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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『嗤うもの』
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5章 21 会戦~剣聖VS剣豪VS魔人王~

地上に降り立ったクオンとジュウベエことミン・ウォールは、ミンが用意したお茶を飲みながらこれまであった出来事を話していた


「ふ~ん、じゃあクオンは無事にファストを倒した訳だ~」


「まあ、ファスト自体は俺が倒した訳じゃないけどな・・・それよりジュウベエの方だ・・・黒丸からある程度聞いていたが、思い出したってのが500年もの記憶とはな」


ミンは紛れもなくシンの子供。しかし、シンの子供として産まれてくる以前にも人として産まれていた。産まれ、鍛え、死んでまた産まれる・・・それを繰り返し現在のミン・ウォールとなる


記憶を失っていたミンを動かしていたのは『強くなる』と言う強い想い。訳も分からず本能的にそう感じていたミンはひたすら剣の道に打ち込んだ


誰にも負けてはならない・・・それがミンを突き動かし、育ての親であるムン曰く天賦の才を持つと言われていた兄弟子、エンをも打ち破る


「クオンも知ってる通り、その時の影響でエンにぃには死んだ・・・ボクが殺したんだ・・・」


「そうか?俺が聞いた話じゃ・・・」


「死んだんだよ!・・・そろそろやろうか?お茶も飲んだ事だし・・・」


クオンの言葉を遮り立ち上がると背中に差した『大虎太』に手をかける。クオンは動じず一口お茶をすするとミンの目を見つめた


「分かった・・・最後にひとつ聞いていいか?お前・・・今までどこに居た?」


「さあね!聞きたきゃ力ずくで吐かせてみな!」


ミンが剣を払うとクオンの持っていたコップが真っ二つとなる。残っていたお茶がこぼれるとクオンはため息をついて手に残ったコップを投げ捨てた


「・・・そうするよ」


クオンは腰に差していた神討『絶刀』を引き抜くと右目を閉じ、左目を開ける


「う~ん、やっぱり剣技はサオンだね♪しっかりと満足させてね~」


「ぬかせ・・・さっさと終わらしてやる!」


クオンが魔力を流すと神討『絶刀』はその刃を伸ばす。長刀となった刀と『大虎太』が交差し互いに顔を近付ける


「さて・・・魔の世から成長したかな~?お姉さんに見せてみな!」


「んな短期間で成長するかよ!」


激しく斬り合う2人。一合二合と斬り合う度にミンの表情は恍惚としていく


離れては斬り合いまた離れては斬り合いを繰り返し、いつしか2人だけの世界を構築する。その世界に突如異物が入り込む


「勝手に盛り上がってんじゃねえよ!」


ミンの剣を左の刀で、クオンの刀を右の刀で受け止めるのは、ムサシ


「ム~サ~シ~!邪魔!」


「お前がな・・・『雷刀』!」


ムサシが叫んだ瞬間に二振りの刀は青白い閃光を放つ。咄嗟に2人は飛び退くが、触れていた部分から伝わった電撃に顔をしかめる


「ってぇ~・・・ムサシコラ!しゃしゃり出てくんじゃない!」


「あ?先にしゃしゃり出て来たのはそっちだろ!?引っ込んでろ!ジュウベエ!」


「もうジュウベエじゃない!『剣聖』なんてやめた!ボクはミン!間違えんな!」


『・・・『剣聖』を()()()だぁ?『剣聖』ってのはなあ・・・やめるやめないじゃねてんだよ・・・それを・・・』


「ふ~ん・・・『剣豪』にもなれてない奴が『剣聖』を語るの~?」


「くっ・・・」


『剣聖』は剣の頂きにあり、『剣豪』は刀を修めた者


切磋琢磨し、他国にも知れ渡る程になった現在、『剣聖』はミンが受け継ぎ、『剣豪』はムタ・タンデントが未だ現役であった


「俺だって・・・この『龍ノ顎』で・・・」


「ああ・・・刀は受け継いだんだ~。ムタさんも酷よね~・・・未熟なムサシを早く成長させたいからって刀だけ先に渡すなんて・・・」


「何が酷なんだ!」


「身の丈に合ってないモノを持ってる・・・それだけで滑稽なんだよ~。本来なら『剣豪』が持つはずの『龍ノ顎』・・・それを持っていてもボクは感じない~・・・ただモノに振り回される哀れな剣士にしか見えないから~」


「っ!・・・」


ムサシは何も言い返せない。自身でも未熟なのは分かっており、『龍ノ顎』に見合う男になろうと必死だった。父親であるムタに刀を渡された時、ムサシは一言も言われず、ただ刀を差し出されて受け取った時、実際の重みよりはるかに重く感じた


お前にまだ早い


そう刀に言われているような気がした


それでもムサシは刀を使う。触れる度に身の丈に合っていない事を感じる為に


「・・・フー・・・」


ムサシは自分でも理解している事をミンに指摘され動揺した。その動揺を掻き消すように深く息を吐くと刀に魔力を込める


五輪終之型『天刀』


刀身は光り輝き、ムサシの顔を照らす。覚悟を決めた決意の表情にミンは微笑んだ


「クオンと遊ぶ前にちょっとだけ遊んであげるよ」


「ミン・・・てめえを倒してクオンを倒し・・・俺は『剣豪』になる!」


「分かってないな~・・・『剣豪』も『剣聖』もなるもんじゃない・・・なってるもんなんだよ!」


ミンが動くとムサシがそれを迎え撃つ。ムサシの二刀の手数に対して、ミンは滑らかな動きで隙をつく


次第に後退るムサシ、すかさず間合いを詰めるミン、置いてけぼりのクオン


「・・・終わったら起こしてくれ」


本来の目的であるクオンそっちのけで盛り上がる2人を見て、クオンは呆れて地面に寝そべる。それでもクオンを無視して斬り合う2人に本気で寝ようかと欠伸をした後、ふと他の仲間達の状況を確認した


シーフの姿は見えず、カーラの所は決着したようだった。包帯男ことフリットは案の定逃げまくり、マルネスは・・・


「どうした~?こんなもんか、未来の『剣豪』君!」


「なろっ!」


ミンの流れるような剣技に手数で応戦するムサシだったが、ミンが手を抜いているのが手に取るように分かり歯噛みする


『なるものじゃなく、なってるもの』


その言葉の意味が理解出来ずにモヤモヤする気持ちを振り払うようにがむしゃらに動いた


「ほらほら~!そろそろ削っちゃうぞ~・・・!!」「うっ!?」


2人が同時に手を止め、ある方向に振り返る


その方向は先程まで寝そべっていたクオンが居た場所


「チッ!」


「な・・・何だ・・・」


ミンはすぐに事態に気付き、クオンが見ている場所を確認して舌打ちする。ムサシは視線を外す事が出来ずにただ呆然と見ていた・・・両目を開けてある方向をじっと見つめているクオンを


「抑えろって言ったのに・・・バカテノス・・・」


「え?何を言って・・・」


ミンはクオンに向けて剣を構える。その表情に余裕はなく、ムサシがクオンとミンを交互に見ていると、クオンがおもむろにムサシ達に振り向いた


『大人しくしてろ』


「ん!」「ぐぅ!?」


クオンの声に身体を震わせる2人。ミンは何故か顔を蕩けさせ、ムサシは刀に纏った光を失わせる


それを確認したクオンは興味無さげに視線を再びマルネス達の方に向けると動かなくなった


何をされた訳でも無い・・・ただ命令されただけで動かなくなる身体に不甲斐なさを感じていると隣にいたミンが剣を背中に収める


「え?」


「もう少し堪能したかったけど~・・・残念!次の機会に取っとくよ・・・楽しみは」


ミンはクオンに向けて投げキッスをすると身体を翻し背を向けて立ち去って行く。クオンが視線をミンへと向けるが無言でその姿を見送ると、またマルネスの方向に向き直る


残されたムサシは自分の事を歯牙にもかけない2人に憤るも、それが自分の実力不足である事を理解し悔しさで刀を持つ手が震え視線を落とす


「顔を上げろ!ムサシ!まだ勝負はついちゃいない!」


その声に反応しムサシが顔を上げるとコジロー、そして、シンが駆け寄って来ていた。ちょうどクオンを挟み撃ちにする立ち位置・・・コジローは目で訴える


『やるぞ』と


その瞬間にムサシの脳裏に無惨に殺されるコジローとシンの映像が浮かび上がる


もしかしたら今のクオンの状態に気付いていないのかもしれない。このまま突っ込めば2人共・・・ムサシは首を振ると深呼吸をし、刀を下に向けて交差させる


五輪終之型『天刀』


再び刀は光り輝き、ムサシの瞳から怯えの色を消えさせる


「クオン!!」


コジロー達が辿り着く前に・・・ムサシは大地を蹴りクオンへと斬り掛かる


《・・・へえ》


ムサシを見てクオンは呟くと刀を構えた。すると吸い込まれるようにムサシの刀はその構えた場所を打ち込まれ、激しい金属音を響かせる


「くっそ・・・狙いとは別に・・・」


《『黒』は全てを引き寄せる・・・さて、付き合ってやりたいのはやまやまだが・・・終わりだ》


ゾクリと背筋が凍るような声。それでも歯を食いしばり、力を込めようとするとクオンが飛び退いた


「・・・え?」


《だから、終わりだ。ムサシ・・・言ったはずだ。『逃げたり隠れたりしたら即ゲームオーバー』だ、って。カーラ!》


クオンが呼ぶと背後に空間の歪み、『扉』が出来る


「待てクオン!意味が分かんね・・・」


《精々精進する事だな・・・ムサシ》


クオンはそれだけ言い残すと扉の奥へと消えて行った


残されたムサシの元に辿り着いたコジローが辺りを見渡すが、他の場所も撤退したらしく、皆一様に動きを止めていた


「一体これは・・・」


「どうやらバレてしまったようだね・・・ヴォーダ殿の替え玉作戦は」


シンが遅れて到着するとヴォーダの本隊の方向を見つめてため息をつく


「替え玉・・・なるほど・・・あの豚が考えそうな事ですね」


「ああ・・・クソ豚野郎だ!!」


コジローが吐き捨てるとムサシは拳を地面に打ち付ける


「・・・ムサシ・・・」


「クソッタレ!!このままじゃイミナ様は・・・イミナ様は・・・」


「私が何?ムサシ」


「・・・へ?」


不意に懐かしい声が聞こえ振り向くとキョトン顔で首を傾げるイミナが居た。目を擦り、幻ではない事を確かめると勢い余って抱きつこうとしたが、イミナの『流導』にて華麗に躱された


「ムサシ・・・貴方正気ですか?いきなり抱きつこうとするなんて・・・」


「・・・あ、あの・・・イミナ様?・・・その・・・ご無事で?」


「どこをどう見たら無事じゃないと思えるのですか?それよりもこうしてはおられません・・・すぐに王都に戻り対策を練らねば・・・」


「対策?ですか?」


「寝ぼけているのですか?バースヘイム王国の王たる私を拉致し、国を乗っ取ろうとした大罪人、クオン・ケルベロス一味に対する策です。彼は丁寧な対応をしてくれましたが、それとこれとは話は別です。早急に戻り防衛と討伐の準備を!」


イミナが帰って来た事に安堵していたムサシは、その言葉を聞いて緩んだ顔を引き締め頷いた


()()とは穏やかじゃないですね・・・まるでクオンが魔物のような言い草じゃないですか」


「シン殿・・・ご助力感謝しますが、クオン・ケルベロスを擁護すると言うのなら・・・」


「違いますよ・・・シントでもケルベロス家を取り押さえようと動いています。シントにケルベロス家に与するものなど1()()()()()おりません」


「確か先代の当主は御友人ではありませんでしたか?」


「イミナ様は友情と同盟国の仲を天秤にかける程、私が愚か者だと?」


「・・・今はその言葉を信じましょう。討伐と言ったのは彼が・・・クオン・ケルベロスが人類の・・・いえ、天族や魔族をも含めた者達全ての敵・・・『魔人王』だからです」


イミナの言葉にシンは目を細め、ムサシとコジローは口をあんぐりと開けて呆然とする


「ちょ、イミナ様!?『魔人王』って・・・」


「詳細は城に戻ってから話します。まずは撤収を──────」


イミナの存在に気付いたレーズンや兵士達が集まって来る。イミナは毅然とした態度でその者達と共に街を目指し歩き始めた。混乱するムサシ達は暫くしてやっと我に返りイミナのあとを追うと1人残されたシンが呟いた


「先の戦いの殊勲者が一転して大陸中の敵か・・・やれやれ、お前の息子は何かと忙しいな・・・モリト」


クスッと笑うと置いてけぼりを食らってボロボロの状態で出てきたフウカとボムースを迎えに歩き出した──────

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