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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『拒むもの』
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1章 終幕

ハーネット達はクオン達と話した後すぐに旅立った。恐るべき行動力に呆れながらも準備を終えたクオン達は次の日の朝、屋敷の中庭に集合する


予定通り10名プラス1匹とジュウベエ


ジュウベエは手首を拘束されており、その先のロープをクオンが持つことになっている


「なんでジュウベエさんって・・・馬の上に立ってるんですか?」


「よくぞ聞いてくれた少年!ボクはバランス感覚が鬼なんだ~。走る馬などお茶の子さいさい!拘束されてなければ逆立ちで乗る事も可能なのだ~」


「バランス感覚が・・・鬼?」


「凄いって事だよ~少年!試してみるかい~♪」


「試すって・・・何を・・・」


馬の上で変なポーズを取りレンドに説明するジュウベエ。前屈みになっていた為に胸の谷間がレンドの目線を独占する。顔を赤らめて目線を切ると、ジュウベエとレンドの間にマーナが入り顔の赤いレンドをジト目で見つめた


「惚れやす!」


「ちが・・・違うし!」


「ジュウベエはやめとけレンド。手に余るぞ」


「クオンさんまで!違いますし・・・僕は・・・」


「残念無念だ少年よ!ボクの心と体は既にある人に~♪ほら、こうして赤い・・・茶色いけど、糸・・・ロープだけど結ばれてるのさ~」


≪妾が持ってるぞ?≫


「はよクオンに渡せやロリババア!捻り殺すぞ!」


≪カカッ・・・必死だのう。まあ、妾とクオンの初めてを見せつけられて気が立つのは分かるがのう≫


「このっ!クオン~ボクにもプリ~ズキスミ~」


「寝言は寝て言え。それにあれはキスではない。魔力譲渡だと何度言えば分かる」


≪口と口が重なるのはチ・・・チスであろう。ああー、思い出すだけで甘美な味が・・・≫


「それは魔力だ」


「クオン~ボクも魔力切れ~」


「切れてていいだろう?大人しく連行されろ」


「わ、私も魔力切れを・・・」


≪おい!≫「おい!」


何故かマーナが参戦してきてマルネスとジュウベエが同時にツッコむ。そんな和気あいあいとした中でアースリーを前に乗せたフォーがため息をつきながらも出発の合図をして一行は旅立った


まずはセガスの西にあるラメス村を通り過ぎチーリントという街を目指す。そこまでは馬でなら夜には到着出来る距離にある


順調に進み昼前にラメス村に到着、早めの昼を取り小休憩した後出発した


「このまま真っ直ぐ行けば王都に着くのか?」


「いや、この先に分かれ道があって右に行けばチーリント、左に行けばナムリに辿り着く。どっちを通っても王都へ繋がっているが、真っ直ぐという訳では無い。ナムリルートでも行けるのだが、近いが治安が悪い」


「それぐらいなら近い方がいいだろう?」


「治安が悪いというのは・・・なんだ?あれは・・・」


話の途中で何かに気付いたフォーが上空を見て目を細める。クオンも目線を上げようとしたが、前にいるマルネスがガタガタと震えながら服を掴んできた為にマルネスを見た


≪まずい・・・まずいぞクオン・・・急ぎ・・・≫


「クオン!急ぎボクの剣を!アレはヤバい!!」


マルネスは震えジュウベエが叫ぶ異常事態にクオンもフォーの見ている方向を見た。その瞬間に目の前に土煙が上がり、全員を包み込む


「なん・・・だ?」


≪懐かしい匂いに誘われて来たものの・・・まさかマルネス様とはね・・・見当たらないと思いましたが人の世におりましたか≫


≪シャンド・・・ラフポース!≫


シャンドと呼ばれた男はなぜか執事服に身を包み礼をしてマルネスを見つめる。シャンドの足元はクレーターのようになっており、空から着地した際の衝撃の大きさを物語っていた


マルネスはクオンの服を一層強く掴み、シャンドを睨みつける


「何者だ!貴様!」


≪よせ!≫


マルネスが止める為に声を上げるが、フォーの護衛達は3人とも任務を遂行しようとシャンドの前に立ちはだかり抜剣する。しかし、次の瞬間、シャンドが右手を横に払うと爆炎と共に3人が消し炭となる


「は・・・なっ・・・」


≪ふむ・・・魔素が薄いのに無駄な魔力を使ってしまった・・・にしてもか弱いな。ところでマルネス様、国に帰りたいのですが場所は知っておりますか?ここは空気が悪い・・・あまり美味しそうな獲物も・・・ほう?≫


≪クオン・・・逃げろ・・・ここは妾が何とかする≫


「逃げろと言われても完全にロックオンされているが・・・」


≪マルネス様の匂いで気付きませんでした・・・ご馳走を前に失礼を≫


クオンを見つめて頭を下げるシャンド。しばし見つめ合っているとジュウベエが馬から飛び降りた


「クオン!剣を寄越せ!ボクがやる!」


シャンドを睨みつけながら拘束するロープを切れと目の前に突き出す。それを無視してレンドにロープの先を投げると叫んだ


「レンドはジュウベエを連れて逃げろ!マーナはマルネスを頼む!フォーとダラスは2人の後について行け!」


≪バ・・・何を!!≫


「動くな!」


馬から飛び降りようとしたマルネスに対してクオンは『拒むもの』を発動。馬上で動けなくなり、マルネスに抱かれていたステラが心配そうな声で鳴く


≪ぐっ・・・こんなもの・・・≫


「俺にこれ以上魔力を使わせるな・・・勝てるものも勝てなくなる」


≪っつ!・・・≫


「マーナ!急げ!」


「う、うん!」


マーナが自らの馬から降りてマルネスの乗る馬に飛び乗り、レンドはジュウベエの拘束しているロープを手繰り寄せた。抵抗するジュウベエだが、後ろからダラスがジュウベエの体を担ぎ上げる


「くぉの!離せ、ジジイ!」


「行け!村で落ち合おう!」


≪行かせるとお思いで?≫


いつの間にか後ろに回ったシャンドが手に魔力を込める。それを防ごうとクオンは剣を抜き、風斬り丸の魔力を解放した


4つの風の刃がシャンドに襲いかかるがシャンドは難なく風の刃をかき消し轟音を上げる。その音に怯え馬が村とは逆の方向に走り出すとそのまま行けとクオンは叫んだ


≪待て!マーナ!降ろせ!妾を・・・降ろせ!!≫


馬を制御して止まりかけたマーナに対してマルネスが必死に叫ぶ。クオンの指示通りに馬を駆けるレンド達との距離は次第に離れていった


「マーナ!何してる!!早く行け!」


「で、でも・・・」


≪クオン!妾とお主は!!・・・≫


「行け!邪魔だ!!」


≪じゃ・・・≫


「クオン!次の街で!!」


「ああ・・・必ず」


先行くレンド達を追うように馬に蹴りを入れ走らせるマーナ。一瞬で3人の護衛を焼き殺す火力と、いつの間にか後ろに回り込む素早さを前に自分らは何も役には立たない・・・クオンの言う通り、いるだけで邪魔になる。全員がそう判断して出来るだけ早くクオンから遠ざかる選択をした


≪仲間を見捨てるなんて・・・醜いですね≫


「いや、仲間想いのいい奴らだ」


今までのやり取りをまるで関心なさそうに見つめて首を傾げるシャンド。クオンは剣を構えて相対する


≪マルネス様には残って欲しかったのですが、貴方に興味を惹かれましてね・・・私に対する態度、マルネス様といる事、マルネス様にかけた魔技・・・貴方あの結界の番犬では?≫


「だったら?」


≪んほー!やっぱり!そうじゃないかと思ったのですよ!あの10年前の晩餐会に出席しなくてひどく後悔したものです。たかが人間と侮っていました!参加したものに話を聞いて・・・肉が裂け、血が迸る晩餐会・・・ああー、その主役が目の前に!≫


「・・・」


≪あの時はほんの小さな餓鬼と聞いていましたが、まあ成熟されて・・・さぞかし美味しいのでしょうね・・・飛んでくる最中に食らったこの服の持ち主なんて比べ物にならないほど≫


「!お前!」


≪そこそこ魔力があったから食らったまでです。・・・それにしてもマルネス様もあんなに魔力を消耗して・・・今なら美味しく頂けそうですね≫


舌を舐めずり、マルネスが向かった方向を見つめてほくそ笑む


「そりゃあ無理だな・・・アイツは守られてるからな」


≪守られてる?あのドラゴンに?それとも拘束されてた女ですか?≫


「いや、番犬にだ!」


クオンは大地を蹴りシャンドに突っ込むと剣を横払いに一閃、しかし、それはあろう事か指で止められてしまう


≪ふむ・・・話に聞いていた番犬とは些か違うような・・・もしこれが本気ならガッカリなのですが・・・≫


「そりゃあ、悪かった。でも、こっからが本番だ」


≪なに?・・・ぬ!≫


『拒むもの』を発動し動きを止めると剣を1度引き、再度斬り付ける。今度は止められることなくシャンドの肩に当たるが肉に少しくい込んだだけで血すら出なかった


「硬いな、おい!」


そのまま足に魔力を込めて蹴り上げ顔面にヒット。シャンドの身体は宙に浮き、そこから何度も斬り刻む


しかし、いくら斬り付けようとも傷1つ付けられず、シャンドが地面に降り立った瞬間に腹に前蹴りが打ち込まれた


「グハッ・・・」


≪おや、大分吹き飛びましたがあまり効いていないのですか?上半身と下半身がさよならするくらいの蹴りを放ったつもりですが・・・魔力操作がお上手ですね≫


「効いたよ、クソ魔族」


5mほど飛ばされ、腹を押さえながら立ち上がるその目は左目だけ開かれていた。口から出た血を手で拭いシャンドに狙いを定めて剣を振るい風の刃を1つ出す


≪またそれですか?懲りないですね≫


腕を払い簡単にかき消すと魔力を使って移動したクオンが懐に入り込んでいた。そして、剣をシャンドの腹に突き立てる。数cmほど剣がめり込むとシャンドは顔を歪めるが、すぐにクオンの顔面を掴みそのまま放り投げた


≪・・・本当に魔力操作に長けておいでですね。上級魔族に傷をつけるとは・・・≫


「痛えな・・・雑に投げんな。てか、さっきから魔力操作が上手とか長けてるとか・・・もっと他にないのかよ」


≪基本褒めたいのですが・・・褒めるところが無さ過ぎて申し訳ありません。まったく・・・なんでこんな男をマルネス様はお助けになったのやら≫


「お助けに・・・なった?」


≪おや?知らないのですか?そんな・・・本当に貴方はあの番犬ですか?≫


「あのが何を指してるか知らないが、晩餐会にお呼ばれしたのは俺だぞ。てか、どこで黒丸が俺を助けた?」


≪クロマル?≫


「クロフィード・マルネス・・・略して黒丸だ」


≪クロフィード?・・・ふふふ・・・はっーはっはっ!マルネス様がクロフィードと?とうに除名されていらっしゃるのに・・・≫


「除名?」


≪貴方は・・・何も知らない・・・例えマルネス様の事でも同胞がここまで虚仮にされては笑えないですね・・・ちょっとこの服は窮屈です・・・せっかく手に入れたのですが・・・貴方の服を貰うとしましょう≫


執事服がビリビリと音を立てて破れ、服の隙間から筋肉が隆起する。紳士な顔立ちも鬼の形相と変わり果て、数秒で一回り大きくなった。爪は伸びて刃となり、牙が生え、体の色が肌色から赤黒くなる


「アースリーが見たら萌えそうだな・・・」


軽口を叩くが身体中から汗が吹き出る。体格差から一撃でも喰らえば即死に繋がるのは見て取れた


≪フー・・・やはりこの状態は魔力の消費が激しい・・・もうひと吠えもする暇は与えんぞ、犬っころめ≫


口から蒸気を吐き出し薄ら笑うシャンド。コキコキと指を鳴らしグッと足に力を込める。今にも飛び込んで来そうなシャンドを前にクオンはゆっくりと構えを取った


「へー・・・ワン・・・ワン・・・ワン!────」


番犬と魔族の戦いが始まる────




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