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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『嗤うもの』
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5章 20 会戦~光と闇~

幼女2人が見つめ合うのを初老の老人が見つめる異様な光景。決して遊び場でオモチャの取り合いをしている訳ではなく、戦場でこれから命の取り合いをしようとしていた


「黙ってないで何とか言ったら?それともボクにビビって言葉も出ない?」


挑発するように釣竿を傾け、糸の先に付いている仕掛けをマルネスの前でブランブランと動かす。食いついたら面白いなとクスッと笑うとようやくマルネスが顔を上げた


《んん?何だ・・・不快な臭いがすると思ったらお主か・・・》


「ええ!?漁から戻ってすぐ来たから・・・スンスン・・・ねえお爺ちゃん、臭う?」


「おじい・・・いえ、そんな事はありませんが・・・」


「でしょ!?魔族って鼻がおかしいんじゃない!?変な格好してさあ・・・何それ?」


マルネスは格好をバカにされ、一度自らのドレスを見てみる。胸があれば谷間も見えるがスカスカな襟元、長い脚なら映えるスカートも、寸法を間違えたかのようにすっぽりと脚を全て隠してなお余り地面を引き摺っている


《・・・チッ、これも第二夫人の存在が・・・忌々しい》


ニーナに対抗心を燃やすばかりに着た事もないドレスをチョイスしたのが間違いであった。似合う似合わない以前の問題で採寸が大人バージョン仕様だ


《それよりもさっきから目の前でブラブラさせているコレをどうにかせい・・・妙に腹が立つ》


目の前で行ったり来たりしている糸の先に付いている針が癪に障る。掴もうとすると逃げる糸にブチ切れ寸前となる


「はあ?そんな事も知らないの?おっくれってるー」


《・・・フ、フン、知っておるわ!それはあの・・・ほら・・・!船!船の道具だ!その針で船を引っ掛けて引っ張る・・・ぬ?》


クリオーネに行った時にテノスが乗っていた船を思い出し言ってみるも、腹を抱えての大爆笑を献上してしまう


《むう!そんなものどうでもよい!天族が何をしにここに来た?》


「ヒーヒー・・・船を・・・釣竿で・・・」


《おい!!》


笑い転げるテノスをしばらく待つ時間が続く。そして、ようやく立ち上がったテノスは何かをブツブツ唱えてマルネスの発言を忘れ去るように努めた


《・・・》


「烏賊蛸真鯛石鯛鮭鰹鮪・・・フー・・・殺す気か?」


《当然だ!》


マルネスの両手に黒い魔力が集まる。そして、目に涙が少し溜まっていた


「怒るなよ、これくらいで・・・これだから魔族は・・・」


《で!何しに来たのだ!》


「バースヘイムが窮地と聞いたから・・・守り神の出番でしょ?」


《守り神とは笑わせてくれる。天族はいつから人の世に蔓延るようになった?》


「蔓延るとは言うねぇ・・・先に蔓延ったのはそっちだろ?」


《そうかのう・・・まあいいわい、で、その守り神とやらはこれからどうするつもりだ?》


「決まってるよね?外来種は退治しないとね・・・っとその前に」


テノスは振り返り、レーズンの元へ。そして、一言『預かっといて』と言うと釣竿をレーズンに押し付けた


困惑するレーズンだったが、これから何が行われるか察知した為に釣竿を大事そうに抱えて少しその場から後退る


手ぶらになったテノスは準備運動をして身体をほぐすと元の位置に戻った


「お待たせー、さあ、やろうか」


《なんともまあ気が抜けるのう・・・まあ、よい・・・お主には感謝しておるでな》


「感謝?」


《そこの(しお)れたガキが妾の旦那に不意打ちを食らわせようとしおってな・・・あんなノロノロの魔法なぞ当たる訳も無いのだが、その行為にイラッとしてな・・・危うく滅するところだったわい》


「なっ!?『炎帝王』を受けて生きておるだと!?」


《ガキィ・・・話を聞け。当たる訳が無いと言っておろうが》


マルネスはまだ許した訳では無いとレーズンを睨みつける。戦って死ぬのは悔いはなかったが、ついうっかり的に殺されそうになったと知り生唾を飲んだ


「ふうん・・・殺す気はなかったけど、怒りに任せて殺しちゃいそうになっちゃったか・・・これだから魔族は・・・存在するに値しない・・・」


ブツブツとテノスは言うと表情はガラリと変わり、身体が光り輝く。マルネスの黒魔法からレーズンを守った光と同じであり、その輝きにマルネスは眉を顰める


《フン、人の創り出す光とはやはり違うのう・・・目に悪そうだ、消し去ってくれよう》


「光を闇で消せると思ってるの?魚が人を釣るくらいありえないよ!」


テノスは突進すると咄嗟に手を出したマルネスの手を弾き飛ばす。そのまま痛みで顔を歪めるマルネスの前で屈むと両手で腹部を諸手突きで吹き飛ばした


《ぐぬ・・・がっ!》


マルネスは吹き飛ばされながら地面に足を伸ばし摩擦で勢いを殺すが、止まった瞬間に目の前にはテノスが現れる。片膝をついた状態のマルネスの膝にテノスが片足を乗せるともう片方の足で回し蹴りを放った


顔面に蹴りを食らい横に吹き飛びそうになるもテノスが乗っている膝は地面に強力に押さえつけられ衝撃を逃がす事が出来ない。更に蹴りを放った足を戻すがてらに踵で一撃を食らい意識が飛びそうになる


「ほらほら、まだだよ」


何度も何度も行き来する蹴り足・・・その度にマルネスは血反吐を吐く


逃げようにも押さえつけられている膝はピクリとも動かず、拳に魔力を込めて膝に乗っている足を撃ち抜こうとするとようやくテノスは飛び退いた


《がっ・・・はっ・・・》


「いやー、いい感じにブサイクになったね。もっともっとぶっ叩いてフグのようにしてあげるね・・・フグは毒を持ってるから気を付けて捌かないと・・・さあ、行くよ」


休む間もなく攻め立てるテノス。マルネスは応戦するも黒魔法は光に触れると消えてしまいテノスには届かない。放っても消え、拳に込めてもテノスの身体に届く前に消えてしまう。打つ手がないマルネスはサンドバッグ状態になってしまっていた


「手応えないなー。まっ、所詮は魔族・・・こんなもんか」


一段と強く蹴り上げるとマルネスの身体は空高く舞い上がる。テノスはその姿を下から見上げ手のひらをマルネスに向けた


「・・・やり過ぎ・・・かな?まだ時期尚早とか言ってたっけ?」


テノスが輝き始めた手を引っ込めると、マルネスは気を失っているのかそのまま地面に落下した。鼻歌交じりに落下地点に行くと倒れていたマルネスが突然ガバッと起き上がり、拳を放ってくる


それを難なく腕を掴んで防いだテノスは腕を掴んだままマルネスの背後に回り腕を捻り上げた


「活きがいいなあ・・・まるで釣り上げられた直後に船の上でピチピチと跳ねる魚みたいだ・・・大人しくさせないと・・・ね!」


《ぐがああああああっ!!》


テノスは更に腕を捻ると乾いた音が周囲に響く。マルネスの腕はあらぬ方向へと曲がり、絶叫が響き渡る


《うるさ・・・!!》


痛みで叫ぶマルネスを蹴り倒そうとした瞬間、テノスは別の方角を見た後でその場から瞬時に飛び退いた。額からは冷や汗を流し、その方向を見たまま動きを止める


「ちょっと・・・やり過ぎちゃったかな・・・」


テノスは額の汗を拭うとうずくまるマルネスをチラリと見て踵を返す


そして、レーズンの所まで戻ると無言で手を出した


「は?・・・え?」


「返してよ・・・釣竿」


「ああっ!はい!ただいま」


呆気に取られていたレーズンはテノスの言葉で我に返り、慌てて釣竿をテノスに渡した


「ありがと。あー、もう抵抗する気力も残ってないと思うから、後は好きにして。魔法得意なんでしょ?遠くからバンバン打っちゃえば苦もなく殺せると思うよ?ただ・・・」


「ただ?」


「こわーいお兄さんには気を付けて」


「え?」


レーズンがテノスの視線の先を追うと、そこには刀を持った男、クオン・ケルベロスがこちらを見ていた。表情は遠くて分からないが、見た瞬間から汗が止まらず背筋が凍る


「・・・あ・・・あ・・・」


「ヒー、怖い怖い・・・後はミンが何とかするでしょっ!じゃっ!」


「あ?え?テノス様?」


テノスは役目は果たしたと言わんばかりにクオンがいる方向とは逆の方向に歩き出す。レーズンが呼び止めようとするが、手をヒラヒラと振りそのまま歩いて行ってしまった


残されたレーズンはうずくまるマルネスとまだこちらを見ているクオンを交互に眺め、どうするべきかと頭を悩ますのであった──────

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