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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『嗤うもの』
149/160

5章 23 会議室にて

イミナが無事戻った後、全ての者が王城に戻り主要メンバーが会議室に集められていた


「ヴォーダ・フレバインが行方不明・・・誰も行先を聞いてないと?」


会議室にある巨大なテーブルの一番奥に座っているイミナがジロリとヴォーダと近しい者を睨みつける。攫われる前と打って変わったイミナの迫力に睨まれた者達は戸惑いたじろいでいた


「は、はい・・・てっきり戦場に出ているものかと・・・」


「・・・私を攫ったクオン・ケルベロスはゲームと称して戦を仕掛け、勝利条件にフレバインの生死だと言ったとか・・・その話の中に逃げ隠れした場合はこちらの負けと言っていたと聞きましたが?」


「そ、それは・・・」


視線を逸らしながら言い淀む者にため息をついているとイミナの隣に座っていたレーズンが話に割り込んできた


「陛下・・・我らは第一に陛下の身を案じておりましたが、奴はその・・・ゲームとやらに参加すれば陛下を返すと・・・」


「レーズン・・・クオン・ケルベロスの話では私は参加賞であり、勝敗には関係ないと言っていたらしいですね・・・ですが、それだけ聞くとゲームの参加条件がフレバインの参戦にはなりませんか?つまりフレバインが参戦していない時点でゲームは不成立・・・私はどうなっていたか分からない・・・そう考えるのが普通だと思いますけどね」


勝っても負けてもイミナは返すと言ったクオン。レーズンの言う通りイミナの奪還を第一と考えていたのならばヴォーダは参戦しなくてはならなかった。それが替え玉を使い、自身は姿をくらませていた


それには多数いるヴォーダの派閥の者も擁護出来ずに押し黙っていると、会議室のドアがけたたましく開けられる


「し、失礼致します!ヴォーダ・フレバイン侯爵閣下がお戻りに!」


会議室はざわめき、更にややあって入って来た満身創痍のヴォーダを見てどよめく


「一体何が・・・」


ヒソヒソと口々に言う者達の視線を受けながら、ヴォーダは兵士の肩を借りてイミナの近くまで来ると兵士を押し退けイミナの前で片膝をついた


「お、遅くなり・・・申し訳・・・ございません・・・」


弱々しく頭を下げるヴォーダに以前までの勢いはなく、派閥の者達は驚き顔を見合せる


「何があったのです?・・・仔細話しなさい」


頭を下げるヴォーダを見下ろしながらイミナが尋ねると、ヴォーダは堰を切ったように喋りだした


ヴォーダはいつ間にかクオンに拉致され、見知らぬ地下室に監禁され暴行されていた


助けに来た者がいたが、その者はクオンに殺され、とうとう自分も殺されるっていう時にクオンは条件を出てきた


「その条件とは・・・ゲームは今回手応えが無さ過ぎて不成立・・・女王を攫ったのにやる気のないお前らに幻滅した・・・次は本気で行くからそれ相応のおもてなしをしろ・・・だそうです」


ヴォーダの言葉を聞いて周囲の者達が条件と言いつつもバースヘイム王国をバカにしている内容にいきり立つ。イミナは冷静に手を上げて騒ぐ者達を落ち着かせると、静かに口を開いた


「・・・クオン・ケルベロスは私を攫った時・・・手を出さない代わりにと条件を出してきました。それはある場所で彼が匿っている者達をバースヘイムで受け入れろとのことでした。その者達は先の戦いの時にサドニア帝国が原初の八魔『操』のファストに差し出した者達・・・魔物や魔族の子を産み続けた者達とのことです」


「へ、陛下・・・それは一体どういう・・・」


「分からないですか?レーズン・・・原初の八魔『操』のファストが起こしたとされる戦い・・・あれも全てクオン・ケルベロスが仕組んだ事なのです。それで先の戦いの時に・・・不要になった者達を匿っているがどうにもならず私に手を出さない代わりに、と言ってきたのです・・・」


ヴォーダの言葉、そして、イミナの言葉を聞いてもにわかに信じられない・・・そんな雰囲気の中でイミナは淡々と語った。イミナはクオンから聞いたという話を全て話し終えるとバースヘイム王国はクオン・ケルベロス以下その一味を国敵とみなすと宣言する──────




「で、前回の各国への襲撃、そして、それを撃退したのは全てクオン・ケルベロスの自作自演であったと?」


場所を移してバースヘイム王国王城内国王執務室にてレーズンがイミナに問い質す。会議室の時と違って臣下と言うより親代わりの雰囲気で詰め寄るレーズンに思わず顔を背けた


「そ、そうです・・・彼がそう言ってました・・・」


「ふむ・・・多少無理がありますがいいでしょう・・・それでクオン・ケルベロスに対抗する為にムサシ殿とコジロー殿を?」


イミナはクオンを国敵と宣言した後、会議室にいたムサシとコジローにシント国からの出向という形ではなくバースヘイム王国の一員になって欲しいと告げていた


「ええ・・・今までの貢献と今回の功績・・・爵位を授けても誰も文句は言わないかと・・・それに・・・」


加えてイミナが空位となっている軍総司令官の地位もどちらかに引き継いで欲しいと申し出る。ヴォーダ・フレバインの息子、ヴォーク・フレバインが軍総司令官であったが、亡くなった後は誰も継ぐものがおらず空位の状態が続いていた


その事を話すと会議室にいる幹部達が猛反発・・・他国からの出向者を国に迎え入れるのも難色を示すものが多い中、軍総司令官ともなると爵位も当然上の位・・・伯爵や侯爵クラスとなる。反対する声が上がる中、その声を止めたのは意外な人物であった


ヴォーダ・フレバイン


ほとんど反対の声を上げていたのはヴォーダの派閥の者達であった為、ヴォーダがイミナの意見に賛成であると表明すると反対していた者達は静まり返る


結局、その場では結論には至らずムサシとコジローの返事待ちになったのだが・・・


「あら?」


「どうしました?姫様」


「いえ、今何か外で・・・」


窓の外に違和感を感じたイミナが窓に近付こうとしたタイミングで兵士からムサシが面会に来たと告げられる。イミナが部屋に通すように言うと緊張した面持ちのムサシが部屋に入って来た


「し、失礼致します!」


「楽にして下さい・・・ご要件は?」


窓を触りながら外を見て先程の感じた違和感の正体を探る。しかし、何も無い事に首を傾げながらイミナはやって来たムサシに向き合った


「その・・・先程の話・・・受けようかと思いまして・・・」


「!・・・早いですね・・・私が言うのもなんですがもう少し検討された方がいいのでは?我が国の爵位を得ると言う事はシント国民にはもう戻れません・・・ご両親に相談など・・・」


「いえ!出向したその時からお・・・私はバースヘイム(イミナ)一筋です!」


「・・・今何か含みがあったような・・・。分かりました・・・感謝します。それでコジローはどうされると?」


「はい・・・コジローも私と同じく・・・そこでコジローからの提案なのですが、私コジローを軍総司令官との事でしたが、わ、私を軍総司令官に・・・コジローを副総司令官にお願い出来ないかと・・・」


どちらかを軍総司令官にと聞いたコジローは全てをムサシに委ねた。バースヘイム王国民になるのも、シント国民でいる事も。答えは分かりきっていたのだが、予想通りムサシはバースヘイム王国民になる事を決意。するとコジローは頷きムサシに言った


『ならお前が大将で俺が副将だな』


なぜかとムサシが尋ねるとコジローはその真意を説明する


曰く、ムサシは不器用だから、と


軍総司令官ともなれば全軍の指揮権を持ち、全責任を持つ者。その総司令官が迷えば軍も迷い、指揮は乱れる・・・ならば不器用であるが故に真っ直ぐなムサシの方が軍も迷う事がなく、迷うのは自分の仕事だ、とコジローは言った


「なるほど・・・確かにそうかも知れませんね・・・副総司令官なる役職は存在しませんでしたので、私の一存では決めかねますが、必ずや・・・。それよりもムサシ・・・コジローもですが決断してくれてありがとう・・・頼りにしています」


イミナが微笑みながら言うとムサシは顔を真っ赤にして俯いた。そして、意を決したように顔を上げるとイミナを真っ直ぐに見つめ口を開いた


「お、俺は・・・命を賭してバースヘイム王国を・・・守ります!」


「え、ええ・・・よろしく頼みます・・・」


熱いムサシに若干引き気味のイミナ。部屋の中で居心地と悪さを感じていたレーズンが黙って見つめているとムサシは突然片膝をついた


「もう・・・あのクソ野郎をイミナ様に近付けはしません!俺の手で必ずや・・・へっ?」


パーンと乾いた音が部屋に響き渡る。何が起こったか理解出来ずにムサシは自分の頬を触ると少し熱くなっており、その熱が混乱した頭を逆に冷めさせる


冷静に振り返ると、ムサシが決意表明をしている最中、窓際にいたイミナがツカツカと音を立てて近寄って来てムサシの頬を叩いたのだ


「え?」


何が起こったか把握はしたが理解出来なかったムサシはイミナの目を見た。その目には薄らと涙が浮かんでおり再びムサシは混乱に陥ってしまう


「あっ・・・いや・・・その・・・」


何故かイミナも混乱した様子であたふたしていると、ムサシとイミナの間にレーズンが入り混乱するムサシを見つめ首を振る


「ムサシ殿・・・我が国の者になり、爵位を授かるお方が『俺』や『イミナ様 』などと・・・平手打ちは言葉使いを改めなさいという陛下からの愛のムチ・・・出直して来なさい」


「あ・・・そ、そうですよね・・・で、出直して来ます!」


ムサシは急ぎ立ち上がり、この場に居るのがいたたまれなくなって深々と礼をすると部屋をあとにした


ムサシが出て行くのを確認したレーズンはため息をついてイミナに振り返る


「姫様?」


「・・・ごめんなさい、レーズン・・・つい・・・」


「こらこら・・・つい、で女王様が平手打ちなんかするなよ」


「むっ!」「クオン様・・・あっ!」


突如現れたクオンとシャンドにレーズンはイミナを庇うように前に出るがイミナは嬉しそうに声を上げまずいと手に口を当てた


レーズンはその様子にクオンとイミナを交互に見るとため息をついた


「やはり・・・そういう事ですか。私がこの場に居るにも関わらず現れたという事は全てお話し頂けるという事でよろしいですかな?クオン殿?」


「流石賢者・・・どこぞの間抜け女王様とはえらい違いだ」


「しどい・・・」


涙目で訴えるイミナを無視して、クオンはレーズンに全てを語った。イミナ拉致事件から始まった全ての事を──────


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