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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『拒むもの』
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1章 10 魔力訓練

宿屋でのいつもの朝食風景・・・最近では様相が変わりつつある。頭にドラゴンぽい魔物を乗せたクオン、様々な服装に変わるマルネス、1人歳が離れたデラス達が異様な雰囲気の原因となる


「全身強化型・・・ですか?」


「ん・・・まあ、呼び方は様々だが、要は身体全体に魔力を纏い身体能力を上げる感じだな。イメージ的には薄く広く・・・マーナは武具強化型。と言っても武具を強化するだけではなく覚えれば他人に魔力を譲渡出来たりする。魔力操作に長けた感じだ。俺は2人とは違う一点集中型が得意だ。身体の1部を強化するレンドの得意とする全身強化とは真逆な感じだ」


「なんか私はサポートって感じだね」


「うーん、使い方次第だな。剣に纏えば龍鱗すら傷付けるし、魔力切れの者に魔力を譲渡すれば戦況は一変する。どちらもこなす事が出来ると思う。どの魔力の使い方も適材適所で使わないと意味が無い」


「得意なだけで使えない訳では無いのよね?他のやつも」


「ああ。俺も全部使えるし、捨丸との戦いの時は龍鱗を剣で攻撃してる時は武具強化で、頭を殴った時は拳に一点集中して殴った。魔力の譲渡も出来る事は出来るが効率が悪く10譲渡して1回復するかどうか・・・魔物や魔族なんかはそれ以下だな。武具強化型のマーナなら効率は良くなると思うが」


話の内容が分かったのかクオンの頭を齧り始めるステラ。クオンが無言で振り払うと飛んでマルネスの頭の上に着地する。ちなみに今日のマルネスはノーマルなワンピース姿だ


≪器の蓋が開いたとはいえ使わなければまた閉じるぞ?さっさと狩りにでも行って魔力を消費して来い≫


なぜか上機嫌なマルネスが、2人を行かせようとしてパンを口に運ぶ。昨日まで不機嫌だったり顔色が悪かったのだが一晩でまるで別人のようになっていた


マーナはその姿を見てじっとクオンを見るが、クオンはその視線を受けても素知らぬ顔で朝食に舌鼓を打つ


「最近僕らが依頼を受けまくってるからちょっとは遠慮しないと・・・どこかの空き地で魔力を使ってみようかな・・・」


「一応朝から使ってみたけど、思うようにいかないのよね・・・クオン、何かコツみたいなのある?」


「最初は胸の中心から踏ん張るしかないな・・・ギフトみたいに与えられた力ではないから、元々出すように出来ていない。最悪魔力を暴走させて・・・」


「そ、それは勘弁してください!」


レンドが昨日の事を思い出し、立ち上がりながら叫ぶ。トラウマレベルのあの思いを二度としたくなかった


「しかし、まさかギフトなしの者が魔力を使えるようになるとはな・・・広めれば魔物の駆逐も捗るのでは?」


ギフトなしの人が多いディートグリスでは冒険者の中でもギフト持ちはひと握り・・・後は武器に頼るしかなかった。そうなると武器が効かない相手は自ずとギフト持ちの冒険者に委ねるしかなく、ギフトなしの冒険者はランクが上がるのが遅くなる。そして、そのせいで魔物を減らすスピードも下がっていた


「普通なら魔物は食えない。アレは俺が居たから無理やり出来たんだ・・・俺にディートグリス全員にアレをしろと?」


「いや、現実的ではなかったな・・・それにしても『拒むもの』か・・・」


レンド達が魔力の蓋をこじ開けて夕食を取らずに寝てしまった昨日の夜、クオンとデラスは夕食を共にした。その時に根掘り葉掘り聞かれたクオンは濁しつつもある程度、ギフトについて話しておいた


≪魔力満タンで魔物を喰らうとは・・・馬鹿かお主ら≫


「仕方ないだろ?魔力を消費出来ないんだ・・・満タンのまま食べるしか・・・」


≪クオンよ・・・この超絶美少女の妾が魔力の吸収も出来ないと?少し減らして許容量を越える魔物を摂取すれば幾分マシだったろうに≫


「・・・」


「クオンさん?」


「クオン?」


「・・・さて、狩りにでも行くか?」


「流すなー!」


2人から突っ込みをされて、そそくさと宿屋を出るクオン。それをレンドとマーナが追いかける。デラスとマルネスが呆れてため息をつくと2人同時に残ったコーヒーを飲み干し、ゆっくりと3人の後を追いかける



早歩きでギルドに到着したクオン。追いかけて来たレンドとマーナに捕まり、やいのやいのと責め立てられるが、そこに割って入って来たのはギルドマスターのバンデラス


「騒がしいな、おい。クオン達にフォーさんが頼みがあるってよ。行けるか?」


「何の用事だ?」


レンドとマーナに左右から頬を抓られ、頭はステラに齧られたままバンデラスに聞き返すと両手を広げて首を傾げる


「さあな。使者が来て頼みがあるから来て欲しいと伝えてくれって言われただけだからな・・・人を伝言役にするなっつーの


「伝えておこう」


「やめてくれ」


当初の予定の狩りは中止にし、ちょうどギルドに着いたマルネスとデラスを連れて一路屋敷へ


もうお馴染みのように屋敷を通されるといつもの応接間へと案内された


「すまないね、呼び立ててしまって・・・ん?何だいその頭のドラゴンみたいなのは」


「捨丸だ。気にするな」


≪ステラだ。しかも、不穏な字を当てるでない≫


「はは、相変わらずだね。そちらの御仁は?」


クオンとマルネスのやり取りを聞いて笑い、見慣れないデラスを見てフォーが尋ねる


「デラス・ガクノースだ」


「そうですか。私はフォー・ダルシンと申しまして街の領主代理を・・・ガクノース?まさか子爵のガクノース家?」


「そうだ。まあ、私はもう引退した身だがな。今は余生を満喫するしがない老人だ」


「そんな・・・ガクノース家と言えば代々国王の食事を検分する由緒正しきお家・・・そのような方が一冒険者と共に行動されるなんて・・・」


「言うたろ?余生を満喫する身だ。今の興味はマルネス・クロフィード様とステラに注いでおる」


≪迷惑な話だ≫


呆れるマルネスに同意するかのように鳴くステラ。暇があればしつこく色々聞いてくるデラスには少々ウンザリしていた


「なんと・・・そうでしたか。いや、ハハ・・・そのガクノース閣下の前だと些か頼みづらいですな・・・」


頭を掻きながら困ったように言うフォーにクオンは首を傾げる


「なんでデラスがいると頼みづらいんだ?」


「クオン、ガクノース閣下には敬称を・・・。理由ですか?理由は・・・その私事(わたくしごと)だからです。その・・・貴族としての見栄もありますし・・・たがら・・・」


「ええい!ウジウジとしおって!ハッキリ言わんかハッキリ!」


コイツも同行を願い出た時こんな感じだったような・・・クオンはフォーを叱るデラスを見て思った


「はい!私が今度お見合いをする事になりまして、出来れば護衛としてクオン達についてきてもらえないかと!」


「見合い?フォーが?」


「ええ。兄と色々話しまして、兄はもう結婚する気はないと言い、エイトはエイトで家に戻る気はないと・・・そうなると私がダルシン家を継ぐことになるのですが、私のギフトは『髪調整』というあってもなくてもいいようなギフトなので他家の有力なギフト持ちの女性と結婚し新たなギフトを継承していこうかと・・・」


≪あってもなくてもいいだと?これだから人間は・・・名前は忘れたが魔族の中に同じ能力を持ったものがおる。その者は髪を自由自在に操り敵を葬り去っておったぞ?与えられた能力の有用性も分からぬのなら能力など捨ててしまえ≫


「髪を自由自在に?・・・え?」


≪たわけが!よく聞け。そのギフトは髪を伸ばしたり縮めたりする能力ではない。髪の毛を伸ばし自在に操る事によりまるで第3の手のようにものを掴み、時には魔力を流して攻撃したり、防御に使ったり出来るのだ。お前の兄や弟が持っている『炎』より遥かに希少で有用だぞ?≫


「そんな・・・」


絶句するフォー。使いこなせなければギフトもただのオシャレアイテムと言わんばかりにマルネスはフォーを見下ろす


膝から崩れたフォーがなぜそこまでショックを受けたか淡々と話し始めた


まずは自分のギフトの可能性を考えず悲観していた事。髪を切らずに楽ちんくらいにしか思っていなかった。もしマルネスの言う通りにギフトを使いこなせていれば(くだん)の悲劇は起こらなかったかもしれない


次にお見合い。南の街のタラットの領主の娘がギフト『土』を持っており、交渉の上やっとお見合いまでこぎつけた。貴族のお見合いはほぼ成立状態と見なされるので顔も性格も体型も知らないが断る事も断られる事もない。今更こちらのギフトの方がいいのでお宅の娘さんはいりませんと言えないし、跡継ぎも『土』のギフトを受け継いだ子にしないと相手の貴族に対して面目が立たない


「ど、どうしましょう・・・」


≪知るか!自らの鍛錬を怠った事を呪うがいい≫


「クロフィード様・・・本当に髪の毛で攻撃したり出来るんですか?」


話を聞いていたマーナが疑問を口にする。マーナ自身も髪は腰まで伸ばしているがとても打撃に使えそうではない


≪ハア・・・お主は昨日と今日で何をクオンから学んだ?魔力を使い、何が出来ると教わった?≫


「あっ・・・武具強化?・・・もしかして髪に魔力を流して?」


≪当たり前だ。髪が何もせず勝手に動くか気持ち悪い!魔力を流して髪を硬質化、操作をする事により自在に操れる槍と化す。伸ばして身体に巻けば鎧となり、敵に巻き付けば拘束も可能だ≫


「凄い!そうか・・・そんな事が・・・」


≪あくまでも髪を自由に伸ばせるから使える技。お主がやると禿げるぞ?まあ、それも一興か≫


ちょっと試してみようと思ってたマーナはぞっとして身体を震わせた。さすがに自ら禿げたいとは思わない


「流石はマルネス・クロフィード様!ギフトに対する造詣が深い!このデラス、感服致しました」


「で、どうするんだ?見合いは断るのか?」


ここぞとばかりにマルネスをよいしょするデラスは放っておき、クオンが項垂れているフォーに尋ねる。なぜか髪の毛が異様に伸びて毛むくじゃらだ


「もう・・・手遅れです。明後日にタラットに赴きますと伝えてあります・・・これでやっぱり止めますなんてとても・・・」


セガスの南にあるタラットの街。ダルシン家と同じ男爵家の領主が治めており同格である為、それとフォーからの要望であった為にフォー自身がタラットに赴く事になっていた


「婚姻は貴族にとって一大行事・・・進んでいた話をご破算したとなれば向こうの娘にもケチがつく。諦めるのだな」


デラスがトドメとばかりに言い放ち、更に肩を落とすフォー。すでに髪の毛が地面に付くほど伸びており、さながら髪の毛お化けと化していた


≪はん!好いたもの同士ではなくギフトに重きを置いて考えるからそうなる。下らん悩みだ。クオン、行くぞ≫


「まあ、待て黒丸。とりあえずフォーはどうしたいんだ?お前のギフトは諦めて相手のギフトを受け入れるか、向こうを説得して断る・・・もしくは受け継がせるギフトをお前のギフトにするか・・・」


「・・・出来れば私のギフトを受け継がせたいです。亡き母のギフトですし、希少と分かれば尚更・・・相手のギフト『土』は何家か持っていると聞きますし・・・」


「なら実演してみたらどうだ?目の前で髪を操作して、ギフトの有用性を証明すれば向こうも無下にはしないだろ?」


「髪を操作・・・ですか?そんな簡単に・・・」


「ちょうどレンドとマーナに魔力の操作を教えるつもりだった。一朝一夕で出来るものではないが、長年ギフトを所有していたんだ、魔力量はそこそこあるだろう。コツさえ掴めば何とかなるかも知れん」


一縷の望みに賭けてフォーの挑戦が始まる────



「今動きました!?」


≪風だ≫「風だな」「風だろう」


屋敷の中庭で必死に唸るフォーが髪が動いたと言うもマルネス、クオン、デラスに即否定される


中庭ではフォー、レンド、マーナがそれぞれ魔力を使おうと努力しているが一向に使える気配はない。フォーも自らのギフトを伸び縮みとだけ認識していた為、いざ操ろうとしても上手くいかなかった


「コツは・・・コツはないんですか?」


≪だから言うておろう。強化したいものの先端に魔力をドバーと流して、そのまま維持してヒョイっと動かせば良い≫


「そのドバーがイマイチ分からないのですが・・・」


≪ドバーはドバーだ。ああ、違う。力むでない!こう・・・サワーと・・・≫


「ドバーでは?」


≪ドバーは流す時だ。動かそうとする時はサワーとやる≫


「・・・」


「えっ?何これ?」


要領を得ないフォーが絶望する中、マーナの手の中にある木の棒が薄らと光り輝く


≪ほう・・・魔力操作を習い始めて数時間で強化するか・・・お主とはえらい違いだのう≫


「・・・先生の違いでは?」


フォーが聞こえるか聞こえないかくらいの小声でボソッと呟く


3人並んでそれぞれ前に教える者が立っている。フォーの前にはマルネス、マーナの前にはクオン、レンドの前にはデラスが立ち、それぞれ教えている形だ


「そのまま維持。マーナは魔力が少ないから倦怠感を感じたらすぐに力を抜け。昨日みたいに魔力切れで倒れるぞ」


「はい!」


マーナは木の棒を持ちながら返事をすると木の棒に集中する。薄らと光り輝く木の棒は一定の光ではなく揺らいでいた


「維持しながら安定を心掛けろ。途切れたら消えてしまうし、魔力をかけすぎたら下手したら木の棒が破壊される。適度に覆うような感じで一定に保つ」


「はい!」


しばらく維持しその後、光が消えるとマーナは地面にへたり込む。魔力の器が開放されたとはいえ魔力量は少ないので短時間で魔力は底をつく


「魔力量を増やすには魔力を使い、身体にもっと魔力が必要だと感じさせなければならない。身体は必要だと感じれば器を大きくし魔力量の最大値も増える」


「なるほど・・・でも魔力が切れそうだから今日はここまで?」


「いや、蓋が開いた状態なら外部から魔力を取り込む事が出来る。大気中の魔素を取り込むには瞑想が一番だな。目を瞑り、大気中に存在する魔素を感じてそれを身体に吸収する・・・イメージ的には水浴びしてるように思えばいい」


「大気中の魔素・・・水浴び・・・」


マーナは呟き、座りながら両手を広げ顎を上げる。目を閉じてシャワーから出る水を浴びるように身体を反らす


「しばらくそのままだな・・・で、フォーは?」


マーナが魔素を取り込んでいるので、手の空いたクオンがマーナの隣にいるフォーを見る。フォーは首を振り、一向に進んでいないことを嘆いた


「なるほどね・・・フォー、髪を伸ばしたりする時はどうしてる?」


「えっと・・・伸びろとか思えば勝手に伸びてきますね」


「なら心の中で『届け』って思ってみろ。目の前の小石でもなんでもいいから」


「届け・・・ですか?・・・・・・・・・あっ!」


微かに髪が目線の方向に動く。操作というレベルではないが、確かに動いた事にフォーは喜びを隠せない


「クオン!今動きましたよね?」


「ああ・・・少しな」


≪おい・・・妾の立場は?≫


この日はこれで終わり、また明日の朝から訓練をするという約束をし解散した


フォーは魔力量が多い為、夜も訓練すると息巻き、マーナも回復した分を消費すると意気込む。その中でレンドだけが宿に戻る時も終始無言だった


教えてたデラスは「教え方が分からん。興味も湧かん」と身も蓋もない事言っているので、明日の訓練の担当を変更する事にした


次の日の朝、屋敷に到着すると中庭で拳大の石を持ち上げているフォーの姿があった。汗だくになりながら、必死に右から左へと石を移動させていた


「ギフト持ちはコツを掴めば早いな。じゃあ、デラスがフォーに付いてくれ。俺はレンドで黒丸は・・・寝てるから捨丸がマーナだな」


「え?」


どうやら言葉は理解してるようで、グワァと鳴くとマーナの前に降り立つ。一丁前に先生気取りらしい。その姿を見て苦笑いのマーナは早速木の棒を取り出して魔力を流す練習を開始する


デラスはただフォーの前に立って暇そうに石運びを眺めていた


「さて・・・昨日はどんな感じだった?」


クオンはレンドに向き直ると昨日の進捗を確認する


「全然・・・ダメですね。どうも力が入ってしまって、魔力っていうか力みっていうか・・・」


「ふむ・・・じゃあ大きく息を吸って」


「え?・・・あ、はい」


突然言われて慌てて息を吸い込む


「限界まで吸い込んだら止めてその空気を口からではなくて全身から出すようなイメージをしてみてくれ」


レンドは頷き言われた通りやってみる。空気はもちろん全身からは出ないが、口からは出さずに全身から出るようにイメージしてみた。しかし、特に変化はなく、しばらくして口から吐き出した


「なるほど・・・じゃあ、次は息を吸わないで今のをやってみてくれ」


レンドはクオンに言われた通り今度は息を吸うことなく体内に残っている空気を押し出そうと試みる。しかし、特に変化はなかった


「うん、分かった。丹田って知ってるか?」


「丹田・・・ですか?知らないです」


「ヘソの下辺りにあり、力を溜めたり踏ん張ったりする時に意識する事が多い。レンドは剣士として無意識にその部分から魔力を出そうとしてるから力みとなって上手く出ないんだ。そこから出すのではなくイメージとしてはココ・・・中丹田と言われる場所から出すイメージで」


クオンはレンドの胸の中心部分を指で押し、その部分から魔力を出すよう伝える。レンドは頷くと先程言われたやり方で、今度は押されている部分を意識してやってみた


「くっ・・・」


先程と違い何か引っかかるような感触。その感触を無視して更に続けていると・・・


「レンド・・・そのまま目を開けてみろ」


押されている場所を意識する為に目を閉じていたレンドが目を開けると身体全体に薄い膜のようなものが張られている


「おおっ・・・これは・・・」


「解除する時は肩の力を抜いて今度は中丹田に空気を取り込む感じで。早く解除しないと魔力切れになるぞ?」


言われて慌てて解除を試みる。発動する時に比べすんなりと上手くいき、魔力切れの前に解除する事に成功する


「これが・・・魔力・・・」


「ああ。と、ここでレンド、それにマーナに言ってなかった事がある。マーナ!今いいか?」


ステラの前で魔素を大気から吸収していたマーナを呼び、クオンは説明し始める


「今更かもしれないが魔力を使うのとギフトの違いを説明しておく。まずはギフトとは────」


受け継がれたギフトは生まれてからすぐに発現する訳ではなく、ある一定の年齢に達すると発現する。これは一説によると受け継いだギフトを使えるだけの魔力が溜まった段階で発現すると言われており、魔力を大量に消費するギフトほど発現するのが遅くなるとされている


そして、ギフトは言わば道標。魔力を流す事により効率よく特殊な技や魔法を出す為の。なのでギフト持ちは魔力の消費を抑えつつ出す事が出来る


現在レンドとマーナが習得したのは魔力の放出。道標なき魔力の放出は効率が悪く消耗が激しい。使用すればすぐに魔力切れを起こしてしまう


「器の大きさは人それぞれ違うが、蓋がしてある状態だと器は成長しない。つまり現段階で魔力を使えるようになっても実戦で使うにはかなり時間がかかると思った方がいい。まずは毎日魔力切れを起こし、身体に器を大きくする必要があると思わせないといけない。魔力切れし回復する・・・この繰り返しを続けるしか方法がない」


「なるほど・・・でも、こんなに簡単に魔力が出せるようになるなんて・・・今までの人生を凄い無駄にしたような気になります」


「簡単か・・・なんで1日やそこらで魔力を出せるようになったと思う?あの魔力の暴走があってこそなんだが・・・」


「げっ!・・・訂正します・・・簡単ではないですね・・・」


「普通は飲み込めないからな。この方法を発見した奴はどんだけ悪食なんだか・・・。とにかく今からは器を大きくする事だけ考えてくれ。そうすれば自ずと魔力の使い方も慣れてくる」


≪これで少しは人間に近付けたのう≫


突如クオンの後ろからマルネスが顔を出す。今日の服装は袴。人形のような顔と金髪ロールの髪型ではアンバランスな感じになっている


「黒丸・・・その格好するなら髪を結うなりしろよ」


≪ん?ああ、確かにな。紐か何かあるか?≫


紐はマーナが持っており、ポケットから取り出してマルネスに渡すと、頭の上で髪を一つにまとめる


「おお・・・」


レンドが思わず声を出すが、それをマルネスはキッと睨み牽制する。レンドは慌てて口を塞ぎ目線をマルネスから逸らした


「それで・・・今の人間に近付けたと言うのは?」


≪そんなものは決まっておろう。人が魔力を使えばギフトを持った人間に近付いたと思わんか?≫


「???」


≪クオン~≫


「投げっぱなしにするなよ・・・これは黒丸からの受け売りだから真実か知らないぞ?魔族と人は昔同じ地に住んでいて交流があった。その中で魔族と人が交わり魔人が生まれた事も多々あったという。魔人は魔族の能力を受け継ぎ、それが特能やらギフトと呼ばれていたらしい。時が経ち、魔族と人が住む世界を隔てた後、魔族側の世界に行った魔人もいれば人の世界に残った魔人もいて、その魔人と人の子が魔人のギフトを受け継ぎ・・・って繰り返しているといつの間にか魔族の力は弱まり、魔人ではなく人魔と呼ばれるようになり、更に薄れ魔を冠する事をやめ、人と魔族の間に出来た人・・・つまり人間と呼ばれるようになった・・・らしい」


「魔族と人が同じ世界で・・・ハハ・・・なんかとても信じられないのですが・・・」


「魔族は長命だからな。下手したら当事者がまだ生きているかも知れん」


≪下手したらも何も生きておるわ。魔族舐めるなよ≫


「はえー・・・ちなみに同じ世界で暮らしてたのってどれくらい前なのです?」


≪知らん。人と時間の概念自体が違うからのう・・・まあ、軽く千年は越えておろう≫


「せっ・・・果てしないですね」


「まあ、黒丸自体が千歳以上だから、黒丸が経験してないって事はそれ以上前なんだろうな」


「え?」


≪おい!しれっと乙女の歳を暴露するな!≫


「乙女って・・・化石だろ?」


≪いいだろう・・・その喧嘩買おうではないか!≫


クオンとマルネスがじゃれている間、レンドとマーナはこの日1番の衝撃に言葉を失い、ただただ呆然と2人を眺めるのだった────




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