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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『嗤うもの』
152/160

5章 25 骨折り損

テントの隙間から顔を出すマルネス。じっと外を睨み目だけで周囲を伺うと、目の合ったフリットに声を掛ける


「どうだ?戻ったか?」


「まだだってさっきも言ったろ?しつこいんだよ!」


「・・・むう・・・」


マルネスは一瞬で不機嫌そうな顔をしてテントに顔を引っ込める。騒動の中、いつの間にか包帯が取れていたフリットはようやくまともに話す事が出来るように安堵するが、先程から『まだ』しか言ってないような気がする


マルネスの待ち人は当然の事ながらクオン


腕の骨を折られるという長い時を生きたマルネスに初めて起きた一大イベントをクオンと共に過ごしたいという願望が焦りを加速させる


この痛み・・・合法的に甘えられる!


次から次へと溢れ出るヨダレを抑え、マルネスは今か今かとクオンを待つ


一方その頃、クオンらが居ない間にシーフは面倒な相手を押し付けられていた


その面倒な相手とは・・・


「ボムース・ヴィクトリー!!」


「黙れ・・・頼むから」


シーフの切実な願いもなんのその・・・ボムースは今日も元気に筋肉を見せつける


「ハッハッ!原初の八魔『嵐』のシーフ・フウレンがフウカ殿の師匠とは!つまり我輩にとって、師の師・・・大師匠という事だな!」


「うん、黙れ」


「にしてもけったクソにやられた!コジローに強い奴が来るから手伝ってくれと言われて半信半疑であったが・・・まさか相手が原初の八魔とは恐れ入った!」


「恐れ死ね」


と、仲良く会話している間にクオンとシャンドが戻って来た。クオンは小さな木材を片手に持ち、肩を叩きながら口を開く


「・・・いきなり物騒だな」


カーラはテギニスとの戦闘で傷付いた傷を癒すべく魔の世に戻り、しばらくはシャンドがカーラの代わりにクオンに付く


「おお!!我が友よ!!」


「・・・」


ボムースがシャンドに気付き、両手を広げてハグしようとするがそれを冷静に避け冷たい視線をボムースに注ぐ。それでもボムースは照れるなと高笑いでシャンドを呆れさせた


「おいお前!さっさと俺をカダトースに戻せ!いつまで俺を・・・」


「排除しますか?」


「すんなすんな・・・えっとフリットだっけか?戻してもいいが子供を狙った事を許すつもりは無い・・・どうしても戻りたければ両腕を置いてけ」


「あ?両腕を・・・置いてけ?」


「シャンド」


「はっ」


クオンの言葉に首を傾げるフリット。するとシャンドはフリットの背後に回り込むと両肘を掴んだ


「イテテテテッ!!な、何しやがる!?」


「子供を狙うような手癖の悪い腕なんて・・・必要ない」


クオンの言葉に反応するようにシャンドの手に力が入り肌に爪がくい込んでいく。このままだと腕が握り潰されるとフリットは泣き叫んだ


クオンが手を上げるとようやく解放され、袖をまくり掴まれていた部分を見てゾッとする。手の跡がくっきりと残り、爪が当たっていた部分からは血が出ていた


「安心しろ・・・更生したと判断したら返してやる。それまで汗水垂らして頑張れよ」


「・・・何をだよ・・・」


舌打ちしながら小声で言うフリットを無視してクオンはテントへと歩き出す。シャンドがそれについて行こうとすると突然腕を掴まれた


「・・・なんでしょう?」


「なんでしょうって・・・アンタどんだけ野暮なんだよ。アンタはクオンについて行くんじゃなくて、アイツの相手をしてな」


シーフの指す方向にはボムース。上半身裸で準備運動をしてるかと思いきや、シャンドと目が合うとニカッと笑い手招きする


「お断りしても?」


「却下だ。あっしがやると本気で殺りそうだ・・・さっさとしな」


シャンドは観念したようでボムースと対峙する。ニーナの屋敷では瞬殺したが、それからボムースも独自の進化を遂げていた。今回は少し時間が掛かりそうだとため息をつくと指を曲げ音を鳴らす


「な、なんなんだよ・・・お前ら・・・」


フリットは突然始まりそうになっている戦いを前にゲンナリした様子で呟き後退るのであった──────




テントを開けるとマルネスの姿が見えず、異常に盛り上がる布団が目に入る。クオンは無言でその布団に近付き掴むと一気にめくった


「ぬぁっ!?・・・ウー・・・」


身を隠していた布団を取られ、クオンと目が合うと唸るマルネス。どうやらご機嫌ななめらしく、折れた腕を押さえながら睨み付けてきた


「仕方ないだろ?カーラの方が重症だったし、後片付けも必要だった・・・機嫌直せよ」


「仕方ない?ハンッ!傷付いた嫁を放っておいて仕方ないとな?どれだけ心細く・・・どれだけ求めていたかも知らずにのうのうとよく言えたものだ!」


「そう怒るな。もし先に黒丸を看ていたら他の事が出来なくなる」


「それって・・・」


「って、言ったら機嫌直るか?」


「!・・・もう知らん!」


頬を膨らませプイッと横を向くマルネス。バースヘイム王国との戦いの後、カーラの扉でシント国の東にあるグラムートの森に移動するとクオンはカーラを連れてどこかへと行ってしまった。残り魔力も少なく人化したマルネスは腕の痛みと寂しさから拗ねてしまい今に至る


クオンはそっと隣に座ると折れた腕を見つめた。そして、手に持っていた木材を腕に当てるとグルグルと包帯を巻き始める


「なっ・・・何を・・・」


「添え木だ。折れた腕を固定しておかないと骨がズレたりするらしいからな。しばらく人化は解かずに回復した魔力は傷の治療に当てるんだな」


「う、うむ・・・分かっておる・・・じゃなーい!妾は怒ってるおるのだぞ!」


「分かってる・・・俺もだ」


「え?」


「天族の・・・テノスの力を見誤った。相性の問題もあるだろうが、まさかあそこまでとはな・・・お陰でテノスを殺しそうになった」


「・・・クオン・・・」


「もう一つは腕の怪我より顔の打撲を優先して治し、ついには魔力を枯渇させたアホなヤツに怒り心頭だ」


クオンがマルネスを見つめるとバツが悪そうに再びそっぽを向くマルネス。テノスに殴られ腫れた顔と折られた腕・・・魔力を流して身体を活性化させ、どちらを優先的に治すかと思ったらマルネスは迷わず顔に集中させていた


「と、当然だろうて!どこぞの誰に見られても構わぬが、クオンにだけは見られとうない!・・・あんな腫れた顔など・・・」


そっぽを向きながら言うマルネスに対して、クオンは呆れながら包帯を巻き終えると手を頭に置いた


「今回は俺の責任だ。だけど無茶をするなと事前に言っておいたはずだが・・・」


「妾にもプライドがある。天族にいいようにやられて黙っておけるものか」


「そのプライドのせいで俺の目標額達成出来なくてもか?」


「うっ・・・確かにあの場で天族を殺してしまっては共存など夢のまた夢・・・だが実際にやられそうになったのは妾であって・・・」


「黒丸がやられそうになって俺が我慢出来ると思うか?目標の為に誰かを犠牲に・・・それが黒丸だったとしたら、目標なんてクソ喰らえだ。あとほんの少しでも手を出していたら俺はテノスを消していた」


「・・・」


クオンが自分の為に怒ってくれる・・・嬉しいやら申し訳ないやらと感情が入り交じり顔を伏せるとクオンはポンポンと頭を叩く


「俺を想うなら自分も想え。俺らは一心同体なんだろ?」


「う、うむ!今後気を付ける・・・」


「そこで質問だ・・・本当に俺の核の傷が癒えれば黒丸の核を戻せる事が出来るのか?時が経つにつれて核同士がより濃く繋がっているように感じるんだが・・・」


「・・・ん、んー・・・そ、そうだのう・・・いずれほら・・・傷が癒えればポンって離れて・・・」


じーっと見つめられ、しどろもどろに答えるマルネス。その様子から何かを察したクオンが乗っけた手で髪をぐしゃぐしゃに掻き回す


「・・・どっちにしろ運命共同体か・・・まっ、お前は俺が守る・・・絶対にな」


「クオン・・・・・・・・・ん?」


マルネスは目を閉じ口を尖らせる。これは絶対キスのタイミングだと確信しての行動だったが、待てど暮らせど唇は重なる事がなかった。ややあって目を開けるとクオンはテントの出口に・・・マルネスは信じられないと文句を言おうとするとクオンは自身の口の前に指を立て静かにしろと合図した


「出歯亀は嫌われるぞ?」


クオンは言うとテントを開けた


すると覗き込むように前屈みになっているフリットが現れる


「あ・・・別に覗こうとした訳じゃなくて・・・何してんのか気になってな・・・」


「言い残す事はそれだけか?」


「殺す気かよ!?だってアイツらおかしいんだぜ!?いきなり戦い始めたと思ったらありえないくらい本気で・・・しかもデカ女も参戦し始めるし!」


「で、その隙に覗いてやろうと」


「巻き込まれて死ぬより、濡れ場見てる方が楽しいだろ!?まっ、相手が幼女じゃ楽しみも減るつーもんだが・・・てか、なんで服着てんだ?」


悪びれもなく言うフリットにクオンが顔に手を当て呆れているとマルネスが何か納得したように固定された腕でもぞもぞと動き服を脱ごうとする


「脱ぐな脱ぐな・・・つまりお前は俺と黒丸が行為に及んでいて、それを覗いてやろうとしていたと?」


「てっきりテントに2人っきりだからやってるもんかと・・・だってお前ら夫婦なんだろ?顔は最上級だが・・・変態だな」


「・・・」


「ん?なぜクオンが変態なのだ?」


「強いって言っても10歳くらいだろ?それで結婚とかちょっとなぁ・・・それともあれか?育った後に美味しく頂く的な?」


ニヤニヤと笑いながらクオンの周りをうろちょろするフリットを見て何を言っているのだろうか考える


「育ったら美味しく?クオン、そやつは何を言っておるのだ?」


「下衆の勘繰りだ・・・気にするな」


「下衆?おいおい、俺よりもその言葉が似合う奴がいるんじゃないか?例えば幼女を妻にしてる変態さんとか・・・な」


さっきの仕返しと言わんばかりに責めるフリット。クオンは言い返さず言わせているとようやく意味に気付いたマルネスがポンと手を鳴らし残り少ない魔力を使い大人バージョンへと変わる


「おい、小僧・・・勘違いしているようだが妾の真の姿はこれぞ?この姿でも妾を嫁にしたクオンを罵るか?」


「んなっ!?・・・マジかよ・・・」


先程までの幼女をそのまま大人にした美女が現れ息を飲む。着ていたドレスは小さいサイズであった為にピチピチになり、出るとこが出てこぼれそうになっていた


「そういう事だ。分かったらさっさと出て行け」


クオンはフリットの両肩を掴むとテントの出口に向けて身体を回し押し出す。先程まで勝ち誇っていたフリットも完全なる敗北にそのままテントから追い出され呆然とした


「・・・マジかよ・・・」


テントから締め出され呟くと目の前には地獄絵図のような戦闘が未だに続いていた。色んな意味で眠れない夜になりそうだと喉を鳴らすフリットであった




「また無茶して・・・」


「クオンが・・・旦那が妾のせいで貶されていたのだ・・・当然の対応だと思うがのう」


「まあ・・・助かったと言えば助かったかな」


クオンはマルネスに近付くと座っているマルネスに目線を合わせ顔を近付ける。当然マルネスはクオンを迎え入れ口付けを交わした


マルネスは心の中で計算通りとガッツポーズをする。魔力が枯渇している状況で魔力を使わざるを得ない状況・・・それがクオンを助ける為であれば大手を振ってキスをせがむ事が出来る。案の定クオンは口付けをして魔力を供給してくれた・・・大満足の結果にフリットへの好感度が少し上がる


「・・・俺が変態と言われて怒ると思ったが・・・そうでも無いんだな」


「・・・ふう・・・そうだのう、言われてみれば・・・何となく言いたい奴には言わせておけと思えてのう・・・もしかしたら妻となった事が影響しておるやもしれん・・・正式な妻・・・ぐふふ」


「ったく・・・外見はマルネスでも中身は黒丸のままだな。さて、いつ来るか分からないからもう寝るぞ」


クオンは言うとマルネスの隣にゴロンと横になる。マルネスは寝転んだクオンを目を血走らせ見つめているとその視線に気付いたクオンがすぐに起き上がった


「・・・おい」


「いや・・・その・・・なあ?」


「何がなあ?だ」


「まあ・・・ん?来るとはなんだ?何が来る?」


「報せ」


「報せ?何の・・・いや、まあそんなものはどうでも良いか・・・その・・・今の妾を見て・・・ほら・・・なあ?」


「寝ろ・・・腕が治るまで大人しくしてろと言ったろ?」


「・・・そう・・・だのう・・・!?・・・それはつまり腕が治れば・・・おい!クオン!寝たフリをするな!おおい!!」


必死にクオンを揺り起こそうとするが、何度揺すっても頑なに起きない。マルネスはその後悶々としたまま一夜を過ごすのであった──────



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