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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『嗤うもの』
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5章 17 会戦~参戦~

「老師!大丈夫ですか?」


『炎帝王』の爆風からレーズンの身を守るように覆いかぶさっていた魔法兵団の隊員が起き上がり尋ねると、レーズンは隊員に手を伸ばす。隊員はその手を取り、レーズンの意図を汲むと引っ張り起こすのを手伝った


「さすがに・・・やり過ぎたか?」


レーズンが立ち上がり見るとまだ土煙で視界は悪く、被害の詳細は不明だが、広範囲に被害が出ているのは疑いようもなかった


「しかし・・・良かったのでしょうか?その・・・」


「向こうが仕掛けてきたのだ。それに姫・・・女王陛下を攫った時点で死罪は確定的・・・ゲームなどと巫山戯た事を抜かすからこうなる」


「ですが・・・」


魔法を狙った場所にはムサシがいたのを隊員はこの目で見ていた。風魔法を使って狙いを定めたのはレーズンだが、土魔法で岩を創った隊員は責任の一端を感じていた。跡形もなく消え去った周辺を見る限り生きている可能性は低い


「・・・ムサシ殿には悪い事をした・・・しかし、勝てるかどうか分からぬ勝負を傍観しているつもりはない。我らがアレに勝てるのならばそれに越したことはなかったのだがな」


「アレ?・・・ですか?」


「・・・すまぬな・・・お主らの命まで・・・」


「いえ、それは元より覚悟の上・・・それよりもアレとは?」


「ほれ、アレだよ」


レーズンが杖を向けた先にゆらりと立ち上がる人影。すっかり存在を忘れていた隊員はその人影を見て小さく悲鳴を上げる


「かなりクオン・ケルベロスに依存している・・・それがいなくなった今・・・我らを食い散らかすだけで済むかどうか・・・」


「・・・と言うと・・・」


「バースヘイム・・・いや、大陸から人がいなくなるやも知れん・・・八つ当たりでな」


「・・・」


平然と言ってのけるレーズンに『何て事してくれたんだクソジジイ』と言いかけた隊員はグッと堪えて口を閉ざす。そして、視線をレーズンから再び人影の方に移すと身体が竦んで動けなくなってしまった


「あ・・・が・・・」


「想像以上だな・・・あれが原初の八魔・・・『黒』のマルネス・クロフィード・・・」


マルネスの足元に黒い花が咲き乱れ、周辺に黒い花びらが舞う


「これが・・・黒魔法・・・老師?」


「素晴らしい・・・どのようにしてあのような魔法を・・・ん?おお、すまぬ・・・全員この場から離れよ。逃げ切れるか分からぬが、ほんの少しでも私が足止めしよう」


「それでは老師が!」


「なーに、気にする事はない。屈しないと決めて臨んだのだ・・・その時に覚悟は出来ておる。黒魔法をもう少し堪能したかったが・・・仕方あるまい」


レーズンは隊員の肩にそっと手を乗せ微笑むとマルネスへと振り返る。黒い花びらが邪魔をして表情が見えない事が不気味さを更に増していた


一歩、また一歩とマルネスに近付くレーズン。それを見て隊員は目を閉じ頭を深々と下げると他の隊員達に撤退の指示を伝えた


「え・・・でも老師が・・・」


「その老師の功績を・・・誰が後世に伝える?老師の覚悟を無駄にするな!」


数多の弟子を持ち、国内外から賢者と言われているレーズン・・・新たな魔法の開発は他の追随を許さぬほど・・・レーズンの弟子として今やるべき事は何かと考え、隊員達は先程の隊員と同じく深々と頭を下げてその場から離れ始めた


「いい子達だ・・・さて、参ろうか・・・」


後方で動き始めた隊員達を見て呟くとレーズンは杖を構える。魔素が濃くなったとはいえ、『炎帝王』を完成させ放つ事に大分消費してしまった魔力の回復は充分とは言えない。それでも杖に魔力を込めて再びマルネスと対峙する


「どれ・・・試してみるか・・・」


レーズンがコツンと杖の先を地面に当てるとマルネスの周囲の土が盛り上がり先端を尖らせ襲いかかる。しかし、その獣の牙のような形をした魔法はマルネスに到達することは無かった


「むう・・・黒は無を司るとは聞いていたが・・・ここまでとは」


土魔法『土牙』は花びらに触れた部分が消え去り、瞬く間に消滅。土牙が当たった部分の花びらが消え去ったのならば少しは希望も見えたのだが、花びらは何事も無かったようにマルネスの周囲を変わらずに舞っていた


花びらの舞う奥でマルネスがこちらを見たのが分かる。表情は相変わらず見えないが、その瞬間にレーズンの額からは大量の冷や汗が出た


手が向けられ、同時に花びらがレーズンに向かってくる。避ける暇などなく、防ぐ術もない。ただ死を受け入れるしかないレーズンは自らの最期を彩る黒魔法を凝視した・・・が


「なっ!?・・・光?」


レーズンを光が包み込み、黒い花びらを溶かしていく


全ての花びらが消失するとレーズンの目の前に一人の少女が舞い降りる。ピチピチのウェットスーツを着込み、手には釣竿を持つその姿は場違いにも程があった


「かかってる獲物の横取りはご法度だけど、大物は協力して釣る時もあるから・・・良いよね?」


振り返りニッコリ笑うその顔は無邪気で幼さが残る


──────テノス・テターニア参戦──────






「あれ?確か・・・」


離れた場所から衝撃音が聞こえて振り向いた瞬間、迫り来る衝撃波に備えた後から記憶がない。もしかしたらここが噂のあの世なのかとコジローが周囲を見渡すと美人の鬼が1人・・・


《誰が鬼ですか?》


「・・・もしかしたら心の扉も開ける事が出来るのかい?」


《心というものがどこにあるか教えて頂ければ開いてみせますが?》


「やめておこう・・・どこと答えても死にそうだ」


美鬼の正体はカーラ。水魔法『水槍』で散々いたぶって来た・・・そして、衝撃波から守ってくれた相手だった。失っていた記憶を思い出し、辿ると衝撃波が来た瞬間にカーラが目の前に立ち、何かをしていた。その時はまさか自分を守ってくれているとは思わなかったが・・・


「挙式の準備をしないとな」


《挙式?死者を弔うのは葬式では?》


「助けておいて殺す気か?」


《殺す気はありません。ですが死んだら死んだで仕方のない事です・・・甘んじて怒られましょう》


「・・・随分俺の命が軽いようだけど・・・」


《ご不満ですか?しかしながら、見ず知らずの者が死ぬ事と主たるクオン様に怒られる事・・・比べようもないと思いますが・・・》


「そこは比べようよ!そして、普通なら圧勝だよ!」


《後者が?》


「前者!・・・ったく・・・って、そう言えばあの衝撃音は一体何が・・・」


コジローは全くなびかないカーラにため息をついた後、衝撃音がした方向を見た。すると遠くて正確には分からないが、巨大なクレーターのようなものが出来ている。そして、その場所は・・・


「ムサシ!?・・・え?何が・・・」


《我が主と共に消失致しました》


「は?え?・・・消失?」


コジローが聞き返すが、カーラは表情を変えずに佇むだけ。何度かムサシがいた場所とカーラを交互に見ると眉間に皺を寄せた


「どうやら・・・遊んでる場合じゃなさそうだ・・・」


《そうですね。私もそろそろ主の元に・・・》


「・・・気が合うな」


《気の所為です》


先程までの飄々とした様子は消え、秘刀『影法師』を構える。刀身を後ろに向け屈むその構えから突進してきて斬りつけて来るのだろうと判断したカーラはいつでも扉を展開出来るように手に魔力を込めた


「秘刀『影法師』・・・人が日に当たると影が出来る。日の角度で影は伸びたり縮んだり・・・」


《?・・・何を・・・》


「秘刀『影法師』の秘中の秘・・・ご覧あれ」


コジローが言い終えた瞬間、カーラの背後の地面が盛り上がる。すると刀が飛び出しカーラを貫いた


《なっ!?・・・くっ・・・》


「人が曲がれば当然影も曲がる・・・『影法師』に付与されている能力は『伸縮自在』じゃない・・・『自由自在』・・・故に()()・・・器は傷付けていないはずだ・・・大人しく投降してくれ」


『影法師』はカーラの身体の中心を貫くと地面に向かって垂直に刺さり固定される。刀身を身体の後ろに向けて構えていたのは『影法師』が伸びて地面に潜っていくのを見えなくする為だった。不意を付かれた形となったカーラが刀を抜こうと動くが思う様に動けない


「無駄だよ・・・俺は君を殺したくない。もう抵抗しないと約束してくれれば・・・」


《そう・・・殺しちゃダメだ・・・奪うんだよなぁ?》


コジローがどうにか刀から脱出しようと試みているのを見て説得しようとした時、どこからともなく声がする。聞き覚えのある声・・・だが、懐かしむような声ではなく、あまり良い思い出ではない声・・・


「お・・・お前・・・待て!!」


《グッ!》


コジローの制止する声を無視して声の主はカーラの背後に立つとそのまま背中からカーラを貫く。コジローの目にははっきりと映る・・・カーラを貫いた手が黒い玉を掴んでいるのを


「貴様!!!」


コジローはすぐさま『影法師』を戻し、カーラに駆け寄ると、背後にいた者は飛び退いた。倒れそうになるカーラを抱きとめ、見覚えのあるその者を睨みつける


《おいおい、そう睨むなよ。せっかく手助けしてやったのに・・・》


飛び退いた場所でカーラから抜き取った核を眺め薄ら笑いを浮かべていた


──────五魔将テギニス参戦──────


《これで・・・俺は俺の軍団を作り、この世界を牛耳ってやる・・・俺の能力とこのカーラ・キューブリックの能力でな!》


テギニスは嗤う。そして、手に持ったカーラの核を口に運ぼうとした


《はが?》


上を向き、大口を開けて核を迎え入れようとするが、手を離しても核は一向に落ちてこない。疑問に思い手を見るが核はなく、テギニスは頭の中で?を増産する


「石をぶつけたくらいでは壊れないとは思ったけど・・・飲み込まれるのを防ぐ為とはいえ、あまり気分のいいものじゃないね」


テギニスが核を持つ手を離した瞬間、横から石が飛んで来て核を弾き飛ばした。核は転々と地面に転がり、急いでコジローがそれを拾い上げる


《あっ!・・・てめえ・・・また邪魔しやがって!!》


「どうやら縁があるようだね・・・カーラ・キューブリックは今の敵だが・・・昔の敵から倒すのが礼儀と思ってね・・・コジロー!急ぎカーラに器を!」


コジローは頷き倒れているカーラに駆け寄る。そうはさせじとテギニスが襲いかかろうとするが、幾多の剣が行く手を阻む


《このっ!!》


「君の相手は私だ。次は逃げないでくれよ?」


──────シン・ウォール参戦──────





レーズンの放った『炎帝王』の爆風に逆らう事をせず、その爆風に乗って離れた場所に移動したフウカとシーフ


指導に近い戦いが延々と続けられ、身も心もボロボロに成り果てたフウカがついに倒れる


「人化の状態に手も足も出ないでどうすんだ?死んどくか?」


「うぅ・・・せめて後1年・・・いや、半年あればぁ・・・」


「あれば?」


「ギッタギッタのメッタメッタにしてやるぅ!」


「オッケ!追試だ・・・もう泣いても止めねえぞ》


人化を解いたシーフが両の拳を打ち付けニヤリと笑う


立ち上がりながら自分の言ったことを後悔するフウカはフラフラになりながらも何とか構えた


「もう泣きそぅ」


《3つ目だ!止まってる風を全て叩き起しな!風は集まり嵐となる!竜巻で相手を浮かすなんて序の口・・・相手も自分も自由自在に操れる程の嵐を起こせ!!》


シーフは問答無用と言わんばかりに両手を広げ叫んだ。すると彼女の周りには風が吹き荒れ嵐となる


立っているのもままならない状態でフウカは必死に耐えていたが、遂には自身の身体が浮き始めてしまう


「ヒィ!・・・ん!!」


完全に浮いてしまえばシーフに何をされるか分からない。せめて自分の周りだけでもと全身に魔力を込めて風を操る


《いいね!そうそう、そうやってあっしから風を奪い取りな!じゃないと飛ばされ・・・うん?》


シーフの嵐に異物が混じる


フウカの場所ではなく、フウカの背後から


《眼には眼を歯には歯を・・・嵐には爆風を!!秘奥義・・・フン!》


「きゃわっ!?」


突如爆風が起き、フウカは吹き飛ばされる。シーフは咄嗟に嵐を止めて異物を睨みつけた


《なんだい、横から・・・ぶっ殺されたいのかい?》


《フハハハ!原初の八魔『嵐』シーフ・フウレン・・・相手にとって不足なし!!》


吹き飛ばされたフウカの怒りの視線もなんのその・・・筋肉を見せつけながらシーフと対峙する


──────ボムース・ヴィクトリー参戦──────






「おい!ヴォーダ様が!」


兵士の1人が何かに気付き指を指すと、そこには馬上から吹き飛ばされたヴォーダの姿があった。急いで駆け寄り、無事を確認しようとするが、先頭の兵士の足が止まる


「急に止まるなよ・・・どうした?」


「いや・・・あれ・・・」


ヴォーダが倒れている場所を指で指す兵士。後続の兵士が怪訝そうにその先を見ると驚き固まってしまう


倒れているヴォーダと思われていた者は兜が外れ別人である事を晒してしまっていた


「確か・・・隠れたり逃げたりしたら・・・」


「不味いぞ!早くバレる前に兜を・・・」


急ぎ駆け寄ろうとした瞬間、不穏な空気を感じて視線を動かす。そこにはさっきまで離れた場所で対峙していた包帯男。いつの間にかすぐそばまで来て偽ヴォーダの顔を見ているようであった


「見た?」


ブンブンと頭を横に振る包帯男


「見たよな?」


兵士が更に問い詰めるがさっきよりも激しく横に振る


「そうか・・・総員抜剣!!」


「~~~~!?」


そうかって言ったじゃないかと言いたげに包帯男はジェスチャーで抗議するが、聞き入れてもらえず、兵士達はジリジリと包帯男との距離を縮める


「決して・・・決して逃がすな!!総員かかれ!!」


合図により雄叫びを上げて突進する兵士達


──────包帯男逃走──────






「てめ・・・ぐっ・・・離し・・・やがれ」


首が締まるのを両手で襟元を掴み必死に防いでるムサシが上を向いて声を捻り出すと、首が締められる元凶・・・遥か上空でムサシの襟を掴んでいるクオンは首を傾げた


「離していいのか?ペチャッと潰れるぞ?」


「うっ・・・下に降りてそっと・・・離しやがれ」


「要望が多いな」


クオンはため息をつきながら、下で繰り広げられている戦況を確認する。4つの場所で行われている戦闘はどこも芳しくない


マルネスはテノスと対峙し、カーラはテギニスに核を奪われ、シーフはボムースの登場で暴れており、フリットは追いかけられている


「おい・・・苦し・・・早く・・・」


「仕方ない」


ムサシとの戦いの最中、突如現れた巨大な燃える岩『炎帝王』


クオンは咄嗟にムサシの襟を掴み『浮遊』を使い上空に逃れていた


このままでは窒息しそうなムサシを見て、クオンは一度ムサシを持ち上げると今度は腰帯を掴んだ


「ぷはぁ・・・てめえ殺す気か!?」


「お前がそれを言うか・・・さてと・・・とりあえず役者は揃ったみたいだな」


「役者?・・・てめえ何を企んでやがる・・・」


「言っただろ?バースヘイム王国を手に入れるのさ・・・ほれ」


「・・・ちょっ!?てめえ!!覚えて・・・」


クオンが手を離すと落ちながら叫ぶムサシ。高さは50m程・・・このままの勢いで落ちればムサシとて無事では済まない


すぐに収めていた『龍ノ顎』を抜くと魔力を込めて風を纏う


五輪三之型『風刀』


『風刀』を放ち浮力を得ようと地面に向けて放とうとした時、不意に横から気配を感じ身体を捻ると刀を交差させ十字受けの構えをとる


「あはっ♪お久し~」


「てめっ!・・・ジュウゥゥ・・・」


何とか攻撃を受け止めるが足場のない空中では踏ん張りが効かず吹き飛ばされるムサシ。真っ直ぐに落ちていたムサシは真横に飛んで行き地面に激突した


「・・・受け止めてやれよ」


ムサシと共に落ちるように降りて来たクオンは空中で止まり、自然と落下するムサシを吹き飛ばした者に話しかけると、その者は満面の笑みを浮かべ振り向いた


「邪魔だし~・・・やっと逢えたね・・・クオン~」


「お前がほっつき歩かなければもっと早くに会えてたと思うんだがな・・・」


「てへっ。まあまあ、後はゆっくり地上でお茶でも飲みながら・・・」


「飲みながら?」


「殺し合おうよ♪クオン」


落ちながら満面の笑みから恍惚の表情に変化する。クオンは頬を掻きその者に従うように地上へと降りて行く


──────ミン・ウォール参戦──────


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