卵の傍に向かっていた


「まさか・・・女王アントが卵を守る為に?」


魔物でも知能の高い個体も多い。その中でもジャイアントアントは本能のみで行動する比較的知能の低い部類と思っていただけにその行動が人と同じように感じる


「違う。本能で行動してるだけだし、感動するような場面じゃないぞ?」


クオンが剣に付着した女王アントの血を振り払うと鞘に収め、レンド達の元へ戻って来た。そして、クオンの言葉の意味を知る事となる


女王アントは大きな顎を左右に開き、卵に齧り付く。その光景を見てレンドは絶句しマーナは口に手を当てた


「卵を・・・食べてる?」


不気味な咀嚼音が周囲に響き渡り、顔を歪めながらマーナが呟く。本能のまま卵を守るのではなく、自分の身を守る為に・・・栄養補給の為に卵を食らっているのだ


「気分が悪いな・・・黒丸!滅しろ!」


マルネスは頷くと両腕を元に戻し指先を卵を食らう女王アントに向けた。そして、一言


≪陣限黒包≫


女王アントの足元に魔法陣が浮かび上がり、包み込むように黒いドームが出来上がる。完全に包み込まれた女王アントが断末魔のように鳴き叫ぶが、マルネスが手を握り込むと黒いドームが小さくなりやがて消え去った


魔法陣も消え、その場には女王アントが流した血のみが残されていた


マルネスはその結果に満足したのかクシャリと顔を歪ませて微笑む。レンドはゴクリと喉を鳴らしその顔から目が離せずずっと見つめていた


クオンは周囲を見渡し、生き残ったジャイアントアントが居ないか確認すると、馬の残骸を見つけてその辺をウロウロし始めた。そして、ある場所で動きを止めて茂みに手を突っ込むと茂みの中から袋を取り出す


クオンは満面の笑みで袋を抱えながらレンド達の元に戻り、マルネスもその後に続いた


「もしかして、それがクオンさんの荷物ですか?」


「ああ。食われてたらどうしようかと思ったけど、残ってて良かった」


「中身は大丈夫でした?」


「大丈夫だ。全て残ってる。全てな」


意味深な笑みを浮かべるクオンとは別にマルネスはクオンの周りをウロチョロして、時折クオンの顔を覗き込み怪しげな笑みを浮かべる


「笑ったりニヤケたり気持ち悪いぞ?返り血でベタベタするだろ?木刀に戻っとけ」


≪あ、ああ!そうだな!約束忘れるなよ!≫


「分かった分かった。お疲れだったな休んでおけ」


≪うむうむ、まあ、あの程度は疲れた内に入らんが・・・今日の夜は激しく疲れるやもしれからのう。それまで休ませてもらうか≫


ニヤケヅラ全開で言った後、人型化の状態で抱きつこうとして途中で木刀に変化する。クオンはそれを受け取り腰に差すと思いきや、探し当てた荷物から布を取り出し木刀に巻き、その後で腰に差す


「クオンさん、今の布は何ですか?」


「封印が付与されてる布だ。これで黒丸は勝手に出て来れなくなる」


「そうなんですね。・・・で、でも、夜は人型化して添い寝とかお風呂とか・・・」


「何故人型化する必要がある?昨日は冷水で洗ったから木刀のままだったが、温水になると勝手に人型化する可能性がある。添い寝の時もな。木刀になっている時も冷たい熱いとかは分かるみたいだからな」


「・・・多分クロフィード様って人型化の状態でって意味で言ったと思うのですが」


「そうだとしても、そんな約束はしてない。ただ温水で洗って添い寝するって約束だ」


「・・・かなり暴れてますが・・・」


「気のせいだろ?とっとと帰ろう・・・と思ったが、ジャイアントアントの蜜はいいのか?確か倒した中には兵隊アントもいたぞ?」


クオンの言葉を聞き、ポンと手を叩いてレンドはジャイアントアントの死骸の所に向かった。兵隊アントと軍隊アントはマルネスが素手で倒している為死骸も残っている。グチャグチャにはなっているが何とか蜜は取れそうだった


レンドが採取してる間、ポツンと取り残されたクオンとマーナ。突然モジモジし始めたマーナがクオンに話しかける


「あの・・・今日はありがとうございます。まさかこんな事態になるとは思いませんでした。それで・・・その・・・」


「ん?」


「お礼の代わりとは言ってはなんですが・・・もし良かったらなんですが・・・お時間がある時にでも・・・その・・・あの・・・お食事でも・・・」


腰に差したマルネスが今までに増してバタバタと荒れ狂う。それをクオンが掴んで止めると反対の手で頬をかいてマーナに向き直る


「金も戻ったし、気を使わなくていいぞ。逆にお礼を言わなければならないのは俺の方だ。2人について来なかったら荷物も見つからなかったろうしな」


「でも!結果的に街も救ってもらったし!」


「それだ。それくらいの話し方だと気が楽だ。さん付けもいらない」


クオンがマーナの頭に手を乗せて微笑むとマーナは顔を真っ赤にして俯いた。それから程なくしてレンドが蜜を容器に入れて戻って来た


セガスに向かい歩き始めた時、見覚えのある人物が数名の者達を従え走ってクオン達の方に向かってくる


「エイトさん!?」


レンドが驚きの声を上げ、向かってくるエイトの名を叫ぶと、エイト達は走る勢いを弱め、やがて目の前で止まる


「ハア・・・ハア・・・女王・・・アントが・・・巨大化・・・」


「その女王アントならクオンさんが倒しましたよ」


「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」


エイトはクオンを睨みつけた後そのまま踵を返し来た道を戻る。エイトと共に来た者達はクオン達に一礼するとエイトの後を追った


寂しげなエイトの背中を見送り、見えなくなった時3人は無言でセガスへと戻る為に歩き出すのであった


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