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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『嗤うもの』
145/160

5章 19 会戦~魔人シンとコジロー、時々~

一方その頃・・・五魔将テギニスと対峙するシンとコジロー


コジローは拾い上げた核をカーラに渡して介抱し、シンは数本の剣を操りテギニスと戦っていた


《逃げるなだと?あれはファスト様に・・・ケッ!まあいい・・・今度はたっぷり時間がある・・・楽しもうぜ》


「そいつは良かった・・・君が生きていると知ってから気が気じゃなくてね・・・あの時・・・本気で潰しとけば良かった・・・ってね」


野原しんのすけ操る剣がテギニスの周囲を飛び交う。それでもテギニスは余裕の表情を崩さない


《本気?これが?今日はあの雷女はいねえのか?まだあいつの方が・・・》


「彼女には見せたくなかったからね・・・私を知れば嫉妬深い彼女の事だ・・・数日は目も合わせてくれないだろう・・・」


《あ?》


シンは微笑むと姿を変える。それは魔族が身体に魔力を込めた時のように鱗に覆われる訳でもなく、肌の色が薄暗く染まっただけ・・・しかしその変貌を見てテギニスの顔色は変わった


《てめえ・・・魔人か?》


テギニスは見た事がある。魔族は魔力を込めると肌自体が変質する。その魔族とは違い、魔族と人が交わる事によって生まれた魔族とも人とも言えぬ存在・・・魔人は肌の色が変わる


《久しぶりだよ・・・魔力を解放するのは・・・本当・・・久しぶりだ》


感慨深げにシンが言うと操っていた剣をテギニスに向けて放つ


テギニスは舌打ちし煩わしそうに次々と手で跳ね除けるが1本の剣がテギニスの太ももを貫いた


《ぐぁっ!・・・なっ!?》


《届かないと思ったかい?魔人如きじゃ魔族に?取るに足らないと思ったかい?人が混じった存在など》


《ぐぅ・・・てめえ・・・》


《気付かないかい?魔人である私がこの能力を使っているという事実に》


《能力?・・・魔人は魔族と人の・・・まさか!?》


《試してみようじゃないか・・・単なる魔族の君と()()()()()の魔人である私・・・どちらが強いかを》


《ありえねえ・・・てめえがファスト様の・・・》


《ありえるんだよ・・・『魔剣乱舞』》


テギニスの周囲を飛び交っていた剣が更に速度を上げる。今度はテギニスも警戒し太ももに刺さった剣を抜くと構えをとる


魔力が込められていなければ魔族には効かない。更に魔族が身体に込めている魔力量より少なくても剣は魔族の肌を貫く事は出来ない。太ももに深く突き刺さった事実は、シンの操る剣が相当な魔力を込めてある事を示していた


《しゃらくせえ!まとめてかかって来やがれ!》


《言われなくとも》


剣が舞う


そして、剣がテギニスとの距離を縮めると肉体を削ぎ始める


《いでぇ!えっ!?ちょっ!・・・待て!聞いてな・・・》


充分に魔力を込めて待ち構えていたテギニスだったが、予想以上に剣に魔力が込められており、弾き返す事が出来ない。血飛沫を上げながら必死に藻掻くがシンは容赦なくテギニスを削り続ける


《言ったろ?今度は逃がさないと》


亀のように丸まるテギニス。少し離れて見ていたコジローはシンの圧倒的な強さに驚きを隠せなかった




「・・・強い・・・」


コジローとムサシ2人がかりでも手傷を負わせる程度・・・しかも本気を出していないテギニス相手にだ。そのテギニスを圧倒するシンを見てコジローが呟くと腕の中で気を失っていたカーラが意識を取り戻す


《・・・不味い・・・ですね・・・》


「だ、大丈夫なのか?・・・その・・・器は・・・」


《テギニスは五魔将の中では弱かった・・・それはテギニス自身の話・・・奴の魔技は・・・》


コジローの心配を無視してカーラは言葉を続ける。クオンに頼まれてファスト達を監視している中、テギニスが魔技を使っている姿も当然見ていた。その魔技は直接攻撃するものではなく、どちらかと言えばチリやラージが得意とする能力であった


「え?どんな能力なんだい?」


《・・・『造形』・・・魔力を形にする能力・・・ゴーレムなどの疑似核を埋め込み操作するのではなく・・・自分の魔力をそのまま形造る・・・そして・・・》


「そして?」


《もう1つの魔技・・・『伝糸』・・・魔力を糸のように伸ばし相手に何かを伝えたり、強化すればその糸で攻撃する事も可能・・・でも奴の使い方は・・・》


カーラが指を指す。コジローは目を細めてその方向を見つめると丸まっているテギニスの後ろからかなりの数の魔力で出来た糸が伸びて地面に突き刺さっていた


「あれは・・・」


《五魔将テギニスは弱い・・・でも頭はそこまで弱くない・・・ここに来るのに何の準備もしてない・・・って事はないはずです》


カーラが言い終えた瞬間、テギニスから出ている糸の先・・・地面から次々と獣を象った魔力の塊が現れる。その数は数十体おり、様々な獣を象っていた


「なっ!?虎にライオン・・・豹に狼?蛇まで・・・あれを全部あいつが・・・」


《創ったのでしょう。同じ獣にすればまだ見映えが良いと思うのですが・・・》


「そこ!?」


《動きますよ》


「くっ・・・俺も助けに・・・1人で大丈夫かい?」


《お気遣い無用です・・・が、感謝します・・・あのままでしたら私は消えていたでしょう》


無表情のカーラが微笑みながら言うと、コジローは顔を真っ赤にして視線を逸らす。数多の恋人を持つコジローだが、不意打ちには弱かった


「・・・行ってくる・・・」


ここでいつもなら甘い一言でも囁くコジローであったが、赤面した顔を見られまいと顔を背けたままカーラから手を離し立ち上がると『影法師』の柄に手を掛けた


『お気を付けなさい・・・あの獣達は魔力の塊・・・食らえば即死です』


「・・・ああ・・・行ってくるぜ、ハニー」


コジローは頷くと振り返らずにそのまま駆け出した




シンが異変に気付いた時には時すでに遅く、魔力の獣が姿を現した後だった。テギニスへの攻撃を一旦止め、間合いを取り警戒していると蹲っていたテギニスが立ち上がる


《まさかファスト様に息子がいたとはな・・・さすがに強え・・・だが、で?って感じだ》


テギニスはほくそ笑み獣達を操る。両手の指から出る魔力の糸が踊るとそれに合わせて獣達がシンの前に躍り出た


《魔力の塊?なるほど・・・前に去り際に出したのはコレだったのか・・・》


バースヘイム王国王都リメガンタルの街の前でテギニスと戦い、窮地に現れたボムースがテギニスを吹き飛ばした後、突如現れた巨大な魔力の獣・・・その獣の正体が分かり納得する


《へっ・・・ファスト様が居なくなり、魔の世に戻る術を失った俺に降って湧いた好機・・・カーラ・キューブリックの核を奪えば帰れる・・・逃しゃしねえ・・・》


《それは好都合・・・私も逃がす気はない》


戻した剣を背後に浮かせたシン。その言葉に呼応するようにいくつもの剣が獣に向かって放たれた


次々と獣を斬り裂く剣が役目を終えて元のシンの背後に戻る。しかし、斬り裂かれても何ら動揺した様子を見せないテギニスを見て眉を顰める


《満足したか?じゃあ、始めるか》


《なに?》


不敵に笑うテギニスが『伝糸』を使い魔力を送ると、獣達はすぐに元の姿に戻る


《魔力を斬って勝った気か?》


実体のあるゴーレムと違いテギニスの操る獣は魔力の塊。急所なども存在する訳もなく、また斬り裂いても今のように魔力を流せばすぐに戻ってしまう


《困ったね・・・意外と厄介だ》


テギニスはこの能力の組み合わせに絶対の自信を持っていた。『造形』という何の役にも立たない能力を持って生まれ、上級魔族であるにも関わらず普通の魔族並に暮らしていた日々・・・強い魔族に会わずに済むよう目立った行動は避け生きていた。たまたま『造形』を使い魔獣を象っていた所をファストに見出されファストの兵隊となった。それから長い年月が経過した頃、アモンの禁忌により同じ魔族に襲われる危険はなくなり、ファストの兵隊という事もあり自由を謳歌する。『造形』で色々なものを象り褒められもした。それから程なくしてファストの実験が始まり『伝糸』を得る


『伝糸』・・・初めは何故こんな能力を?と思っていた。魔力を糸状に伸ばし、伸ばした先の相手に思った事を伝える事が出来るだけの能力・・・しかし、原初の八魔『操』のファストは知っていたのだ。この能力とテギニスの持つ『造形』は相性がいいという事を


魔力を使って『造形』で象り、『伝糸』で操る・・・ただ魔獣を象るだけであった『造形』が『伝糸』の能力を得る事により強力な力を得たのだ


魔力が続く限り意のままに操れる獣を生み出せる能力となって


テギニスは魔獣達と共にリメガンタルを攻めた時、シーフとテノスに敵わないと思うや否や逃げ出した。それはその時に用意していた魔力で作った獣の数が足りないと判断しての敵わないであり、決して自身の能力が劣っているとは考えていなかった


逃げ出した後、ファストとの主従が解かれ、ファストが死んだ事を悟ったテギニスは虎視眈々と狙っていた。魔の世に帰るチャンスを・・・ファストの仇を討つチャンスを


ようやく巡って来たチャンス・・・逃しはしないと創り続けていた獣を放つ


まずは帰る術を確保し、そして、ファストを討ったであろうマルネスとクオンを討つ為に


《嬲り殺してるよ!さあ踊れ!!・・・ん?》


テギニスが大きく手を広げると獣達が動き出す。その瞬間にテギニスの背後から刀が地面より突き出し背中に突き刺さる


《コジロー!》


「やっぱり通らないか・・・なら・・・『剛腕』!!」


地面に『影法師』を突き刺した状態でコジローの能力『剛腕』を発動する。服が張り裂けるほど腕は肥大化し刀を押し込む力は上がるが、それでもテギニスの肌は突き破れない


シンが逃げるよう言おうとするが、コジローの瞳を見てその口を閉じた


《・・・死ぬなよ・・・》


「待ってる人が大勢いるんでね・・・死ぬつもりはありませんよ!」


コジローの答えに満足したのか、シンは微笑んだ後に目の前の敵、テギニスに集中する


《お前の作戦に乗ろう!『魔剣乱舞』!》


魔力をいくら斬ってもダメなら本体・・・テギニスに狙いを定めて剣を放つシン


《喰らえ!魔獣共!!》


テギニスはそれに対抗するように『伝糸』を伝い、獣を操る


剣は八本、獣は四十


圧倒的な数の差に剣はこと如く獣に撃ち落とされる


《数が多過ぎる・・・かと言って魔力の塊を斬った所で・・・》


「シン様!あの糸を狙うのは?」


《・・・さすがコジロー、誰でも思い付きそうな事を大発見!みたいに言うその童心に男も女も惚れると聞いていたが・・・》


「男はちょっと・・・」


シンは狙いを変えてテギニスから出ている『伝糸』に向けて剣を放つ。当然テギニスもその行動は予想していたのか、剣を迎え撃つが、隙間をついて二本の『伝糸』の切断に成功した


「これで・・・」


《バカが。切れたら繋ぎ直せばいい》


『伝糸』が切られた獣は動きを止めるが、再びテギニスが『伝糸』を繋げるとすぐに動き出す


「・・・ちょっとズルくありません?」


《ズルいな・・・事前に創っておいたものだから魔力の消費もあまりしていないだろうし、あの糸もそこまで魔力を消費しているように思えない・・・魔力切れを狙うのは難しそうだな・・・》


「せめて俺の攻撃が効けば・・・」


コジローの刀が通ればシンが囮となり先程と同じように背後からテギニス本体を討てる。しかし、コジローの攻撃は『剛腕』を使用してもテギニスには効かない為に無意味であった


《役割を替えるか・・・私が奴を・・・コジロー、君が獣を・・・》


「・・・それしかないですね。『影法師』!!」


コジローが『剛腕』を使用したまま刀を伸ばす。その刀身はまるで生き物のように這いずり獣達へと向かっていく


シンは八本の剣を四本は地中に、四本は空中へと放った。空と地中からの挟撃・・・四十もの獣を操り、コジローからの攻撃も加われば決まる可能性は高いと踏んでいた


しかし、2人は気付くべきだった


テギニスは獣達を操っているものの2人を本格的に攻撃していなかった事に


次々と『伝糸』を斬っていくコジロー


新たに『伝糸』を出して繋ぎ直すテギニスの元に空から地中からとシンの操る剣が迫る


繋ぎ直すのに集中する隙だらけのテギニスにシンはそのまま八本の剣を突き刺した


シンが八本の剣を放ったのはテギニスも気付いていたはず・・・それなのに無警戒なテギニスに違和感を覚えたが時すでに遅かった


《・・・痛えな・・・だが、これで終わりだ》


《まさか!?》


シンが慌てて剣を戻そうとするが、剣は操作不能・・・それもそのはずテギニスに突き刺さった剣にはテギニスから出る糸が繋がっていた


《唯一俺の身体を傷付ける可能性があったのはこの武器・・・それさえ奪っちまえばお前らは終わりだ》


テギニスが警戒していたのはシンの操る剣のみ。それを奪い取る為にあえて隙を作り攻撃させた。獣と同様に剣を操るテギニス。更にコジローが斬った何本かの『伝糸』もすぐに繋ぎ直し、ほくそ笑む


「シン様・・・剣に繋がっている糸を斬れば操れますか?」


《・・・分からん。私の込めた魔力が上書きされて残っていなければ操れない・・・》


「くっ・・・」


唯一の有効手段を失った2人。迫る獣達と剣を前にコジローはシンの前に立つと『影法師』を構えた


「シン様は救援を!ここは俺が食い止めます!」


《誰に救援を求めろと?》


「それは・・・ムサシ・・・ムサシは生きているはずです!アイツはこんなとこでくたばる玉じゃない!」


『龍ノ顎』を持つムサシならテギニスにも有効であると考え、見失った親友を呼んで来るようシンに言うコジロー。しかし、シンは静かに首を振る


《たとえムサシが生きていたとしても・・・探してくる間に君の命は・・・》


「・・・ここでコイツを止められなければ・・・もっと犠牲が出ます・・・ここで2人が無駄死してしまっては・・・」


《無駄死?ムサシが来れば何とかなるのなら、君がいる時点で何とかなるだろ?私は君達2人をバースヘイムに出向させたのは2()()がどこに出しても恥ずかしくない強き者だからだよ。同じくらいにね》


「しかし!」


《私がしばらく獣を止める・・・コジロー・・・君はその間に奴を仕留める算段を立ててくれ・・・期待しているよ》


「そんな・・・シン様!」


シンは迫り来る獣に単身突っ込んで行く。剣は奪われ、素手での応戦となるが、四十の獣相手に善戦していた。カーラが言っていた『食らえば即死』・・・その一撃を受けても耐えてみせている


「・・・シン様・・・何者?・・・いや、それよりもどうする・・・また同じように背後から・・・でも・・・」


徐々にシンの動きが鈍くなっていくのが目に見え、コジローは焦り出していた。シンが引き付けている間にテギニスを討たなくてはならない・・・だが、その手段をコジローは持っていない。どうするか迷って出した答えは先程と同じように背後からの隙を突く事


「ええい!ままよ!『影・・・』」


《ダメよ》


「え?」


耳元で声がしてコジローは振り上げた刀を止めて振り返る。しかし、そこには誰もおらず、離れた場所で膝をつくカーラが見えるだけだった


「幻聴?いや・・・でも確かに・・・しかもあの声は・・・」


聞こえてきた声は離れた場所にいるカーラの声。しかし、かなり離れており、耳元で聞こえるような状況では無い。不思議に思うが、幻聴であったと片付けて再び振り上げようとするとまた声が聞こえる


《聞かん坊ね・・・同じ事を繰り返しても意味はない・・・もしテギニスに通用する一撃を放ちたいなら・・・その武器を曲げる為に使用している魔力と腕を誇張する程の魔力を全て刀に込めるべき》


「!・・・ハニー・・・どうやって・・・ハッ!『扉』?」


《殺しますよ?・・・ただ坊やは武器に魔力を込めて伸ばせばいいだけ・・・さあ、早くしないと彼が死んでしまう・・・》


声を通すだけの極小の扉・・・それを用いてカーラはコジローに囁く。コジローが見渡すが見つけられずキョロキョロしていると、カーラは遠くからシンを指さす


「ああ・・・だけど伸ばしただけでは躱されて・・・」


コジローが視線をシンに移すとカーラの言った通りに獣に押されているシンの姿があった。まるでピンポン玉のように弾き飛ばされるシン・・・何とか体勢を立て直し回し蹴りで一体の頭を蹴り抜くが、すぐに頭は元に戻る


《・・・やってられないね・・・》


《粘るじゃないか・・・ではこれはどうかな?》


テギニスはシンから奪った剣を操りシンに向けて放つ


八本の剣は先程テギニスを削ったようにシンを削り続ける


「シン様!!くそっ・・・」


もう後がないコジローは再度カーラの方に振り返る。離れた場所でもはっきりと目と目が合ったのが分かった


「ええい・・・南無三!」


コジローは『影法師』をテギニスに向けて構えると意識を集中する。残りの魔力を全て刀に込める・・・『剛腕』に向ける魔力も全て・・・


「これで・・・後は・・・」


獣と剣を操るのに集中しているテギニスに狙いを定め深呼吸すると覚悟を決めた


「・・・食らえ!『影法師』!!」


コジローの言葉に反応するように伸びる『影法師』


グングンと伸びる刀に集中していたとは言えテギニスが気付かぬはずもなく、チラリと向かい来る刀を見て笑みを浮かべた


《はっ!当たるとでも思ってんのか?》


テギニスが少し動いただけで刀は無常にも通り過ぎる。それならばとコジローが刀を曲げようとしたその時


《そのままよ・・・坊や》


「!?・・・うおおおおぉ!!!」


その声に従い通り過ぎても伸ばし続けるコジロー


すると何故か曲げてもいないのに刀はテギニスの背中を突き破り正面から姿を覗かせる


《べギョッ!・・・なっ、なぜ・・・》


胸から出て来た刀を見てテギニスは驚きコジローを見た。だが、コジローすらその状況に驚きを隠せなかった


「あれ・・・なんで・・・」


《武器に込めた魔力を曲げる事に割けばテギニスの身体を突き破るのは難しかったでしょうね・・・でも、真っ直ぐに伸ばすだけならギリギリ通す・・・本当ギリギリでしたけどね》


「もしかして・・・」


コジローが気付き、視線をテギニスの後ろに移す。テギニスも突き刺されたまま視線を後方へと向けた


《・・・カーラ・・・キューブリック!!!》


刀はテギニスの背後にある『扉』からその刀身を覗かせていた。躱したはずの刀はその先にあるテギニスの背後に出口がある『扉』を通過し見事にテギニスを捉えていたのだ。完全に油断していたテギニスが叫びカーラを睨みつけるが、自身の身体に起きた変化に気付き貫かれた胸を見つめる


《まさか・・・そんな・・・》


魔力が抜けていく


コジローの刀は的確にテギニスの核を貫いていた


呆然とするテギニスを見てシンは傷付いた身体を動かし、剣に繋げられた『伝糸』を切る。そして、再び剣に魔力を流すと動きを止めた獣達を一斉に破壊し始めた


コジローは刀を元に戻し、魔力切れ寸前の身体を何とか動かしシンに加勢すべく走り出そうとした・・・その時・・・


《そうかよ・・・ハア・・・せっかく手に入れたのにな・・・》


テギニスは呟くと獣に繋げた全ての『伝糸』を自ら外す。そして、5本の『伝糸』を地面に向けて出すと地面が盛り上がり、中から新たな魔力の塊が姿を現す


「・・・人型?」


《・・・これは・・・》


シンはその内の一体に見覚えがあった。シントを襲っていた五魔将の一体、ヘラカト


《・・・ファスト様に残りの五魔将・・・》


「・・・」


カーラが耳元で呟くとそれを聞いたコジローが顔をしかめる。魔族にさして興味がある訳でもなく、逆に魔族だからと差別する気もない。だが、人が供養の為に故人を模すような事をテギニスがやった事を知ると複雑な気持ちになってしまった


《坊や?》


「いや・・・魔族でも人みたいな事するんだなって・・・」


《で?共に死んであげると言うのですか?》


「へ?いやいやそんな・・・」


《テギニスは核を傷付けられ最後の力を振り絞っています。長くは無いでしょう・・・死にたくなければこの場からすぐに立ち去る事です》


「・・・アレが最後の力じゃなければ裸足で逃げ出したんだけどね・・・」


コジローはため息をつくと『影法師』を持つ手に力を込める。渾身の力を込めて放った一撃の代償は魔力の枯渇・・・それでもテギニスに向けて歩み出す


《コジロー・・・もうよせ・・・距離を置くんだ・・・》


「シン様・・・アイツは最後の力を振り絞って亡き仲間を出したんですよ?これに応えなきゃ男じゃない・・・」


《死んで待ってる女を泣かせる男は?》


「男じゃない・・・だから勝って・・・あの子に『坊や』じゃなくて『コジローはぁん』と言わせてみせます!」


《それは無理だろう》


「・・・とにかく行きます!!!」


冷静なシンのツッコミに耐えきれず、コジローはテギニスに向けて駆け出した


残りの魔力は少ない。テギニスが出したファストと五魔将を相手にしては負けると踏んだコジローは一直線にテギニスを目指す


《ガハッハッ!逃げずに来るか!この五魔将とファスト様相手に!》


「五魔将もファストもない!俺の相手はお前だ!!」


コジローが飛ぶと当然の如く五魔将とファストが迎え撃つ為に飛んだ


その瞬間を見計らい『影法師』を伸ばすと身体を中心にグルグルと張り巡らす


《今更殻に閉じこもる気か!?》


「さあ・・・な」


《バカが!魔力の塊が人の武器なんぞに怯むかよ!!》


完全に姿が見えなくなったコジロー。『影法師』は刃の盾となるが、テギニスは躊躇なくそのまま攻撃を繰り出した


ファストが、五魔将が一斉に『影法師』を撃ち抜き破壊する。中には『影法師』こど撃ち抜かれたコジローの姿が・・・ない


《ああ!?》


そこで初めて『影法師』の刃の盾から伸びる刀身に気が付いた


《てめぇ!!》


コジローは『影法師』で刃の盾を作り出し、魔力の塊であるファスト達にわざと攻撃させる。そして、攻撃させた事により固定された場所から更に『影法師』を伸ばして迫る・・・テギニスへと


《クソガキがぁ!!》


「もう遅い!!」


テギニスが慌ててファスト達を刃の盾から離そうとするが、『影法師』の柄を持ち、猛スピードで近寄るコジローの方が一歩早い


柄を持つ反対の手で手刀を作り、先程空けた胸の刀傷に向けて放つ


刀ですら弾かれていたが傷口にはすんなりと入り込み、コジローは指先で何かが砕けるのを感じた。恐らく既に傷付いていた核・・・そう確信して視線を上げるとテギニスと目が合った


《・・・俺は・・・強かったか?》


「・・・情けない話、俺一人じゃどうにもならないくらい強かった」


《そうか・・・俺は強かったか・・・へっ、当たり前だ・・・俺はファスト様側近、五魔将の1人・・・テギニス様・・・だからな》


テギニスは満足気に笑うと『伝糸』の先の五体を見つめ、そっと目を閉じるとその五体と共に消えて行く


「結局!お前は何がしたかったんだよ!」


《・・・まだ遊び足りなかったんだ・・・みんなと・・・もっと・・・》


五魔将最後の一体、テギニスは最後は寂しそうに笑いコジローを見つめると完全にこの世から姿を消した。コジローの手にはテギニスの体内から抜き取った『伝糸』の核・・・それを強く握り締めると天を仰いだ


「もっと違う遊びがあるだろうよ・・・もし・・・」


違う形で会えたなら・・・そう続けるつもりだったが、バースヘイム王国の事を考えると口を噤んだ。テギニスはバースヘイム王国にとっては仲間を殺した憎き魔族。そう思うと口には出来なかった


「コジロー・・・お見事」


「シン様・・・あれ?日焼けが戻ってる!?」


「日焼けじゃない・・・おいおい説明する。それよりも・・・」


「あっ!ハニー!!」


「ハニー?」


「いや、カーラは?」


気付き見渡すがカーラの姿はどこにも見当たらなかった。彼女がいなければ結果は逆になっていた・・・そう考えるのはシンも同じで何も言わずに消えたカーラの居た場所を見てため息をつく


「さて・・・本当の敵は何だろうな?コジロー」


「本当の敵?シン様・・・何を・・・」


「・・・いや、今は語るまい。それよりも他の場所で戦闘はまだ続いてる。急ごう」


「え?ちょっと・・・シン様!?思ったより身体がガタガタなんですが・・・」


足早にムサシ達が戦っていた場所に歩き出すシンに、コジローがついて行こうと歩き始めるが身体をフラつかせる。手を伸ばし、シンに待ったをかけるがその時耳元で声が聞こえた


《フフ・・・上出来よ、コジローはぁん》


「え゛っ!?」


振り向くとそこには誰も居ない。しかし、コジローは必死に見つけようと目を見開き探し続けた


「コジロー?何をしている?」


「いや!今・・・カーラが『コジローはぁん』って!!」


「・・・やはり君は先に王都に戻っていたまえ・・・」


「いやいや、本当です!そんな目で見つめないで下さい!本当ですって!」


憐れむような目で見つめられ、必死に説明するがシンは戻って来てコジローの肩に手を乗せ首を振るだけで後は何も言わなかった


残念な子認定されたコジローは信じさせるのは無理だと諦め、俯いて1人呟く


「・・・次会った時は・・・」


「・・・王都はあっちだからな」


「大丈夫ですって!急ぎましょう!ムサシが心配です!」


「君の頭の方が私は心配だよ・・・」


切り替えてボロボロの身体をむち打ち走り出すコジロー。その後ろ姿を見て頼もしいやら不安やら複雑な心境のシンは遅れまいと走り出す


こうして五魔将最後の生き残り、テギニスはこの世を去った──────




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