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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『招くもの』
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2章 2 騒動決着

ゴニンダと警備兵達の戦いは熾烈を極めた


と言ってもジュウベエ1人が蹴りだけでバッタバッタと薙ぎ倒す中、ロープを掴んでいるレンドが振り回されているだけだったのだが


次々と倒される警備兵達の声を聞き付け、ようやく悪徳貴族のダサート・フォルスンの登場である


「何事だ!こんな夜更けに!」


可愛いパジャマに身を包み、立派な髭を貯えたダサートが枕を持ったまま中庭に出て来て状況を見つめる。5人の怪しげな者達と戦う警備兵・・・これは夢かと頭を振るう


「侵入者です!ここは危険なので屋敷の中へ!」


警備兵の1人が叫ぶが、それを無視して枕を地面に投げつけてズンズンと5人の前に躍り出た


「ふざけるな!こんな奴らワシの相手ではないわ!ワシの剣を持って参れ!」


警備兵に命令しパジャマの上を脱ぎ去ると出て来たのは筋肉質な肉体であった。年齢は40後半だが、肉体だけで見ると30代前半と言われてもおかしくない。ジュウベエも感心したように足を止めてニヤリと笑うとダサートに向き直る


ご丁寧に剣が届くのを待っていると奥から現れたのは上半身裸でジュウベエの長剣ともう1つ剣を持った青年


「なんだ、親父・・・夜稽古か?」


「ふん、似たようなもんだ。お前も加わるか?フヌートよ」


「ひと汗かいた後にまた運動かよ・・・まっ、いいか」


フヌート・フォルスン、現当主であるダサートの息子にして次期当主。フヌートは持って来た剣を1つダサートに手渡すとジュウベエの長剣を両手で持ち構える


自分の剣を目の当たりにして暴走するかに思えたジュウベエだったが、ダサートとフヌートを見つめニヤけた顔を引き締めた


「あの・・・浪費家でケチ・・・なんですよね?」


「うん?・・・まあ、そういう話でしたが・・・」


「・・・なんか陰湿な裏工作とかはしそうにないのですが・・・」


レンドがジュウベエのロープを握ったままフォーに近付き耳打ちする。見た目豪快そうなダサートがフォーから聞いた話とはあまりにもかけ離れていた。浪費家でケチはともかく、どう見ても脳筋そうな2人から他の貴族を貶めてその娘を奪い取るようにはとても見えない。どちらかと言うと力ずくで奪い取る方が似合っている


「一癖も二癖も・・・って仰ってましたが、どこら辺が・・・」


「いや・・・なに・・・噂を聞いている内に『あれ?そうだったかな?』みたいな?『そう言えば裏で何かやってそうじゃね?』みたいな?」


冷や汗をかきながらしどろもどろに説明をするフォー。こりゃダメだと顔を手で覆うと、手に持っていたロープがないことに気付いた


焦りジュウベエの方を見るといつの間にか2人に挟まれ、あろう事かフヌートにロープを握られていた


「何をしておるんだ!あれでは・・・」


ちょうどデラスが叫んだ時、ジュウベエはロープを持ったフヌートに向かっていく。しかし、後ろからダサートが剣を振り上げ襲いかかって来た為に後ろを振り向くと、フヌートにロープを引っ張られてしまう。体勢を崩し、危うく斬られそうになるが側転してダサートの剣を躱し体勢を整える


「チッ・・・少年!覚えてろよ!」


キッと劣勢の原因を作ったレンドを睨み付ける、さすがのジュウベエも、魔力を封印され腕を拘束された状態では上手く立ち回れず、更にロープを握られてはどうする事も出来ない。更には貴族であるダサートとフヌートはギフト持ち・・・そのギフトは────


「『身体強化』!」


ギフトがなくても覚えられる全体強化と同じ効果。身体全体に魔力を巡らせて身体能力を向上させるものだが、それをギフトとして代々受け継いで来たのがフォルスン家だった


「なかなかの身体能力・・・危険だから吊るしておくか」


「なに?・・・チッ!」


フヌートは身体強化をした後、ロープを持ったまま近くにあった木に向かって駆け出した。何をするか分かったジュウベエが必死に後を追うが間に合わず、フヌートが木を駆け上がり、太い枝を越えるとそのまま落ちてロープを引っ張った


枝を支点にジュウベエは持ち上げられ宙吊りとなる。ロープの端を警備兵達に持たせると宙吊りのジュウベエに近付いた


「大人しくしておけ・・・殺しはしない」


「う~ん、手首痛い~」


捕まったジュウベエを助けに行こうとするが、他の警備兵が槍をジュウベエに向ける。動けば突き刺す・・・そう言わんばかりに


「ジュ・・・ナサン!」


「後4人か・・・さて、誰から行くか」


ジュウベエの長剣で肩をトントンと叩き4人を見つめるフヌート。戦闘力皆無の4人はジリジリと後ろに下がる


「ど、どうします?頼みの綱の・・・」


「ここは撤退し戦力を整えて・・・」


レンドの問いかけにフォーが言いかけたその時、屋敷の入口から次々と警備兵が入って来る。どうやら屋敷を警備していた者が街の警備兵に応援を頼んだらしい


なだれ込んでくる警備兵に終わったと膝を落とすフォー。深夜にも関わらずその数は50を超えた


「狼藉者5人に対して大袈裟な・・・まっ、俺と親父が討たれたら職務怠慢で極刑だから仕方ねえか」


フヌートがジュウベエを下から眺め、いやらしい目付きで言っている間に残る4人は取り囲まれ脱出する機会を失った


「ナイス・・・筋肉・・・」


これと言って何もしていないアースリーが呟いた瞬間、取り囲んでいた警備兵達が一斉に槍を向けた


両手を上げて抵抗する気がないと意思表示をするが、ジリジリと警備兵達がにじり寄る


観念し目を閉じた時、闇に包まれた空に眩い光が音を立てて浮かび上がった。突然光に包まれ、目を閉じていても明るくなった事に気付いたフォーが空を見上げると炎の玉が6つ空に浮いていた


「待たせたな!俺様が来たからにはもう安心だ!」


警備兵に混じって屋敷に入ってきた男がローブを脱ぎ去り叫ぶ


あまり嬉しくない援軍にフォーはダルシン家の未来を案じるのであった────




ナムリの街を駆け巡るマーナにとって最悪な状況となる


逃げるのと身を隠すのを同時にと目論み、建物と建物の隙間に滑り込んだ結果、袋小路に追い込まれた。壁に阻まれ後ろを振り向くマーナの前にはズラリと立ち並ぶ暴漢者たちの姿


下卑た笑いを見せる暴漢者たちを前に覚悟を決めたマーナが腕の中で寝ているステラを揺り起こし、腰帯に差していたマルネス木刀を咥えさせる


「マルネス様を・・・お願い」


ステラの瞳を覗き込み、震える声でステラに言うと思いっきり夜空に放り投げた


突然放り投げられたステラは面を食らいそのまま落ちそうになるが、マーナの先ほどの言葉と暴漢者たちを見て状況を把握し翼を羽ばたかせる。だが、そのまま飛び去らずに木刀を咥えたままその場を旋回する


飛び去らないステラを心配そうに見つめるも、いつ飛び掛かってくるかもしれない暴漢者たちに意識を向けて剣を抜いた


よだれを腕で拭う者、マーナの身体を上から下まで舐めまわすように見つめる者、ナイフを舐めまわし威嚇する者・・・様々な者たちを前にこれからどうなるかを想像し、全身から嫌な汗をかきはじめる


恐らく凌辱され、最終的には殺されるだろう。悔いがないというのは嘘になる。しかし、大好きな人に託されたことは全うできたという満足感はある。剣を持つ手が震えるが、それでも大好きな人に習ったことを実践する。残り少ない魔力がマーナの腕を通じて剣に流され、闇夜に薄っすらと輝き始めた


出来れば綺麗なままで死にたいな・・・そう思いながら息を吐き、雄たけびを上げながら群れに突っ込んでいった


目を瞑り、闇雲に剣を振るうマーナ。相手に当たった感触はなく、近くに人の気配を感じた瞬間に終わったことを理解した


「ウグア!」「グエ!」


当たっていないはずなのに、聞こえてきたのは目の前にいる男の呻き声。片目を開けて確認するとステラが一人の男を鋭い爪で顔面を引き裂き、そのままもう一人に体当たり・・・小型化して体重が軽いため、体当たりの方はそこまでダメージを負わせられなかったが、突然の奇襲により尻もちをついていた


「ステラ!なんで!?」


逃がそうとした意図が伝わらなかったと歯噛みするが、先ほどまで口に咥えていたマルネス木刀がないことに気付く


『マルネス様をお願い』


先ほど自分が言った言葉を思い出す。ステラはマーナの言葉に従いマルネス木刀を安全な所に置いた後、マーナを救いに戻ってきてくれたのだ。その事実に気付き、マーナの目からは涙が伝う


「ありがとう・・・ありがとう・・・」


不安に押しつぶされそうになっていたマーナの感謝の言葉に、ステラが気にするなと一声鳴く。死ねない理由が出来たとマーナが両手で剣を持ち、更に魔力を注いで叫んだ


「かかってきなさい!最初の数人は道連れにしてやる!!」


ステラに勇気をもらい、足掻く覚悟が決まったマーナの叫びに暴漢者たちは一瞬怯むも、しょせんは多勢に無勢・・・じりじりとにじり寄ると一気に襲い掛かってきた


歯を食いしばり、最初に来た男の剣を受け止めると明らかに筋力的に圧倒されるはずが、軽く押し返すことができた


それもそのはず、マーナは魔力を流した言わば魔剣、それに対して相手は粗悪な剣を力任せに振るうだけ。筋力の差を凌駕して余りある状況だった。初めて魔剣の強さを感じたマーナに少しばかり希望が生まれるが、気にせず次々と襲い来る男たちに徐々に追い詰められていく


「あ・・・」


幾度目かの打ち合いの後、剣に込めていた魔力は切れ、男の一撃で剣が弾き飛ばされる。思わぬ抵抗に顔を歪めていた男たちは再び下卑た笑いを浮かべて次々と襲い掛かる


「いや・・・いやぁぁぁぁ!!」


覚悟は決めたはずだった。しかし、実際に迫りくる男たちの顔と、組み伏せられる恐怖に叫び声を上げるマーナ。地面に仰向けに倒され、皮で出来た鎧は剥がされていく。ステラは何度も男たちに突進するが、興奮している男たちには大して効かず、何度目かの突進の際に腕で払われ壁に激突して意識を失う


両腕両足を抑えられ、抵抗しようにも全く動かない身体。笑みを浮かべた男たちの顔がいくつもマーナを覗いていた。自死することも叶わず、剥ぎ取られていく服を目にして、ぎゅっと目を閉じて自分のこれからされることを悟った


「ねえ?セガスから来た人っている?」


行き止まりで誰もいないはずだった背後から聞こえてきたのは少し幼い声。男たちはこれから始まるお楽しみを邪魔されたと一斉にその幼い声の方を見た


マーナも何とか上を向くように声の方向を見るとそこには見覚えのある顔が・・・ここにいるはずもない人物の名を何とか絞り出す


「エリオット・・・さん?」


Aランク冒険者であり、ツーの依頼でクオンと戦ったエリオット。あの時にはなかった頬に十字の傷が話に聞いてたジュウベエに付けられたものだと瞬時に判断した


「ん?僕を知ってる?・・・あー、屋敷で見たかも。って言うことはこっちが当たり?でも、他の連中は?」


男たちに押し倒されているマーナを見て、記憶にある顔だと認識すると、キョロキョロと辺りを見渡す。暗闇の中目を凝らしていたが、誰もいないことが分かるとため息をつき首を振った


「いないの?外れかな?んーとりあえず見知らぬ君らは・・・いらないー」


離れた場所から剣を一閃するとそれを追うように魔力の塊が飛び出しマーナに覆いかぶさっていた男たちに襲い掛かる。先頭のものから順に首から上が飛んでいき、倒れていたマーナに鮮血が降り注いだ


両手両足を押さえられていたために、その血をまともに浴びると、緩んだ拘束する手をはねのけて、うつ伏せになりそのまま四つ足でエリオットのところまで進んだ


「血だらけでおっぱい出してウケるー」


エリオットがマーナの姿を見て指さして笑うと、マーナは胸を腕で隠しながらキッと睨みつけた。しかし、エリオットはマーナの視線をどこ吹く風で受け流し、残っている残党に視線を向けると剣を構える


「とりあえず借りは返さないとね。忌々しいけど」


エリオットは呟くと目を閉じて神経を集中させる。そして、目の前に一本の剣の形をした光り輝く魔力の剣を創り出した


「まだ一本・・・でもいずれは・・・」


エリオットはブツブツと呟いて目を開くと実際の剣を逆手に持ち、反対の手で暴漢者たちを指さした


「『剣の舞』!」


エリオットがそう叫ぶと魔力の塊は指さした方向に飛んでいき、次々と暴漢者たちを貫いていく。まるで意思を持ったように動く魔力の塊は周囲にいた暴漢者たちを瞬時にたおしてしまった。


「・・・すごい」


見惚れるマーナが呟くと、調子に乗ったエリオットはニヤリと笑い更にスピードを上げる


気付けば集まっていた男たちを殲滅し、遠くからは逃げ出す音が聞こえた


エリオットが操っていた手をグッと握ると魔力の塊は霧散し、逆手に持っていた剣を持ち替えると鞘にしまいマーナに振り返る


「セガスの領主の連れだろ?僕はエリオット・・・って名前呼んでたくらいだから知ってるか。おっぱい姉ちゃんは?」


「おっぱい言うな・・・助けてくれてありがとう・・・あっ、ステラ!!」


名乗ろうとしたときに、先ほどから見当たらないステラのことを思い出し、周囲を見回す。すると、建物の壁に打ち付けられて気を失っているステラを見つけて駆け寄ると、残り少ない魔力を譲渡した


「ドラゴン?てか、姉ちゃん魔力譲渡出来るのかよ!」


「え・・・ええ。今は私の魔力が少ないから少しだけど。それでもステラに分けないと・・・」


クオンの話だと魔物も魔力が切れたら死に至る。残り少ない魔力でマーナの為に無茶をしたステラにはほとんど魔力が残されたいなかった。魔力を流し終えた後、マーナはステラを抱き上げ、エリオットの元へと戻る。そうして、マーナはマーナの現状を、エリオットはエリオットの現状を話した


エリオットがなぜこの街に訪れたのか・・・それは直接ではないがクオンに頼まれたからだという


エリオットが修行し、食料調達の為にセガスの街を訪れると何やら騒がしくしているダルシン家三男のエイトがいた。騒いでいる中で『クオン』という単語が聞こえたために何のことか尋ねるとラメス村より書簡が届き、その差出人がクオンであり、内容が救援要請だと聞いた


なんでも魔族との戦いにより動けなくなったクオンが村の人に頼み、領主代行のツーに送ったようである。しかし、領主代行をしているツーは動けず、警備兵を数名送ろうとした時にエイトが自らが行くと言い出し、ギルドにて同行してくれるものを探していた


さすがに魔族と聞いてしり込みしている冒険者たちに怒鳴っているエイトにエリオットが近付いて自分が行くと名乗りを上げる。クオンに受けた借りを返すために


そうして、結局二人で行くこととなり、馬を走らせてまずはラメスに到着。傷ついていると言われているクオンを探すが見当たらず、村のものに聞くと手紙を出し、しばらくした後に歩いてどこかに消えてしまったとのこと


元々手紙の内容はクオンを助けるのではなく、離れ離れになってしまったフォーたちの救援だった為、エイトとエリオットは先を急ぐことにした


先に進むと出くわしたのは分かれ道。どちらから王都に向かうか聞いてなかった二人は分かれて進むことにして、チーリントはエイトが、ナムリはエリオットが行くこととなった


「んで、いてもいなくてもチーリントに僕が行くことになっている。いれば、いた人たちを連れて・・・いなければ僕だけでチーリントに。大体そんな感じ。マーナはなんでナムリに?」


「・・・浮かれてたのよ」


「浮かれ?・・・まあ、いいや。とっととチーリントに向かおう。馬は街の外に繋げてるから外に出て・・・」


「ちょ・・・まだ連れがいるのよ。ステラ?マルネス様をどこに・・・」


マーナの腕の中で眠りにつくステラを揺り起こし、尋ねると眠気眼で顎を外の方に向けるステラ。どうやら街の外にポイしたようだった


「うわー、マルネス様怒ってないかな・・・」


「うん?そのマルネス様ってのは?」


「あ・・・あははは・・・そのあなたを気絶させた・・・」


≪ステラ!よくも妾を放り投げてくれたな!おかげで壁をよじ登るのに苦労・・・ん?誰だそやつは?≫


誇りまみれになった服をはたきながら建物の屋根から見下ろして叫ぶマルネス。ステラは急いでマーナの後ろに隠れ縮こまる


「マルネス様!ご無事で・・・。ステラはマルネス様だけは逃がそうとしたのです。許してあげてください」


≪ふん、そんなことは分かっておる。で、そやつは誰だ?≫


屋根から飛び降りて鼻を鳴らすと親指でエリオットを指し再びマーナに尋ねる。エリオットもようやく顔と名前が一致して屋敷の出来事を思い出していた


マーナからエリオットの説明を受けて思い出したマルネスは、その話の中でクオンの話題に触れると人目もはばからず涙する。クオンが負けるはずがないとは思っていたが、いざ無事ということを聞いて安心感から涙が溢れてきたのだ


「・・・」


その涙を見て呆けているエリオットを余所に街を出ればエリオットの乗ってきた馬があること。そして、チーリントで合流する手はずになっていることを告げる


≪姿をくらませたクオンの行方が気になるが目的地は同じ・・・いずれ合流するであろう。まずはあやつらと合流するか。おい、お前・・・馬はどの辺にとめておる?≫


「・・・ちょっと、エリオットさん?」


「あ、ああ。俺の名前はエリオット・ナルシス。よろしく・・・」


≪おい、こやつ大丈夫か?≫


「た、たぶん・・・」


呆けて話を聞いていなかったエリオットをジト目で見つめ不安がるマルネス。魔力は少なく、まともに動けるのはエリオットだけだった。しかし、心配をよそにいきなり張り切りだしたエリオットがここから無双し街にはびこる暴漢者たちを一掃して大手を振るって街を出ることになる。こうしてマーナとマルネスはエリオットの活躍により死地を脱し、チーリントの街へと向かった────



「チェストー!」


フヌートは飛び上がりジュウベエの長剣で全ての火の玉を破壊する。バラけさせずに6つをまとめて浮かべていたエイトは「あっ」と声を出し自分のギフトが消え去るのを見つめていた。せめてばらけさせていれば一回の跳躍ですべてを消させることはなかったのだが、戦闘経験の少なさが災いする


「屋敷が燃えたらどうすんだ!スットコドッコイ!!」


着地して吠えるフヌート。アースリーが「躍動する・・・筋肉」と呟いている最中、ジュウベエは足を頭の付近まで上げるとロープに絡めて一気に引き下げる。ロープを持っていた警備兵たちの手をすり抜けるとジュウベエは着地しフヌートを見つめた


「ねえ~この拘束解いてくれないかな?」


「・・・なぜ俺が狼藉者の拘束を解かなければならない?更に言うならなぜ拘束されている?」


フヌートが困惑して聞き返す。集まってきた警備兵やフォー達ですら心の中でツッコミを入れていた


「それはねえ~その剣は元々ボクの剣だからだね。ボクはその剣を取り戻したいから、拘束を解いてくれないか?」


「まったく話が読めん!仮にお前の剣だったとして、それがなんだと言うのだ。俺は行商からこの剣を購入した。もし行商がお前から盗んだというなら行商に言え!」


「違う違う~その行商が盗んだかどうかなんて分からないでしょ?それにその剣がボクのって証明も難しい。だからボクは君から奪い取ろうと思うんだ。で、君は剣を取り戻しに来た幼気な女の子が拘束されているのに、そのまま立ち向かう気?領主の息子なのに~?普通なら拘束されているのを見たらこう言うんじゃない?『自分の武器を取り戻しに来るとはあっぱれ!よし、拘束を解いてやろう!そして、尋常に勝負だ!』てね~」


「いや、言わんだろう」


「ケチ~」


結局拘束は解かれる事なくフヌートと対峙することとなったジュウベエ。フヌートは警備兵を下がらせ、長剣を構えるとギフト『身体強化』を発動させる


ジュウベエはロープを掴んでいた警備兵の1人に近付くとニッコリ笑って腰に差してあった剣を奪い取る


「あ・・・」


あっという間に剣を奪われた警備兵が取り戻そうとするが、その警備兵を剣の柄で殴り倒して気絶させる


「さすがに魔力を使われるとちとキツイ~剣は使わせてもらうね?」


「フヌート!」


「分かってる・・・親父」


剣を奪い取った身のこなしを見てダサートがフヌートの名を叫ぶ。名を呼ばれた意味を理解していたフヌートは軽く手を上げてそれに応えると表情を引き締め、ジュウベエに向き直った


お互い剣を両手で持ち、構えると警備兵たちは動きを止めて息をのんでその光景を見守る。エイトはフォーのそばに行き、事情を聞こうと口を開こうとしたその時、フヌートが動き出す


剣を振り上げてジュウベエに駆け寄る、しかし、その速さはギフトで強化されている為、常人にはフヌートがジュウベエのそばに瞬間移動したように見えた。それほどまでに速い動きにジュウベエは動揺せず微笑むを浮かべながら冷静に対処する


振り下ろされた剣を剣先で軌道を変え、そのまま剣先をフヌートの首に押し込む。プッと音が聞こえ首筋から血を流すフヌート。そのまま力を込めれば絶命は免れない光景がいきなり目の前に現れ、見ていた全員が目を見開いた


「お前・・・何者だよ」


「そろそろ我慢の限界だから、お話は勘弁してね?」


グッと剣を押し込みながら笑顔で言うジュウベエ。フヌートは何の我慢が限界なのか分からなかったが、口を閉ざし小さく頷いた


「ま、待て!何が望みだ?」


息子の身を案じたダサートがジュウベエを刺激しないように剣を手放し手を上にあげて問いかける


「ボクの長剣を返してくれれば命は取らない。返さないなら奪い取るまで。分かりやすいでしょ?」


「あ、ああ。・・・フヌート」


ダサートの呼びかけに応じてフヌートは剣を手放した。ジュウベエは手放された剣を見てほくそ笑むとフヌートの空いた手に自分の持っていた警備兵の剣を握らせて耳打ちする。それを聞いたフヌートは訝し気にジュウベエを見つめるが、ジュウベエはニッコリと笑って頷いた


フヌートは突然剣を振り上げてジュウベエに向けて振り下ろす。周囲からは剣を奪ったフヌートが再びジュウベエに斬りかかっているように見えるが、実際はジュウベエの指示通り。耳打ちでボクに剣を振り下ろせと指示していたのだ


剣は当然の如くジュウベエを真っ二つにしようとするが、ジュウベエは剣を受け止めようと両手を上げる。真剣白羽どりの要領で手のひらで挟んで受け止めると思いきや手のひらをスルーして拘束用のロープで受けた


「あっ!」


やっとジュウベエの意図に気付いてフォーが声を上げるが、時すでに遅く、ジュウベエを拘束していたロープは切れ落ち、ジュウベエから凄まじいほどの魔力が迸る


「ああ~・・・この解放感♪・・・クセになりそう~」


周囲にいた者たちすべてがジュウベエの魔力を肌で感じて青ざめた。魔力を感じることの出来ないものも、魔力を感じることが出来るものも共通して思った。ここに居たくないと


得も言えぬ恐怖を身に感じ、吐き出す者も出てくる中、一番近くにいたフヌートが膝を落とす。恐怖で身を竦ませるというよりはジュウベエの身体から出る魔力に当てられたという表現の方がしっくりとくる


ジュウベエの吐く息が透明のはずなのにまるで煙を吐くように感じているのは気のせいなのかなんなのか・・・


「フォー様・・・なんか・・・まずくないですか?」


「レンド・・・彼女が私達をついでに殺す・・・なんて事があると思うか?」


「・・・分かりません。でも、チロチロと出る舌とたまに目が合った時の不気味な笑顔が・・・僕の危機察知能力をビンビンと刺激しています」


レンドの危機察知能力が優れているかどうかは不明だが、ゆらりと揺れるジュウベエを見たのを最後にレンドの意識は閉ざされるのであった────





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