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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『嗤うもの』
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5章 幕間 テントにて

マルネスとニーナを妻に迎えた日の夜、クオンはテントの中でマルネスが納得するプロポーズの言葉を考えては言わされていた


何度もダメ出しされて心が折れかかっていると第二夫人から連絡が入る


何か変、と──────




「何か変と言われても分からないな。どう変なんだ?」


〘それが・・・何か胸の辺りがゾワゾワ?ムズムズ?する・・・嫌ではないのだが、心当たりがあるとすれば・・・〙


「大方胸に脂肪が付き過ぎて変な病気でも患ったのだろう・・・黙って寝ておけ」


〘マルネス!?・・・(ひが)みもそこまで来ると憐れだな。クオンの視線は私だと胸で止まるが、マルネスの場合だと地面を眺める事になるからな〙


「くっ・・・黙れ()()夫人」


〘なんだと!?だ・・・第一夫人・・・〙


ニーナに第一夫人と言われ勝ち誇った顔をするマルネス。腕輪の向こうからは悔しがるニーナの姿が目に浮かぶ


「第一も第二もない・・・で、そのおかしいと思う事には心当たりがある」


〘本当か!?クオン!〙


「当たり前だ。妾の夫は何でも知っている」


〘私の夫でもある!〙


「おい・・・まあ、答えはそれなんだがな」


言い争う2人に飽きれながらクオンが言うと2人は黙ってクオンの言葉の意味を考える。クオンの指す『それ』とは何かと


〘・・・クオンの妻になった事が?〙


「待て!それなら妾がなっていないのはおかしい!この第一夫人の妾が!」


〘第一第一煩い・・・で、何なのだ?その答えとは〙


答えを期待する腕輪の向こうのニーナと複雑な表情をしてクオンを見つめるマルネス。クオンはその状況で言いにくそうに頬を掻きながら答えた


「恐らく昼間の・・・口付けが原因だ・・・」


〘//////!〙


「フッー!!!」


ニーナは照れて声の出ない叫びを上げ、マルネスは毛を逆立てクオンを威嚇する


クオンはまた暴れられたら堪らないとマルネスを抱き寄せるとそのまま唇を奪った


逆立っていた毛はシオシオと収まり、顔は蕩け紅潮する


〘?・・・なんだ?何をしている?おい!クオン?〙


「す、少し黙っておれ・・・第二夫人・・・」


口を離すと糸を引き、その先のクオンの唇を見つめながら言うと、再び重なり合おうと顔を近付ける。しかし、クオンは顔面を掴みそれを阻止・・・咳払いをして放置状態のニーナに説明し始めた


「んん・・・その、なんだ・・・魔力を譲渡するのに口付けが効率が良いのは知っているな?それは人が何かを外部から摂取するのに口を使うことが多いからだ。つまり口から入った魔力を人は受け入れ易い」


〘・・・何をしていたのか、すっごく気になるが・・・で、それと胸の変化はどう関係している?〙


「さっきは魔力の譲渡ではなく、口付けを交わした時に魔力を交換した。つまり俺の中にニーナの魔力を・・・ニーナの中に俺の魔力を注いだ」


〘はうっ!・・・つまり・・・妊娠?〙


「・・・おい。説明を続けるぞ?ニーナは俺の魔力を受け入れ、器の中に俺の魔力が渦巻いている・・・それが胸の辺りの違和感の正体だ」


「なるほど・・・確かに違和感がある・・・心地良い・・・繋がっているという感覚・・・」


〘やはり先程!!・・・くっ・・・〙


「そう言うな・・・妾より先にこの感覚を得たのだ。妾の方が羨ましい。で、何故クオンはこの状態を知っておる?」


ニーナが察して悔しがるとマルネスは自らの唇を名残惜しそうに触りながら疑問を口にした。クオンはその言葉に飽きれながら答える


「お前がそれを言うか?黒丸・・・俺がとっくに経験している事をお前が知らない訳がないだろ?」


クオンに言われてマルネスはなんの事かと一瞬考え、そして至る・・・クオンの核にはマルネスの核の半分がくっついており、当然マルネスの魔力はクオンの核に混じっていた


「そ、それはつまり・・・クオンはずっと前からこの感覚を?」


「ああ・・・あの時から・・・ずっと違和感を感じていた。胸の中で渦巻く他人の魔力・・・その正体は再会するまで分からなかったがな」


「・・・クオン・・・」


〘コラコラ!二人の世界に入るでない!・・・となると魔力を消費してしまうとこの感覚は消えてしまうのか?〙


「恐らくそれはない・・・まあ、器が空っ穴になれば有り得るが、消費するのはあくまで自分の魔力が優先だろう。思うにお互いが相手を受け入れる気持ちが相手の魔力を特別と認識しているのだと思う。例えば他の者に魔力を譲渡されても、それは単純に魔力が増えるだけ・・・この感覚は得られない。だけど相手の魔力を特別と認識して受け入れると魔力は自分の魔力に溶け込まずそのまま残る・・・ちなみにニーナの中に残っている魔力を俺も感じる事が出来る。ニーナも俺の中に入っている魔力を感じる事が出来るはずだ」


〘!?〙「なに!!」


マルネスは胸に手を当て、ニーナも腕輪の向こう・・・屋敷の自室で同じように胸に手を当てた


しばらく無言の時が過ぎ、目を閉じていたマルネスがうっすらと目を開ける


「こ、これは・・・」


〘凄い・・・まるでクオンが傍に・・・〙


「夫婦の繋がり・・・とでも言うのか分からないが、互いに受け入れないと得られないだろうな。それだけ想いがこもった魔力ってのは特別なんだろう」


〘特別・・・子を成した時も・・・こんな感覚なのだろうか・・・なあ、クオン〙


「調子に乗るなよ、ニーナ!それはぜっーたいに妾が先だ!抜け駆けしおったらたとえニーナといえど許さぬぞ!!」


艶っぽい声を出すニーナにマルネスが噛み付く。そこからしばらく2人でギャーギャーと言い合い、クオンが飽きれて横になっていると決着が着いたのかうっつらしていたクオンをマルネスが揺り起こす


「ふう・・・第一子は妾という事で話がまとまった。で、どうする?」


「お前ら・・・とりあえず目的が達成出来るまで子を作る気は無い・・・脱ぐな脱ぐな・・・それとニーナ・・・あまり通信して来るようなら腕輪は返してもらうかならな」


〘うっ・・・分かっている・・・せめて屋敷に居る時くらいは良いだろう?王城に戻ったら控えるから・・・〙


「分かった分かった・・・必ず迎えに行くから待ってろ」


〘う、うむ!絶対だぞ!待ってるからな!!〙


何度も念を押すニーナにクオンは答え、渋々ニーナは通信を切る。クオンもそれに合わせて腕輪への魔力を切り、ふと視線を上げると大人バージョンのマルネスが四つん這いになりクオンに迫ろうとしていた


「お前・・・聞いていたか?」


「聞いておった・・・クオンとニーナの会話もな・・・聞いていて・・・疼くのだ・・・クオンの・・・クオンの子種が欲しいと・・・焦るのだ・・・クオンがニーナに取られてしまうのではないかと・・・」


濡れた瞳でクオンを見つめ、身体をくねらせてにじり寄るマルネス。貞操の危機を感じたクオンは微笑み口を開く


「動きを『禁』じる」


「ぬあっ!?」


「ハア・・・焦るな。・・・ったく」


クオンに禁じられ、進もうと上げた右手をそのままにプルプル身体を震わせるマルネス。クオンはため息をつくと身動きが取れないマルネスに近寄りそっと優しく頬に触れる


「俺だって我慢しているんだ・・・待ってろ・・・必ずお前は俺の子を成す・・・何があっても必ずだ」


マルネスは頬に触れられた手の温もりを感じるように目を閉じていたが、クオンの言葉を聞いてカッと目を見開いた


「そういう言葉が聞きたかった・・・録らせてもらったぞ!」


「・・・録らせて?」


意味が分からずクオンが怪訝な表情をすると、禁が解けて身動きが取れるようになったマルネスが飛び退き自らの服に手を突っ込むとあるものを取り出した


「カッカッカッ!こんな事があろうかと、チリに頼んで録音性能を追加しておいたのだ!」


マルネスが取り出したのはクーネ。突然服の中から出されて首を傾げるクーネに対してマルネスが魔力を流すとクーネが突然喋り始めた


〘俺だって我慢しているんだ・・・待ってろ・・・必ずお前は俺の子を成す・・・何があっても必ずだ〙


「・・・おい」


クーネの口からクオンの声で再生される先程の言葉・・・クオンは眉間に皺を寄せ、マルネスは恍惚の表情で聞き惚れていた


「これで・・・少しの間離れたとしても寂しい思いをせずに済む・・・」


その言葉に無理やり消そうと思って動こうとしたクオンの足が止まる


「寂しい思いをさせたか?」


「・・・寂しくないと言えば嘘になる。常に隣に居て欲しい・・・だが・・・ニーナもし同じ思いなのかと思うと・・・嬉しくもある。妾と等しくクオンを想う者がいる事がな。不思議な感覚だ」


「・・・」


クオンが寂しそうに笑うマルネスに近付くとマルネスはクーネを取られると思ったのか警戒する。しかし、クオンはマルネスの前に立つと腰に手を回し無言で抱き寄せる


「ひうっ・・・???・・・ん」


驚いて顔を上げると唇を奪われ、マルネスはそのまま身体をクオンに預けた。目を閉じ集中すると先程言ったクオンの言葉を思い出し、魔力に想いを込めて流し合う


核の中にクオンの魔力が流れ込むのがはっきりと分かる。自分の魔力と混ざり合い、溶け合う感覚・・・その感覚に互いに酔いしれしばらく離れる事はなかった


「ん・・・あっ」


「マルネス・・・俺が死んだらどうする?」


「妾も死ぬ」


クオンから離れ、名残惜しそうに見つめるマルネスに聞くとマルネスは即答で返す。揺るぎない瞳にクオンは苦笑しながら指でマルネスのおでこを弾いた


「った!・・・何を・・・」


「俺は生き続けるぞ?たとえマルネスが死のうと・・・な」


それは暗に背負っている者が増えた事を示していた。マルネスが死んでもニーナが生きている限り死なない・・・だがクオンの表情はあまりにも辛そうでマルネスは思わず笑ってしまった


「カッカッ・・・これは何がなんでも死ねないのう・・・」


痛むおでこをさすりながら、クオンの為なら死ねると思っていたマルネスは思い直す。マルネスがクオンの代わりに死ぬ事になったとしたら、クオンはずっとこんなにも辛そうで・・・悲しい顔をして生きなければならないと知ったから


「そういう事だ」


2人は再び唇を重ね、夜も更けてきたので横になる。すぐに寝息を立てるクオンの横で、何かがギンギンとなったマルネスは眠れずテントの天井を見つめていた


襲ってしまおうか・・・ふとよぎる邪な感情のままクオンの元に行こうとするが、先程までの甘美な時を汚しかねないと必死に我慢し元の幼女の姿に戻った


そして、しばらく寝ているクオンの顔を眺めた後、寝れないと悟ったマルネスはテントを出た


「第一夫人の地位に甘んじている訳にはいかんのう・・・先ずは胃袋を掴むか・・・」


マルネスは呟くと食材探しの為に森の中へと消えて行く。何処かで聞いた男を掴むなら胃袋を掴めという言葉を信じ、ニーナには負けないとマルネスは動き出す


奇しくもニーナも屋敷でメイド達に料理を教わっていたのだが、マルネスは知る由もなかった──────

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