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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『嗤うもの』
158/160

5章 40 皇帝ベルベット

サドニア帝国帝都センオントに到着した翌日、クオン達は王城の謁見の間に通されサドニア帝国皇帝ベルベット・サドニアと対峙していた


「初めまして・・・とは思えないな。水晶越しに話したからかな?」


「どうだろうな。よくある顔だから他の奴と勘違いしてるんじゃないか?」


「確かに目と鼻と口・・・想像していたよりも人だったからそう思うだけかも知れぬな」


「想像力が豊かなんだな」


「もう少し豊かであれば勝ち馬に乗れたかも知れないがな」


家臣でさえ平伏している中、クオンとシャンドは平然と立っていた。フリットは跪く気はなかったが、ベルベットの前に立つと自然と膝をついていた。そして心の中で思う『これが皇帝か』と


ベルベットは玉座に座り品定めするようにクオンを見つめる


クオンの強さは先の戦いで理解した。巨大化した魔族に勝ち、魔族をも従える男・・・味方に付ければ心強く、敵に回せば厄介極まりない・・・皇帝ベルベットとしては扱いづらい存在だった


「負け馬に乗ってたのか?」


「貴公も知っているだろう?我は乗ることを拒否した。故に民衆の信を失い、帝都は荒れ放題よ」


「民衆の信?」


「魔族の言いなりになり民を犠牲にした。その事で民衆は我に不信感を抱いている。当然それは治安に影響し、帝都は今暴動一歩手前というところよ」


「なるほど・・・俺が負けると思って魔族に従ったか」


「負けるとは思うてない。どちらに転んでもいいように動いた結果だ」


「なら予定通りだろ?」


「ふっ、想像力に欠けていたよ。まさか良かれと思ってやった事が民衆の反感を買うなんてな」


「何をした?」


「なに・・・供物を供えただけだ・・・それでも最小限に抑えたつもりだったが・・・いやはや民衆はどうやら完璧なものを求めるらしいな」


「人を供物と呼べるからこそ反感を買ってるんじゃないのか?」


「生きてても価値の無い者ばかりだ。処分する手間を考えたら得する事はあっても損はないと思うたがな」


「価値の判断は人による・・・そう教わらなかったか?」


「生憎我に教える者など皆無でな・・・それにここはサドニア帝国・・・我の価値観にそぐわぬ者は居ても仕方あるまい?」


「独裁ここに極めけりってところか」


「民衆に耳を傾けるのは逃げだ。何かあった時に民衆のせいにするだけ。自信がないなら初めから王になるなと言いたいな」


「で、民衆に耳を貸さなかった皇帝様はどうケツを拭くつもりで?」


「手段はいくらでもある。簡単なのが武力での締め付け・・・多少は犠牲が出るが手っ取り早い」


「それで再び恐怖を植え付けると」


「そうだ。だが今回は武力行使を止めようかと思ってな」


「ほう・・・で?」


「今回の件・・・見方を変えれば貴公が魔族に勝ってしまったせいとも言えるのではないかと思ってね」


「おい・・・民衆のせいにしないと言ってなかったか?」


「サドニア帝国の民衆だよ・・・外部の誰かせいにするのは国の得意技だよ・・・どの国もね」


「つまりサドニア帝国の民衆じゃない俺のせいにして責任逃れしようと?」


「責任逃れとは酷い言い草だな。責任転嫁と言ってくれないか?」


「変わんねえよ・・・で?皇帝様は俺に責任を押し付けて自分は悪くないと国民に訴えると?」


「まさか・・・ただ貴公も責任を感じていると思うたのでな」


「俺が責任を?なんで?」


「感じてないのか?貴公が必ず勝つと我に思わせれば我は供物を供えずにじっと耐えたであろう。故に責任の一端は貴公にあると言える」


「どこから突っ込んでいいのやら・・・」


「もし・・・四ヶ国会談で貴公が対価を求めて来たら・・・我は貴公を信じたであろう。しかし貴公は対価を求めなかった・・・それは自信のなさの表れではないか?対価を求めれば責任が生まれる・・・それを嫌ったのではないか?」


「それで勝手にやった事に責任を持てと?」


「そうだ。無責任に人を惑わしたのだ・・・それくらい当然ではないか?」


「・・・もし何も伝えなかったら皇帝様はどう判断したのかね?」


「来なかった今の話しても仕方あるまい・・・過去があり今がある。過去のない今など存在しない・・・実のある話をしようではないか」


「ご高説痛み入るが失敗を繰り返さない為にも、来たかもしれない今を話すのは有意義だと思うぞ?」


「失敗?」


「おい」


「失敗とは我が死んだ時にのみ起きうる。他の誰が死のうが誤差に過ぎない。故にその失敗とやらをした後では語る事が出来ないのだが・・・」


「羨ましいなその性格」


「気に入ってもらえたようで何よりだ」


「羨ましくも気に入ってはない。その考えは俺と違う・・・その考えでは大事なものは守れない」


「大事なものなど生きていればまた作ればよかろう?ものでも人でも・・・国でさえ・・・」


「この世には唯一無二ってものがある」


「唯一無二など所詮は捉え方よ。どうせ無くなればいずれ忘れる。貴公は一番大事だったものが二番目三番目になった記憶はないか?所詮は一時の感情・・・気持ち次第ぞ?クオン・ケルベロス」


「その気持ちが例え一時だとしても全力で守ろうとは思わんかね?」


「一時の感情に流されるのは愚の骨頂・・・貴公もいずれ思い知るだろう・・・人生とは取捨選択の連続・・・その度に感情に流されてはいられぬと」


「残念ながら捨てた事はないがな」


「それは恵まれてるな。だがいずれは必ず起きる。その時貴公が感情を優先させればきっと後悔する・・・断言しよう」


「忠告感謝するが・・・もう帰っていいか?」


「まだ返事を聞いてないが・・・」


「なんのだ?」


「我がサドニア帝国を助けるか否か」


「助けろこの野郎って言われて助けると思うか?」


「ふむ・・・だがそうなると罪なき民衆がかなり死ぬ事になる」


「どんだけ派手にやる気だよ」


「徹底的にだ」


「もしかして俺を脅してるのか?」


「そのつもりは毛頭ない。我にとっては些細なことでな・・・民衆が死のうが死ぬまいが・・・問題は貴公がサドニア帝国の民衆がどうなっても良いか良くないかだ。それ以外は何もない」


「友達になりたくないタイプだな」


「そうか?我はもう貴公と知己になったつもりであったが・・・」


「そりゃびっくりだ・・・ここに来たのが運の尽きってやつか・・・このワガママ皇帝め」


「いい事を言う。そう全ては我がままよ」


「そっちの意味じゃないんだがな」


「捉え方だよ・・・クオン・ケルベロス」


「あっそ・・・なあ、もう一つ妙案があるんだが」


「ほう?それは?」


「ワガママ皇帝を引きずり下ろして俺が皇帝になる・・・って言ったら?」


黙って見ていた周りに控えていた衛兵達もさすがにその言葉に反応する。しかしベルベットは手で衛兵達を制す


「それも一興・・・貴公なら難なくやり遂げるだろう。その場合はこの場に貴公を呼んだ我の失敗・・・といったところだな」


「えらく余裕だな」


「そう見えるか?これでも人を見る目に自信があるからな」


「どういう意味だ?」


「どういう意味だろうな」


緊迫した空気の中、しばらく見つめ合う2人


先に折れたのはクオンだった


「分かった分かった。で、何をすればいい?」


「そう言ってくれると信じていたぞ。では──────」




ベルベットの要望は一つだけ


サドニア帝国帝都センオントの清浄化


その言葉を聞いた瞬間にクオンは眉間にしわを寄せた




謁見は終わりクオン達は宿屋へ


馬車を用意されたが、さほど遠くない事と街を見ていないという理由で断り3人で歩く


街は他の国の王都とあまり変わらない様子・・・フリットはしばらく歩くとようやく口を開いた


「・・・なあ・・・緊張し過ぎてあんまし内容覚えてねえんだが・・・結局何を頼まれたんだ?」


「街の清浄化だな」


「具体的には?」


「さあな」


「さあなってお前・・・言われた後に難しい顔してたのはなんでだ?」


「緊張してた割にはよく見てるな。皇帝様の狙いが透けて見えたからだよ・・・とことんやな奴だ」


「やな奴って・・・なんでだよ?報酬もくれるんだろ?」


「そうだな。対価をくれるとは言っていた。問題は『清浄化』と言うのがどの程度か・・・ってところだな。誰かを捕まえろとかではなく『清浄化』道場曖昧な表現で濁す・・・お前は汚れている部屋の片付けを頼まれてゴミひとつ捨てただけで片付けたと言うか?」


「・・・言わねえな」


「だろ?じゃあどこまでだ?ゴミを全て捨て、床を掃除し、窓を拭いたとしよう・・・さて、依頼した者の反応は?」


「ああ?・・・ま、まあ、よくやったんじゃないか?」


フリットが言うとクオンを微笑み地面に落ちていた小さな石ころを拾った


「まだゴミが落ちているな・・・お前の言う片付けとはこの程度か?」


「はあ?何難癖つけて・・・ってそういう事か?」


「そう・・・頼み事を曖昧にすれば相手の解釈に委ねる事になる。で、結果を評するのも自由に出来る。つまり皇帝様は俺に解釈を委ねて試してる・・・それにより俺を評価しようとしている可能性が高い」


「・・・何の為に?」


「そうだな・・・面白半分か何かを企んでるか・・・そこまでは分からんな。何にせよ碌でもないのは確かだ」


「じゃあなんで受けんだよ!」


「聞いてなかったか?サドニア帝国の国民を人質にしてたんだぞ?皇帝様は」


「だから!別にお前は関係ないだろ!あの皇帝が誰を殺そうが!」


フリットの声に道行く人が反応する。クオンとシャンドは歩く速度を早め他人のフリをして逃げ切りを図った


「ちょ!・・・クソ!見てんじゃねえよ!ぶっ殺すぞ!」


フリットを危ないヤツと判断した人々は目を逸らし、その隙にフリットは駆け出した


クオンは足早に宿屋に向かいながら思った


皇帝もバカの相手も疲れると──────


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