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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『嗤うもの』
156/160

5章 28 出会った場所にて

シャンドがデークを送り届け、クオン一行はホントンを目指し歩き始めた


「・・・チッ・・・」


気まずい雰囲気に耐え切れずフリット崖何度目かの舌打ちをする


マルネスがクオンに『混じっておるのか?』と聞いた後から2人は何も会話をしておらず、空気が重くなっただけだった


状況を知らないシャンドは平然とし、当の2人は黙々と歩く・・・そんな雰囲気がフリットをイラつかせていた


「なあ、シャンドの旦那・・・空気悪くねえか?」


「そうでしょうか?いつも通りと思いますが」


「ほら・・・こうなんつーか、男女の機微って言うの?あんたクオンの従者だろ?その辺をスパッと解決してくれるとありがたいんだが・・・」


「お断りします」


「即答かよ・・・チッ・・・」


火中の栗を拾う気は無いとキッパリと断るシャンドに倣いフリットも自身に被害がない限りは放っておこうと決めた。実際は気まずい雰囲気の2人と行動を共にするという被害を受けてはいるのだが・・・



ホントンに近付くとクオンはシャンドに命令して街の中へと侵入させた。今やクオンはバースヘイムの国敵。正面から街に入り騒ぎになればせっかくサドニア帝国の検分免除も意味を成さなくなる


シャンドはすぐに街に忍び込み、目立たない場所を調べるとクオン達の元へと戻って来た


「ただいま戻りました。目立たない場所として街の中にある橋の下が最適と思いましたがそこで宜しいでしょうか?」


「ああ、そこで構わない。さて・・・サドニアの使者はどこにいるのやら・・・」


クオンはホントンに転移した後の事を懸念したが、それも取り越し苦労に終わった


転移した橋の下から少し街中に向かうとクオン達の前に突如洗われ頭を下げる者達がいた。お目当てのサドニア帝国からの使者である


「お待ちしておりました、クオン様。今回帝都までご案内させて頂きますヘルニスと申します。馬車の御用意は既に出来ております」


「・・・早いな。どこかで監視でもしてたか?」


「滅相もございません。いつどこから来られるか分からない状況の中、我らだけではお待たせしてしまう可能性が高かったので街の目をお借りしました」


「街の目?雇ったのか街の人を・・・」


「はい」


「街の人々が分かるほど有名人では無いはずだがな・・・名前はともかく顔は知られてないぞ?」


「この街の住民以外を見つけたら教えて欲しい・・・そうお願いしただけです 」


「なるほど・・・それで連絡が入ったら確認しに行くだけで済む・・・出入りが少ない街ならそうそう外部から人が来ない・・・確認する手間もそんなにはないって事か」


「はい・・・お疲れでないようでしたら今から・・・お疲れでしたら明日にでも構いませんが如何致しましょう?」


「今からで構わない。特にこの街でやる事はないしな」


「左様でございますか。でしたら御足労ではございますが・・・」


ヘルニスは深々と礼をすると馬車が停めている位置まで案内する


クオン達はそれに従い後について行くと豪華絢爛な装飾を施した馬車が二台道を占領するように停まっていた


自然と二手に別れるクオン達


クオンが乗った馬車にマルネスとシャンドが続き、フリットは1人残された


「いや、おかしいだろ!?」


「・・・シャンド」


「・・・はっ・・・」


クオンに言われ仕方なさそうに降りるシャンド。降りた先でフリットを見つめてため息をついた


「私にそのような趣味はないのですが・・・」


「俺にもねえよ!」


人数の振り分けがおかしいと言っただけであらぬ嫌疑をかけられたフリット。ヤレヤレといった感じてもう一台の馬車に乗り込むシャンドにツッコミを入れた



4人がそれぞれ乗り込むと馬車はサドニア帝国を目指して動き出した


ヘルニス他5名が馬に乗り護衛のように馬車の周囲に展開する。その為馬車の中はクオンとマルネス、シャンドとフリットと2人っきりの空間を2つ作り出した


「・・・さ、さすがに長距離の馬車移動は初めてだのう・・・てっきり断って瞬間移動でサドニアに行くと思うたわい」


「俺も経験ないな・・・時間がなければそうするが、今は急ぐ理由もない」


「そ、そうだのう・・・」


いつもなら2人っきりになるとここぞとばかりに甘えてくるマルネスがクオンの正面にちょこんと座り全力で目を泳がす。その様子を見てクオンが苦笑するとマルネスはムッと頬を膨らませた


「何故笑う!」


「何故だろうな?・・・ちょっと待ってろ」


クオンは言うと馬車に付いている窓を開け、ヘルニスを呼び寄せる


「俺をサドニアに連れて行きたいのなら、俺が自ら出るまで決して馬車を開けずにそのまま進め。もちろんお前らや馬の休憩は構わないが、その時も馬車には近付くな・・・もし開ければその場でこの話は終わりだ」


「・・・理由を聞いても?」


「理由を話す理由がない。嫌なら帰るだけだ。それともう一台の馬車に乗ってる男が腹減ったと言っても気にするな・・・奴の都合で止まるのはなし・・・飯は馬車にでも放り込んでおけ」


「・・・かしこまりました。つまり、もう一台の馬車もこちらから開けなければよろしいですね?」


「ああ・・・こっちには話しかけるのもダメだ。分かったな?」


「はい・・・かしこまりました」


ヘルニスは了承し、その答えに満足したクオンは窓を閉める。マルネスが不思議そうにクオンを見つめるとクオンは笑顔で返した


「さて、重要な話をしようか」


「えっ!?・・・な、なんだ改まって・・・」


「そう構えるな・・・塔の中で黒丸が言っていた事だ・・・『混じっている』・・・その通りだ、黒丸」


「そ、その通りって・・・」


「ファストに対抗する為にマルネスから借り受けた『黒』の核を使いこなせるよう努力した・・・全てを使いこなせるようになったわけではないが、それなりには・・・。で、その頃から身体に変調が起きる・・・身体と言うより精神・・・心か」


「精神・・・心?」


「ああ・・・お前らが言う『クオン』『サオン』『ウオン』・・・両目、左目、右目で性格が違うっていうのは俺も自覚していた。どっちかって言うと、性格が違うと言うより人格自体が変わる・・・まるで3つの人格があるみたいな感覚・・・1つの人格が表に出ている時、他の2つは遠くからそれを見ているんだ・・・感覚的にな」


「・・・それが混じったのか?」


「そうだな・・・今まではっきりと分かれていた人格は、今では境界が曖昧になり、ひとつになろうとしているような気がする。それが本来の姿なのかも知れないが、正直戸惑っている・・・俺が俺じゃなくなるみたいで」


「そんな!」


「不安か?」


「いや・・・不安かと聞かれれば・・・妾は全てのクオンを愛しておる。今までも・・・これからも・・・それは不変であると言い切れる・・・が、故に・・・そのひとつになる事により、消えてしまう人格があると考えると・・・」


「なるほど・・・ね。俺の戸惑いもそこにある。ひとつになったらどうなるのかなんて分からないからな・・・確実な事は何一つない不安定な状態・・・強くなろうとしてその不安が俺を弱くする・・・」


「弱くなんて!・・・」


「いや、弱くなった。黒丸がテノスに腕を折られた時、俺は怒りに駆られ全てを滅しようとした。敵も仲間も・・・全てをだ」


「・・・」


「テノスが引き、怒りは何とか収まったが、もし同じような事が起きれば・・・」


「大丈夫だ、クオン。妾は二度とあのようなヘマはせぬ」


「あれは黒丸のヘマじゃない。天族の実力を見誤った俺のミスだ」


「ミスではない!妾がクオンの期待に・・・応えられなかったから・・・」


「・・・本当は弱くなると思っていたんだが・・・」


「?・・・何を・・・」


「・・・・・・」


クオンが黙ると突如馬車の中に空間の歪みが出来る。そしてその歪みの中からカーラが姿を現した


《お呼びでしょうか?》


「傷はどうだ?」


《既に完治しております》


「そうか・・・ならこれから二つ、頼みたい事がある」


《なんなりと》


「???」


突然クオンは魔の世からカーラを呼び出した。訳が分からずマルネスがクオンとカーラを交互に見ているとクオンから意外な言葉が飛び出す


「一つ目は今からしばらくニーナを全力で守れ。傷一つすら許さん・・・お前もな」


《かしこまりました。二つ目は?》


「二つ目は──────」





主を失った城はそれでも朽ち果てることなく佇んでいた


その中の一室・・・よく城の主がくつろいでいた場所で2人は初めて出会った


「ク、クオン・・・その・・・よく分からぬのだが・・・」


クオンの二つ目の願いはファストの城へ門を開く事だった。何かを察したカーラは渋々馬車の中で門を開き、クオンはマルネスと共にファストの城へとやって来た


訳が分からずクオンの後について行くと、クオンと初めて会った場所・・・ファストは執務室と呼んでいた場所に辿り着く


「・・・ここに来ると思い出すな・・・魔族に連れられて来て、ファストと・・・マルネスに出会い・・・」


「うむ・・・懐かしいのう・・・あの頃のクオンはまだまだお子ちゃまだったがのう」


「今のお前よりはマシだ・・・まっ、その姿になったのは俺のせいだがな」


「クオンのせいでは無い!アレは妾が・・・」


「ませたガキだった・・・うーんと年上の・・・美女に惚れて・・・守ったつもりが逆に助けられて・・・」


「別にあんなのは助けた内には・・・今なんと言うた?」


「マルネスは俺の記憶を消したつもりだろうが、記憶を消されたのはウオンだけ・・・サオンとクオンはしっかりと覚えていた。もちろん当時芽生えた恋心もな」


「そんな・・・まさか・・・」


「一度マーナの譲渡で暴走した時、本来の姿に戻ったろ?あの時急激に俺の中にある『黒』の核から魔力が抜けていき、一時的にだが記憶も戻ったはずだ」


「ふ、ふむ・・・そうだったか・・・だがあまり記憶にないのだが・・・」


「そりゃあそうだ。魔力は俺に戻って来た・・・魔族は本体が核だろ?その半分は俺が持ってるから、マルネスの記憶も半分持っている事になる。自在に引き出せる訳ではないが・・・何となく覚えているような感覚になる」


「・・・気恥しいのう・・・それは・・・」


「マルネスの気持ちを何となく感じ・・・焦る気持ちを抑えて何とか受け入れる事が出来たと思う」


「・・・受け入れ過ぎだがのう・・・まさかニーナまで・・・いや、イヤではないのだが・・・」


「もちろん俺の気持ちもある・・・けど、ニーナの気持ちを受け入れたのはお前の望みでもあるんだぞ?」


「なぬ?」


「どこかでニーナを認めたろ?ニーナにも幸せになって欲しいと願ったろ?その気持ちが俺にも伝わってきた・・・」


「うぐっ・・・そういう事か・・・」


「2人に順番を付ける気はない。2人とも大事だ・・・2人のどちらかにでも何かあればと考えると心が張り裂けそうになる」


「・・・クオン・・・」


「俺はまだまだだ・・・だからもっと強くなる」


「もしや・・・ここでいつぞやと同じ様に修行を?」


「いや、子作りだ」


「へ?」


「子が出来れば守る者が増え、守りきる自信がなかった。だが、それは覚悟が足りないだけ・・・もし何かあったら・・・そう考えて臆病になってるだけ・・・前に進む事に怯え、何かに理由をつけて我慢しているだけ」


「が、我慢しておったのか?」


「当たり前だ・・・イヤか?」


「イ、イヤなど全く思っとらん!・・・ただ・・・その・・・あまり興味がないのかと・・・」


「そりゃあ、普段がその姿ではな・・・。このままだと先にニーナに手を出してしまいそうだ」


「それはダメだ!・・・いや、いずれは・・・でもせめて・・・」


「分かってる・・・で、いつまで待てばいい?」


「ふえ?あっ!・・・す、少し後ろを向いておれ・・・その・・・何と言うか・・・」


「分かった・・・変に誇張するなよ?ニーナに対抗して」


「んあっ!?・・・わ、分かっとるわ!ほら!さっさと後ろを向かんか!」


「へいへい・・・そのままでいいからな・・・俺のマルネスで」


「・・・うむ・・・クオン・・・」


「ん?」


「・・・振り向いておくれ・・・そして妾を・・・愛でておくれ──────」







「なあ、シャンドの旦那・・・」


「なんでしょうか?」


「この馬車・・・いつになったら止まるんだ?」


「馬という馬車を引く獣が止まった時でしょう」


「そりゃそうだ・・・じゃなくて!もう3日も・・・普通は野営とかすんじゃねえの!?止まっても馬の休憩の為だけで俺達に出るなって言うし、飯も窓から渡してくるだけだし、トイレすら走りながら床の穴に・・・尊厳もあったもんじゃねえし、もうケツが割れそうだよ!」


「なるほど・・・臀部が痛いのでいっそうのこと尊厳死を望むと?」


「なんでそうなる!?」


「クオン様よりある程度の裁量は頂いております。クオン様のお決めになった事に対して文句があるようでしたら、死ぬ他ありません」


「他ないのかよ!?・・・なあ、もしかしてサドニア帝国に着くまで・・・って事はないよな?」


「・・・死にますか?」


「決断早いよ!・・・マジかよ・・・」


誰も乗せていない馬車と2人を乗せた馬車はほとんど止まることなく進み続ける


ベルベットが待ち受けるサドニア帝国を目指して──────



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