5章 18 会戦~嵐の前の~
ボムースの参戦によりテンションが上がったシーフは筋肉質で大男のボムースと足を止めての殴り合いに興じていた
腹に一撃を加えれば、頭上に丸太が落ちてきたような一撃を食らい、顔面に回し蹴りを加えれば、足を掴まれ地面に向けて振り下ろされる
血だらけになりながら殴り蹴り合う2人をフウカは1歩引いた状態で呆れながら見つめていた
「なんなのぉ・・・これぇ・・・」
《ハッハー!やるじゃねえか!野良にしては!》
《逆に我輩はガッカリだ!原初の八魔が相手と聞いて勇んで来たものの・・・単なるモヤシではないか!》
《あんた・・・あっしらをなんだと思ってるんだい?》
《身長3mくらいで爆乳以外認めん!》
《あんたの趣味を聞いてんじゃないよ!》
シーフの怒りの一撃がボムースを上空へと打ち上げた。その一撃にフウカは内心拍手を送る
《ボーッとしてんじゃないよ!フウカ!やるよ!》
「もう少し見学をぉ・・・それにほらぁ、ボムちゃん戻って来たしぃ・・・」
フウカが上を指さすと雄叫びを上げながら落ちてくるボムースが目に入る
あまりの騒がしさにシーフは顔を顰めボムースに向けて手をかざした。すると落ちてくるボムースの周りの風が暴れ始め落下を止める
《お?おお!?》
荒ぶる風が空中でボムースをタコ殴り。シーフは抵抗出来ずにいるボムースを見て頷くと爽やかな笑顔をフウカに向けた
《さあ、やろうか?》
「うぅ・・・」
こんな事なら弟子入りしなければ良かったと思いながら、動かないと問答無用に吹き飛ばされるのを知っているフウカは重い腰を上げ構える。だが、その瞬間、上空から激しい爆発音が鳴り響いた
《なに!?》
《ボムース・ヴィクトリー!!》
《何故名前!?》
シーフが見上げると風魔法を魔技『爆撃』で吹き飛ばし降りて来るボムースの姿が映った。そして、身体を回転させ落ちてくる位置を調整するとフウカの前で仁王立ちする
《師と戦いたくば我輩をセイ!!》
何となく苛立ったシーフは指先から小さな竜巻を創り出し、叫ぶボムースの額にぶち当てた。ボムースの身体は仰け反るも何とか耐えて持ち直す
《倒してからにセイ!!》
《途中から続けるなよ・・・普通言い直すだろ・・・》
2発目はさすがに耐えきれたなかったボムース。仰向けに大の字に倒れてしまう
「よくもぉ・・・よくもボムちゃんをぉ!!」
《いや、よく怒れるな・・・あっしなら邪魔っつって蹴飛ばしてるよ?》
倒れたボムースの頬を触り、涙ながらに怒るフウカを見て呆れるシーフ。フウカは倒れているボムースを飛び越えると一直線にシーフに攻め込んだ
《ほう?》
風を上手く利用し速度を上げるフウカにシーフが感心していると、間合いを詰めたフウカが低くしゃがみシーフの足を狙って蹴りを放つ
それをバク宙で躱すとそのまま間合いを取る為に後方へと飛び退いた
《逆上してるのか冷静なのか・・・まっ、どっちにしても多少は使いこなせてるみたいね。・・・うーん、じゃあ、こうしよう。あっしに一撃でも加えられたらフウカの勝ち・・・その前に魔力切れしたら・・・魔の世で追試の続きだ》
その言葉を聞いてフウカの背筋が凍った。魔の世での追試・・・それは他の者達より十倍の速度で歳を取る魔の訓練だった
「いやぁ・・・それだけはいやぁ!!!」
年頃の娘にとっては最も残酷な訓練方法にフウカは風を操りシーフとの距離を縮めて殴り掛かる
フウカの脳裏には妙にオッサン臭くなったアカネの姿が浮かんでいた
《おっ!いいね・・・だけど、甘ぇ》
突進からの連続攻撃・・・それを簡単に捌かれ、逆に一撃を食らう。絶対的な力関係の前にフウカは攻め手を欠いていた
猪突猛進に突撃を繰り返すフウカに、弟子の成長を噛み締めるシーフ。歳の事など気にした事の無いシーフにはフウカの必死さは伝わらなかった
捌いては吹き飛ばし、捌いては吹き飛ばしを繰り返す中、そろそろ魔力切れなのか動きが鈍くなったフウカに渾身の一撃を放つべくシーフが拳を振り上げたその瞬間・・・フウカの目がキラリと光る
「『凪』」
《ん?・・・なっ!?》
フウカが呟いた瞬間、2人の空間の風が止む
経験した事の無い事態に一瞬シーフが止まると、フウカの後ろから拳を振り上げるボムースが突進して来た
《隙あり!!奥義・・・フンヌ!!》
戸惑うシーフの頬にボムースの渾身の一撃が当たる。シーフはそのまま数m吹き飛ばされ、身体を地面に打ち付けた
「・・・風を操る事に関して右に出る者はいない師匠でも・・・風を止めるって発想はないかなぁ・・・って思ったら見事にハマったね・・・ところでボムちゃん・・・この作戦はアリかなナシかなぁ?」
《ナシであろうな!》
「だよねぇ・・・」
ボムースが倒れた時、シーフに聞こえないようにフウカは耳打ちしていた
『隙を作るからお願い』
その願いを聞いてボムースはフウカの『凪』により無風状態になって隙が出来たシーフに渾身の一撃を叩き込んだのだが・・・魔の世の追試は逃れられそうになかった
ゆらりと立ち上がるシーフ。顔は笑っているが目は笑ってはいなかった─────




