表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『嗤うもの』
159/160

5章 41 始まりの合図

「で?どうだった?」


「てめえ・・・どうもこうもねえ!毎回同じ答えだ!今の皇帝には少し不満があって、前の皇帝とその更に前の皇帝には特に不満もねえ!同じ答えすぎて何の面白味もねえよ!」


「へー・・・まあ、これくらいでいいか。次は最近の困り事を聞いて回ってくれ。そうだな・・・具体的な事は聞かずに『調子どうですか?』みたいな感じがベストかな?」


クオンが宿屋の一室で椅子に座りくつろぎながら言うとフリットは身体を震わし顔を真っ赤にする


ベルベットから『街の清浄化』を依頼されて3日・・・やってる事はフリットが街の人達に『歴代の皇帝の印象を聞く』ということだけ。それ以外は特に何もしていない


文句を言おうと口を開けた瞬間にクオンの後ろに佇むシャンドの目が鋭く光、慌てて口を噤んだ


「・・・あー、分かった分かった!やりゃあいいんだろ?てか、なんでそんな事聞くか理由をもう少し説明してもいいんじゃないか?」


「理由が必要か?」


「あー、必要だね!ぶっちゃけ暴れてる奴を片っ端から捕まえた方がその『清浄化』に近付くんじゃないのか?こんな回りくどい事しないで」


「なるほど・・・そうした方がいいと思ってるから、コソコソと聞き回ってるのが回りくどく感じられモチベーションが上がらないと?」


「そうだ!」


「なら考えるのはやめればいい。下手に考えるからその考えが邪魔になる」


「このっ!・・・俺はてめえの下僕でもなんでもねえぞ!」


「そうなんだって・・・シャンド」


「確かに下僕でもなんでもないですね。主の下僕を名乗るなんておこがましい・・・小虫が主の耳になれることを本来は至上の喜びと感じるべきなのですが・・・如何致しましょうか?始末しますか?」


「早い!決断が早すぎるぜ!シャンドの旦那!・・・別に嫌とは言ってねえよ・・・ただ理由が知りたいってのは・・・ダメなのか?」


「ダメじゃないさ。でも、理由を知ればその理由に近付けようと勝手な解釈が働く。その解釈が混じった情報ではなく、俺は純粋な街の人の声が聞きたいだけ・・・だから余計な事は話さない」


「・・・だったらお前が聞きに行けよ・・・」


「何か言ったか?」


「何でもねえよ!・・・覚えてろ!こんちくしょう!」


フリットは叫ぶと肩をいからせ床を踏み抜かんばかりに足音を立てて部屋を出て行った


部屋に残ったクオンがその様子を見て苦笑するとシャンドが口を開く


「よろしいのですか?あのような輩に任せて・・・」


「フリットだからこそ警戒もなく喋ってくれる事もある・・・情報収集は相手に警戒心を持たれたら終わりだからな。あれくらいがちょうどいい」


「かしこまりました。それで今日も?」


「ああ・・・そろそろだからな。にしてもこうも心をかき乱されるとは思わなかったよ」


「落ち着きませんか?」


「そうだな・・・心ここに在らずって言うのか?気が気で仕方ない」


「そうですか・・・私も経験がないもので何とも言えませんが・・・今の主にちょっかいを出す気にはなれませんね。出したら楽しむ間もなく消されそうです」


「それほどか?」


「ええ・・・まだラージ様のゴーレムの大軍に囲まれていた方がマシです」


「気をつけよう・・・じゃあ、送ってくれるか?」


「かしこまりました・・・我が主・・・」


シャンドがクオンに触れると一瞬で消えてしまう。部屋はもぬけの殻になり、部屋に静寂が訪れたと思った瞬間に何の変哲もない壁がドアのように開いた


「・・・」


中から老年の男が出て来ると部屋を一瞥しそのまま立ち去った。今度こそ部屋は誰も居なくなり、静寂に包まれた





サドニア帝国王都センオント王城内皇帝執務室


そこにベルベットは座り皇帝補佐官であるテグ二から報告を受けていた


しばらくテグ二の言葉に耳を傾けると、途中で飽きたのか手を振り言葉を止めて言い放つ


「良きにはからえ」


「陛下!」


「テグ二よ・・・きれいな花が咲いている横でいくら雑草を並べようと興味を引くと思うか?雑事など報告などせずに花の咲き具合を伝えよ」


「・・・はっ。クオン・ケルベロスは宿屋から動かず、従者に聞き込みをさせているようです。皇帝陛下の評判や街での困り事・・・先ずは情報収集といった所でしょうか」


「ふむ・・・もう少し大胆にくると思ったがな・・・意外と真面目なのだな。で、バースヘイムからの情報で進展は?」


「はっ。やはり正面切って一悶着あったようでバースヘイム及びシントはケルベロス家と断絶を近々宣言するようです。二国間では既に合意・・・対外的な宣言を遅らせてる理由は・・・」


「我らに大義名分を渡さぬか・・・まあ、そうでなくてはこちらもやりにくい・・・もし言ってきたとしてもたかが一家の反乱と一笑に付して突き返そう」


「陛下!」


「なんだ?」


「クオン・ケルベロスは・・・危険です。もしバースヘイムが国家の敵と認定していると通達してきたら・・・それを機にクオン・ケルベロスを追い出すのが得策かと・・・」


「こちらが招いたのにか?」


「招いたと言っても歓迎する訳でもなくて雑事を押し付けただけ・・・いつ何をしでかすか・・・」


「感謝の意を述べて頼み事をする・・・このベルベット自らな。それは市井の者にとっては過分な褒美とはならんか?」


「感謝の意を述べたとも頼み事をしたとも映りませんでしたが・・・傍から見ると賭けに負けたのはお前のせいだと腹いせに面倒事を押し付けたとしか・・・」


「ものは考えようだな。そのように捉えられるとは・・・今後は気を付けよう」


「陛下!」


「陛下陛下と・・・報告は以上か?ならば下がれ。こう見えて皇帝でな?忙しい身なのだ」


「くっ・・・失礼致します」


テグ二の忠言はベルベットの耳には届かなかった


ベルベットが手をヒラヒラさせて退室を促すとテグ二は頭を下げて部屋を出た


代わりに入って来たのは奇抜な化粧を施した男・・・クラウ


「ご機嫌麗しゅうございます敬愛なる皇帝陛下。早速ですが御報告しても?」


「うむ。さっさと申せ」


「はっ!特に何もありません!」


「・・・まさか本当に宿で何もせず呆けていると?」


「いえ、それがですね・・・魔族の瞬間移動でピューとどこかに行ってしまいまして・・・それに警戒しているのか会話も特に当たり障りのない・・・もしくは伏せて会話してまして・・・いやはや困ったもんです」


「そこまで間抜けではないか。・・・次の段階に移ろう」


「うほー!どこまでで御座いますか!?」


「先ずは──────」






「おう!兄ちゃん・・・最近コソコソ嗅ぎ回ってるらしいが、誰の回し者だ?」


情報収集がてらに喉を潤す為に酒場に入って適当な客を捕まえて話を聞いていたフリットの肩に毛むくじゃらの腕が乗っかる。動かないようにがっちりと回され、それを見たフリットと話していた男はスゴスゴと離れていった


「チッ・・・別に嗅ぎ回ってる訳じゃねえよ。この街で暮らす事になったから過ごしやすい環境づくりをしようと思ってな」


気付けば数人に囲まれていた。下手打ったと舌打ちし答えながら腕から抜けようとするが、その腕は逃がさないように力が込められていた


視線を動かし店内を観察すると店員は見て見ぬふり、客も関わらないように視線を逸らす。仲間と思われる者が周りからの視線を遮るようにフリットを囲むと強引に立ち上がらせる


「まあいいや・・・話は場所を移してから聞こうか」


「・・・俺はここでも構わねえぜ?」


「そう言うなよ・・・女もうまい食いもんも酒もあるぜ?」


「・・・分かった分かった・・・案内してくれ」


更に腕に力が込められる。逃げられないと判断したフリットはため息をつくと男はニヤリと笑う


「歓迎するぜ・・・センオントにようこそ──────」




フリットが連れてこられたのは古い民家の地下


表通りから入り組んだ道を通った為に、もう一度迷わずココに来いと言われても難しそうだとフリットは苦笑いをする


前には椅子に座る人物が足を組み偉そうにしているが顔は影になり見えなかった


「お前か?最近街中でコソコソと何やら嗅ぎ回ってる男というのは」


「・・・別にあんたらに敵対するつもりはねえよ・・・この街で生きていくにはそれなりに力関係を知っておかないとダメだろ?」


「確かにな・・・で?目的はなんだ?」


「・・・とある人物に皇帝の評判を聞いて来いと頼まれた。それが一段落すると最近の調子はどうか聞いて来いと・・・」


「それを信じるとでも?」


「いや!本当だって!信じてくれ!」


必死に訴えるフリットだったが、目の前の男には言葉は届かない。男が何かを指示するとフリットは強引に跪かされ右腕を強引に横に引っ張られる


すると背後に気配を感じ、見ると剣を振り上げる男が立っていた。そのまま振り下ろせばあえなくフリットの腕は両断されてしまう・・・フリットは慌てて指示を出したであろう男を見ると口元だけが微かに見え、その口が笑っているように見えた


「まっ、待ってくれ!本当に・・・本当に俺は!」


「・・・やれ」


「ヒィ!!」


無駄な抵抗と分かっていても右腕に力を込める。刃を弾ける位の筋力があれば・・・そう後悔しながら目を閉じて来るであろう痛みに備えた


耳元でヒュンと風を切る音が聞こえる。そして・・・


「ぐあああああああああぁぁぁ!!」


断末魔


しかし、それを発したのは自分ではなく剣を振り上げていた男だったという事にしばらく気付かなかった


痛みがいつまで経っても来ず、断末魔を上げたのも自分ではないことに気付いたフリットが目を開けると辺り一面が真っ赤になっていた


「よ、よせ!」


掴まれていた腕も離される。自由になったフリットが後ろを振り返るといるはずのない人物がそこに立っていた


「あっ・・・」


「お待たせ・・・帰るぞ」


「な、なんで・・・」


抜き身の刀を右肩に担ぎ微笑むクオン


後ろには両腕を失い、痛みで暴れ回る男がおり、横にはクオンに驚き腰を抜かして後退る男が目に映る


そこでようやく理解した


フリットの右腕を切り落とそうとしていた男はその腕ごと斬られ、その様子に怯えた右腕を掴んでいた男が後退っていたのだ


「ん?ああ、すまんな。黒丸からクーネを拝借して見張ってる事は伝えてなかったか」


クオンは微笑むと左肩に乗せたクーネの喉をさする。クーネは気持ち良さそうに目を細めるとゴロゴロと喉を鳴らす


「・・・聞いてねえよ・・・マジで殺されるかと・・・」


フリットが立ち上がりながら文句を言うがクオンは気にせず前に出る。それでも椅子に座っている男は動じた様子はない


「連れて帰っていいか?」


「・・・構わんよ。だがその前に何の為に嗅ぎ回っていたか聞いても?」


「この国の皇帝様に街の清浄化を頼まれてね。何を以て清浄化なのか分からないから聞き込みをしていただけ・・・そうだ、この街に住んでるなら知らないか?この街の穢れた部分を」


「・・・見当もつかないな」


「そりゃあそうか。まっ、地道に探ってみるとしよう」


「・・・」


クオンはフリットに目配せすると踵を返し部屋を出る。慌ててフリットが追いかけ、部屋を出る前に振り向いた


腕を斬られ痛みで暴れている男に誰も心配して近寄ろうとしない。ただフリットを感情のない目でじっと見つめている者達に恐怖を感じ急いでクオンの後を追った


クオン達が去った後、椅子に座っていた男は立ち上がり、痛みで暴れ回る男の前に立つ。そして暴れ回る男の顔面を鷲掴みにすると力を込め粉砕した


ギフト『粉砕』


あらゆるものを粉々に砕くその力を手に彼は裏の世界をのし上がった


『千人殺しのゴダン』


その異名に違えぬ実力に手下は畏怖し付き従う


「割に合わねえな・・・あれがクオン・ケルベロスか」


「か、(かしら)・・・なんであいつらは何もしないで・・・」


頭を粉砕されピクピクと痙攣する元同僚に顔を引き攣らせながらゴダンに尋ねるとゴダンは血で汚れた手を布で拭きながら答える


「さあな。死体を片付けておけ・・・それとこのアジトは引き払う。準備しておけ」


「アレはどうします?」


「もちろん持って行く・・・渡されたはいいがあの化け物相手じゃ切り札にもなりゃあしねえ・・・使い道を考えねえとな」


「へへっ・・・色々と使えてますが・・・」


「程々にしろよ・・・壊れたら使い道が減っちまう」


「へい!それはもちろん・・・って言っても最近は何も言わなくなっちまったんでとっくに壊れちまったかもしれませんが・・・」


「おいおい勘弁してくれよ・・・コイツらと違って代わりはいねえんだからよ」


ゴダンは佇む1人の男を小突く。だが反応はなく、ただ立っているだけの男を見て苦笑した


そして真顔になると部屋を見渡し声を荒らげる


「野郎共!アジトを移ったら各地に知らせろ!宴の時間だ、と!」


「へい!」


1人が返事し、他の者達は黙って頷く


ゴダンは椅子に座り天井を見上げた


ここは地下・・・上では何も知らずに生活を送る人々を見上げてゴダンはほくそ笑む


「楽しい・・・楽しい宴の時間だ──────」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ