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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『招くもの』
24/160

2章 1 悪者退治と鬼ごっこ

ディートグリス王国チーリント


セガスより幾分小さいがれっきとした街であり、それなりに賑わいを見せていた


そこにしょぼくれた一行・・・フォー達5人が訪れて2日目となる


「いつになったら~クオンは追いつくのかな~少年」


「ク、クオンさんは絶対に来ます!何かトラブルがあったのかも・・・」


「そのトラブルから逃げて来てよく言うわ~。ねえ、クソジジイ?」


「くっ・・・仕方なかろう。我らが残っていてもクオンの邪魔になるだけだ」


「ガクノース卿の言う通りです。我らの目的はあなたの連行・・・王都まで何としても連れて行かねばなりません」


「なんで連れて行かないといけなくなったか・・・忘れたのかな~?」


「くっ・・・」


シャンド襲撃から逃げて辿り着いたチーリント。そこで馬を預けクオン達を待つ事となったフォー達は時間が経つにつれて険悪なムードとなりつつあった


ジュウベエはずっと戻るように喚き散らし、それをなんとか強引に街まで連れて来た後はチクチクとクオンを置いて逃げた事を責め立てる


封印が付与されたロープを何重にも巻かれ、魔力を出せない状況で意外にも力が強いデラスに抱き抱えられ泣く泣く街まで来た時には既にクオンとシャンドの決着はついているであろうと諦めて、クオンの勝利を信じて待つことにした


待つ事には他の4人も同意し、チーリントの街で待つ事2日間・・・交代で東側の門を見張るも一行に現れないクオン達にジュウベエの我慢の限界が近付いていた


現在はアースリーが門の前で見張っており、フォー達は泊まっている宿屋の1階の食堂で待機中である


「ジュウベエさん・・・やはり僕と2人で1度あの場所に・・・」


「それはしない。1度去った現場におめおめ戻るなんて死んでも御免だ。それをするなら貴様らを蹴り殺し1人でシントに帰る」


提案してきたレンドをギロりと睨みつけ、2日間で何度か繰り返したやり取りを再度繰り返す。ジュウベエにとってクオンとマルネスがいなければ封印付きのロープで拘束されていても4人を殺して逃げ出す事など造作もない事。それをしないのは拘束されていたとはいえ、逃げてしまった負い目があるから。そして、レンドの提案を受けて1度あの場所に戻るというのは自分にとって許されざる行為であるとジュウベエは言う


「クオンはボク達を逃がす為に1人残った。そして、かならずここに来ると約束した。それなのに見に行く行為はそれを疑う事になる。クオンが助けた奴らだから生かしているが、クオンを疑うような奴なら容赦はしない。お前らの生命線はクオンの生存だと言うことを知れ。後3日・・・クオンが来なければお前らを殺してシントに帰る・・・だが、探しに行く事も許さん。信じて待て」


逃げてる時はあれだけ戻りたがっていたクセに・・・とレンドは思うが口にしない。ジュウベエにとっては1度逃げるイコール信じて待つって言うのが成立されるらしい


なにより生殺与奪の権利は拘束されているジュウベエが持っていた。言葉を失うフォー達に交代の時間より早くアースリーが戻って来る


「あれ・・・まだ・・・」


「行商人から聞いた・・・クレーターのようなものが出来ていた街道の近くに・・・人は居なかったらしい・・・」


クレーターのような場所とは恐らくシャンドが降り立った場所。そこに人がいなかったという事は移動したかあるいは・・・


「2日前の事だ。それはいないだろうけど・・・」


「・・・そこで折れた剣を見たらしい・・・」


フォーの言葉にアースリーが首を振って言うとジュウベエからガリっと音が聞こえ、見ると血が出るほど歯噛みしていた。表情はいつものほんわかしている雰囲気はなりを潜め無表情・・・レンドはそのジュウベエを見て喉を鳴らす


「そ、その剣が風斬り丸とは限らないんじゃ・・・」


「そ、そうだな・・・ところでマルネス様とマーナは?あの2人は一体・・・」


暗くなった雰囲気を変えようとデラスがまだ来ぬ2人を話題に出す。フォー達は暴れるジュウベエを抱えて必死に逃げていた為、いないことに気付いたのは街に着いた時だった


「マーナは生きています。これは確信出来ます・・・双子の直感とでも言いましょうか・・・とにかくマーナは無事です」


「ではなぜ来ぬ?まさか間違えてナムリに向かったとか?」


「そう言えば道順とかは伝えてなかった・・・まさか────」




「ひぃやぁぁぁ・・・マルネス様!起きて下さい!一大事です!乙女の一大事で御座います!」


≪うるさいのう・・・魔力切れだ。さっさと逃げ切れ≫


マルネス、マーナ、ステラが到着したのはナムリの街()。街を治めていた貴族が没落し、次の貴族が来るまで無法地帯となってしまっていた


それを知らずに訪れたマルネス達を見るやいなや襲いくる暴漢者たち・・・マルネスは憂さ晴らしとでも言うように魔法を連発し撃退するも次から次へと現れる暴漢者たちを前に魔力切れを起こし倒れてしまった。そのマルネスを抱き抱え逃げている真っ最中


「ステラ・・・ステラのブレスで・・・」


≪無理だ・・・最近擬態の練習で空っ穴だ。いいから逃げろ≫


女・・・女・・・珍獣・・・女・・・幼女・・・女・・・


どうやら標的はマーナだけではなくマルネスとステラも入っているみたいで必死になり逃げ惑うマーナ。街の出口は固められており、建物の隙間や無人の家などに隠れながらの逃走劇は続いていた


人の気配が遠ざかり、やっと人心地出来たのは、逃げ回って1時間が経過したくらいであった。無人の民家に逃げ込み息を潜めながらマーナはため息をつく


「はあ・・・やっぱりあの道は右だったか・・・」


────2日前


逃げる中、クオンに邪魔と言われてしょんぼりしていたマルネスが突然暴れ出し2人して落馬。何とかマルネスに救われたマーナだったが、馬はどこかに逃げ去ってしまう


立ち上がったマルネスはクオンの元に戻ろうとするが、それをマーナが両手を広げて止めた


「クオンが信じられないのですか!?」


≪貴様に何が分かる!?あれは上級魔族・・・しかもあちらから来たばっかりで魔力が満タンに近いな!今のクオンでは・・・≫


「私はクオンが好きです!」


≪・・・な・・・に?≫


「見た目はクロフィード様に勝てませんけど・・・年齢的には私の方がお似合いです!」


≪おい!貴様何を・・・≫


「だから・・・私はクオンを信じます!例えどんな敵でも・・・必ず合流すると約束してくれたクオンを!・・・あなたは・・・自分の惚れた人を信じられないのですか?マルネス・クロフィード!」


≪おのれ・・・ぬけぬけと・・・何も知らぬ小娘が・・・≫


「ええ!何も知りません!何もできません!でも・・・私はクオンに託されました!貴方を・・・逃がせと!」


≪・・・≫


「出会ってそんな日数は経っていません・・・それなのに好きとか鼻で笑われるかも知れません・・・でも、いつも私達を助けてくれて・・・色々なことを教えてくれて・・・いつも笑顔で飄々とした姿が・・・憧れて尊敬出来て・・・大好きです!・・・だから・・・私はクオンに託された事を全力で応えたい・・・そして信じたい!」


≪・・・それでも・・・あやつは危険だ・・・≫


「それでも?私はそれ以上にそれでもクオンを信じる!」


≪本当に・・・何も知らぬ小娘が・・・調子に乗りおって・・・≫


マルネスからの圧力にマーナの額から冷や汗が流れ落ちる。それでも頑として引かない意志を込めて両手を広げたままマルネスを見つめていた


しばらく2人は無言で睨み合うが、先に目を逸らしたのはマルネス。拳を握りワナワナと肩を震わし口を開く


≪分かっておる・・・クオンが言った『邪魔』の意味・・・魔力が回復し切っていない妾は足でまといになる・・・もしシャンドに狙われれば、クオンは妾を守るだろう・・・妾を守りながら戦える相手ではない・・・≫


「それならどうして・・・」


≪妾とクオンは一心同体・・・クオンが死せば妾も死ぬ。それに悔いなど一切ない・・・だが、離れるのだけはダメだ・・・心か張り裂けそうになる・・・もし・・・妾のいない所でクオンが・・・≫


マルネスの言葉には説得力があった。決して嘘をついていない。マーナは覚悟の違いをまざまざと見せつけられる


マルネスは天を仰ぎ目を閉じると深く息を吸い吐き出した。そして、再びマーナを真っ直ぐ見つめる


≪もしクオンが私の目の前ではない所で死した時、妾はお主を殺し、八つ当たりで人の世を滅ぼすであろう。それでも・・・それでも逃げよと・・・離れよと申すか?≫


「それでもよ」


マーナはマルネスの覚悟に覚悟で返す。例え自分が殺されようとも・・・マルネスを戻してはいけないと心に誓っていた


≪・・・お主の覚悟・・・しかと受け止めた。ならば妾も覚悟するとしよう・・・≫


「あ・・・ありがとうございます・・・クロフィード様」


≪なんだ?先程は呼び捨てにしおったのに・・・面倒だ・・・名前で呼べ・・・敬称は忘れずにな≫


「えっと・・・マルネス様?」


≪ふん・・・お主が万が一・・・いや、億が一クオンのハートを射止めたのなら呼び捨てでも構わぬぞ?まあ、クオンは妾に首ったけだがのう・・・≫


「ふふ・・・それってフラグって言うんですよ?ならないって言うことがなってしまう現象・・・もしかしたら私とクオンが・・・」


≪おい!変な想像するな!≫


「妄想まで縛らないで下さい。ハートを射止めたのならって言うことは、アタックするのも自由ですよね?マ・ル・ネ・ス様」


≪ぐぬぬぬ・・・図に乗りおって・・・おい!待て!1人で行くな!≫


アハハハハ、ウフフフフとはしゃぎながら分かれ道を左に来て今に至る



「あの時・・・あの時浮かれてなければ・・・」


≪死ねばいい・・・死んでいっそ妾の糧となれ≫


グェと同意の声で鳴くステラとマルネスをキッと睨み付け再び落ち込むマーナ。顔を伏せどうするか考えていると先程のマルネスの言葉が気にかかる


「マルネス様・・・なんで私が死ぬとマルネス様の糧に?」


≪あん?魔物と違って少ないが食らわば魔力が回復するだろうて・・・見るからに不味そうだが≫


「ひぃぃぃぃ!マルネス様は人喰い?」


≪待て待て・・・肉は食らわぬ。魔力を吸い取るだけだ。不味いと言うのは魔力が10あっても効率が悪くて1や2くらいしか吸えないという意味だ≫


「な・・・なるほど。あっ・・・それなら私の魔力を吸い取ってアイツらをバーンと・・・」


≪不味い言うておるだろう・・・幾ばくも吸えんわ・・・擬態化出来る魔力もない・・・参ったのう・・・手詰まりか≫


先程からマルネスに元気がないのは感じていた。擬態化にも魔力が必要でその魔力すらないとなると、手詰まりという言葉は本当なのだろう。魔族は動くだけで魔力を消費するので今のままではここから動けそうになかった


「マルネス様・・・私の・・・必殺魔力譲渡を受けませんか?」


≪必ず殺すのか?≫


「あ、いえ、言葉のあやでして・・・すぐに魔力切れを起こすレンドの修行に付き合って、レンドに魔力譲渡を繰り返ししていたせいで、魔力譲渡と魔力回復だけは上達しまして・・・クオンから魔力総量と魔力の回復に才能あるって言われた程です」


≪それ・・・才能言うのか?しかし、口からは嫌だぞ≫


「私も嫌ですよ!どうやらその辺も効率がいいみたいで・・・手からでも損失がほとんどなく渡せるみたいです」


≪・・・何もせずよりはましか・・・≫


こうして暴漢者達が2人と1匹を探す中、決死の魔力譲渡が始まろうとしていた────



「と、とにかく・・・今は東門に誰も居ないので僕が・・・」


「・・・それと・・・彼女の長剣らしきものを・・・行商人が持っていて・・・ここの領主に売るって・・・」


「ん~?毛むくじゃら~本当~?」


いつの間にか通常モードになっていたジュウベエが毛むくじゃらことアースリーに確認する。クオン関係でなければ至って普通なジュウベエだった


アースリーの代わりに東門に行こうとしていたレンドは止まり、フォーとデラスが唸り声を上げて考え込む


ジュウベエの長剣はクオンの乗っている馬に括りつけていた。その長剣があるという事はどういう事なのか考えているのだ


「見た事ある剣だったし・・・あっ・・・そうだ」


アースリーはトテトテと宿屋のカウンターに行き、紙とペンを借りてくるとスラスラと何かを描き始める。完成したのは見覚えのある長剣の絵。それを見てジュウベエは頷いた


「ボクのだね~。にしても絵上手い~」


「・・・自分の創りたいゴーレムの絵を毎日描いてたから・・・」


褒められて照れるアースリーだが、創りたいものを知ってるフォー達は苦笑い・・・幼い子が毎日ムキムキな男の絵を描くって・・・と、思うが口には出さなかった


「と、とりあえずその行商人に話を聞きましょう。どこで手に入れたかも・・・」


「それなら聞いた・・・誰も乗せていない馬がいたから捕まえたら・・・剣が差してあったって・・・」


先言えやと心の中でツッコミながら、確実にジュウベエの長剣だと判明した


「でもなんでわざわざ領主に?売るなら別に領主じゃなくても・・・」


「そうだな。それにアースリーがその場で買えば良かったのでは?」


「ワタシ・・・お金持ってない・・・」


レンドとデラスが思った事を口にすると、アースリーから悲しいお知らせが・・・押しかけ気味にマルネスについてきたアースリー・・・確かにお金を持っていないのは道理であった。夜な夜な筋肉の絵を描いていたアースリーにお金を稼ぐ能力など皆無・・・悲しい空気が流れる中、ジュウベエが立ち上がる


「とりあえず~返してもらいに行こう~」


「いやいや、待ってくださいジュウベエさん!ここは最近子爵に上がったフォルスン卿の領地・・・つまり領主と言うのは子爵でして・・・」


「で~?」


「いや、ですから・・・このメンツですと最高位でもガクノース卿の子爵です。いくらフォルスン卿が最近上がった新参とはいえ同位でしたら言うことを聞く必要もありません・・・返してくれと言っても・・・」


「あれボクのだし、返してくれなければ殺せばいい」


「いやいやいや・・・あなた連行されてる身で犯罪を犯す気ですか?」


「自分のものを返してもらうのになんで犯罪?返してもらおうとして抵抗する方が犯罪でしょ?」


「・・・違います。拾われた時点で行商人の所有物となり、行商人から買った時点でフォルスン家の物となります」


「意味分からん!殺すぞ!」


「ちょっ・・・最終的に殺す方向に持っていくのやめて下さい!私が交渉して来ます。これでもセガスの領主です・・・相手も気を使ってくれると思いますし・・・まだ資金に余裕がありますのである程度の金額なら・・・」


こうしてフォーは1人屋敷に向かう事に。レンドはアースリーの代わりに東門に向かい、残されたジュウベエらが宿屋の部屋でフォーの帰りを待っていると・・・


「ダメでした」


戻って来たフォーが開口一番買い戻し失敗を告げる


「もう1回」


「ダメでした」


「違う・・・行ってこい、もう1回」


「私は男爵で貴方は・・・いえ、なんでもないです」


ジュウベエの無慈悲な命令に思わず声を荒らげるが、ジュウベエの視線に寒気を感じて言葉を濁す。その後どうして失敗したかをつらつらと並べ始めた


こちらの事情を話し、その上で購入した代金を支払うので譲ってくれと頼むと拒否。曰く息子が大変気に入って手放す気はないとのこと。取り付く島もなく追い出された為にこのままでは帰れないと領主の人柄などを聞いて回り情報収集に勤しんだ


街の住民の話では領主はかなりの浪費家でケチ、それでいてなんでも自分の思い通りにならないと気が済まないらしい。最近では隣街であるナムリの元領主の娘に息子がお熱だったらしいのだが、その元領主が不正を働きそれをフォルスン家が告発・・・それによりナムリの元領主のサーザント家は断絶となり、その娘を手に入れたらしい


「怪しいのう・・・その不正・・・仕組まれたのでは?」


「街ではそう噂されてますが実際は・・・フォルスン家当主ダサート・フォルスン卿と話しましたが一癖も二癖もありそうでした」


「そんなのはどうでも~ちょっと取り返して来る~」


「待って・・・待って下さい・・・お願いだから・・・」


「街の噂なんかどうでもいい~ボクの剣を返さないなら実力行使に出るだけ~」


「・・・」


ジュウベエは笑顔で言っているが殺気がみなぎっており、周囲は言葉を失う。その中でフォーは目をつぶり必死に脳を回転させて導き出した答えが・・・


「夜襲にしましょう」


「えー!?」


思わぬフォーの提案に戻って来ていたレンドが大声を上げる。慌てて口を塞ぐがフォーの言葉が未だに信じられないといった感じで顔を強ばらす


「ちょっ・・・正気ですか?セガスの領主様が他の街の領主様に夜襲をかけるなんて・・・」


「仕方ないでしょう・・・このままジュウベエさんを放っておくととんでもない事に・・・交渉は決裂したけど、ジュウベエさんは取り戻しに行くという・・・ならば夜襲しかないでしょう」


「ええ!?」


「ふん、きな臭い領主に正義の鉄槌ってのも悪くない。ついでにそのナムリの元領主の娘も救うか?」


「デラス様まで・・・」


フォーが吹っ切れたように夜襲の提案をしてデラスもそれに乗っかる。唯一の常識人的な立場のレンドがツッコミを入れるが、2人の貴族の意見は変わりそうになかった


「取り返しに行くなら別に昼でも夜でもどっちでもいい~で、これ外してくれるの?」


「それはダメです。後、殺しもダメです。気絶させて剣を取り戻す・・・サーザント家の娘さんにも事情を聞いて逃げたいなら逃がす・・・それが譲れない条件です」


「それ絶対見つかるやつでは・・・」


「殺しなしか・・・面倒いけどまあいいや~殺さない練習にもなるし~」


「あと、それぞれ仮面を被って偽名を使います。義賊のフリして悪徳貴族に天誅・・・どうでしょうか?」


「まだ噂でしょ?いつ悪徳貴族って決まったんですか!?」


「ほほう・・・腕がなるのう・・・この『鑑定』で全てを暴いてやるわい」


「デラス様も行く気!?」


「なんだ?全員で行くに決まっておろう」


「ワタシは・・・パス・・・」


「そう言えばフォルスン家の息子は筋肉ムキムキだとか・・・」


「・・・行く・・・」


こうして5人全員で領主の屋敷に夜襲をかける運びとなった。ここから夜襲に際しての細かい打ち合わせをし、とりあえず衛兵はジュウベエに丸投げする事、目的は剣とサーザント家の娘であること以外でも決まり事をいくつかすり合わす


1つ 決して殺さない


1つ 目的のもの以外は奪わない


1つ お互いの名前は言わない


1つ 仮面は外さない


ほとんどジュウベエの為の決まり事だが、いい暇潰しが出来たと考えるジュウベエは特に難色を示すこと無く承諾した



自作の仮面を付けて夜の闇に紛れて領主屋敷を目指す一行


時間は夜中の2時・・・街は寝静まり警備兵も巡回する数名がいるだけ。その中を颯爽と5人が駆け巡る


「おい、ハゲ!まだか~?」


「ハゲ言わないで下さい!仕方ないでしょう・・・昼間会ってるので印象を変えないと・・・」


フォーは『髪操作』を使って髪の毛を無くし、ツルッツルだ。昼間であれば陽の光を反射して余計に目立っていたところだろう。これから夜襲に行くというのにジュウベエはフォーの頭を見て大爆笑・・・今もチラリと見てはクスクスと笑っていた


フォーリン、デックス、レブラ、アーネー、ジュナサンと頭文字を変えないで偽名を考えた。これは間違って本名を言ってしまった場合を考えての名である。似たような名前なら後で何とか誤魔化せるだろうとはデラスの言葉


屋敷の壁に辿り着き、まずはジュウベエが手首に結ばれたロープを残して飛んで壁を越える。そして、ロープを使って全員が壁の上に登ると今度はジュウベエが外に向かって飛ぶ。屋敷の内側に垂れたロープを使って全員が壁から降りたらジュウベエが再び壁を飛び越えて全員侵入成功・・・万能なジュウベエであった


「侵入出来たはいいのですが、問題は剣の場所ですね・・・話を聞く限り領主の息子が持っていると・・・」


「ん~聞こう」


言うが早いかジュウベエは屋敷の中を巡回していた警備兵の首にロープを巻き付けると隠れてる場所まで引き寄せる。既に拘束用ロープはジュウベエの手足と化していた


「ねえ・・・ボクの剣の場所知ってる~?」


口を塞がれて涙目の警備兵に訊ねるジュウベエ・・・しかし、警備兵は首を振り知らないと主張する


「じゃあ、いらない~」


ズブズブと指を警備兵の腹に沈ませる。警備兵は塞がれた口から漏れるほど呻き声を上げるが、ジュウベエは気にせずズブズブ


フォーが止めなければ指全部が入り込んでいた


「死にます・・・これ死ぬやつです」


「そう?親指だから短いし・・・いけるかな~って」


てへっと笑うジュウベエ・・・この狂気がなければ可愛いのにとレンドは思っていると巡回中の警備兵を拉致した事により、にわかに中庭が騒がしくなる。見回りをしていた1人が戻って来ない・・・何かあったのか・・・と、騒ぎ立てるがどうせクソでもしてるんだろうという結果に終わる・・・しかし、これ幸いにとジュウベエが躍り出た


「ねえ、ボクの剣がある場所知ってる~?」


夜襲の意味なし


騒ぎ立てる警備兵達を見て、フォーが頭を抱え、それを見てレンドはこの人は本当に見つからずに目的を達成出来ると思ってたのだろうかと冷めた目で見ていた


「何者だ!?」


「ん~ジュ・・・ナサンだよ?」


3人いた警備兵の内1人が叫ぶとジュナサンことジュウベエが駆け寄り次々と股間を蹴り上げる


悶絶して気を失う警備兵達だが、先程の声に反応して消えていた屋敷の明かりが次々に輝き始めた


「魔力使えるやつが・・・起きたね~」


冷静に状況を分析するジュウベエ。貴族の屋敷になると松明の明かりだけではなく魔道具で明かりを灯している事が多い。魔力を流す事で一定時間炎で照らすシント産の売れ筋商品だ


「くっ・・・仕方ない!」


フォー達4人も隠れていた木陰から出て来て5人が揃う。徐々に集結し始めた警備兵の1人が叫んだ


「何者だ貴様ら!ここが子爵家にしてチーリント領主であるフォルスン家の屋敷と知っての狼藉か!」


「何者?ふふふ・・・天が知る地が知る子が知る・・・我ら・・・考えてなかった・・・何にしよう?」


「なんでもいいですよ!・・・じゃあ、5人なんでゴニンダで!」


「・・・ダサッ」


「・・・」


名乗りの途中で振り向いて聞いてきたので答えたのにダサいと言われたレンド・・・次からはこういう時は答えないようにしようと心に誓う


「待たせたな!天が知る地が知る子が知る!我ら5人揃ってゴニンダ!覚悟しろ!悪徳貴族め!」


「・・・ふざけてるのか?」


「ボクは大真面目だ!正義の使者ゴニンダ・ジュナサン!」


犯罪者の正義の使者であるジュウベエが名乗ると、後ろを振り返り自己紹介をしろと目で訴えてくる。それはもうキラッキラな瞳で・・・顔を引き攣らせるフォーだが、意外な人物が前に飛び出し変なポーズをした


「地獄の傀儡師ゴニンダ・アーネー!」


「へ?」


間の抜けた声がフォーからこぼれでる。頬を真っ赤に染めて、ない筋肉を見せつけるようなポーズを取るアースリー・・・その横にスっと1人の男が出て来た。この乗り・・・嫌いじゃないと顔を手で覆い、スタイリッシュに立つと叫ぶ


「なんでも鑑定士ゴニンダ・デッ!プス」


緊張のあまりに舌を噛み、デックスと言おうとしたがデップスになってしまったデラス。ジュウベエはデラスを指差して大爆笑だ


追い込まれた2人・・・仕方ないとフォーが続けて前に出る


「・・・ゴニンダ・フォーリン」


「またの名をハゲリン!」


「付け足さないで下さい!ジュ・・・ナサン!」


デップスで涙が出るほど笑っていたが、フォーのあまりに素っ気ない名乗りにとりあえず付け足しておく。そして、いよいよ追い詰められたレンド。あまりにノリノリだと恥ずかしいし、ノリが悪いと付け足される恐怖に震え、絞り出すように声を張り上げた


「普通の狂犬使いゴニンダ・レンド!・・・あっ!」


「狂犬ってボクの事?」


「お姉様を狂犬呼ばわり・・・死に値するです・・・」


「普通のってつける所が何とも・・・ある意味我らを見下しておるのう」


「あれだけ名前を言うなと・・・君は莫迦なのか?」


「すみません!調子に乗りました!」


いつの間にかアースリーがジュウベエをお姉様呼びしてるのはさておき、4人に追い詰められたレンドは素直に謝る。ジュウベエはやれやれと首を振って呆ける警備兵に向き直ると声高々に叫んだ


「5人揃ってゴニンダ!推参!」


「そりゃそうだろ」


5人揃って5人だと言われて冷静にツッコミを入れる警備兵。今日の夜間見回りの当番の日だった事を呪いつつ持っていた槍を構える


それに合わせるように集まっていた警備兵達も次々と槍を構えるとゴニンダと警備兵達の戦闘が始まった────



所変わってナムリの民家ではマーナによるマルネス魔力回復作戦が決行されていた


≪うむ・・・うむ・・・無駄な才能だのう・・・魔力譲渡の効率がかなりいい・・・ほぼ損失なく渡ってくるのが分かる・・・少ないが≫


「ハア・・・ハア・・・ちょっと魔力切れが・・・魔力回復に努めます・・・」


≪うむ。妾も擬態化して魔力回復に努めよう≫


そう言うと木刀化するマルネス。部屋の中央でポテンと置かれると部屋の隅で寝ていたステラが歩いて来て木刀の前で再び眠りにつく。それを見つめて微笑むマーナは深呼吸して魔力回復を・・・と思った時


ガタ


無人だった民家の玄関から音が聞こえた


時間感覚がなく、現在何時か分からないが外も部屋の中も真っ暗・・・長時間暗闇の中にいた為に目は慣れており、部屋からこっそり玄関の方を覗くと・・・


「オンナ・・・オンナ・・・」


鼻息の荒い暴漢者がノシノシと家の中に侵入しているところだった。恐怖のあまり叫びそうになる口を両手で塞ぎ、音を立てないようにゆっくりとマルネス木刀とステラを抱える


抜き足差し足忍び足と部屋の窓に近付いて窓からこっそり出ようとした時、部屋の中に転がっていた何かを踏んでしまいパキッと音を立ててしまう


「オンナー!!」


「ひぃぃぃぃ!!」


音に気付いた暴漢者が突然走り出し、マーナは叫ぶ。窓を破り外に出ると、松明を持った暴漢者たちがギロりとマーナを睨み付けた


「ひぃぃぃぃ!!」


再び叫び声を上げて走り出すマーナ。先程逃げていた時よりマルネスが擬態化してくれているから逃げやすくはなっていた


しかし、暗闇という事と慣れぬ街並という事もあり恐怖は倍増・・・いくらか漏れたかもとは本人談だ


女・・・女・・・珍獣・・・女・・・木刀?・・・女・・・


幼女狙いの者達が若干混乱する中、再び始まった鬼ごっこ


暴漢者たちはただ欲望のままに襲ってくるだけなので、連携プレーなどが全くないのは幸いだったが、マーナの体力にも限界はある。全力で逃げていると次第に横腹が痛くなってきた


「ハア・・・ハア・・・もう・・・」


足が止まりかけ、弱音を吐きそうになった時、抱いていたステラが目を覚まし、顎をマーナの肩に乗せる。そして、クワッと口を開くと口の中で魔力が渦巻き光り輝く


「もしかして・・・あの・・・」


マーナは思い出す。ステラがまだ野ドラゴンだった頃にマーナ達に吐き出したあのウォーターブレスの威力を。クオンとマルネスがいなければ確実に全滅していたあの圧倒的な存在感、マルネス曰く人を殺せる殺人水が今放たれようとしていた


遅い来る暴漢者たちに向けて一際大きい声で鳴くとウォーターブレスが発動する


マーナはグッとステラを抱きしめ目を閉じると聞こえてくる音はピューという悲しい音・・・恐る恐る目を開けてステラの口元を見るとあまりにも悲しい威力のウォーターブレスが暴漢者たちに向けて放たれていた


暴漢者たちも珍獣の口が開き光り輝いているのを見て警戒して足を止めていただけに、その威力の無さにほっとし、水を吐く珍獣という事実が追いかける速度を更に速めさせた


「もう・・・本当にいやぁー!!!」


期待していただけにガッカリ感半端なく泣きながら逃げ始めるマーナ


マーナと暴漢者たちの鬼ごっこは続く────





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