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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『嗤うもの』
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5章 24 新たな一歩

「・・・ううむ・・・概ね理解しました。事実上対立状態にあった姫様とヴォーダにクオン殿という共通の敵を作り出す事で共闘させ国を一つに・・・戻って来たヴォーダの様子を見るとあながち不可能ではないと思いますが・・・」


「決して逆らわない・・・とは言えないが、翼はもいどいた・・・金とギフトという翼はな」


「ほう・・・どういう事かお聞きしても?」


「金は屋敷を売り払い、私財を全て5等分しとある女性達に配るよう言い付けてある。1週間の猶予を与えてそれを過ぎると1本ずつ指をもぎ取る契約だ・・・住まいは王城のどこかに住ませてやって欲しい。それとギフト『ムチ自在』・・・だったか?それは永久に『禁』じた・・・二度と出す事はない」


「・・・とある女性達とは?」


「知る必要は無い」


「・・・ヴォーダの私財は国の資産でもあるのですがね」


「そうか・・・なら、ヴォーダの私財に加えて国からも出せ。ヴォーダの私財が国の資産と言うならヴォーダのやった事も国のやった事も同然・・・美味しいとこ取りするのは良くないぞ?1000万ゴルド」


「?・・・細かくは教えてもらえないのですかな?」


「知る必要は無いと言ったはずだ。知る機会を見逃したのはそっちだぞ?2000万ゴルド」


「・・・その・・・さっきから言っている金額は?」


「お前達の状況はイミナから聞いた。だが、それと本来守るべき国民が苦しむのは無関係だ・・・国王という立場を守る為に必死で戦っている間にも苦しんでいる国民がいた事を知れ。3000万ゴルド」


「だからその金額は・・・」


「クオン様!・・・ヴォーダの私財及び3()0()0()0()()()()()をその女性達にお渡しする事を約束します」


「姫様!?」


「レーズン・・・クオン様は知る機会が私達にもあったと仰った・・・つまり私達はその女性達の窮地を知り助けられる可能性があったにも関わらず助けられなかったという事でしょう?ならば私達・・・国にも支払い義務が出るのは当然・・・それに・・・」


「それに?」


「このまま続けていれば国の資産がどんどん減ってしまいます・・・出し惜しむつもりはありませんが、さすがに・・・」


イミナはチラリとクオンを見つめると、クオンは頷いた


「分かった。ヴォーダの私財と国からの3000万ゴルドで手を打とう。サドニアの女性達も受け入れてもらうことだしあまり無理は言えないからな」


充分無理を言ってるだろうとレーズンはクオンに言おうとするが、これ以上増やされたら堪らないと我慢した


「・・・しかし、疑問ですな」


「ん?増やすか?」


「いや!その事でなく・・・今回の件で我らに利があり過ぎるくらいありますが、クオン殿には全くと言っていいほど利が見当たりません。姫様の頼みとは言えなぜここまで?」


「レーズン、お前は女の子が泣いてたら手を差し伸べないのか?」


「女の子ではありませんし、泣いてません!」


「例えだよ・・・女王様」


「むぅ・・・」


膨れっ面になるイミナに苦笑し、クオンは考え込むレーズンを見た。クオンの視線に気付いたレーズンは微笑み首を振る


「差し伸べる・・・でしょうな。ですが・・・」


「そこに利はあったか?レーズン」


「ない・・・ですな。ですが、手を差し伸べたせいで貴方はバースヘイムの敵となったのですよ?」


「強大な権力を敵に回して幼い子の手を引いていた人がよく言うよ・・・あんたが1番身に染みて分かってるんじゃないか?打算的でなく咄嗟に手を差し伸ばしてしまう気持ちは」


「それは・・・。私は前国王への恩義もありましたし・・・」


「そうか・・・じゃあ、恩義を返し終えたら手を離すか?」


「・・・」


「自分を動かした動機なんて後からどうにでもなる・・・直感的に・・・感情的に動いた後、自分を納得させる為の言い訳だろ?」


レーズンは思い出す


両親を亡くしたばかりのイミナが泣きじゃくる姿を見て、そっと抱きしめた時の事を


決して恩義を返そうなどと思った訳ではなく、この子を守らねばと思った時の事を


「・・・しっかりした子だと思っていたのだが・・・触れた肩はあまりにも華奢だった・・・彼女の肩に女王という重圧がのしかかると思ったら黙って見てられなかった・・・確かに恩義を返すというのは言い訳かも知れませんな」


「・・・レーズン・・・」


当時の事を思い出し、今のイミナと見比べて微笑むレーズン。まだまだ子供と思っていたイミナが立派に成長して嬉しくもあり、寂しくもある・・・そこに恩義などの感情は一切なかった


「困った奴がいたら助けてやる・・・自分にその力があるならな。それにただ助けた訳じゃない・・・ちゃんと言い訳も考えてるさ」


「言い訳?」


「俺の目標は『人と魔と天』が共に暮らせる世界にする事・・・このままだとどちらかの種族が淘汰される」


「・・・魔と天・・・」


「正解。両雄並び立たずってね・・・白黒つけたがる連中が少なからずいるのさ・・・この国もそうだろ?ヴォーダ派や女王様派なんて言ってるが、結局は自分が1番になりたいだけ・・・そんなだからいざこざが絶えない」


「・・・それで一派にまとめると?確かにそれだと争いはなくなるかもしれないが・・・」


「一派にまとめるんじゃない・・・天に染める」


「は?天?」


「クオン様・・・ここからは私が・・・。レーズン、父様と母様が殺されたのは何故だと思いますか?」


「それは・・・ヴォーダめが実権を握ろうと・・・」


「それならばなぜ私は今でも王でいられるのでしょう?当時の国王ですら暗殺出来る者達が10年も手をこまねいていた理由は?たかだか10数年生きた小娘相手に・・・」


「・・・」


「私はレーズンの存在がそれを阻止しているものだと思ってました。しかし、レーズンは父様の時にもいました・・・なら、父様を殺害し、私を殺害しない理由は?」


「天・・・まさか・・・」


「父様と母様を殺害したのは・・・国を乗っ取るつもりではなく、父様がシント国に傾倒したからです。天族が敵視する魔族・・・その魔族にこの世で最も近しい存在・・・ケルベロス家・・・その一族を排除する為に・・・」


「ま、待ってくだされ、姫様・・・天族が・・・そんな・・・」


「天族がそんな事する訳ない・・・か。世間一般の認識だとそうなんだろうな。魔族は悪で天族は善・・・それが不変であるかないかは自分の目で確かめろ・・・イミナは自分の目で確かめて言ってる」


クオンは言うと、レーズンにローブを投げた。薄汚れたローブ・・・しかし、レーズンはそのローブに違和感を感じる


「これは?」


「羽織ってみろ」


「・・・」


レーズンは言われた通りローブを羽織る。そして、感じていた違和感の正体に気付いた


「魔素を・・・防ぐ?」


「ああ・・・そのローブは大気中にある魔素から身を守る為のもの・・・ヴォーダを唆した奴と他の場所で普及活動していた奴が着ていたものだ」


「・・・普及活動・・・」


「レーズン・・・この3日間、私は何もしていなかった訳ではありません。シント近くの森奥地でひっそりと生活する先の戦いの被害者達に会い、クオン様のお仲間が見つけた怪しい動きをする者達の実態を見ていたのです・・・我が国で密かに・・・天族を善、魔族を悪とし魔族を追い出すよう画策する者達・・・『使者』の活動を・・・」


クオンに攫われてからの3日間・・・イミナはクオンに連れられてシント東にある森、グラムートの森奥深くで生活する者達と出会った。サドニア帝国がファストに献上した人達・・・そして、魔族との間に産まれた子供達・・・


イミナはその者達の境遇を聞き、実際に話してバースヘイム王国で受け入れる事を決めた


その後、クオンの元に怪しい人物が複数いるとの連絡が入り、その1人の所に突入・・・ローブはその時の者が着ていたものだった


「彼らはいくつものアジトを持ち、バースヘイム王国国内に天族がいかに素晴らしいかを民に説いていました。それ自体は問題ないのですが、魔族を悪と決め付け、友好国であるシント国のありもしない悪評を流布していました」


「ギフトは邪法・・・器は呪い・・・魔素は毒・・・言いたい放題言ってるらしい。もちろんそう言ってる本人達が器を持ってるはずもなく・・・」


「その為のローブ・・・ですかな?」


「そういう事だ。そのローブを着ていた奴はどうだが知らないが、他の奴で本当に器がないかは()()()()


どうやって?・・・そう喉まで出た質問をレーズンは飲み込んだ。器が体内にあるかないかなど確認する手段はそう多くなく、あまり平和的ではなかったのだろうと確信していた


「・・・天族の素晴らしさを伝えるのは問題ないと思いますが、洗脳に近い行動・・・加えて魔族に傾倒する者に対する明らかな敵意は看過できません。が、彼らはいつの間にか根深く我が国に入り込んでおり、それを正すのは困難・・・なので・・・」


「いっその事国を一つにまとめる事に利用する・・・その為に魔族ではなくケルベロス家という敵まで用意して・・・」


「流石賢い者と書いて賢者、察しが良くて助かるよ。いくつかのアジトを襲い、バースヘイム王国前国王の殺害も全てその使者によるものと吐かせた。このまま放置すればイミナも・・・かと言って対立すれば国を二分する事になりかねない・・・今の段階で一番収まりが良いのは強大な敵に一致団結して挑む事・・・だろ?」


「確かに。・・・なるほど・・・そうか・・・今回の件でヴォーダの派閥と姫様に共通の敵であるクオン殿と言う存在が出来た・・・魔族ではなく、クオン殿と言う・・・。しかし、ヴォーダの派閥だけでなく国全体にその使者と呼ばれる者達が動いている為に共通の敵が居たとしても一枚岩にはなれない可能性がある為に姫様も染まる必要がある・・・天に・・・」


「ええ・・・あくまでも表向きですが・・・。私がクオン様を敵とし、天族を信仰すれば使者の動きは収まるはずです。接触してくる可能性もありますが、裏で動く事はなくなるでしょう・・・必要がないのですから」


「ヴォーダを生かしておいた理由の一つもそこにある。ヴォーダが死んだ場合、他の奴に使者が取り入ろうとしたらややこしくなる・・・侯爵であり、使者の言う事を聞く権力者はそのままにして、他の奴らが勝手に動かないように監視させる。ヴォーダが生き残るにはそれしか道がないからな」


「ですが、クオン殿の全ての種族の共存からは外れるのでは?」


「そうでも無い。陰でコソコソ動かれて実態を把握出来ないより、はっきりと敵だと言われた方が動きやすい。勝っても負けてもダメなんだけどな・・・共存させるには」


「では、どうしようと?」


「さあ・・・どうしようかな・・・」


見つめ合うクオンとレーズン。イミナは訳が分からず2人の顔を交互に見ると仲間外れにされてると感じたのか頬を膨らませた


「なんですか?この空気は・・・」


不機嫌そうにイミナが呟くと、2人は互いに視線を逸らしイミナを見た。レーズンは子を見守る親のように、クオンはただ微笑み・・・


「姫様はされたいようにして下さい・・・後はクオン殿が良いようにやってくれるようです」


「ああ・・・ただし俺が味方だってのはバレないようにな・・・バレたら使者が蠢くぞ?」


「先程のムサシ殿への対応は怪しかったですな・・・いきなりの平手打ち・・・思わず当たり障りのないフォローはしましたが、あれが続くと思うと胃が痛くなりますな」


「確かにあの平手打ちはないな・・・窓の外から見ていてハラハラしたぞ?」


イミナが窓の外で気配を感じて見に来たが、その正体はクオンとシャンドだった。咄嗟にクオンは隠れた為に見つからなかったが、その後窓の外から部屋を見ているといきなりの平手打ちに面を食らった


「な、なんなんですか!?仕方ないでしょう?助けて下さったクオン様をあんな・・・ええ、ええ、分かりましたよ!こうなったら全力で・・・クオン様を倒してみせます!」


2人から責められたイミナは顔を真っ赤にして抗議する。そして、クオンを指差し堂々と倒す宣言する


「おう、その意気だ」


イミナの宣言を笑顔で応えるクオン


その後すぐにシャンドの瞬間移動で立ち去り、部屋にはイミナとレーズンだけとなる


「クオン様の言う通りにして来たのですが・・・結局真意は分からずじまい・・・レーズンは楽しそうで良いですね!」


「楽しいですとも。姫様は思った通りに行動して下され・・・後はクオン殿が上手いこと進めて下さる・・・私も思う存分楽しむ事にしました・・・私は本気で・・・クオン殿に挑む所存です」


「私にもそうしろと?」


「いえ・・・姫様がそう思うならそうされるのが宜しいかと・・・思わなければする必要は無いと思います。今、姫様のやるべき事はヴォーダの一派を取り急ぎまとめ、姫様の思うがまま国を動かす事・・・そうしていれば自ずとより良き方向に向かうと思います・・・クオン・ケルベロスの手によって・・・」


「・・・随分人任せな国王もいたものです・・・ですが、張りぼての私にも少しは中身が伴ってきた気もします・・・クオン様から頂いたチャンス・・・しっかりものにして国を導きたいと思います」


「・・・ええ。と、その前に・・・ムサシ殿に謝れてはどうですかな?」


「それはイヤ!」


「・・・姫様・・・」


これよりバースヘイム王国はディートグリス王国同様に天族を崇める事となり、ケルベロス家の敵視する事になった


レーズン・ジャナシードは若い頃を思い出し、挑む者に


イミナ・リンベルトは真の国王を目指し、新たな一歩を


敵は『神扉の番人』クオン・ケルベロス


その情報は一夜で各国へと知れ渡ることになる──────



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