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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『招くもの』
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2章 13 モコズビッチ家の悲劇

マクターがアカネにギフト『増加』を施し、店に戻ったのは深夜だった。行きは一瞬だったが、帰りは徒歩となり、何とか店に辿り着いた時には店も閉まっており、鍵もかけられている


突然の出来事で店兼家の鍵を持っていない事に気付いたのは店のドアを開けようとした時だった


ドアノブを回し引っ張るが開かないドア。あれ、実は押すんだっけ?と住み慣れた家のドアを押してみるが開かない。そうしてようやく鍵が閉められている事と鍵を忘れたことに気付く


精も根も尽き果てたマクターはドアに背を預け、ズルズルと地べたに座り込むとそのまま眠りについた


目が覚めたのは昼前・・・繁華街とはいえここら一帯は夜の街であり、まだ店はやっていないので、人通りも少ない。そこに、場違いな豪華な装飾が施された馬車が2台と鎧を身にまとった騎士が『キャミキャミカモーン』の前に止まった事により目覚めた


驚き言葉を失っていると馬から降りた騎士が地べたに座るマクターを見下ろし尋ねてくる


「モコズビッチ家の者であるか?」


マクターは咄嗟に頷くが現状が把握出来ず惚けていると騎士は連れて来ていた者達に指示すると馬車の荷台から次々に袋を運びマクターの目の前に置いていく。合計10袋に上ると騎士はその袋を前にして紙を広げ読み上げた


「昨夜にクオン・ケルベロス殿と結ばれた契約金1億ゴルドだ。確認した後、ここにサインを」


騎士の言っていることが理解出来ずに頭を振って目を覚まそうとする。契約金?1億ゴルド?あれ・・・そう言えば確か・・・


マクターは慌てて騎士に待ってくれと伝えてドアを激しくノックする。すると出て来たのは長男サンワー。まだ寝足りないのか目を擦りながらドアを開けると、必死の形相の弟と騎士達が目に入り腰を抜かす


「兄貴・・・親父・・・早く・・・」


何とか言葉を絞り出し、マクターがサンワーに伝えると、サンワーはコクコク頷いて奥へと駆けていく


その数分後にサンワーはデビットを引き連れて戻って来た


「こ、これは・・・」


目の前に置かれた袋と騎士達を見て眠気が吹き飛んだデビットが呟くと騎士が再度告げる


「デビット・モコズビッチだな?貴殿が昨夜クオン・ケルベロス殿と交わされた契約金1億ゴルドを持参した。金貨1万枚で1億ゴルド・・・確認しこの書類にサインを」


騎士は抑揚のない声でそう告げると1枚の紙をデビットに渡す。デビットは素早くその紙に目を通すと、そこには契約金1億ゴルドと王家の印が記されていた


「あの・・・私は確か・・・クオンさんと・・・このお金は国の・・・?」


デビットが恐る恐る尋ねると騎士はため息をつき、デビットに説明した


今朝方クオン・ケルベロスが城を訪れ、昨夜未明にあるものに襲われたと言ってきた。襲ってきた者はディートグリスの元男爵で、襲われたのはシントから来ている使者。使者は回復のギフトにより一命は取り留めたものの傷は深く大量の血を失い意識不明の重体。そこでクオン・ケルベロスは血の量を正常に戻す為に頼ったのがモコズビッチ家だった。しかし、そこで法外な治療費を請求されたのだが、背に腹はかえられず、支払う約束をして事なきを得たと


「陛下の前でクオン・ケルベロス殿はこう言った。『シントの使者がディートグリスの国民に襲われたにも関わらず、無償で治してくれる心優しき者もいれば、法外な金額を請求してくる者もいる。ディートグリスとは優しい国なのか逞しい国なのか分からないな』とな」


「あ・・・いや、それはその・・・」


「陛下はその言葉を聞き、嘆き悲しんだ。その陛下を見てクオン・ケルベロス殿はこう続けた。『そう悲しそうな顔するなよ。俺は逞しいって言ったんだぜ?困ってる者に吹っかける・・・商魂魂ここに極めけりってな』と。陛下の表情は見る見るうちに憤怒の色濃くなられ、クオン・ケルベロス殿にこう告げた。『その金額は全て我が国で負担しよう』と。・・・なぜここまで一語一句知ってるか教えようか?私もその場に居たからだ。その場に居て陛下の怒りや悲しみを感じ、クオン・ケルベロス殿の言葉に胸痛めたからだ!早く確認しろ!そして、その面を二度と私に見せるな!この下衆が!」


まさかクオンが国王と繋がりを持っているとは思わなかったデビット。今思えば侯爵や伯爵達と親しげに話している時点で気付くべきだったと後悔する。目の前の騎士に罵倒されながらもデビットは頭を回転させ言い繕う


「う、受け取れません!クオン殿に申しましたのは冗談でして・・・まさか本当に渡されるとは夢にも・・・ハハ・・・」


「・・・そうか・・・そうだったのか。では、聞こう。冗談なのにも関わらず保証人を立てさせたのは何故だ?しかもハーネット・バーミリオン様だけでは飽き足らずニーナ・クリストファー様、シード・クーフー様、ランス・ランクリフ様にまで署名させたとか・・・」


「あ・・・」


「後、貴殿は分かっているのか?クオン・ケルベロス殿が貴殿と交渉している時、横におられたのが誰だったか・・・」


騎士に畳み掛けるように言われてデビットは気付く。横に座っていたのは法の番人、ギフト『審判』を持つニーナ。つまりあの時冗談で言ったか否か既に知られてるはず。保証人を取り、嘘ではなく本当に1億ゴルドを請求しといて冗談でしたでは済まされない。デビットは膝から崩れ落ち両手を地面につけた


「数える気がないならさっさとサインを。これでも忙しい身・・・貴殿にかまけている時間はない」


騎士は見下ろしながら用紙をデビットの前に差し出した。デビットは震える手でその用紙にサインし、それをすぐに引っ込めた騎士は足早に馬へと戻る。その戻る最中に1度振り向き、店の看板を見上げた


「よく宣伝しといてやる。この店は他国の者が困っている時、法外な金額を請求するぼったくりの店であり、国王陛下より1億ゴルドの大金を掠め取る商才に長けた経営者が居るとな。それを聞いて飲みに来るのはよっぽどディートグリス国が嫌いなのだろうよ・・・ペッ」


馬に乗った騎士はデビットの前に落ちるように唾を吐き、そのまま馬を返して去って行く。それを追うように馬車と周りの騎士達も城へと戻って行った


デビットは地面に吐き出された唾を見て店の終焉を感じていた


その予感は的中し、徐々に客足は遠のく


3日も経てば店の女の子の数の方が客より多くなり、更に3日経つとソファーに座り足をバタバタさせて暇を持て余す女の子がほとんどで、閑古鳥が鳴いていた


人の噂も何とやらと店は続けていたが、1度遠のいた客足は戻って来ず、次第に不安になった女の子もポツリポツリと辞めていく


店の奥で頭を抱えていたデビットに更なる悲劇がのしかかる


「な・・・に?別荘の追加金だと?」


「うん・・・資材が高騰したり・・・その・・・追加工事もお願いしたりして・・・」


ナターシャは消え入りそうな声でボソボソと喋るとデビットが眉間に皺を寄せて怒鳴り散らす


「この大変な時に!いくら請求されてるんだ!」


「7000万ゴルド・・・」


「・・・ふ・・・ふざけるな!お前が欲しいからと資産のほとんどを投げ打って建て始めた別荘に更に7000万ゴルドだと!?そんなもの払えるか!店の状況を見ろ!」


デビットが部屋のドアを開けると店内には長女のプロネスが1人で高級酒を飲んでいた。客足はぱったりと止まり、店のドアを開ける客は酔って間違えて入った者くらいだ。その酔っていた客すら間違えたと慌てて出て行く始末・・・


「だって!好きにすればいいって言ったのはアンタじゃない!それに資材の高騰なんて聞いてなかったし・・・」


「クソッ・・・とにかくキャンセルだ!この状態で7000万なんて大金・・・」


「この前の1億ゴルドがあるじゃない!?それで・・・」


「バカかお前は!あれはギフトの対価として貰ったと国に知られている・・・つまり税金がかかるんだよ!この店の状況と資産のない状態で7000万なんて払ってみろ・・・俺らは破産だ!」


「直接来て良かった。悪い噂を聞いてもしやと思ったが・・・」


デビットの怒鳴り声で掻き消されていたが、いつの間にか店内には1人の男が入っていた。屈強な色黒の男は頭にタオルを巻いて腰に手を当てデビットを見据えていた


「な・・・なんだ、アンタは・・・」


「あっ・・・」


ナターシャが男を見てサッと奥の部屋に隠れると、男はズンズンとデビットに歩み寄り目の前で止まると手を差し出す


「追加の金を受け取りに来た。店が繁盛していれば分割でも良かったが、この有様じゃあな・・・」


男は店を見回して客がまったく居ないことを確認すると鼻で笑う。それを見てデビットが男を睨みつけた


「ふざけるな!工事はキャンセルだ!金は一銭も払わ・・・」


「バカ言ってんじゃねえよ。工事はもうとっくに終わってんだ。キャンセルなんて出来るわけねえだろ!」


「なっ!?」


「さっきも言ったが分割は無しだ!ウチは分割も受け付けてるがそれは信用があっての事・・・この店の有様を見たら信用も何もあったもんじゃねえ・・・支払いが滞ったら払ってくれるような保証人を付けるってんなら話は別だがな!」


どこかで聞いた話をされて目が回るデビット。今のモコズビッチ家に7000万の保証人になってくれる人物など居ない。デビットは何とか追い返そうと考えるが、店に続々と男と同じ風体の者達が入って来た


「国王陛下から1億ゴルドせしめたんだろ?なら、まだあるはずだ・・・おい、野郎共!片っ端から部屋を探してかき集めてこい!」


「おう!」


男達は返事をすると勢い良く店の奥へと消えて行く。ナターシャが部屋の奥で悲鳴を上げるが、お構いなく筋肉の塊が部屋を蹂躙していく


「頭ァ!ありやした!」


「おう!きっちり7000万持って来い!」


「か、数えるんですかい?」


「バッキャロー!どうせ袋に小分けされてるはずだ!10袋なら7袋・・・20袋なら14袋だ!頭を使え!」


「へい!」


「あ・・・あ・・・」


もう止めることは出来ないと確信したデビットがよろよろと後ろに下がりソファーに座り込む。それを見た頭と呼ばれた男がデビットの肩に手を置いてニカッと笑う


「袋から何枚か抜いたか?抜いてんだったらその分はサービスだ。それで美味いもんでも食えや」


その後、屈強な男達によりきっちり7袋が持ち出され、家には1000万ゴルドが入った袋が3つ残されるのみとなった


デビットは数日悩んだ後、意を決して3000万ゴルドを馬車へと積み込み、別荘へと夜逃げする


もうディートグリスでは商売出来ないと踏んで、一旦別荘へと移り住み、頃合いを見て他国に亡命する計画を企てた


長女のプロネスはディートグリスに残ると言い、デビット、ナターシャ、サンワー、マクターは共に別荘へと向かった


「まだだ・・・まだ逆転出来る・・・3000万あれば・・・」


病的に呟き続けるデビットを心配そうに見つめるサンワーとマクター。母であるナターシャはずっと顔を伏せこちらも何かブツブツと言っている


別荘に到着すると、住んでいないはずの屋敷の中から人の気配がして入口で立ち止まる。どうやら空き家と思った誰かが屋敷に侵入して暮らしているみたいだった


「・・・誰だ・・・人の屋敷に・・・」


完成したばかりの屋敷に勝手に上がり込んでいる者に対して憎しみの視線を送ると、唯一武芸を嗜むサンワーに視線を移す。サンワーは頷き剣を抜くと玄関近くまで行き叫んだ


「この屋敷がモコズビッチ家の屋敷と知っての狼藉か!早々に去るがいい!」


多人数では分が悪いと逃がす方向で話を進めるサンワー。しばらくして、2人の男が玄関より出て来た


「これはこれは・・・ちょうどいい空き家があったので無断で拝借してしまいました。なにぶん根無し草の身・・・一晩の宿と思いお借りしたのですが、快適でしたのでつい・・・」


優男風の男がサンワーに説明していると怒り狂ったデビットがサンワーの後ろから出て来る。そして、相手が下手に出たのをいいことに一気に怒鳴り散らした


「ふざけるな!まだ1度も使用していない屋敷を勝手に・・・ああ!しかも、扉を鍵を壊しおって!・・・おのれ・・・」


一気に詰め寄るデビットに優男は困り顔でデビットに落ち着くように言うが、デビットは更に怒鳴り散らす


それを聞いていた優男の連れの色白の男が優男に耳打ちすると、優男は表情を変え、不気味な笑顔を垣間見せた


「なんと幸運な・・・まさかギフト持ちの方が屋敷の主だったとは・・・これで彼も上級の仲間入り・・・」


「は?貴様何を・・・」


デビットが優男の言っている事が理解出来ずに尋ねようとした時、色白の男が動き心臓付近を貫いた


何が起こったか分からずに突き刺さった腕と色白の男の顔を交互に見るデビット。無言の中、溢れ出てきた血を吐き出すと後ろの方でナターシャが悲鳴を上げる


≪ほう・・・どのような魔技か分からぬが、なかなか使い込んでるようだ。我の器にするには小さいがな≫


「あ・・・が・・・」


色白の男はデビットの中から何かを取り出すとこれみよがしに大きく口を開けて飲み込む。ゴクリと音がなると色白の男は震え出した


≪なるほど・・・『強化』の派生か・・・特別な力とは言えないが、1から構築するのは難しい・・・。主よ、これより我は上級魔族だ≫


「そうなんだな・・・素晴らしい。やはり上級魔族を連れて来るより魔族を使役して上級に上げた方が効率がいいな。上級魔族は勝手にどっか行っちゃうからな」


≪はい。我らは1度忠誠を誓えば不変。しかし、上級となるとその忠誠を誓わせることが困難となりますゆえ・・・それで、残りの者は・・・≫


「他にギフト持ちはいるかい?」


≪あの者が・・・≫


優男の問いに色白魔族はマクターを指差す。ガタガタと震えるマクターは胸を貫かれて血を吐いた父であるデビットに助けを求める。しかし、タイミング良くデビットは事切れ、地面にうつ伏せで倒れ込んだ


「お・・・おや・・・」


「マクター!母を連れて逃げろ!」


サンワーが剣を構え、色白魔族の前に立つ。それを無視するように平然と優男と色白魔族は会話を継続する


「うーん、手持ちの駒は増やしたい。血族なら同じギフトだろうから・・・どうだい?使えそうかい?そのギフト」


≪ええ。使い方次第では・・・。ただ殺すのではなく、他の者に与えた方が主の為になるかと・・・≫


「そうだね。誰にしようかな・・・うん、決めた」


優男が人差し指を立てて何も無い空間に1本の線を引く。すると空間は裂け、中から青白魔族と同じ色白の女性が出て来た


≪お呼びでしょうか?≫


「うん、アルテ・・・あの男のギフトで上級になりなよ。なかなか使えるみたいだよ?」


≪はっ!有難く頂戴致します≫


アルテと呼ばれた女魔族は剣を構えるサンワーを無視して、未だ動けぬマクターに向けて歩き出す


「クソがー!」


サンワーは意を決してアルテに斬り掛かるが、それを色白魔族が割り込み、片手で止める


≪使ってみるか・・・『筋肉増量』≫


色白魔族が唱えると、剣を止めた右腕が肥大する。そして、苦もなく剣を握り砕いた


≪加減が難しいな・・・練習用は・・・2人か≫


サンワーと後ろで震えているナターシャを見てニヤリと笑う。そして、もう一度唱えると今度は左腕が肥大し、その腕でサンワーを打ち抜いた


バグッと鈍い音が鳴り、サンワーの頭部は消失。それを見ていたナターシャの股間は湿り出す


≪まだ強いか・・・それとも人が柔いのか・・・≫


青白魔族は打ち抜いた左腕を眺めると、次の練習台に向けて歩き出す。ふと何かに気付き、主である優男に振り返る


≪主、この女は性欲処理用に残しておきますか?歳はいってますが、見た目はそこそこ・・・≫


「勘弁してくれ。僕はノーメイクの女性が好きなんだ。そんな厚化粧の女にはピクリとも反応しないよ。それに・・・もう汚れてるしね」


≪かしこまりました。では、敷地内を綺麗にする意味でも跡形もなく・・・≫


青白魔族は肥大した右腕に更に能力を使う。すると倍以上に肥大化した腕を振り上げた


「・・・あ」


ナターシャはその腕を見ても反応はしなかった。ただ目を見開き何かを言おうとした瞬間に巨大な腕の塊がナターシャを打ち付け、屋敷の外まで飛んで行く。その姿は原型を留めておらず、ただの肉塊と成り果てていた


≪うーわ、あんまり美しくないわね≫


青白魔族の能力を見て、アルテはこれからその能力が自分に宿ると思いゲンナリする。そして、マクターの前に立つと怪しげな笑みを浮かべた


≪まっ、上級になれる事だし、我慢するかな。ねえ?これから君は死ぬんだけど何か言いたいことある?お姉さんが聞いてあげるぞ★≫


マクターには周囲の出来事がまるで理解出来ず、ただ目の前の女性を眺めるしか出来なかった。しかし、アルテに言われた言葉と前にジュウベエに言われた言葉が重なり、思わず手を伸ばしながら呟く


「・・・お、オッパイを・・・」


≪は?何それ・・・穢らわしい!≫


手がアルテの胸に届くか否かのところでアルテの腕がマクターの胸付近を貫いた。目を見開き、それでも手を伸ばすと一瞬アルテの胸に手が触れる


あの時、ジュウベエの胸を触っていても同じだったのかな?と考えながらマクターは絶命・・・こうして4人は全員息絶えた


アルテはマクターより取り出したものを口に含み飲み込むと、自分の身体を見回している。身体を不思議そうに動かし、何度か能力を使ってみていた


それを眺めていた優男は嬉しげに微笑むと、再度空間を切り裂き、新たな魔族を呼び寄せる


「上級となったヴァネスとアルテに掃除をさせる訳にもいかないからね。ワット、庭を掃除しといてくれ」


≪はっ!≫


「ヴァネスとアルテは今後僕の側仕えとして常に居てくれ。魔力不足の時は交互に魔の世に送ってあげるよ。後、他の魔族の統率も頼む。詳細は屋敷の中でしようか」


≪はっ!我が主、ラフィス・トルセン様の御心のままに≫


ラフィスが踵を返して屋敷に戻るとヴァネスとアルテが後に続く。モコズビッチ家の死体を片していたワットが馬車に近付いて中身を確認すると、大きい袋が3つ積んであった


≪なんだこれは?≫


ワットが袋を開けるとビッシリと入った金貨が出て来る。それを見てワットは鼻で笑うと金貨を握り締め床に落とす


≪いずれ使えなくなる金ってやつか・・・下らねえ≫


ワットが金貨の袋を蹴り上げると馬車の中で金貨が散乱する。金貨がの光がワットの顔を照らし、満足気に笑うが、ラフィスより片付けておけと命令されたのに散らかしてしまったという事実に気付くのに数分の時を要した────

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