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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『拒むもの』
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1章 15 VS白銀の翼

『白銀の翼』の面々は早朝宿屋で朝食を取るために1階の食堂に集まっていた


テーブルに並べられたパンを食べながら今日の予定である屋敷への来訪を打ち合わせているとハーネットを見て驚いて2階に上がる女性がいた


「どうした?ハーネット」


「いや・・・僕を見て逃げるように去って行った女性がいたものだから・・・」


「はっ、大方お前の事を聞いて見に来た奴なんじゃねえのか?色紙でも取りに行ったんだろ?」


「うーん、そうなのかな・・・」


「モテモテね・・・ハーネットは」


「ちょっ、ソフィア・・・」


拗ねたように言うソフィアに焦ったように言い繕おうとするハーネット。2人を見てニヤニヤするガトーとジゼン・・・いつもの光景が続いていた・・・2階から2人が降りて来るまで


≪どうやら優秀な治癒師がいるようだのう。まあ、無理に治さなくとも1ヶ月で治るように綺麗に折ってやったが・・・≫


「なっ!」


予期せぬ相手に急に話しかけられ、思わず席を立つハーネット


所々にディフォルメ化されたドラゴンの絵が描かれているパジャマに身を包み、枕を脇に抱えながら目を擦りながら階段から降りて来たマルネス。その後ろには同じパジャマに身を包んだ薄目・・・いや、完全に目を閉じているリオンがいた


パジャマは昨日の買い物の時にマルネスが一目惚れし、自分とクオンの分を即購入。昨日の夜にクオンに渡し、どうせ着てくれないと思っていたが、意を決して頼むとなぜかすんなり着てくれた


思いの外すんなり着てくれたクオンに驚いていたが、念願のペアルックに浮かれてすぐに寝てしまったのが口惜しい


着てからが本番だ・・・そう思っていたのに自分の不甲斐なさに辟易していた


「クロフィード様?」


クオンの後ろで2人を呼びに行ったマーナが昨日の晩を思い出して悔しがるマルネスに声をかける。その声で我に返ると立ち竦んでいるハーネットを再び見つめた


ハーネットは鎧を身に着けてはおらず、鎧の下に着るインナーのみ。剣も帯びておらず立ち上がった際に腰に手を当てて舌打ちしていた


「謀ったか!」


≪何をだ?先に泊まってたのは我らだぞ?後から来たお主らが言うセリフかマヌケが。妾に怯えるのは構わぬが、朝からやいのやいのと騒ぐでないわ≫


「くっ・・・あ・・・」


昨日の一連の出来事で咄嗟に喧嘩腰になってしまい、声を荒らげてしまったハーネット。せせら笑うマルネスに対して歯噛みするが、メンバーの視線に気付く


「ゴホン!・・・あー、すまない、取り乱したね・・・朝は弱くてね」


≪昼間も弱かったがのう≫


「・・・そういう意味の弱いではないのだが・・・君達は屋敷に住んでいると思っていたので驚いたよ」


「昨日話した冒険者の手伝い・・・ここの宿屋の子達が冒険者でな。その2人の手伝いをしている」


クオンが頭をフラフラさせながらマルネスの代わりに説明する。クオンの後ろからハーネットが先程見た女性・・・マーナがひょっこりと顔を出す


納得がいったのかハーネットは座り直すとテーブルが6人座れる事に気付き、クオンとマルネスを見た


「どうだい?一緒に朝食でも」


取り乱した事を帳消しにするように余裕を持って2人を招こうとするハーネット。しかし、クオンは首を振りハーネット達のテーブルを指さした


「狭い・・・それにもう食べ終わりそうだろ?俺の後ろにいるマーナともう1人・・・レンドと食べるから気にしないでくれ」


「そ、そうか・・・」


取り乱した事を誤魔化す為に、器の大きさを見せようと誘ったもののあっさりと断られるハーネット。世話好きのガトーはいたたまれなくなり動いた


「だったらこうすりゃ良いじゃないか」


隣のテーブルを片手で持ち上げて自分らのテーブルとくっつける。椅子に当たらないようにわざわざ持ち上げての怪力アピールだ。置く時も音が鳴らないようにそっと置く事で店にも配慮する


≪そこまでして共に食事したいのか?≫


「言うねえ、嬢ちゃん。こちとら昨日は消化不良でね・・・腹の探り合いの前に腹ごしらえって訳だ。とりあえず沢山食べてソフィアみたいにムチムチになりな!」


「・・・なんかそれだと私が太ってるみたいじゃないですか・・・」


ジト目でガトーを睨むソフィア。豊満な胸と小さい体が災いし若干太めに見える事を気にする19歳の乙女だ。頭をかいて誤魔化すように笑うガトーに対して、今後の回復を如何に遅らせるか考えていた


強引に席を用意され、先程の断り文句を消されたクオン達は仕方なく席に着く。厨房の方から食事を運んで来たレンドがその状態を見て目を白黒させながらもクオンらに食事を配膳した


無言で食べ始めるクオンらを頬杖をつき見つめるハーネット達・・・次第にイライラしてきたマルネスがハーネットを睨みつける


≪お主は生物的に不快だのう。また折られたいか?≫


「生物的って・・・君の破壊力は身をもって経験したから納得出来た・・・でも、そちらの彼がエリオット君を追い詰めたってのは未だに信じられないね」


≪クオンがエーランク如きに遅れをとるものか・・・もちろんお主らも含めてのう≫


「Aランク如きって・・・それはディートグリスにほとんど敵が居ないって言っているようなものだよ?」


≪そうなるのう。逆にクオンより優れている部分があるのなら教えてもらいたいものだ。無警戒に素性の知らぬものに近付き、あっさり骨を折られる無能にな≫


「・・・確かに油断はしていたよ・・・でも、今は違う・・・それでも彼が勝つと?」


≪カッカッ・・・油断?違うな。強き者なら咄嗟に躱すか魔力でガードする。それすらも出来ないから無能と言うておるのだ強き者のフリをするでない弱き者よ≫


ピリッと空気が張り詰める。一触即発の雰囲気にレンドとマーナは食べるのを止め、『白銀の翼』の面々は緊張で喉を鳴らす。1人モグモグ食べていたクオンが歯噛みするハーネットを見つめて口の中のものをコーヒーで流し込み口を開いた


「こちらも予定があってな。遠回しに言うのではなく、はっきりと言ったらどうだ?俺の実力が疑わしいから試させろってな」


「ちょっ!クオンさん!?」


「・・・汲み取ってくれて助かるよ。・・・その通りだ。昨日の話では到底納得出来ない・・・だから、はいそうですかって言う訳にもいかないんだよ」


≪カッカッ・・・身の程知らずここに極めけり・・・か。凡夫がクオンの実力を読めないのは当たり前だろうて。それを言うに事欠いて試させろとは・・・片腹痛いわ≫


マルネスは相変わらずだが、普段と様子が違うクオンに違和感を覚えるレンドとマーナ。そこまで長い付き合いではないのだが、これまでなら止める役だったクオンがマルネスと共に相手を煽っている。それにペアルックも衝撃的だ


「・・・ならば屋敷の中庭で1戦・・・しようか」


「いや、それだと二度手間だ。どうせならエリオットがいた場所に行こう。いなければ戦えばいいし、いればエリオットから話を聞け。本人から聞けば納得も出来るだろ?」


「・・・そうだね・・・こちらもその方が手間も省ける」


「レンド、悪いがフォーに伝えてくれ。俺がコイツらをエリオットのいた場所に案内すると」


「え、ええ。分かりました」


レンドは頷きながらチラリとマーナを見る。双子特有の以心伝心・・・『マーナ、クオンさんの様子がおかしい。何かあったら頼むぞ!』『いやよ!あなたが頼まれたのだからあなたが行きなさいよ!』・・・お互い頷き合い、レンドとマーナはそれぞれの部屋に戻り準備を始める


ハーネット達も席を立ち、クオンらを一瞥すると部屋に戻る。準備が出来次第宿屋の前にて待ち合わせと話をしており、クオンらもペアルックパジャマのままでは出掛けられないため朝食を急ぎ片付ける


≪この国では魔力の回復もままならぬ・・・当分会えぬか・・・≫


「なんだ?前の方が良かったか?」


≪いえ・・・全て等しく・・・妾は愛しております≫


いつのも軽口ではなく仰々しく言い放つマルネス


その後しばらく2人は無言で2人きりの時間を満喫するのであった




準備を終えたハーネット達とマーナが待つ中、やっと降りて来た2人を睨みつける。ほぼ朝食は食べ終えてるように見えたから、同時くらいに降りてくるとにらんでいたが、降りて来たのはハーネット達が揃ってから30分ほど経過した後。これから戦う相手を苛立たせる作戦なら的中といったところだ


椅子に座って貧乏ゆすりをしながら降りてくると2人への視線は苛立ちと憎しみにまみれていた


「随分と・・・遅かったね・・・」


≪朝の心地良いひとときを邪魔しおってようぬかす。お主らが絡んで来なければもう少し有意義な時間を過ごせたというものを・・・妾の機嫌が良かった事に感謝するがよい≫


ハーネットがチクリと言うと遅れた事に悪びれもせず尊大に言うマルネスに苦笑いし肩を落とす。ガトーとジゼンがハーネットの肩に手を乗せ同情し、ソフィアはその様子を見てため息をつく


元来ハーネットは余裕を持った対応をする優男。容姿に自信があり、且つ実力にも自信があってこその対応力だが、クオンとマルネスに関わってから、その仮面が少しづつ剥がされてきた


≪何だこの馬車は?≫


宿屋を出ると表には馬車が止まっており、ハーネットはその馬車に乗るようにマルネスとマーナに言う。どうやらハーネット達の誰かが事前に手配していたようだ


「どうしたんだい?乗らないのかい?」


≪ほんーに頭空っぽだのう、お主は。どこぞにピクニックでも行くつもりか?さしたる用事でもないのに、のほほんと馬車に揺られて行くほど暇ではないわ。馬に乗ってサッと行ってサッと帰ってくればよかろうも・・・それともそこな女が体重制限にでも引っかかるか?≫


良かれと思い手配した馬車だったが、好き放題言われたハーネットと馬車に乗り込もうとしていたソフィアの頬がヒクヒクと痙攣する。結局馬車はキャンセルして馬を借り、クオンの案内でエリオットに出会った場所を目指す


エリオットを捜索しているはずの『白銀の翼』の面々だったが、今はエリオットいないでくれと念じていた。いたらクオン達をぶちのめせないと


マルネスを前に乗せたクオンが馬を止め、辺りをキョロキョロするが対象の姿は見当たらない


「どうやらいないみたいだね」


満面の笑みでクオンに話しかけるハーネット。少しは残念がれよとガトーは思うが、笑みの意味を理解出来るので口には出さなかった


「移動したか・・・で、どうする?ここでやるか?」


これ以上探す意味は無いと思ったのかクオンは馬から降りて手綱を握るとハーネットを見る。ハーネットもそれに応えるように馬から飛び降りた


「無論・・・お互い時間が惜しいだろ?」


その言葉に全員が馬から降り、木に馬の手綱を括りつけた


マルネスを馬から降ろし、街道から少し森の中に入ると開けた場所を見つけた。ここなら多少派手に戦っても街道を通る人達の迷惑にならない・・・そう判断してこの場所で立ち会うこととなった


「ルールはどうする?」


「何でもありで構わない。得物も自分の物を使ってくれ。ギフトも使ってくれて構わない。もちろんその子の回復もな」


「おいおい・・・なんで1対1の戦いにソフィアの回復が・・・まさか私とではなく『白銀の翼』と戦うつもりか?」


「?・・・当たり前だろ?まさかお前1人で俺の力を推し量れると?」


「てんめぇ!」


ガトーが顔を真っ赤にしてクオンに殴りかかろうとするが、ハーネットがそれを手で制す


「ハーネット!」


「・・・すまない・・・ここは僕にやらせてくれないか?」


ガトーを見ずにクオンを睨み付けながら剣を引き抜く。背中からでもハーネットの怒気が伝わってきて、ガトーは素直に頷いて後ろに下がった。それに合わせるようにジゼンとソフィアも後ろに下がり、中央にクオンとハーネットだけが残された状態になる


「ここまでコケにされた初めてだよ・・・私を舐めるなよ!」


「仲間には『僕』で俺らには『私』か。仲間には甘えてるんだな」


「黙れ!・・・ギフト『天使翼』!」


ハーネットが叫ぶと背中から大きな翼が生える。そして翼を羽ばたかせると勢いよくクオンに突っ込んできた


ガキンとクオンとハーネットの剣がぶつかり合う。勢いがついていた分ハーネットの剣の威力が上回り、クオンをよろめかせると宙に浮いたままもう一撃。それをクオンはかいくぐり、剣を振るおうとするが、ハーネットは翼を羽ばたかせて空に舞う


≪やはり天人・・・不快なわけだ≫


「天人?」


離れた場所で見守っていたマルネスが呟くと、その呟きを聞いてマーナが聞きなれない言葉を聞いて質問する。その質問に2人の戦いを見守りながら言葉の意味を説明した


天人・・・単純に天使と人の間に生まれ、天使のギフトを引き継いだもの。魔族と人の間の魔人より圧倒的に数は少なく、世界的にみても数える程しかいない。天人と魔人は似てるようで全く別物で、魔人となった者が人と交わりやがて人魔となり、人間になるのに対して、天人は天人のまま。魔人が人間へと名称を変えるのは魔の部分が薄くなるから。天人が天人のままなのは天使の力が薄くならないからである。ただ天人は魔人のように複数の子に引き継がせる事が出来ず、1人の子にしか引き継がせる事しか出来ない


≪なぜ1人なのか分からぬがのう。なんにせよ穢らわしい一族の末裔の1人だな≫


「けが・・・まあ、クロフィード様にとってはそうですね」


汚物を見るように顔を歪めながら吐き捨てるマルネスに苦笑いをしながらマーナは応えた。あまり知らぬマーナにも天使と魔族が仲が悪いのは知っている。世に出ているいくつもの物語・・・その中で魔族が天使に滅ぼされる話は多い


≪今度は空中から羽根か・・・≫


マルネスが空にいるハーネットを見上げ呟く。その言葉通り宙に浮きながら翼を広げるとクオン目掛けて無数の羽根を飛ばしてくる


「『天翼羽』」


「もう少し名前を捻ろよ」


ボヤきながら飛んでくる羽根を躱すクオンに急降下してくるハーネット。今度は振り下ろされた剣をまともに受けず、刀身に滑らせて受け流す


受け流し終えた後に振り返るがハーネットは既に剣の届かない位置まで上昇していた


「・・・面倒だな」


「降参しろ!お前に勝ち目はない!」


空中から羽根での攻撃、降りて来たところで一撃離脱を繰り返すハーネットにどう対応しようかと考えていると空中に浮きながらクオンを見下ろし叫んだ


「うーん・・・まあ・・・死ぬなよ?」


「なに?」


クオンは剣をしまい足に魔力を集中させ、ホバリングしていたハーネットの目の前まで瞬時に飛び上がる。宙にいて油断していたハーネットは急に目の前に来たクオンに慌てて剣を振ろうとするが、それよりも早く組んだ両手を頭に振り下ろした


「ハーネット!」


約5m程の高さから落ちてくるハーネット。ガトー達が心配の声を上げると何とか地面スレスレで翼を羽ばたかせて地面と激突するのを避けた。ほっと一息も束の間、クオンは剣を抜きながらハーネットに向かって落ちてくる。。それに気付き必死に躱す為に翼を羽ばたかせた


「くっ!」


振り下ろされた剣は頬を掠めるが、何とか躱して再び空中に。今度は警戒して倍の10mまで上昇


「・・・残念。さて、どうするか・・・」


着地して届かぬ高さまで上昇したハーネットを見つめて呟くと次の作戦を考える。今の高さまで上昇されてしまうと飛び上がったところで回避されてしまう。そうなると自由に飛び回れるハーネットのいい的だ


ハーネットの方もこの高さからだと攻撃手段は限られる。遠距離からの羽根の攻撃は効果が薄く、急降下からの攻撃に限られてしまう


「なぜクオンはギフトを使わないのですか?」


お互い打つ手がなく膠着状態でいるとマーナがマルネスに尋ねる。今までの戦いを見てきたマーナにとってクオンのギフトは絶対的な力を持つと思えていた。今も上空にいるハーネットに対して『飛ぶ事を拒む』事によりすぐにでも決着はつくのではと


≪小娘・・・いや、マーナ≫


「は、はい!」


≪緊張するでない。クオンが仲間と認めたからには妾にとっても仲間・・・クオンの事も知っておった方がよいだろう。ケルベロスと聞いてどんな姿を想像する?≫


「ケルベロス・・・絵本の挿絵では3つ首の魔物・・・ですか」


≪そうだのう。・・・クオンも3つ首がある≫


「え!?」


≪カッカッ、本当の首ではない。人格・・・と言ってよいのかのう・・・3つの人格があり、それぞれ性格や特徴が変わってくる。普段は右の人格・・・お主らが初めて会った時からの人格だ。今は左の人格になっておる≫


「二重・・・三重人格・・・ですか・・・」


≪そうだ。右は社交的で朗らか・・・優しくて頼りになる愛しき人格。左は面倒臭がりでぶっきらぼう・・・やや好戦的で直情的な愛しき人格。3つ目は左右・・・一言で言うと傍若無人・・・な愛しき人格≫


「は・・・はあ・・・」


もはや『愛しき』は付けなくてもいいのでは?と思いながらもマルネスの言葉をどうにか理解しようとする。そして、マルネスの言い方で1つ引っかかった


「もしかして・・・目・・・ですか?」


≪ほう、気付くか。そうだ。今の人格はどれかは目で判断出来る。普段は目をほとんど閉じているから分かりにくいが、魔力やギフトを使う時の目の開きでどの人格かは分かる。今は左目・・・2つ目の人格だな。そして、先程の答えだが、左目はギフトをあまり好んで使用しない。主に剣と魔力による身体強化を使う。逆に右目はギフトを好んで使う・・・性格の違いだな≫


「じゃあ、両目は・・・」


マーナが問うがマルネスは遠い目をして答えなかった。その様子から聞いてはならないと判断して口を閉ざす。とにかく今は2つ目の人格なのでギフト『拒むもの』を使用しないんだと納得した


「でも、あまり変わったようには思えませんでした・・・少しだけ好戦的だなって思いましたけど・・・」


≪うむ・・・それは務めのせいだな。クオンは日なが一日神扉前で番をしておった。その際に感情の起伏を押さえ込んでいた為にあまり感情を表に出さなくなった。今は神扉という鎖から解き放たれ、徐々にクオンらしさを取り戻しておるが・・・≫


「あれ?・・・でもクロフィード様ってクオンがお務めしている最後の方で会ったのでは?それなら感情が豊かな時は会ってないような・・・」


クオンとマルネスの出会いの話は聞いている。神扉を通ろうとするマルネスに命を賭して守り神扉を切り開いた話・・・その話からすると2人が出会ったのは神扉を切り開く数ヶ月前のはず・・・


≪・・・ほれ、動くぞ≫


マーナの追求に答えること無くマルネスが2人を見つめながら呟いた


ハーネットは剣を構え、クオンに向かって急降下。それを迎え撃つクオンは両目共に薄目と思いきや、若干左目の方が開いているのにマーナは気付く。口の端を上げてニヤリと笑い、猛スピードで向かいくるハーネットに対して剣を構えた


ハーネットは両手で剣を握り突きを選択、それに対してクオンは剣を斜に構える


2人がぶつかり合ったと思いきや、ハーネットはクオンを通り過ぎ再び上空に、クオンは剣を鞘に収める


「・・・グハッ」


「ハーネット!!」


2mほど飛び上がった後、急に止まったハーネットは突如身体中から血を撒き散らしながら地面に墜落。ソフィアがその光景を見ていてもたってもいられずハーネットに駆け寄る


「てんめぇ・・・何しやがった!」


「・・・」


ガトーとジゼンはクオンに向かい構える。それを見てクオンはため息をつくと答えた


「斬った・・・てか、やられたら出てくるなら最初から来いよ・・・面倒くせえ」


「んだと!」


ガトーが拳を握り動こうとした時、先んじてジゼンが槍をクオンに向けて突きを出す。距離はだいぶ離れていたが、槍は伸びクオンまで届いた


カダノースの冒険者ゲインのギフト『巨大化』と同系列のギフト『伸縮自在』。ジゼンは槍を自在に伸縮させることが出来る。しかし、その速度はあまり速くなく、あっさりとクオンに躱されるが、そこにガトーが飛び込んできて叫んだ


「『エアーハンマー』!」


ガトーがクオンの近くまで来て拳を振り下ろす。それは盛大な空振りに終わるが、クオンの頭上に風の塊が打ち下ろされる


「似合わねえな!風鉄槌に改名しろよ!」


クオンは剣を抜きざま振り上げると剣から風の刃が生まれガトーのエアーハンマーをかき消した


「なっ!?魔導武具?」


「それで・・・ハーネットを・・・」


「正解!」


驚くガトーを無視して正解したジゼンに向けて駆けるクオン。慌てて槍を縮めるが、それよりも速くジゼンに近付いた


「くっ!」


元の長さに戻る前に槍を薙ぎ払いクオンに攻撃を繰り出すが、それを躱され無防備になったところを袈裟斬りされる


目の前で仲間を斬られたガトーが叫びながら向かってくるが魔力を足に込めたクオンは地面を蹴り、向かい来るガトーに剣の柄をめり込ませ意識を刈りとる


ガトーの身体はくの字に曲がり、白目をむくと地面に倒れ込む


「え・・・あ・・・」


信じられない光景を目のあたりにしてマーナが言葉を失う。クオンの実力は知っているつもりだった。しかし、それはギフトを使ってのことであり、ギフトを使わずにAランク冒険者のチームを1人で圧倒するほどとは思ってもいなかった


≪優しいのう≫


「へ?」


マルネスがマーナと全く違う感想を口にした為に間抜けな声が出てしまった。今の戦いに優しさの欠片がどこに・・・そうマルネスに訴えかけるとマルネスは息を吐き説明する


≪本来なら風斬り丸を使わず完勝だ。天人を剣で真っ二つ、槍の坊やは剣で斬ったが殺さずに、デカブツは剣の柄で気絶させただけ・・・どうだ?優しさに溢れておろう≫


「は・・・はあ・・・」


まるで自分の事のようにクオンを褒め称える胸を張るマルネスに納得したようなしてないような感じで答えるマーナ。その2人に剣を収めたクオンが近寄ってきた


「帰ろう・・・もうすぐ昼飯だ」


≪うむ、あの屋敷の飯は美味いからのう。今からなら昼食時に間に合うだろうて≫


何事もなかったように振る舞うクオンとマルネス。マーナはチラリとハーネット達を見ると泣きながらハーネットを治療し続けるソフィアが目に映る。このまま放置して良いものだろうかと考えたが、残っても何も出来ないと思い、いそいそと帰る準備をしている2人の後を追った────


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