表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『嗤うもの』
154/160

5章 幕間 レンド教官②

「斬り刻んでやるぜ・・・教官さんよ!」


カレツが自分の武器であるカトラスを構えながら僕に向かって吠える


僕は仕方なく背中から愛刀『十包丁』を抜くとカレツと対峙した


どうしてこうなった・・・別にそんなつもりじゃなかったのに──────





「レンド・ハネスと言います・・・よろしくお願いします」


昨日はマーナの手によって全員の器が開けられた。と言っても、マーナ曰くバリームさんとモリスさんは少しだけ器の蓋が開いていたらしい。バリームさんが大剣を振れるのも、モリスさんが足が早いのも、無意識に魔力を使っていた可能性が高い。2人の得意とするのもバリームさんは全体強化でモリスさんが部分強化なのも納得だ


カレツは武具強化でスアンは部分強化・・・いい感じにバラけた


「昨日から何か変化はありますか?」


「魔力の暴走?の時に感じた事を帰ってからも試してみたが・・・てんでダメだな。思うように出せやしねえ」


「部分強化だっけ?走ってもいつも通りだよ。なんかコツがあるのか?」


バリームさんとモリスさんは無意識で使ってた分、期待したけどダメみたいだ。逆に意識するとダメなのか?カレツは無反応だし、スアンは首を横に振るだけ・・・まあそう簡単には出せないか・・・


「そうですね・・・まずは魔力を感じる事から始めましょう」


フォーさんの屋敷の庭で学んだ事をそのまま4人に教える


4人はそれを聞いて何とか魔力を感じようとするがなかなか苦戦しているようだ


「ゲインさんは・・・どうしましょ?」


元々ギフト持ちのゲインさん・・・『巨大化』の能力を伸ばすのが良いのか、はたまた魔力を出せるようにした方が良いのか・・・


「そうだな・・・出来れば『巨大化』を鍛えてどんな魔物の攻撃でも防げるようになりたい・・・どうすればいいと思う?」


巨大ムカデの時に吹き飛ばされた事を気にしてるのかな?確かに盾を巨大化させても防げなければ意味が無い。かと言って大きくすればいいって訳でもないような・・・


「やはり魔力操作を覚えた方が良さそうですね。魔獣は魔力を込めた攻撃しか通用しません・・・なので防ぐのも魔力を込めないと・・・恐らくゲインさんは武具強化だと思いますので、盾に魔力を込められるようになれば自ずと魔獣の攻撃も防げるようになると思います」


合ってる・・・よな?ゲインさんの『巨大化』で盾は大きくなるけど、魔力は込められていないはず・・・それだと魔力が込められた攻撃には耐えられない・・・はず


「『巨大化』して更に魔力を込めるか・・・なるほど・・・」


言うのは簡単だが、それがなかなか難しい


ギフトは持って生まれた能力でバリームさん達と同じように無意識で使えている。盾に魔力を込めるには『巨大化』で使った魔力とは別に盾に魔力を込めなくてはならない


「やっぱりゲインさんもみんなと同じように・・・」


「あー、さっぱり分かんねえ!なんだよ魔力って!」


ゲインさんと話しているとカレツが突然叫んだ。・・・分かる・・・分かるけども叫ばんといて・・・怖いから


「えーと、だから魔力とは・・・」


「そんなこっちゃねえんだよ!こう・・・バーンと使えるように教えろってんだ」


分かる・・・分かるよ・・・地味だよね。でも僕もこう教わったんだよ・・・


「カレツ!教わってるのになんだその言い草は」


「でもよーゲインの兄貴・・・強くなる訓練って聞いたから来たのに、初日はそいつの姉ちゃんが何かしただけだし、今日は感じろ?・・・想像したのと違うんすよね」


姉ちゃんじゃない、妹だ。昨日あれだけ説明したのに・・・って言うかゲインさんを兄貴と呼ぶ決まりでもあるのだろうか?


「カレツ・・・そんな簡単に強く・・・ん?騒がしいな・・・」


ゲインさんが何かに気付き、ふと視線を向けたので同じ方向を見てみる・・・うん、何かやらかしてるね。マーナがテンを抱えて必死の形相で走って来る。後ろには土煙・・・あれはなんだ?


「あれは・・・男子無視!」


「え?」


「地中に眠る魔物で何故か男を無視して女ばかりを狙う変態魔物!ダンゴムシに似ている事からその名が付けられたのだが、ダンゴムシと違うのは触手が伸びて・・・その・・・とにかく変態だ!」


なんだそりゃ・・・ゲインさんは何故か赤面してる。とりあえずそこそこの魔物らしく、バリームさんとモリスさんが神妙な面持ちで素早く剣を抜き構えている。ゲインさんも赤面しながら盾を構えマーナと男子無視の間に入る準備をしていた


「コッチだ!!」


ゲインさんが叫ぶとマーナが走りながら方向をズラす。テンはマーナの腕の中で笑っている・・・我が子ながら末恐ろしい・・・


「私を越えたら屈め!」


「はい!」


マーナがゲインさんを越えて屈み、ゲインさんは男子無視に向かって盾を構えると巨大化させる。まともに当たればムカデの時みたく吹き飛ばされる可能性もあったが、盾を斜めにして衝撃を上に流した・・・丸まって転がっていた男子無視は盾を滑るように登り上空へ・・・マーナ達を越えて飛んで行くが・・・


「あっ」


ちょうど着地地点にギャルが居た。顔を引き攣らせながら固まっているスアン・・・おいおい、直撃コースだ


「スアン!逃げろ!」


「あ・・・あ・・・」


叫ぶ暇があったら身を呈して守れよ、カレツ


このままだとぺちゃんこギャルになりそうなので足に魔力を込めて走り出し、迷うこと無くスアンに向かっていく変態魔物に近付いた


「レンド!奴の甲羅は硬いぞ!」


ムカデよりは硬くないだろう・・・だけど念の為に十包丁に魔力を流し、男子無視に向かって振り下ろす


魔物にしたら硬いかも知れないが、魔獣に比べたら屁みたいな硬さだった。ほとんど抵抗が感じられないで男子無視は真っ二つとなり、スアンに届くこと無く体は左右に分かれ絶命した


ひっくり返った男子無視の体からは細長い触手のようなものがだらりと数本出ている・・・気持ち悪っ


刀に付いた男子無視の液体を払い鞘に戻して誰も怪我してない事を確認するとなにがあったのか聞く為にマーナの所に向かった。まあ、大体想像出来るけど


「テンちゃんと土を掘ってたら突然・・・」


予想通りだ。テンはそういった才能があるかも知れない・・・土を掘ったら魔物が出て来る・・・やな才能だな


テンは何事もなかったように僕が近付くと抱っこをせがむ


あのくらいの魔物だったらテンなら倒せてしまうのではないだろうか・・・いや、ムカデの時から髪は伸びてないから無理か


テンを抱っこして中断してしまった訓練を続ける為にみんなに声を掛けようとするとカレツがこちらを睨み付けている事に気付いた・・・なぜ?


「おうコラ何してくれてんだコラ」


コラ多いな


「すまない・・・今後気を付けるよ」


「すまないだあ?てめえがガキなんて連れて来るからこんな事になるんだろうが!わかってんのかオイ!」


ガラ悪いな。殺伐とした訓練の中、テンの笑顔で癒されます・・・ってならないのかな・・・ならないよな


「おい、カレツ!こっちが無理してレンドに頼んでるんだ!それに男子無視はレンドが討伐して被害も出ちゃいねえ・・・それで良いじゃねえか!」


「被害が出なけりゃ良いってもんじゃねえでしょ?余計なもん持ってくんなのバリームのオッサンにしては寛容過ぎじゃねえか?」


「あんだとてめえ!」


余計なもん持ってくんなのオッサン・・・確かに。と、和んでる場合じゃなく2人は歯を剥き出しにして今にもおっぱじめようって感じになってる。ここは一応教官としての立場から僕が止めないと・・・


「カレツは何が望みだ?テンを連れて来るなと言うなら断る・・・どうしてもと言うなら君が辞めるか僕が辞める!」


さすがにテンを家に置いとく事は出来ない。母さん達も仕事があるし、マーナに任せるのは不安だ。案の定、魔物を掘り起こしてるし・・・多分テンがだけど


「・・・チッ!その魔力を感じるとかそう言うのはしょうに合ってねえ・・・タイマンだ・・・それで俺はその魔力ってやつを掴んでやる」


なんかさぁ・・・なんかだよね。周りに助けを求めるとゲインさんは困った顔をして、バリームさんは呆れてる。モリスさんはいつの間にか訓練に戻ってスアンとは目が合った。怖っ


「受けんのか受けねえのかどっちかハッキリしろ!」


「・・・それでカレツが納得するなら・・・」


ああ、受けてしまった。どうしよう・・・改まると緊張する


「斬り刻んでやるぜ・・・教官さんよ!」


カレツが自分の武器であるカトラスを構えながら僕に向かって吠える


僕も合わせるように柄に手をかけると鞘から十包丁を抜いた


始めの合図なんてものはなく、獣のように低い姿勢で駆け寄って来るカレツ。すると突然身体を起こしながら回転し始めた


「旋風斬り!!」


なるほど・・・その技を使う為に湾曲したカトラスを使ってるのか・・・なるべく空気抵抗を減らす為に・・・って関心してると眼前にカトラスが迫る。飛び退いて躱そうとした時、急にカトラスが僕の方に伸びてきた


「なっ!?」


慌てて十包丁をカトラスに合わせて弾くと、その勢いを利用して飛び退いた。もし十包丁を出していなければ胸の辺りがざっくり斬られてた・・・多分回転してる時に腕を曲げて間合いを誤魔化し、当たる寸前に腕を伸ばして攻撃してきた・・・と思う


「チッ・・・次で終わらせる・・・」


・・・言っちゃ悪いが欠点だらけの技だよなー・・・回転して勢いつけて斬り付けるのが目的なんだと思うけど、回転してる間ずっと頭が無防備だし・・・得物の長さで簡単に処理出来る技を果たして技と呼んで良いのだろうか・・・


「えっと・・・カレツ?」


とりあえず欠点を言おうとした瞬間にカレツは再び駆け寄り回転する。止めるのは簡単だけど、下手すると死んでしまうな・・・そうだ!


「風よ吹け!風牙!」


殺傷能力の低い風魔法の『風牙』で動きを止める。魔獣を焼けるようになった後、テイラーに教わってて良かった。風の牙は回転するカレツに直撃し、回転していた方向と逆回転となり飛んで行く。結構飛んで行ったけど真っ二つになるよりは大分マシだろう・・・多分


「おまっ・・・確かあの時火魔法使ってなかったか?」


死んでない事を祈りつつ出て来た冷や汗を拭っていると、バリームさんが驚いた様子で聞いてきた。あの時と言えば恐らくムカデをこんがり焼いた時の事だろうな


「ええ。一応そんなに強力なのは打てませんが一通りは・・・」


「待て待て!一通りって・・・」


あー、そうか。僕と同じで魔法イコールギフトって思ってるんだ。そりゃあそうだよな・・・僕もほんの少し前までそう思ってたんだから・・・って言うか世界の常識的にはまだそうなんだよな・・・なんでだろう?


「得意不得意はあると思いますが、魔力を出せるようになれば基本全部の魔法は取得出来るみたいです。成長が早いのはやっぱり同じ魔法を使い続ける事で、僕の場合は火魔法ばっかり使ってたので他は全然でして・・・」


「いやいやいや・・・カレツ吹き飛ばしてるし!」


正直魔の世で5分も生きられないであろうカレツに効いても意味が無い・・・10分生きられない僕が思うのだから間違いない。テイラーが居なければの話だけど・・・


「僕が最近までギフトはおろか魔力すら少しも使えなかったのは話しましたよね?ギフト持ちじゃない人は器にフタがされている話も・・・。多分長い年月をかけて誰しも使えるはずの魔法が廃れてしまったんだと思います・・・使えないのが常識・・・そう思ってしまって・・・」


「汚ねえぞ・・・男の勝負に・・・魔法なんて使いやがって・・・」


どんな先入観だ・・・カレツは起き上がりフラフラになりながらも悪態をつく。これ以上はイジメになりそうだ・・・と、思っているとテンが僕の前で手を広げてカレツに立ちはだかる


僕を守ろうと・・・なんて健気なんだ・・・などと感動しているとニョキニョキと髪の毛が伸びていきカレツに絡みつく


「なっ!?おい!なんだこれ!?」


うんうん、僕も同じ感想だ・・・なんだこれ?


「めー!」


「あぁ??・・・ぴゅっ」


完全に首絞まったね。テンは僕を守ろうとカレツを・・・殺してしまった・・・


「レンド!なにしてやがる!止めねえとカレツが!」


死んでなかったようだ。ホッとしたような、少し残念のような・・・冗談はさておき僕は必死にテンを宥めて何とかカレツを解放してもらう。だけど気絶してしまったので訓練自体もお開きとなった


初日でこれでは先が思いやられる・・・クオンさんならこんな時どうするだろう・・・そんな事を考えながらテンとマーナの3人で家路へと向かうのだった──────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ