5章 10 合同調査隊⑦
合同調査隊の調査結果は全面的に認められ、街道の魔獣は駆除され平和が戻ったと認定された。しかし、引き続き魔素の濃度は高く魔物の活性化は考えられるとされ、街道の巡回が依頼としてギルドに追加される
「セガスに行き証文を貰い、カダトースに帰って来る・・・何もなければ美味しい仕事だ」
「商人も護衛の数を増やしたりと金銭的な打撃を受けているみたいです・・・その為売り物は高くなり、民の生活に響く事になる・・・将来的に見れば街で冒険者を雇った方が商人も護衛の数を戻し街には良い効果をもたらすかと・・・」
「もうすっかりサブマスター気取りか?」
「性分ですよ・・・知っているでしょう?」
レンド達がギルドに報告に戻ろうとした時、ザインはゲインを呼び止めた。場所を執務室に移し2人きりになっている
「・・・サブマスターの給金を決めるとするか・・・」
「お任せします。冒険者も続けるつもりなので少なくても大丈夫です」
「そうはいかん。今後の指針となる最初のサブマスターが少ない給金ではなり手もいなくなってしまう。それでは意味がないだろう?」
「ハハッ・・・すっかり先駆者ですね。それならばやはりお任せします」
和やかなムード。しばらく2人で話した後、ザインは急に真剣な表情に変わったかと思うとゲインに対して頭を下げた
「ゲイン・・・すまなかった!全ては嫉妬にかられた私の責任・・・」
「頭を上げてください・・・それよりも嫉妬とは?」
「それは・・・」
ザインはポツポツと語り出す
『巨大化』を発現させたザインは前領主であり実の父親から早々に次期領主に任命されていた。ナトス家の家長も同時に譲ると言われ、日々そのプレッシャーを感じていた
冒険者となったゲインを羨ましく思う時もあった・・・それでも兄なのだからとザインは日々、父に付いて領主について学び続けた・・・しかし──────
「妻の・・・エリナの存在が全てを狂わせた・・・いや、この言い方は正しくないな・・・エリナが悪い訳では無い・・・私が・・・未熟だった・・・」
ナトス家の執事とメイドを親に持つエリナ。幼い頃から傍に居て当然の存在だった。仲良く3人で・・・モリスが生まれてからは4人で遊んだ幼き日々・・・いつしかゲインとエリナは恋仲にあると知ったザインにある感情が生まれる・・・それは嫉妬
「やりたい事をやるゲイン・・・エリナまで・・・私は耐えられなかった・・・そして、私は人道を踏み外す・・・脅したのだよ・・・エリナを・・・『私の妻にならなければ両親をクビにする』と」
ザインの告白にゲインは目を見開き、拳を握る。自分はただエリナに見限られたと思っていた。しかし、実際は兄であるザインに恋人を卑怯な手で奪われていた・・・衝撃の事実に握る拳に力が篭もる
「いくら謝罪しても足りない・・・お前にも・・・エリナにもな」
「・・・兄上は・・・それを私に告げてどうなさるおつもりですか?」
「・・・嫉妬にかられ、お前に対して被害妄想をするようになり、罪を犯した・・・示談が成立した事とそれは別物だ・・・煮るなり焼くなりするがいい・・・」
燻っていた嫉妬の炎がドラゴン調査の時、鳴き声を聞いた冒険者を庇ったゲインに対して噴出した。誰からも愛される冒険者ゲインと面目を保つ為に保身に走り、冒険者を断罪しようとする領主・・・ザインの目にはゲインが眩しく写り、自分が酷く汚れて見えた
「お前が・・・嘘の報告に加担したと聞いた時・・・少し救われたような気がした・・・実直なお前が誰かの為とは言え・・・」
寂しそうに笑うザイン。眩しくて見れなかった弟の顔は今でも目を背けたくなる程に輝いている。だが、ザインは背けるのをやめた。その輝きに怯える日々を過ごすのをやめた
真っ直ぐに見つめる2人・・・ゲインは意を決して口を開く
「兄上・・・私は──────」
ゲインは執務室を出て屋敷の外へ向かう。その背中に懐かしい声がかけられた
「ゲイン!」
振り向くとそこにはエリナと子供の姿があった
息を切らしゲインを呼び止めたエリナが近寄ろうとすると、ゲインは微笑み手でその動きを制す
「エリナ・・・子供の名は?」
「・・・エイン」
「そうか・・・君に似て優しい顔をしている・・・良い領主になる」
エリナはその言葉を聞いて全てを理解した。これ以上ゲインには近付けない・・・近付けばエインは領主になれなくなる。溢れ出そうになる言葉を必死に抑え、エリナはエインの肩を強く抱きしめた
「エリナ・・・兄上を支えてくれ・・・『サヨナラ』」
ゲインは踵を返すと屋敷を立ち去った。すすり泣くエリナに振り返る事無く──────
その頃レンド達はギルドでエンリに報告し終え帰るべく街中を歩いていた。レンドと離れると泣いてしまうテンもエンリに懐いたのか迎えに行った時も泣いておらずレンドを驚かせる
「いやー、子供の成長って早いなぁ」
「そりゃそうよ・・・いつまでもベッタリしてると思わない事ね・・・いずれパパ臭いとか言われるわよ?」
「・・・それは泣きそうだ・・・」
マーナに言われた未来が来ないよう祈りながら、レンドがテンの顔を覗き込むと、テンは満面の笑みをしながらレンドの目を突いてくる。見るなという意味ではないと分かっていてもレンドには兆候に感じて更に落ち込む
ニーナはカーラの扉で王都に帰り、今はレンドとテン、それにマーナ、ステラ、エイト、ツー達と見送りのモリスとバリームだけである
「しかし、エンリ婆も喜んでいたし・・・本当レンド達には感謝してるよ」
サブマスターとしてゲインがギルドマスターを補佐する・・・その報告を受けた時、エンリはモリスの言う通り喜んでいた。それは自分の仕事が楽になるからではなく、ゲインとザインが和解したと理解したから
「・・・エンリさんはみんなの母親みたいな存在ですね」
「実際実の母親より母親してるぜ・・・いちいち口うるせえしな」
そう言うバリームの顔は言葉とは裏腹に笑っていた。その顔を微笑ましく見ていたレンドにある疑問が浮かぶ
「エンリさんって元冒険者ですか?とてもそうは見えないのですが・・・」
ギルドマスターには元冒険者がなる事が多い。セガスの街のギルドマスターのバンデラスも元冒険者だった。王都のギルド本部から派遣するよりも、街の内情に詳しい現地の冒険者をギルドマスターに据えた方が効率が良いと引退した冒険者を指名していた
「違ぇよ。エンリ婆は元ギルドの受付だ。前のギルドマスターととことん意見が合わなかったらしくてな・・・エンリ婆はその頃から無茶な依頼を受けようとする冒険者は止めていたが、ギルドマスターは冒険者は無茶な依頼をこなしてこそ冒険者だって言う人だったらしい・・・それでエンリ婆が居ない時にギルドマスターがある冒険者に困難な依頼を受けさせ、その冒険者が死んじまったもんだから対立は激化・・・とうとうギルドマスターは、それならお前が運営してみろって流れでエンリ婆がギルドマスターに就任した・・・まあ、その死んじまった冒険者がエンリ婆の息子ってんだからエンリ婆がキレるのも無理はねえ・・・」
バリームの言葉に全員言葉を失う。レンドは思った・・・カダトースは重い、と
「まっ、俺らはエンリ婆に何度も助けられてる・・・無茶な依頼を行こうとした時に止められた時、どうしても行きたいならと言って人数を増やされた時もあった・・・報酬は減るが増やして良かったと思う時が多々あった・・・だから今俺が生きてるのはエンリ婆のお陰・・・そう思ってる奴は多いはずだぜ?俺もその内の1人だ・・・だからと言ってお前にはあんな態度を取って良いって訳じゃない・・・すまなかったな・・・レンド」
「そんな・・・結局迷惑をかけてしまいましたし・・・」
頑なにテンを連れて行く事に対して拒絶反応を見せていたバリーム。それが心配から来るものだというのは傷付きながらもテンを守ってくれた事でとうに分かっていた
「セガスの領主が子連れのお前をねじ込んだ意味が分かったよ・・・お前が居なきゃ俺らは全滅していた・・・これは確かだ。で、だ・・・一つお前に頼みたい事がある」
「頼みたい事?」
「カダトースに残り俺らを鍛えちゃくれねえか?あのムカデは倒したが、魔物の活性化は止まってねえんだろ?ゲインもサブマスターになれば忙しくなる・・・今の俺らじゃゲインの代わりは務まらねえ・・・力が必要だ」
魔素の薄いディートグリスでは魔物も弱い。それ故に冒険者もギフトなしで充分に通じていた。だが、ハンマーセンティピードのような魔獣が出る事は稀だとしても活性化した魔物に対応出来るか不明であった
「えっ?・・・いや、僕なんかが・・・」
《レンドに教えを乞うか・・・なんなら我が教えてやっても良いぞ?レンドのだ倒したという魔獣も我なら一瞬で消し去ることが出来よう》
姿だけ見せて活躍の場が終わってしまったステラがここぞとばかりに胸を張って言うと、その後ろで小さな影が揺らいだ
《ほう?偉そうに言うのう・・・ならば妾がお主を一瞬で消し去ってやろうか?うん?》
《!?》
背筋を伸ばし、恐る恐る振り返るステラ。見ると予想通りの幼女がステラより更に仰け反るほど胸を張り立っていた
《マッ、マルネス様!?なぜここに・・・》
《戯けが!お主より先におったわい!・・・少々木刀に身を扮していたが・・・さて、レンドよ、最後の最後で気を抜いたのう》
「え?」
マルネスを見て、手で差していたはずの腰を探っていたレンドが、急に話を振られて素っ頓狂な声を上げる。気を抜いたとは?と考えていると魔力がレンドの身体から勝手に出てテンに向かって伸びていく
「ええ!?」
以前にも経験した事がある。そう、あれはギャザッツを倒したと思い油断していた時・・・
テンに向かって伸びた魔力がどこからともなく飛んで来たナイフを二本受け止める。テンの目の前で受け止められたナイフは音を立てて地面に落ちた
「!・・・あ、あれはフリット!?・・・おい!レンド!!」
「・・・テンを頼みます・・・」
モリスがナイフの軌道を読み、その先にいるフリットを見つけて叫んだ瞬間、低い声でボソリと呟き一直線に駆けていく。その速度は目にも止まらぬ速さで、モリスが呼び止める暇もなくフリットへと到達していた
「よくも・・・テンを・・・」
見つかったと路地裏に逃げ込んだフリットを追い詰めるレンド。自分が狙われるならまだしも、テンを狙われた事により怒りで周りが見えなくなる。背中に背負った刀の柄に手をかけると脇目も振らず引き抜いた
「チッ!クソが!!てめえさえ居なければ・・・てめえさえ!!」
ナイフを手に持ち、構えるフリットにレンドは無言で刀を構える。こんな奴・・・一撃でと刀を振り上げ、振り下ろそうとするが動かない
《コラコラ・・・いつからそんなに野蛮になった?殺しても構わぬが時と場所を考えよ・・・路地裏とはいえ真昼間ぞ?》
レンド眼振り上げた刀を摘みながらもマルネスが言うと、レンドは少し冷静さを取り戻す
「あっ!・・・テンは!?」
《安心せい、ステラが傍についておる。で、ソレはどうする?》
「・・・」
ソレとはもちろんフリットの事。ステラが領主の屋敷の庭に降り立った時の騒ぎに乗じていつの間にか逃げていたフリット・・・ザインが探しておくと言っていたので安心していたがまさかテンを狙うとは思ってもみなかった
フリットはナイフを構えたまま怯えた目でレンドを睨みつけていた。マルネス眼刀を離すと途端に軽くなる・・・このまま振り下ろせば容易にフリットを真っ二つに・・・と考えていると後ろから声がする
「たとえ相手が先に手を出そうが喧嘩両成敗だ・・・子供を一人にさせる気か?レンド」
バリームの言葉にレンドはテンの顔を思い浮かべる。そして、ゆっくりと刀を下ろした
「またテイラーに助けられたな・・・バリームさん・・・やっぱり僕が人に教えるなんて・・・そんな器じゃありません・・・」
「あん?だからだろ?」
「え?」
「お前を見てると危なっかしくて仕方ねえ・・・強えくせにどっか抜けてやがる。だから誰かを教える事により人間的に成長するのも悪くねえと思わねえか?まっ、他にやりたい事があるってんなら無理にとは言わねえが・・・」
「バリームさん・・・」
《受けるがいい・・・それとも貴族の給金とやらだけでテンを育てるか?また依頼を受けてテンを危険に晒すか?》
「ううっ・・・ですが、剣技なんて少しだけジュウベエさんとクオンさんに教えてもらっただけで・・・人に教えるなんてとても・・・」
《ハア・・・お主何を勘違いしておる・・・こやつはお主の剣技を教えてくれなんて言うたか?》
「え?じゃあ・・・」
《お主が強くなったのは核・・・器の蓋をこじ開けたからだろうて。今なら魔物の肉を食らわずとも無理やりこじ開ける天才が傍におるし、容易だろう・・・後は魔力の使い方を教えればいい》
「魔力?レンドの強さは魔力なのか?」
カダトースの冒険者の中で最も足の速いモリスよりも速く、力自慢のバリームよりも力強い斬撃を繰り出していたレンド。その強さを見に付けたいと思っていたバリームだったが、その正体が魔力によるものであると知り驚く
「え、ええ・・・僕は元々ギフト持ちじゃありませんでした・・・って、マルネス様・・・こじ開ける天才って?」
《ん?ほら来たぞ》
「ちょっとレンド!いきなりテンちゃん置いて走って・・・え?なに??」
路地裏に顔を出したのはマーナ
《ステラを皮切りに四体のエンシェントドラゴンを生み出した人呼んで『ドラゴンの母』!!》
「誰がドラゴンの母よ!?レンドは未婚で父親だし、私は未婚でドラゴンの母って、流石にうちの両親泣くわ!」
《カッカッ・・・まあ、そう言う事だ。2人してこやつらを鍛える・・・そうすればお主らも気兼ねなく行けるだろう?》
「どういう事よ!?って、何の話?」
「気兼ねなく・・・」
レンドはマルネスの顔を見てその言葉の意味を考えた。そして、その意味が分かり胸が熱くなる
「僕の力が・・・必要になる時が・・・ありますかね?」
《当然であろう・・・これから先、想像を絶する困難が待ち受けておる・・・それを乗り越えるのに必要なのは妾の愛だけだ》
「え゛っ??」
レンドは期待していた言葉とは全く違う言葉に変な声を出す。その間抜けな顔を見てマルネスは微笑むと人差し指と親指に少しだけ隙間を作る
《だが、ほんの少し・・・お主らの力も当てにしておる・・・ほんの少しのう》
「ちょっと・・・さっきから何の話してんのよ!?」
《マーナ、クオンの為にこやつらを鍛えてくれ》
「クオンの為に?了解・・・まっかしといて!」
「軽っ!・・・でも・・・今度は・・・今度こそ僕が!」
クオンに任せたと言われた時の高揚感が再びレンドに宿る。拳を握りしめるとようやく刀をまだ持っている事に気付き、忘れていた存在を思い出した
「フリット!・・・え?」
振り返るとそこにはフリットの姿はなかった。逃げられた・・・そう思っていたが、マルネスが笑っている事に気付いた
「マルネス様・・・もしかして・・・」
《ん?ああ、違う違う、妾ではない。お主らが熱くなっている時に持って行った》
「持って・・・え?」
《まっ、見ていて腹に据えかねたのだろうて・・・それよりも鍛えると決めたら色々とやることがあるぞ!まずカーラにセガスとの扉を創ってもらわねばな・・・それから・・・》
マルネスが急に仕切りだし、レンドとマーナはカダトースで冒険者を教える事となった。強くなりたい冒険者を募り、マーナが器をこじ開け、レンドが魔力の使い方を教える
マルネスはカーラの扉でセガスから通えるよう出来るようにしておくと言う
ただ今回の依頼はセガス組がカダトースからセガスに帰ってやっと依頼完了となる為、練習場の確保などはマルネスとマーナが残ってやる事となり、レンドはエイトとツーと共に一旦歩いてセガスに戻る事になった
その歩いている最中。テンをおんぶするレンドは視線を感じて振り返るとエイトとツーが視線を逸らす。エイトはわざとらしく口笛を吹き、ツーは眩しそうに空を見上げた
「・・・言いたい事があるなら言って下さい・・・」
よそよそしい2人をじっと見て言うと、エイトが口笛を止めてレンドの顔を伺いながら口を開く
「その・・・なんだ・・・悪かった・・・なんかお前に背負わせちまったみたいで・・・その子・・・テンは俺様とツー兄とで見るからよお・・・」
「・・・・・・は?」
「いや、もういい・・・もう分かってんだよ・・・テンはほら・・・フォー兄の・・・隠し子なんだろ?」
「・・・・・・は?」
「しらばっくれるなって・・・テンという名前・・・それに決定的なのはギフト・・・あんな珍しいギフトがそうそうあるはずがねえ。フォー兄が今回の調査に連れて行く事を了承したのも少しでも奥さんから遠ざける為・・・かー、情けねえ・・・フォー兄がそんな隠し事するなんて・・・なあ?ツー兄」
「色々と事情があるのだろうが、バレて信用を失うより素直に打ち明ければいいものを・・・レンドにも迷惑かけたな」
エイトが呆れたように首を振り、ツーは微笑みレンドの肩に手をかけた。ちょうどその手がテンの手と重なり、愛おしむ顔でテンを見つめるツーにレンドが困惑する
「ちょ、ちょっと待ってください!テンは僕の・・・厳密に言うと違うのですが、僕の子です!勝手に・・・」
「そう言うように言われてんだろ?もういいって」
「フォーには上手く言っておく。決してレンドからバラした訳ではないと・・・」
「あの・・・エイトさん?ツーさん?」
「まっ、彼女のかの字もなかったお前がいきなり子供を連れてんだ・・・最初から怪しいとは思ってたんだ」
「ムカデに使ったギフトを見た時は驚きよりも、やっぱり・・・って気持ちの方が勝ったな・・・にしても、フォーより髪使いが卓越だな・・・どうって教えたんだか・・・」
「だから違うって・・・」
レンドが止めても2人の暴走は止まらない。果ては寝ているテンを見て『目元がフォー兄にそっくりだ』の言葉まで出る始末。さすがのレンドモリス堪忍袋の緒が切れて振り返り、最愛の妻をこの世に出現させる
「おっ・・・おお!?」
「なんと・・・人型の魔力か?」
『テイラー』はレンドとテンを包み込むような姿勢をとる。その光景を見たエイトとツーはなぜか顔を背けた
「まっ、まあ、お前がそれでいいなら・・・別に・・・」
「ひ、人それぞれだしな・・・だが、魔力っていうのはどうなんだ?もっと質感があった方が・・・」
「えーと・・・お二人共何か勘違いを・・・」
レンドが説明しようとするが2人の妄想は加速していく。最終的には『自分の出した魔力との結婚は認められるか否か』の大激論にまで発展するが、その頃には既にレンドは二人の相手をするのはやめて、スタスタとテンと共にセガスを目指した──────
「・・・ここはどこだ?」
フリットは街の路地裏に居たはずの自分がいつの間にか森の中に居る事に疑問を抱きつつ周囲を警戒した
とにかく身の安全を・・・そして、それから邪魔した奴には死を・・・
更に周囲を観察していると2つの気配が近付いてくる事に気付いた。何者かは知らないがまずは情報収集をと気配を消して物陰から襲いかかろうとするが現れた人物に目を奪われ動く事が出来なかった
1人は見たことの無い服装で歩く度に揺れる胸と服の切れ目から覗かせる足が特徴的なまだあどけなさが残る女性
1人は1人目とは打って変わって胸と腰に獣の皮と思われる下着のようなものを付けただけのワイルドな女性
2人共顔はカダトースでは見た事のないくらいレベルが高く、思わず固唾を飲み込む
「んー?だぁれぇ?」
「追っ手かと思ったが違うのかい?つまらないな」
2人が呆けるフリット兄気付き言葉を発すると、我に返ったフリットは手に持つナイフを構える
突然知らない場所に居て不安な気持ちはあったが、そんな不安は彼方へと吹っ飛んでいき、今は目の前の2人をどうにかしようとする気持ちが先行する
《主より伝言です・・・『好きに使って構わないが、なるべく殺すな』・・・との事です》
今度は後ろから声がして振り返ると、黒いドレスに身を包み、色気漂う女性が現れた。もうフリットの理性は崩壊しかかり、その女性の言葉が耳に入って来ない
「要らない・・・って言いたいところだけど、何かの役には立つか・・・なるべくだし、死んでも文句はないだろ?」
ワイルドな女性が舌なめずりをしながら言うと、それが誘っているように思えたフリットが徐々に距離を詰め始める
3人共・・・1人残らず逃がしはしない・・・
欲望が脳を支配し、忠実にその欲望に従おうとするフリット
あと数秒後に後悔することになるのだが、フリットはその事実をまだ知らない──────




